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七つの宝に勝るもの
11 力量
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モンスターの亡骸が転がるのは村の中だ。
村に現れたモンスターを退治したところだったが、被害甚大だ。
「復興に時間がかかりそうですね」
村の状況を見回ってきたロイツが呟く。台風が来たような有様の家畜小屋。モンスターの巨体に押しつぶされている民家。モンスターの体液で塗装された倉庫。
家畜も全滅していた。我が身優先で逃げたので死者は出なかったが、それ以外を失った。
「死ぬよりマシだと思ってもらうしかないな。レムナント様! こっちにもモンスターはいませんでした。全部片づけたと思って良いです」
高台で見張っていた青年がひらりと二人も元に着地する。
「ありがとうございます。二人とも大した怪我ではないですが、少し休憩してから帰りましょう」
「「はい」」
休憩しなくても大丈夫ですと言いたいが、仕事中はリーダーの言葉に従うものだ。クリアもリーダーといちゃつきたいのを頑張って耐える。
水筒の中身を浴びるように飲む。
「っぷはぁ! 水筒の中身、酒にしたら駄目ですかね?」
「酔っ払いはモンスターの餌にしますよ?」
にっこり微笑むレムナントから目を逸らす。
「ですよね。はは……」
「! 誰か来ます」
戦闘態勢に移るトゥームだが、悠々と歩いてくる予想外の客にレムナントは固まる。
「あ、アゲハさん?」
「こんにちは。精が出ますね」
にこっと微笑む、ゆるやかな雰囲気を纏う青い青年。肩に人の腕によく似た脚を持つ虫を乗せており、ロイツが「ぎゃあっ!」と悲鳴を上げた。イナゴに人の腕を移植したような見た目でとてもキモ……恐ろしい。
シャーッと威嚇する恋人の首根っこ掴んで引き寄せる。
「落ち着きなさい。猫ですか、あなたは」
「はっ! つ、つい。恋敵の登場に」
「こ! ……馬鹿ですね。私が好きなのは……あ、あなたですよ?」
「……は、はい」
か~っと真っ赤になるふたり。
いちゃつく二人に、ロイツが下唇を突き出す。
「今、いいですか?」
「はい! もちろんです」
嬉しそうな声のレムナントに、クリアはじとっと目線を向けた。
「……なんですか。その目は」
「べーつにぃ~? 俺がいながら、他の男に喜んじゃう浮気者が恋人で、困ったものです」
「んなっ!」
レムナントが食ってかかろうとしたがその前に、アゲハが爆弾を投下した。
ぱんっと両手を合わせる。
「そうです! 入籍したと聞きました。おめでとうございます!」
「「んぶっ」」
咽る二人の横でロイツが大あくびをしている。
「だ、誰ですか! そんな噂を流しているのは⁉」
「お礼に焼きまんじゅうを持って行かないといけないな」
へへっと鼻の下を擦っているクリアを突き飛ばす。
「つ、つきあっ、付き合い始めたばかりです!」
「あれ。そうですか? 〈黄金〉が『子どもが産まれたら教えてくれって言っといて』って言ってましたよ」
ロイツまで吹き出す。
「レムナント様! いつの間に産めるようになったのですか⁉」
「なぜ信じるんですかあほですか⁉」
ロイツは突き飛ばさず、頬をもちもち挟んでおく。
両手で挟んだままアゲハに向き直る。
「そういうわけでして。……付き合いたてです」
「初々しいですね」
「何か用ですか?」
戻ってきたクリアがアゲハを睨む。が、アゲハと目が合いそうになると顔を背ける。
「怖いなら睨まない方がいいですよ。だっさいです」
「おおおおおん?」
もみくちゃにされている子と、している大人を無視して話を進めた。
「用件ですけど。父さ、〈黄金〉からあなた方を魔族討伐に連れてってやれと言われまして」
(本当に言ってくれたんですね……)
金ランクは頭おかしい人しかいないと聞いていたので、人間らしいことをすると逆に変な感じになる。
「俺の聞き間違いかな? と思ったので。直接確認しに来ました」
「え? わざわざ?」
ロイツの頬を限界まで伸ばしているクリアがぽつりとこぼす。
〈優雅灯〉。金ランクで唯一話が通じると言われているだけあり、真面目だ。
レムナントは緩みそうになる表情筋を引き締める。
「は、はい。本当です」
「……そう、ですか」
赤ランクを超える金ランクが困ったように顎に指をかけ、考え込んでいるようだった。
「アゲハさん? 何か……」
手を伸ばすが、濃い金髪が割り込んでくる。
「はいはいはい。そこまで! 近づきすぎです。レムナントさん」
「っ」
ぎょっと目を丸くするレムナントの胸元を指でつつく。
「あのですね! 恋人の前で、他所の男に! 世間知らずなところがあるので大目に見てきましたが、非常識ですよレムナントさん」
「……」
クリアは「ったく」と腕を組む。
「逆にお訪ねしますが。レムナントさんは俺がそういうことをしていても平気なのですか?」
怒っているクリアの顔を見て、レムナントの頬が染まる。
「ぽっ」
「……いやあの。どこで照れてるんです? 可愛いですけど」
レムナントは頬を摩っているロイツを盾にして顔を隠す。
「いえ。すみません。私のことで、真剣に怒ってくださっているのが、う、嬉しくて」
「……」
「……」
ロイツが遠い目になり、アゲハは虫ちゃんと戯れている。
レムナントは真っすぐにクリアを見つめた。
「さっきの質問の答えですが。私は良いですけど、クリアさん。貴方が浮気したら去勢します」
指差されながら真顔で死刑宣告され、ロイツまできゅっと下唇を噛む。
「ま! な、なんですかそのクソ理不尽は⁉ どうして俺だけ!」
灰色の髪を払いながら、レムナントはふんっと顔を逸らす。
「私は良いんです。貴方は駄目です」
「どこの女王様だよ……」
がっくしと肩を落とす。ここで強く言い返さないあたり、将来尻に敷かれるなとロイツは見抜いていた。
「睾丸を専門に食い砕く虫ちゃんを貸しましょうか?」
「「「……⁉」」」
男三人は青ざめるが、レムナントは首を横に振った。
「いえ。私の手で除去しますので。ありがとうございます。アゲハさん」
イキイキと恐ろしい話題で盛り上がる二人に、うずくまったクリアは地震時のように鞄を頭に乗せて震えた。ロイツはその尻をぽこっと蹴っておく。
「そうですか。でも黒ランク程度……黒ランク如きを同行させるのはちょっと。お荷物ですね」
「……っ」
変わらぬ秋空のような笑顔だが、言葉の内容は厳しい。だが、そのくらい無茶を言っているのはこっちなのだ。
レムナントはただ頷く。
「なので。少し手合わせをしませんか? あなたと戦うにしろ、守るにしろ。どの程度の強さなのかは知っておきたい」
モルフォ蝶の翅のマントを脱ぎ捨てた。裾の長いコートとブーツ姿になったアゲハに、トゥームは一歩下がる。
国ひとつ平気で滅ぼす災害級モンスターすら相手ではない化け物が金ランクなのだ。後ろで人の腕のイナゴがせっせとマントを畳んでいる。
クリアはレムナントを庇いながら叫ぶ。
「待ってください! せめて遺書を書く時間を!」
「殺しに来たんじゃないです」
瑠璃のような美しい棍棒を放り投げる。
「武器も虫も使いません。貴方は何をしてもいい。俺に傷をつけてください」
ざっと足を広げ腰は落し、構えを取る。こう言ってくれてはいるがあまりの力量差に、レムナントに走馬灯が流れた。
ロイツに揺すられて我に返る。
「レムナント様」
「――はっ! ……わ、分かりました。ここで、ですか?」
「モンスターは場所を選んでくれませんよ」
「……」
汗が、ぽたりと地面に落ちた。
「暇だな。タイミング悪かったか」
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同じく人類枠から追い出されている変人、〈黄金〉である。
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