155 / 189
七つの宝に勝るもの
05 オムレツの絵柄
しおりを挟むごっちんはテーブルにお皿を並べていく。
「むっ」
テーブルクロスがシミで汚れている。これも洗濯しなければいけないのか。キャットがいつもやっている仕事内容をリスト化しておいてもらえばよかった。
今日だけテーブルクロス無しで食事を……と悩んでいると、後ろから覗き込んできたシャドーが浄化魔法で新品同然にしてくれた。
がしっとシャドーの手を握る。
「よくやった。ここで働けお前!」
「おおう……。有難きお言葉。ですがごっちん様。行動と台詞が金髪と被っておりますぞ」
手を握っているのを見て、仲直りしたと思ったらしい子どもたちが拍手してくる。照れくさいな。……アクアのよだれが水溜まりみたいにってかわいそうだから、飯にしようか。
席に着き、手を合わせる。
「いただきます」
「「「「「いただきまーす」」」」」
ナナゴーは「いただきます」の意味をよく理解してないようだが、周りの真似をする。
食卓に並ぶ、虫入り料理。まだ慣れない子どもたちは微妙に目を逸らす。
まぐまぐと元気いっぱいに食べるナナゴーとアクア。
「あ、待ってくれ。トメイトソースで顔を描いてみたんだ」
ほぐほぐと咀嚼は止まらないが、手は止まる。
「「「……」」」
みんなで卵焼きを見つめる。
確かに……絵柄っぽいものは……あるような、ないような。もしかしてごっちんが言っていた笑われた絵とは、これのことか。
エイオットは皿を持ち上げ、いろんな角度から眺める。ファイアは近づきすぎて鼻の先にソースがついてしまった。
「あう……」
困った顔でアクアの方を向くと、ぺろっと舐め取ってくれる。
「ありがよ」
「うめっ」
ムギも細かい文字を見るときのように目を細め、ナナゴーはムギに頬ずりして遊ぶ。
主人の席に座ったシャドーも腕を組む。卵焼きを眺め、首を傾げている。
「……。……? ……」
ごっちんは堪らずに顔を覆った。
「……もういい。すまなかった。普通に食べてくれ」
忠臣にまで本気で分からないという顔をされてしまった。
まだ下手だなと笑ってくれる方がマシだったかもしれない。
許可が出るとアクアたちが一気に食べだす。
「うめっ。おい、ごっちん! これうめぇぞ」
「う、うん。嬉しいぞ。アクア」
ぼろぼろと口からこぼれているから、黙って食べなさい。
「うま、うま」
ナナゴーもほっぺをぱんぱんにしている。虫料理を作った本人はドヤ顔して卵焼きを収納鞄に仕舞おうとしている。それを見咎めたごっちん。
「何をしている。シャドー」
「え? い、いえ。ごっちん様の卵焼き。……永久保存しようかと」
「食え!」
やめろ。食卓が気まずくなった卵焼きを保存するな。私に効く。
シャドーは何かと戦うように葛藤していたが、やがてのろのろと食べ始める。
「ご、ごっちん様の手料理……。美味です」
(焼いたのはお前だろうに)
幸せそうな顔をするシャドー。
――可愛いな。今度部屋に誘ってみるか。
臣下に手を出す気満々のごっちん。
卵を焼いただけの量の少ないメニューだが、誰一人文句を言わなかった。食べられる幸福を噛みしめている子どもたち。
アクアなどは皿についたトメイトソースまでべろべろと舐め取っていた。行儀はよろしくないが、そこまで食べてくれると嬉しい。
みんなで手を合わせる。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした!」
一人の声が喧しくてかき消されたが、全員きちんと言っていて偉いぞ。主人殿がいない今、私がしっかり褒めてやらないとな。
さて、皿を洗うか。
「はっ! お任せを」
心を読んだかのようにシャドーが全員分の皿を持って厨房に消えて行く。速い。
「待て。私もするぞ」
「……」
「なんだその顔色は。お前たち。そんなに私が皿洗いをするのが嫌なのか?」
「はいっ!」
なんていい返事だ。
揉めているとエイオット達が顔を出す。
「おれも手伝うよ」
「はーい」
「あの。わたしも……」
「ぼくも」
「なんで俺まで!」
アクアはファイアに引きずられてきたようだ。アクアを手放したくないファイア。力持ちだな。
「では全員でやろう!」
仕切るシャドーに、ごっちんはまあいいかとため息をついた。
「ねえ~。お外に行きたい」
「ジュリスは? 会わせろ会わせろ」
「むしゃ、むしゃ……」
「飛ぶ練習、したいです」
「ねむ……」
狐っ子がコアラのようにくっついてくると、他のちびっ子も寄ってくる。ジュリスに会いたがるアクアに、アクアの尻尾を齧っているファイア。羽をぱたぱたさせるムギ。ナナゴーは眠たそうにうとうとしている。
「外に行きたいのか。買い物に行くついでなら。留守はカリスにさせるか」
ごっちんもちびっ子に紛れてシャドーにぴとっともたれかかる。
髪を解いたシャドーは動けないので仁王立ちしている。
「では外に行くか! 子どもは遊ぶのも仕事と言うしな」
ずりっずりっと、子どもたちを引きずって歩く。キャットの部屋の戸を叩くと、カリスが出迎えた。
シャドーの顔を見るなり、口を歪め表情を曇らせる。だがそこには旧知の友と話すような気安さがあった。
「大声出した瞬間、叩き出すからな」
「はっは! 久しいな! カリス殿!」
叩き出された。
カリスは恭しく、クッションを置いた椅子をごっちんに勧める。
「どうぞ」
「うむ」
見舞いに来ただけなので構わなくていい、と言いたいが、こいつらは私をもてなさないと具合悪そうな顔をするからな。
偉そうに腰かける。それだけでカリスは嬉しそうだ。
「ジュリスー」
「キャットしゃ……」
ぱたぱたと、狸双子がベッドに向かっていく。
泡吹いているキャットに頬ずりする。
「すーりすーり」
「むにゃむにゃ」
ファイアがさっそく寝そうになっている。
「何用で?」
当然のように片膝をつくカリスに、小さくため息を漏らす。いちいち跪かんでいい。
が、……もう好きにさせよう。
「少し子どもたちを遊ばせてくる。半分寝ているナナゴーも見ておいてやってくれ」
水槽の部屋で一人だと、寂しいかもしれないしな。キャットの部屋に置いておこう。
ムギは寝ているナナゴーをそっとクッションに寝かせると、ぱちっと目を開けた。
「早く早く! 遊びに行こう!」
ぐるんぐるんと天井付近を泳ぎ回る。
「あ、あれ? ナナゴーさま。眠かったのでは?」
「ムギも、あそぼー」
遊びモードになってしまったようだ。ムギの髪に乗っかってはしゃいでいる。
「……えっと。では遊びに行きたい者は?」
ツインズ以外が手を上げた。
ファイアは眠ってしまい、アクアはそんなファイアの髪をよすよすと撫でている。
「ではカリス。アクアとファイアを見ててやってくれ」
「御意。じゃあ。お礼にキスくらいもらわないとな!」
「え! ちょ、カリ……」
ずんずん迫ってくる。お前さっきまで、片膝ついていたよな? 無礼なのか礼儀正しいのかどっちかにしろ。
服を脱がされそうになるが、突如乱入してきた洪水がおじさんを窓の外へと押し流した。
一瞬の出来事。
ぽかんとしている子どもたちもごっちんも、床すらも濡れていない。
焦った様子のシャドーがすぐに押し入ってくる。
「どうなされた⁉ カリス殿は? 謀反ですか?」
「え、あー。いや……。気に、するな」
窓を開けて下を見るも、困ったおじさんはしぶとく生きていた。
窓を閉める。
カリスもあれで仕事はするので大丈夫だろう。
「では、遊びに行くか」
子どもたちは「わ、わぁい」と盛り上がらない万歳をした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜
春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、
癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!?
トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。
彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!?
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて――
運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない!
恋愛感情もまだわからない!
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。
個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!?
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする
愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ!
月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新)
基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
弟がガチ勢すぎて愛が重い~魔王の座をささげられたんだけど、どうしたらいい?~
マツヲ。
BL
久しぶりに会った弟は、現魔王の長兄への謀反を企てた張本人だった。
王家を恨む弟の気持ちを知る主人公は死を覚悟するものの、なぜかその弟は王の座を捧げてきて……。
というヤンデレ弟×良識派の兄の話が読みたくて書いたものです。
この先はきっと弟にめっちゃ執着されて、おいしく食われるにちがいない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる