全種族の男の子、コンプリートを目指す魔女っ娘♂のお話

水無月

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七つの宝に勝るもの

11 力量

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🌙







 モンスターの亡骸が転がるのは村の中だ。
 村に現れたモンスターを退治したところだったが、被害甚大だ。

「復興に時間がかかりそうですね」

 村の状況を見回ってきたロイツが呟く。台風が来たような有様の家畜小屋。モンスターの巨体に押しつぶされている民家。モンスターの体液で塗装された倉庫。

 家畜も全滅していた。我が身優先で逃げたので死者は出なかったが、それ以外を失った。

「死ぬよりマシだと思ってもらうしかないな。レムナント様! こっちにもモンスターはいませんでした。全部片づけたと思って良いです」

 高台で見張っていた青年がひらりと二人も元に着地する。

「ありがとうございます。二人とも大した怪我ではないですが、少し休憩してから帰りましょう」
「「はい」」

 休憩しなくても大丈夫ですと言いたいが、仕事中はリーダーの言葉に従うものだ。クリアもリーダーといちゃつきたいのを頑張って耐える。

 水筒の中身を浴びるように飲む。

「っぷはぁ! 水筒の中身、酒にしたら駄目ですかね?」
「酔っ払いはモンスターの餌にしますよ?」

 にっこり微笑むレムナントから目を逸らす。

「ですよね。はは……」
「! 誰か来ます」

 戦闘態勢に移るトゥームだが、悠々と歩いてくる予想外の客にレムナントは固まる。

「あ、アゲハさん?」
「こんにちは。精が出ますね」

 にこっと微笑む、ゆるやかな雰囲気を纏う青い青年。肩に人の腕によく似た脚を持つ虫を乗せており、ロイツが「ぎゃあっ!」と悲鳴を上げた。イナゴに人の腕を移植したような見た目でとてもキモ……恐ろしい。

 シャーッと威嚇する恋人の首根っこ掴んで引き寄せる。

「落ち着きなさい。猫ですか、あなたは」
「はっ! つ、つい。恋敵の登場に」
「こ! ……馬鹿ですね。私が好きなのは……あ、あなたですよ?」
「……は、はい」

 か~っと真っ赤になるふたり。

 いちゃつく二人に、ロイツが下唇を突き出す。

「今、いいですか?」
「はい! もちろんです」

 嬉しそうな声のレムナントに、クリアはじとっと目線を向けた。

「……なんですか。その目は」
「べーつにぃ~? 俺がいながら、他の男に喜んじゃう浮気者が恋人で、困ったものです」
「んなっ!」

 レムナントが食ってかかろうとしたがその前に、アゲハが爆弾を投下した。

 ぱんっと両手を合わせる。

「そうです! 入籍したと聞きました。おめでとうございます!」
「「んぶっ」」

 咽る二人の横でロイツが大あくびをしている。

「だ、誰ですか! そんな噂を流しているのは⁉」
「お礼に焼きまんじゅうを持って行かないといけないな」

 へへっと鼻の下を擦っているクリアを突き飛ばす。

「つ、つきあっ、付き合い始めたばかりです!」
「あれ。そうですか? 〈黄金〉が『子どもが産まれたら教えてくれって言っといて』って言ってましたよ」

 ロイツまで吹き出す。

「レムナント様! いつの間に産めるようになったのですか⁉」
「なぜ信じるんですかあほですか⁉」

 ロイツは突き飛ばさず、頬をもちもち挟んでおく。
 両手で挟んだままアゲハに向き直る。

「そういうわけでして。……付き合いたてです」
「初々しいですね」
「何か用ですか?」

 戻ってきたクリアがアゲハを睨む。が、アゲハと目が合いそうになると顔を背ける。

「怖いなら睨まない方がいいですよ。だっさいです」
「おおおおおん?」

 もみくちゃにされている子と、している大人を無視して話を進めた。

「用件ですけど。父さ、〈黄金〉からあなた方を魔族討伐に連れてってやれと言われまして」
(本当に言ってくれたんですね……)

 金ランクは頭おかしい人しかいないと聞いていたので、人間らしいことをすると逆に変な感じになる。

「俺の聞き間違いかな? と思ったので。直接確認しに来ました」
「え? わざわざ?」

 ロイツの頬を限界まで伸ばしているクリアがぽつりとこぼす。

 〈優雅灯〉。金ランクで唯一話が通じると言われているだけあり、真面目だ。

 レムナントは緩みそうになる表情筋を引き締める。

「は、はい。本当です」
「……そう、ですか」

 赤ランクを超える金ランクが困ったように顎に指をかけ、考え込んでいるようだった。

「アゲハさん? 何か……」

 手を伸ばすが、濃い金髪が割り込んでくる。

「はいはいはい。そこまで! 近づきすぎです。レムナントさん」
「っ」

 ぎょっと目を丸くするレムナントの胸元を指でつつく。

「あのですね! 恋人の前で、他所の男に! 世間知らずなところがあるので大目に見てきましたが、非常識ですよレムナントさん」
「……」

 クリアは「ったく」と腕を組む。

「逆にお訪ねしますが。レムナントさんは俺がそういうことをしていても平気なのですか?」

 怒っているクリアの顔を見て、レムナントの頬が染まる。

「ぽっ」
「……いやあの。どこで照れてるんです? 可愛いですけど」

 レムナントは頬を摩っているロイツを盾にして顔を隠す。

「いえ。すみません。私のことで、真剣に怒ってくださっているのが、う、嬉しくて」
「……」
「……」

 ロイツが遠い目になり、アゲハは虫ちゃんと戯れている。
 レムナントは真っすぐにクリアを見つめた。

「さっきの質問の答えですが。私は良いですけど、クリアさん。貴方が浮気したら去勢します」

 指差されながら真顔で死刑宣告され、ロイツまできゅっと下唇を噛む。

「ま! な、なんですかそのクソ理不尽は⁉ どうして俺だけ!」

 灰色の髪を払いながら、レムナントはふんっと顔を逸らす。

「私は良いんです。貴方は駄目です」
「どこの女王様だよ……」

 がっくしと肩を落とす。ここで強く言い返さないあたり、将来尻に敷かれるなとロイツは見抜いていた。

「睾丸を専門に食い砕く虫ちゃんを貸しましょうか?」
「「「……⁉」」」

 男三人は青ざめるが、レムナントは首を横に振った。

「いえ。私の手で除去しますので。ありがとうございます。アゲハさん」

 イキイキと恐ろしい話題で盛り上がる二人に、うずくまったクリアは地震時のように鞄を頭に乗せて震えた。ロイツはその尻をぽこっと蹴っておく。

「そうですか。でも黒ランク程度……黒ランク如きを同行させるのはちょっと。お荷物ですね」
「……っ」

 変わらぬ秋空のような笑顔だが、言葉の内容は厳しい。だが、そのくらい無茶を言っているのはこっちなのだ。
 レムナントはただ頷く。

「なので。少し手合わせをしませんか? あなたと戦うにしろ、守るにしろ。どの程度の強さなのかは知っておきたい」

 モルフォ蝶の翅のマントを脱ぎ捨てた。裾の長いコートとブーツ姿になったアゲハに、トゥームは一歩下がる。

 国ひとつ平気で滅ぼす災害級モンスターすら相手ではない化け物が金ランクなのだ。後ろで人の腕のイナゴがせっせとマントを畳んでいる。

 クリアはレムナントを庇いながら叫ぶ。

「待ってください! せめて遺書を書く時間を!」
「殺しに来たんじゃないです」

 瑠璃のような美しい棍棒を放り投げる。

「武器も虫も使いません。貴方は何をしてもいい。俺に傷をつけてください」

 ざっと足を広げ腰は落し、構えを取る。こう言ってくれてはいるがあまりの力量差に、レムナントに走馬灯が流れた。

 ロイツに揺すられて我に返る。

「レムナント様」
「――はっ! ……わ、分かりました。ここで、ですか?」
「モンスターは場所を選んでくれませんよ」
「……」

 汗が、ぽたりと地面に落ちた。










「暇だな。タイミング悪かったか」

 アゲハが暴れているのを、超高度から見下ろす存在が一人。

 同じく人類枠から追い出されている変人、〈黄金〉である。

 立てた膝に肘を置き、頬杖をついて退屈そうに爪で三日月をコツコツと叩く。
 強風で金の髪がなびく。

(いちいち力量チェックしとる)

 金ランクとは思えないほど真面目なんだから。親の顔が見たいわ。

(まー、すぐに終わるだろ)

 虫使いの癖に肉弾戦を得意としているのだ。相手はごっちんの魔力を持つなかなかの魔力タンクだが勝負になるかどうかも怪しい。

 サクサクと、持ってきたクッキーを齧る。


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