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最後のステラ
05 ち、違う!
しおりを挟む『ギルギュアアアアアッ!』
緑の世界で、黒の肌に赤い大きな目のモンスターが飛び出してくる。まったく音も気配も感じなかった。喧嘩してたせいだな。
世界一硬い果物の中に住み着き、果物の殻を甲羅にしている亀のようなモンスター。だが見た目は二足歩行の……なんだろう。該当する動物がいない。似ているとするなら蜥蜴、だろうか。でも角があるし水かきもあるんだよな。背丈は成人男性ほど。
こいつらはゴブリンのように集団行動をとるモンスターだ。とにかくすばしっこく、人間のように武器を使う。
木々に隠れて数えづらいが、三十はいるな。
「フルーツギガ、か」
「『果汁園』にいそうなモンスターだな。頑張れテレス」
「……」
〈黄金〉が戦力にならないとは。みたいな顔してるな。
露骨に落ち込んだ表情をする彼の背を叩く。そんな顔するなって、遺跡内では俺が戦うから。
ボウガンを構えるフルーツギガたち。こちらは数にも優れて、武器は飛び道具。相手はたった二匹。フルーツギガたちはニヤリと笑うが、次の瞬間には全員があの世に旅立っていた。自分たちが死んだことにも気づかない早業。フルーツギガたちの敗因は、相手が悪かったとしか言いようがない。
ボウガンを構えると同時。地面から突き出たダイヤモンドの巨大な牙が貫き、上から降ってきた牙がトドメに押しつぶす。
巨大な顎で抉られたように。直径百メートル。密林の一部がぺしゃんこになる。
フルーツギガの硬い殻が粉砕し、中身は液体となった。
テレスの通常攻撃魔法、『金剛石の顎(グシャリ)』。
「……」
主人はそれをじっと見つめる。
ダイヤモンドが地中から出てくるのは納得できる。土魔法使いがソレ(ダイヤ)を操れるのも良しとしよう。で、上から降ってきたのは何?
天空には土もダイヤモンドも無いぞ。
テレスの魔法を泥人形たちが使えるのも意味が解らん。
主人は上機嫌で遺跡を指差す。確かこっちの方角だったはず。
「いいぞテレス! その調子でガンガン行こう」
「こいつ蹴っ飛ばしたいなぁ~」
土魔法は火や闇と違い、魔力を引っ込めても消えるわけではない。ただの土に戻る。
なので、今は足元にでっかいダイヤモンドが落ちているのだ。牙の形をした。ドラゴンの骨格をダイヤモンドで作ったようなものが。
「売って良い?」
「売るな。攻撃に使うんだって」
あ、お前の武器だったわけか。
「どーりで。ありえん。空から降ってきたと思ったよ……」
「収納から出しただけだしな」
こんなでかい金剛石は初めて見る。
『金剛石の顎(グシャリ)』は地面に潜ると、水中に潜むワニのように、テレスの後についてくる。
「あれに座ってていい? ラクそう」
「いいけど。モンスターが出たら振り回すから、飛んでいかないでよ」
「……」
しゃーねーか。テレスで我慢してやろう。
背中に乗ってて思うのは、確かにこいつは火力無いな。
(まあ、テレスの強みはそこじゃないし)
平和なのでうとうとしてくる。
「寝るなー」
「む」
ぱちんと目を覚まし、涎が垂れそうになってた口元を拭う。
「ぬあ。なんで寝そうだってわかったんだよ」
「いや……。なんか一気に背中がぽかぽかに」
あーわかるわかる。小さい子って眠くなるとあったかく……
「嘘だろ? 俺ジジイなのに?」
愕然とするとテレスは小さく吹き出す。
「ジジイだけど辛うじて人間じゃん」
「辛うじて、なのか」
ポタっと汗が落ちる。
遺跡が閉じたのか風向きが変わったのか。先ほどまでのひやりとする空気を、じめじめっとした空気が蹂躙する。
服を着たままサウナに入り込んだような。服が汗で貼りつく気持ち悪さ。
「あぢー」
「クラゲでも生きていけそうな湿度だな」
泥人形は涼しそうな顔だ。
「なつかすぃー」
「……懐かしいって、お前どこ出身だよ」
湿気大国だよ。
テレスも聞いておいて興味ないのか、それ以上踏み込んでこない。
葉っぱや木の根を踏みつけ、迷うことなくざくざくと進んでいく。
「道間違えているとか、ないのか?」
「ん? 上見てみ」
口開けて空を見ると、木々の葉が重なり合い、天井のようになっている。これが風を遮るから暑いのだ。
「葉っぱがどうした?」
「あ、えーっとな。スペアを猿の姿にして、木の上からナビしてもらっている」
俺が一番欲しい能力を持っている。自分が複数いるって、いいなぁ。
地上は木の葉や枝がフェンスのように絡み合っているので、ちまちまとしか進めない。テレスなのでこれでも速い方だ。
「いっそ木々の上を跳んでいくべきか?」
「やめとけ。そう思って木の上を通る獲物を待ち構えているモンスターが多い。俺の猿の泥人形がもう二回壊されてる。〈黄金〉お前、金貨を節約したいんだろ」
「バレてたか」
「露骨に俺に戦わせようとしてたじゃんか……」
たまに飛び掛かってくるモンスターも、ダイヤモンドがトラバサミのように噛み潰す。
ブシャァ! っと体液が飛び散る。
「あのグシャリで素材も噛み潰してるけどいいのか?」
「この辺に欲しいものはないかな」
「そ」
休めるような場所もないため、不休で突っ切った。金ランクの体力に物を言わせての行軍。赤以下のハンター諸君は決して真似をせぬように。命取りになる。
「観光客はどうやって遺跡まで行くんだ? 一般人お断りの観光地か?」
たまにそういう観光地もある。危険すぎて赤ランク以上でないと入れない場所とかな。
後ろから差し出された携帯菓子(プリン風味)を口に銜えながら器用に喋る。
「そうなんだけど。護衛で赤ランクを雇ってるから安心だって」
「は? 赤ランクを雇う費用だけで赤字じゃないか?」
金ランクがいないギルドでは赤が最高ランク。依頼料も跳ね上がるはずだ。
「経営者の身内らしい。その赤」
「ああ」
血の繋がりパワーか。確かにな~便利だよな~。
どこぞの孫を思い浮かべながらうんうんと納得する。
赤ランクになれる実力があるなら、観光客という足手まといを抱えていても問題はないだろう。
「だから遺跡付近についたら人が多いかもな」
「よし。好みのショタがいたら攫ってくか!」
うっきうきで言ったのに背中から振り落とされた。人がいい気分だったってのに。塗れた犬のように身を震わせやがった。
ひっくり返ったままカブトムシのように手足をカサカサさせる。
「冗談だよ、一割くらい~」
「ガチじゃねーか! だからやだったんだよ。お前と同じ空間に居るの!」
「なんで引き受けたのよ?」
「さっき言っただろーが! 覚えろ」
覚えてるよ。舞い上がってて記憶ないとか、アイドルの握手会に行ったファンかきみは。
テレスが拾ってくれないのでのそりと起き上がる。
「んあ~! 背中に乗せてくれ。この身長でこの密林歩くのはキツイ」
「元の姿に……はあ」
帽子を掴んで引きずって行かれる。なんで皆そこ持つの?
「元の姿に戻れとは、言わないんだね」
「ゲロ発生器と歩きたくないし」
それは、うん。それはごめんな。
「大人の姿になれと言わないとこが好感触だ。44ポイントあげよう」
「いらない。世界一いらない。でも……そのポイント集めると何かあるの?」
興味はあるのか。
「100ポイント集めた者には、俺の収納庫の中で埃被っている魔具をひとつあげよう。ランダムで!」
テレスが目を丸くする。
「え? ……ゴミポイントかと思えばめっちゃいいじゃん。聞いたぜ? お前タイムになんか良い、剣? 刀? やったんだってな。タイムがクソ喜んでたぞ」
言いふらすんじゃねーよ、グラサン野郎。
いや、テレスのことだから独自で情報入手したのか。
「正直倉庫の肥やしだからな。でも売りさばくのももったいなくて。最近は人に譲るようにしてる」
「……」
口笛を吹いていたらテレスの表情から笑みが消えた。
「なんか……終活してるみたいで嫌なんだけど。俺は人間が好きだ。お前みたいな論外ド外道でも。なにか、病でも患ってる? 力になれないか?」
「え?」
テレスの表情は、手遅れの病人をいたわるようなものだった。
いやいやいや! マジになるな! 違うっ。地球に帰る準備を始めているだけだ。
……でも、この世界から出ていくわけだし、実質死ぬのと同義か?
まあいいか。死ぬ予定は無い。
誰が論外ド外道だ。
「倉庫の整理をしているだけだ」
努めて明るい声を出したんだが、
「……」
黙っちゃった。何か言って! 違うって! やめろ。勘違いするな。
歩く音しかしなくなった。
「俺は元気だぞー」
「……」
「テ、テレスちゃん?」
「……」
そんな顔しないで‼ 眉間にしわを寄せて悲しそうにするなぁぁ。
「言わないってことは、やっぱり……」みたいな雰囲気を出すな! どどどどうしよう。「地球に行くんだぜ」とか説明できるわけないし。
ハニワ顔でぼたぼたと汗を流しているとテレスが走り出した。障害物は『金剛石の顎』がパックンのように食い千切っていくので乱暴に道が出来る。
掴まれている主人はこいのぼりのようにはためく。
「どうしたーーーっ?」
「寿命が近いんだろ? 早く残りの種族に会いたい理由があるんだろ? 任せろ」
「ちがああああううううう」
結局、いい言い訳は思いつかなかった。
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