全種族の男の子、コンプリートを目指す魔女っ娘♂のお話

水無月

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豪放磊落

20 ナナゴー

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「あっさりゲット出来ちゃったな」
「大暴れできると思ったのに……」

 ナナゴーが泳ぐ金魚鉢を持った主人の横で、キャットは残念そうにボヤく。龍の牙、欲しがってたもんね。

「その金魚鉢で大丈夫なのか? シャドーリス様が内臓口から飛び出すって言ってたろ?」
「魔法の金魚鉢なので問題ない。洋館に帰ればもっと大きい部屋(プール)に移す」

 キャットはエイオット達を抱き上げてせっせとバスケットに詰めていく。金魚鉢も入れる。

「それって常時魔法を使っているってことだろ? ナナゴーに何かあればお前が死ぬぞ。平気なのか?」
「ああ。洋館の、廊下にかけていた迷いの魔法で、常時使用の訓練はばっちりさ」
「……あのはた迷惑な魔法、意味があったのか」

 ラリマーがくれたお土産。結構多いな。海の中の素材を欲しがっていたらいくつか持ってきてくれたのだ。ええ子や。ラリマーごと持って帰りたい。

「これ。ナナゴーの好物です」

 モザイク必須な虫がぎゅうぎゅうに詰められた透明瓶。ムギが興奮気味に手を伸ばしたが主人とキャットが全力で阻止した。あれを収納鞄に入れる勇気はない。持って帰れないよ! ご、ごめんね。

「ち、地上にも虫はたくさんいるから」
「そうですか?」

 どうしても口に合わなかったら虫のプロフェッショナルに金積んでくるから。瓶に入っているとはいえ、虫は駄目だああああっ。触れない近づけない。透明で中丸見えだし。元気にうごごごgっごっご。
 お土産は収納鞄に押し込み、泡拭いて倒れた主人はバスケットに押し込み、キャットはラリマーに頭を下げる。

「世話になったな」
「龍(はは)様のお口まで送りましょうか?」
「……」

 送ってもらった方が楽かもな。

「では、お願いします」
「はい」

 淡々としているラリマーは、他の兄弟たちに留守番しているよう言いつけると、すぃーっと窓から出て行った。バスケットを抱え、キャットもあとに続く。

「主人も入れたから狭いだろ? 放り出すか?」

 三人+金魚鉢が入ったバスケット内。キャットから見れば窮屈そうなのだが、子どもたちは嬉しそうだった。

「へーきだよ!」
「わたしも」

 密着しているのが楽しいのだろうか。嫌だと泣かれるよりよっぽどいい。……主人は泣いた方が喜ぶと思うが。
 龍の口まで戻ると、乙姫っぽい女性がハンマーで牙を叩いていた。ゴーン、ゴーン、と結構いい音がする。

「あれは何をやってるんだ?」
「歯に付いた汚れを取っているのです。固いので、ハンマーで叩いて取るのですよ」

 寄生虫や汚れを食べてくれる魚やエビがいたような気がする。

「私は大きくなったらこれをやってみたいのです」

 ラリマーが珍しく感情を見せた。フフンっと乙姫を見上げている。

(こいつらは龍にとって、そういう存在なのかもな)

 口から離れるも、ラリマーはもうついて来なかった。手だけ振っている。エイオットとムギ、ナナゴーと主人も手を振る。起きたんならバスケット内から出ろ。

「ラリマー。ばいばーい」
「元気で過ごすんですよ。ナナゴー」

 挨拶を済ませると後ろ髪引かれることなく喉奥へと消えて行く。
 さっぱりした兄弟の別れだった。










「今からすごく大事なことを言うから。よく聞いてね?」

 ナナゴーに言ったのだけど、エイオットとムギも正座している。

「深海から出ちゃうので、俺が良いと言うまで、その金魚鉢から出ないでほしい。出来るかな?」

 できないなら他の手を考えるしかあるまい。
 ナナゴーは口をパクパク開け閉めしただけで、何も言わない。

「喋れないのかい? 人見知りかな?」

 顔を近づけても、パクパクしているだけ。ふむ。困ったな。
 意思疎通で悩んでいると、エイオットが手をあげる。

「どうした?」
「ナナゴーちゃん。喋ってるよ?」

 え?
 しゅばっと、主人とムギは金魚鉢に耳をくっつける。

「……じっとしてる」

 聞こえた! かすかに! 蚊の鳴く音より小さい微風みたいな声量だったけど。喋っている。

「ラリマーと別れた時のような声は、出せないのかね?」

 質問するとすぐに耳を押し当てる。ムギも。

「……つかれる」

 そっかー。疲れちゃうのか。

 この小さな声。どこかの四天王最強も見習ってほしい。

「拡声器的な魔具ってないかね?」

 未練たらたらで牙を見ていたキャットは腕を組む。

「俺たちには必要なかったからな……。むしろ声を小さくする魔具を全員で探していた記憶ならある」

 口元引きつってるよ。あの工事現場男の声で大変だったようだ。城って、声とか反響しそうだしな。

「エイオットはその距離で、ナナゴーの声、聞き取れるのかい? すんごいね」
「へへっ。ちっちゃく聞こえるだけだけどねー」

 素晴らしい。頭を撫でてあげよう。なんてやわらかい髪だ。あと二時間は手を離したくない。ムギの頭も撫でようと手を伸ばして、さっと躱された。
 絶望の表情をする魔女っ娘に、ムギはあわあわと手を上下する。

「だ、だって。わたしなにもしてないのに。よしよしされるのはおかしいです……」

 しゅん、となるムギ。
 主人、エイオット、キャットの三人でムギをもみくちゃにした。これでもかと撫でまわす。

「あうーあうあうあわああうあわわっ?」
「なーに可愛いことを言ってんだ。何もしていない? 馬鹿を言うな。生きているだろうが。十分だ」
「ムギちゃん。よしよし。ムギちゃん大好きー」
「何もしてなくてもふんぞり返ってろ。勝手に撫でるから」

 楽しそうに見えたのかナナゴーも、ちまっとした手を伸ばしてくる。
 ここはまだ深海なので金魚鉢から出してやった。泳ぎ出すと途端に尾びれが美しい。ナデナデ攻撃で瞳が潤んでいるムギの頬を、ふにふにと撫でた。あはっははは可愛い。手のひらサイズの子が、未成年を慰めている図が尊い。何でこの光景を保存出来ないねん。

「ナナゴーさまも、ありがとうございます」

 ムギがそっと、稚魚を手のひらで包み込む。初対面で頬張られたのに、仲良くなれそうで安心した。

「人魚族、というのですね?」

 訊ねてくるムギに主人は頷く。

「可愛いです。あの。この子をクロスさまに見せてあげたいのですが。可能でしょうか?」

 気に入ったんだね。

「無理です」

 悪いとは思うが即答した。

「そう、ですか」
「なんで? ナナゴーちゃん、いい子なのに」

 ぎゅっとムギを抱き締めているエイオット。まだムギの頭を撫でている執事。

「すまない……。あそこのモンスターレベル三百あるんだ。金魚鉢を割らずに行くのはちょいと難易度が。しかも三日月君で行けないし」
「前はどうやって行ったんだよ」
「人間やめてるやつに同行してもらったんだよ……」

 のそのそと海底を歩く。エイオットは走り出したそうに尾を揺らしている。
 ゴウッっと海が揺れ、すぐ隣を巨大魚が通り過ぎた。でかい。十メートルはある。実に深海魚らしい見た目をしており、子どもたちが飛び上がっている。

「もぎゃー。なにあれ! やだぁ」
「ご、ごわ……い、です」
「あー! 待って待って」

 抱きついてくる二人に和んでいると、仲間と思ったのかナナゴーがふら~っと巨大魚について行こうとする。手を伸ばすが届かない。

「こら」

 空気を読んでくれたキャットが、ナナゴーの花びらのように薄い尾びれを摘む。そのせいか巨大魚がこちらに気づいてしまい、牙を剥き出しにしながら振り返った。

「……」

 キャットと目が合うと何も見なかったような顔して暗闇に消えて行く。魚とは思えない正しい判断だ。

「くそっ。俺の刺身が……」

 海の中でこんなこと言うやつだからね。逃げて正解だ。

「深海魚は美味しいけど、油が消化できないとかなんとか聞いたことあるよ。それでも食べるのかい?」
「シャドーリス様に食わせるから問題ない」

 やめてあげてよ。仮にも魔族のお偉いさん相手に。
 ナナゴーを金魚鉢に戻す。

「おい。危険だから知らない奴について……」

 行くな、と言おうとしたんだろうが。今まさに「知らない人(たち)」について行っている状況だ。

「どう説明すりゃいいんだ。こんな、モンスターと人類の区別もついてなさそうな奴に」
「俺たちがしっかり守れば問題ない」
「いま、守れてなかったように思うが?」
「きみがいてくれて助かったよ」

 まだ恐怖が抜けないのか、エイオットが主人の顔にしっかりと抱きついている。変な方向を向いて喋っていると思えば、見えてないのか。

「さあ。シャドーリスの魔法の縦穴まで戻ろう」
「どこ行くんだこら」

 しょうがないのでエイオットを引き剥がす。するとキャットにしがみついてくる。

「そんなに怖かったのか?」
「うん」

 がたがた震えている。あやすようにエイオットの髪を撫でる。

「海洋恐怖症、ってやつかな?」
「人語で喋れ変態」

 この言葉もこの世界にないのか……。強いもんね。獣人や蟲人たちって。じゃあ、エイオットは何に怖がっているのか。

 悩みながらも金魚鉢はムギに持たせる。

「疲れたら言ってね? 金魚鉢持つの、交代するから」
「はい。ご主人様」

 役目を与えるといきいきし出す。将来、よく働くお嫁さんになりそうだ。ぜっっったいに泣かせるなよ? クロスさまよぉ。

 縦穴まで戻ると、三日月君が待機していた。

「キャットはどうやって海面まで……あー。泳げるって良いな」
「ああ。俺は泳いで浮上する」

 エイオットを三日月に乗せようとするが、がっちり服を握りしめている。両手で。

「服が伸び……こいつの服だからいいか」
「ちょっと?」
「エイオット? どうした?」
「こあい……」

 めり込む勢いでキャットに抱きつく。主人は素早く金魚鉢を引き取った。
 ムギがエイオットに手を伸ばす。

「エイオットさま。僭越ながら、わたしがずっと包み込んでおりますから」

 黒い瞳がちらっとムギを映す。

「やだぁ。こんなみっともないところムギちゃんに見せれないよぉ」

 かっこいいとこばかり見せていたもんね。

「わたしでは頼りないかもしれませんが。わたしにもエイオットさまを守らせてください」
「……」

 ムギが、こんなことを言うなんてな。

「というかわたしも怖いので、側にいてくださいっ!」

 うりゅっと泣きそうになる赤い瞳。
 本音が出ちゃうムギちゃんもステキ。

「ううん……」

 「怖い」と「お兄ちゃんスイッチ」が戦っていたエイオットだが、カチッと音がした。ムギの胸に飛び込む。

「絶対に離さないでね?」
「はい。もちろんです」

 三日月のクッションにお尻を乗せ、エイオットを黒翼で包み込む。とっても混ざりたいが歯を噛み砕いてでも耐える。未成年の花園に侵入することは許されん。
 できるだけ気配を消して、三日月に乗り込む。ナナゴーは不思議な形の三日月に触りたいのか、尾びれを振りまくっている。何その動き、鼻血出そうなんだけど。

「上へ参りまーす」

 エレベーターガールになりきり、三日月は海底からふわりと浮き上がる。

「あれ? キャット君」
「先、行ってろ」

 こちらに向かってくる別の巨大魚モンスターに気づいたキャットが、エイオットが感知する前に討伐に向かう。すっかりお兄ちゃんしちゃって。


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