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無礙
24 かつての持ち主
しおりを挟むでも、やっぱりかぁ。
ムギちゃん、黒鳥族の先祖が犯した罪。ごっちんから宝石を盗むという命知らずすぎることをやらかした人物。
宝石を盗んで呪いをかけられた。涙が水に落ちると宝石になってしまう呪い……正確には、魔法だが。
ごっちんの持つ宝石。紫水晶。
つまり、ごっちんの「第三」の眼のことだ。
犯人は怒り狂ったカリスにより粛清されたようだが、結局紫目は見つからずじまい。魔族総出で探したそうだが……
連帯責任だと。キャットの父、当時右腕だったカリスによって黒鳥族は一掃されるところだったが、怯える黒鳥族にごっちんは「呪い」と「魔族という称号を剥奪」で許した。それは魔王の加護を失うことを意味する。かなり重い罪だ。魔界からも追い出された。
ごっちんから聞いた話だが、カリスの怒りを鎮める方が大変だったとか。
いつの間にか、遊ぶのをやめたアクアとファイアも話を聞いていた。二段ベッドの上で。可愛いお顔が二つ並んでいる。
もちろんこれも「ごっちん」の部分は「魔王」に変換してある。
「あの人が魔王さん……というわけじゃ、ないんだね?」
「ああ。心配はいらん」
どういう経緯であの貴族の手に渡ったのかは知らないが、ごっちんならそのうち見つけだしそうだしな。言う必要はないか。もう掴んでいる可能性が高い。ごっちんに殺される前に、手伝うだけ手伝ってもらおう。
「そっか。色んな人がいるんだね」
「ああ。他人が自分と違うなど、当然のことだ。でも、気になったことをすぐに訊いてくれたのは嬉しいよ」
わしゃわしゃと撫でると、寝そうな顔で頬を緩めるんがが可愛い。
「では、留守は頼んだ」
背を向けるとエイオットがしがみついてきた。足に抱きつかれ、顔からコケる。
「おうふ!」
「ごしゅじんさま! 駄目でしょ?」
「え?」
「行ってきますの、ちゅーをしなきゃ。駄目でしょ?」
おんんんんん俺としたことが。大切なことを蔑ろにするなど。
ぷちゅっと頬に吸いつく。やわらかい。もっちり感触。
「俺は?」
「あうう……」
上から可愛い声が聞こえる。梯子で上がると、ふたりの顔を舐め回しておいた。
「っはー! 元気出た! じゃ、行ってきまーす」
「いってらっしゃーい」
ルンルン気分で出かける後ろ姿を見ながら、アクアとファイアはハンカチで顔を拭いていた。
「めっちゃ舐めるな」
「アクアは、おいちいからね……」
待っていてくれたトゥームと合流する。
「待たせたね」
「いえ」
俺が近づくと、リーダーらしき男はすぐに席を立つ。
「私はレムナントと申します。こっちはクリアさん。この子はロイツです」
率先して自己紹介してくれる。人格面は問題なさそうだ。そう遠くないうちに、青ランクに上がれるだろう。目を取り返しに来たキャットと、鉢合わせなければな。
ロイツ君以外の名前は覚えられる気はしないが、頷いておく。
「俺のことは気軽に〈黄金〉と呼んでくれ」
「名前は? 教えてくれないのですかぁ?」
名前かぁ~。両親がつけてくれた名はあるが、この世界の名前を使っていると地球に行くという覚悟が揺らいでしまいそうになる。恐ろしいことだ。俺はこの世界に馴染み、溶け込むつもりは毛頭ない。
何も言わない少女に、クリアはばっとロイツを抱き上げる。
「失礼しました! ……おいこら。余計なこと言うなコラ。金ランクって一撃で街とか消すんだぞ?」
「むぐううっ。気になったんですもん」
こそこそと話し合うが、聞こえているぞ。
「名乗れなくてすまないね」
「いえ。気にしないでください」
この青年。ごっちんの横にいるかのような魔力量だ。……もしかして野良魔族が現れたのって。
というか、こんな魔力タンク、今までどこに隠れてたんだ。封印でもされていたのか?
気になるが、プライベートに踏み込むのも良くない。親友とかならともかく。初対面なのだ。
「欲しいものは、決まったかな?」
俺の倉庫にないものでも、手に入れたら渡してやる。
ごっちんの目を持つ男は眉根を寄せた。
「欲しいものとは違うのですが。私も、魔族の討伐に参加させてくれませんか?」
「……詳しく聞こう」
話を聞くに、復讐か。そんな悲しまなくともきみはすぐに想い人の元へ行けるさ。
主人は「ふむ」と顎に指をかける。
「いいだろう」
「! ほ、本当ですか?」
「アゲハに言っておいてやろう。その代わり、あの子について行けないと、置いていかれるぞ?」
「……ありがとうございます」
深々と頭を下げてくる。構わん。生存率を上げたければ、アゲハの近くにいることだな。
「きみたちは? 何が欲しい」
金髪とロイツ君は顔を見合わせる。
「僕はレムナント様が幸せなら、それでいいです」
「てめ! 先に言うなよ! お、俺も。レムナント様が満足ならそれで」
あれ? ロイツ君、きみ。
「ロイツ君」
「はい?」
「きみはリーダーのことが、気に入っているのかね?」
艶々ピンクの少年は玩具を自慢する子どものように、意気揚々とリーダーの腕に抱きつく。
「もっちろんですぅ! 僕の将来のお嫁さん! なんですからっ」
ギルド内が静まり返った。外の喧騒すら聞こえなくなる。
リーダーは汗だくで「え?」みたいな表情で固まっているし、濃い金髪は何故か笑顔で準備運動を始め出す。
「きゃああああぁぁあああ!」
ジャイアントスイングされているピンク髪をよそに、リーダーが必死に、目を点にしている魔女っ娘に弁明する。
「ちが、違うんです! あの子はその、違うんです! あの子はあああああの」
混乱しているな。いま、からかったら面白そうだが自重するか。
んー。不味いな。キャットやカリスが殺しに来たら、アゲハでは守り切れないぞ。あの猫親子は怒り狂うだろうしな。この青年はどうでもいいが、アゲハになにかあるのは困るな。いやいいんだけどね! あの子がどうなろうが知ったこっちゃないし!
問題はロイツ君が悲しむことだ。
紫目のことも話しておくか。んあーなんで俺がこんな面倒なことを。でも、ロイツ君が亡骸を抱いて泣いている姿は見たくない。立ち直れなくなる、俺が。
そんな姿を見たくないから、俺は力をつけたんだ。
「……レム、なんとかと言ったな」
「レムナントです。長ければレムでもいいですよ」
輝く笑顔で金髪が「じゃあ俺も~」と自分を指差すが、レムに「駄目です」ときっぱり切られていた。
ロイツ君は泡拭いて倒れている。かわいい……。
「きみは、自分のその紫の目のことを、どこまで知っている?」
レムの顔色が変わる。
「あ……〈黄金〉様は、私の目のことを知っているのですか⁉」
この様子じゃ、詳しくは知らないっぽいな。
「きみの命に関わることだ。興味があるなら教えよう。だが、誰にも聞かれない方が良い。別室でいいかな?」
ギルドでもいいが、ギルマスが聞いている可能性があるからな。
「っ、そ、それなら私の屋敷へ。最上のもてなしをさせていただきます!」
「あ。無理。俺は貴族の屋敷に近づくと国ひとつ滅ぼしたくなる病にかかっているから」
「……え? あ、そう、です? なら、近くの宿でも……」
「とんだ奇病ですね。うぐううっ⁉」
言いたいことを素直に言うロイツ君の口に、金髪がガムテープモドキをバッテンに貼り付けて封印する。テープを剥がそうと、もがもがと涙を浮かべる様は実に愛らしい。
「ロイツ君と金髪も連れて行くのかい? 聞かれても良いのか?」
「この二人なら、構いません」
真っすぐな目。
へえ。結構な信頼を勝ち取っていると見える。
「了解した。俺が昔よく世話になっていた宿に行こう。金は俺が出すから、心配しなくていいよ。食べ物も好きなものを注文したまえ」
「「「……」」」
三人が揃ってぽかん顔になるが、主人は気にせず背中を向けた。彼らの言いたいことは分かるのだが、未成年がいるとつい、甘くなってしまう。ていうか、甘やかしたい。ロイツ君めちゃ可愛い。貢ぎたい。持って帰る!
(落ち着け。人族に用はない。あと二種)
三人は素直についてくる。テープが取れなくてまだもごもごしているのに和む。
宿に到着。
宿の主は二回交代して孫が継いでいる。その孫も結構な高齢だ。
扉を開けるとカランコロンと鐘がなる。
「邪魔するよ」
「おお……。あんたか。いらっしゃい。〈黄金〉」
酒場になっている一階のカウンターで、グラスを磨いている宿の主。
「いつもの部屋、借りて良いかな?」
「空いてるよ」
鍵を受け取り、さっさと部屋へ向かう。トゥームの奴らはただついてくるのではなく、リーダー含め全員が宿の主に「お邪魔します」「こんにちはーっす」「ふがもが」と丁寧に挨拶しているのが好ポイントだ。あの金髪は新人狩りをしていたやつだろうに、リーダーの行儀の良さに引っ張られているのか。いや、あれは、
(猫被るのが上手いだけだな)
笑顔で挨拶しているが目の奥が笑っていない。雑魚は騙されるだろうが、この宿のマスターはそういうの見破ってくるぞ。現に、宿の主にじろっと見つめられ、顔が引きつっていた。
たまーに複数で密談するのに使用しているため、椅子は三つある。……一人はベッドに座ってもらうか、それか立ってろ。
主人は定位置に座る。
「適当に座れ」
「「……」」
クリアとロイツがリーダーをじーっと見ている。レムナントは観念した様子で腰掛けた。
「ふーが。もっがふっがふーん(わーい。おっじゃまっしまーす)」
ロイツがレムの膝の上に座ろうとして、金髪にガムテープモドキでぐるぐる巻きにされた。ベッドに転がされる。
「ふぐぐ! ふごふごごっ」
びちびち跳ねるが大人二人は無視を決め込む。「いつものこと」感が強く出ているな。
――正直、興奮する。俺も未成年に手を出す時は拘束するからね。
金ランクがロイツをじっと見ているので「やばかったかな?」と焦った金髪が解放しようとするが、引き止めておいた。
「構わないよ。そのままで」
「そ、そうですか?」
「ふががもががっ!」
ロイツ君は不満そうに睨んでくるが可愛い。ちょっとだけ、ちょっとだけほっぺ触っちゃ、駄目かな? 人の持ち物だ。やめておこう。
注文した軽食と飲み物が届くのを待ち、話し始める。
「紫目のことを、どこまで知っているかな?」
膝の上で、レムナントはぎゅうっと拳を握る。
「……ほぼ、何も知りません。すさまじい魔力を秘めている、ということしか」
「きみのご両親は?」
「父も母も。知らないと思います。私を封じ込めるのに躍起になっておられましたから」
監禁でもされていたのか。貴族じゃなかったら殺すしかないもんな。魔封じの牢獄や魔具も、一般家庭では用意できないだろうし。ただし赤ん坊とはいえ、紫目を殺すのは大変だぞ。
「家族を恨んでいるかい?」
ハッとした顔で、ポニテが揺れるほど首を横に振る。
「いえ! ちっとも」
「ほう」
すごいな。素直に感心する。物心つく前から監禁されて、親を恨んだり目が濁ったりしていない。……相当、息子に甘い家族だったのか。それか爵位が高く、暮らしに余裕があったか、かな。いまはどうでもいいな。
「結論から言おう。きみの紫の目は、かつての魔王の目だ」
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