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最後のステラ
09 お前、さっきまでかっこよかったのに(byごっちん)
しおりを挟むさくさくと足音が近づいてくる。
「うえぇ……」
あまりの寒さに木や地面まで死に絶えている。足音以外の音がしない。
大げさに身を震わせながらカリスは喧嘩しているっぽいふたりに近づく。
「おーい。息子よ」
「ほあっ⁉ 何散歩してるんですか?」
息子が意外そうにこちらを見た。
「心配してきてやったんだろー? ……うわぁ」
何かを踏みそうになって片足を上げる。キラキラ透き通る巨大結晶が銀髪の男を押しつぶしていた。
間違いなくシャドーリスだ。
「……殺した?」
「この程度で死んでくれるわけないでしょう。あれですよ。ツッコミいれたらノリで吹っ飛んでくれた……みたいな」
「ノリで潰れてるの⁉ ああ、でもそういうとこあるわ、こいつ」
それより、とキャットが父親の背中を押す。
「さっさと戻ってください。貴方がいると思っていたから全力出していたのに」
「え? 助けに来てやったんだろー?」
「ごっちん様をお守りせんかい!」
ぐいぐい押すが帰ってくれない。
「やだ! 息子が変な銀髪の餌食になるかも知れないってのに。ミ、ごっちん様とのんきにお菓子食ってられるわけないだろ」
「食べるんじゃなくて上手く作る努力の方をしてください。レシピ置いてますから!」
ズゴッと、巨大結晶が持ち上がる。立ち上がってきたのはシャドーだった。
うげっと顔を歪めるキャットと、反射的に息子を庇うように前に出るカリス。
首を振って頭の雪を払い、人が増えたのを確認するとシャドーは破顔した。
「おお。カリス殿か。どうだ? カリス殿も混ざらないか?」
「混ざらない。お前~、うちの子にいちいち絡んでくれるなよ」
アクアに辛辣な評価をされたとはいえ、カリスはキャットの父親だ。渋いおじさまだが目許はよく似ている。
父親の背中に、強すぎて庇われた経験のほぼないキャットは居心地悪そうに狼狽えた。
「親子でかかってくるがいい! こんな期は滅多にないぞぅ!」
元と現右腕を前に、啖呵を切れるのは世界広しと言えど、このお馬鹿くらいだろう。結晶を担いだままイキイキと拳を握っている。結晶を持つ手が凍り付いてきているのにお構いなしだ。
キャットは父親の肩を掴んで下がらせる。
「いいから。貴方はごっちん様をお守りください」
「おい⁉ 無理するな。ここは父さんが……」
手袋をはめ直してキャットは前に出た。
「いいのです。俺も男として、シャドーリスさまにぶつかってみたい」
「ふぅん。カリス殿のお力は借りないと? よかろう! かかってくるがいい!」
言うが早いか、自分より遥かにでかい結晶をフリスビーのような気安さでぶん投げる。
「……はあ。息子の成長は嬉しいが、頼ってくれないのは寂しいな。ミカに愚痴ろ」
ポッケに手を突っ込んで、小走りで戦場から離脱する。
車輪のごとく回転し、自分で作った結晶がキャットに迫るが、特に避けることはしなかった。
結晶は増々回転速度を上げると、物理法則を無視して投げた本人に帰っていく。
「おお?」
投げた瞬間、雪の結晶が戻ってきた。シャドーは半身ずらして避けるが、銀の髪の一部がバッサリと切れてしまう。
(? ジュリスは冷気使いで、氷使いではないはず……)
殴りかかろうと飛び出すが、木々や妖怪モンスターたちを砕きながらUターンした結晶が追いかけてくる。
「はは! おもしろい!」
木を蹴って大きく跳んでかわす。結晶をジュリスにぶつけてしまえばいい。
「――待ってました」
下を見ても雪の世界で目立つ燕尾服はおらず、なんと背後で声がした。
「むっ」
降り向くより先に、湖一個分ほどの氷塊が落ちてくる。
「おお! 見事だ。受け止めて見せよう」
(池一つ分の水を持てるシャドーリス様は、これをぶつけても押し殺せない)
ならば、
シャドーは受け止めようと両腕を広げたが、ほぼ同時に氷塊に深い亀裂が走り、砕け散った。樹木サイズになったつららと化し、シャドーリスに降り注ぐ。
何発かがまともにシャドーの身体にぶつかるが、服が破けただけで肉体はかすり傷程度の赤みしかつかない。
着地を狙って巨大結晶が迫るが、両足で踏み砕かれた。ガシャァンと、ガラスが割れた音がする。
(チッ)
「どうしたジュリス! 寒柝を使ってもいいぞ!」
「ごっちん様とおっさんが二人きりなのに。寒柝を俺が使えるわけないでしょう」
「……うむ」
「ちょっと残念」みたいな顔で小さく頷く。
(ただでさえ俺が有利な場で戦っているのに、これ以上は……)
しかも水魔法を使わないというハンデまでもらっている。
と、思ったが遠慮する必要はないか? 相手は最強の問題児。むしろ寒柝を使ってボコボコにすべきか。
「でもごっちん様を守らねば……」
「お前は色々考えることがあって大変そうだ」
「うっ!」
「不動氷姫」はまだ発動している。それなのに寒さで動きが鈍るどころか速度が増した。
戦闘狂は逆境でこそ笑うのだ。敵に回してはじめて分かる厄介さ。悔恨の念など微塵も無いが、これを人族相手にぶつけていたんだなと少し苦く感じる。
「多少は震えてほしいですね」
「はっはっはっ! 俺を凍えさすにはまだ足らんな!」
ズンッと足を踏まれる。
「なっ」
「お前の素早さは脅威だ。気合入れろ! 殴るぞ!」
バッと腕を十字に重ね防御を取るが、シャドーの拳は貫通した。
「!」
ガシャンと、キャットだったものが砕け散る。
(――氷で作った偽物⁉)
では本体は。
「そう簡単に、俺の足を踏めると思わないでいただきたい」
スピードはキャットの方が速い。
(だが一撃はその分軽い)
シャドーが振り返るより早く、足刀が首筋に叩き込まれる。
「俺がいるから本気で戦えるって言ってたけど、寒柝使ってないなら『本気』じゃないだろう」
額にぶっ刺さった美しい装飾の細剣を引き抜く。
乱れた服を押さえたごっちんをムギが守るように抱きしめ、ふたりの前に立ったエイオットが可愛く威嚇していた。
アクアファイアはぽかぽかとおじさんの足を叩く。
「ごっちん君をいじめちゃ駄目でしょー?」
「悪い方のおっさんだ。ファイア。倒せ倒せ!」
「あい!」
双子は色違いのメガホンを持って、おじさんを攻撃する。ごっちんが作り出したメガホンなためか、十回も叩けば一ダメージが入るかもしれない。
自分を抱き締めて震えているムギにそっと頬を当てる。
「驚かせたな。すまない」
「ごっちん様。わたしが、お守りいたしますっ」
「ちょっと息子にフラれたから、ミカ、ごっちん様で遊びながら愚痴ろうと思っただけだろ。臣下の愚痴を聞くのも王の役目では?」
「服を脱がせる意味は?」
「そんなもん! 俺が楽しいからだろうがドウグッ⁉」
背中にぶっ刺さった寒柝に、カリスは倒れた。
「ごっちん君! おれにも武器ちょうだい」
「え? あ、ああ……」
キュインとメガホンピンク色を作り出し、エイオットの小さな手に渡す。
それを握ると、エイオットは果敢にも飛び掛かった。
「おじさん! ごっちん君をいじめたら駄目なんだよ! お兄ちゃんに、怒られるよ」
ぽかぽかにエイオットまで混ざり、ポコポコ×3と可愛い音が鳴る。
背中に刃物が刺さった人を叩く絵面だが、ごっちん的には「いいぞもっとやれ」な心境だった。
だがおじさんはゾンビのように復活する。こいつら親世代には一際多く力を分け与えたせいか、ゾンビ戦法が出来るキャットより……しぶとい。
「ごっちん様。まあまあまあまあ。ちょっとだけだから」
背中には物が刺さったまま笑われても、恐怖しか感じない。おかしいな。臣下なのに。
「カリス! シャドーもいるのだ。次は洪水で流されるだけではすまんぞ」
ムギを抱いたまま後退るが、変質者は悪役のような笑みで迫ってくる。足元では子どもたちが必死に攻撃してくれているが、おじさんの歩みは止まらない。
「おじさん。メッ! だよ」
「諦めるなファイア! エイオット。叩け叩け!」
「あいっ!」
ポコポコポコ×3と足を狙い打つ。カリスは一度だけじっと足元を見たが、蹴散らしはしなかった。
「息子もシャドーのガキも夢中で遊んでるから、大丈夫だって」
「わあああっ」
ひょいとムギを摘まみ上げる。
「ムギ」
「ムギちゃん⁉」
「どうすんだよ! ムギを丸呑みにする気か?」
「ムギしゃ……」
アクアの台詞に小さく吹き出すと、カリスは人質の服を剥ぎ取った。魔女風の衣装がはらりとエイオットの頭上に落ちる。
すっぽんぽんになったムギはじたばたと暴れた。
「やだぁあああ! やめひぇおろちてください」
「カリス……」
ごっちんの顔色が今まさに飛び降りようとする者を見つけてしまった時のように悪くなるが、カリスはへへんと見せつける。
「ちっこいなー。ま、息子もこんなんだったしな」
「うええええっ。うえええん」
ぱかっと足を広げられ、仲間の前で股間を、自分の意志とは関係なく晒される。ムギの顔は髪の毛より赤く染まった。
「やめてええええ! エイオットしゃま! 見ないでえええ」
「ムギちゃん。おじさん! やめてげてよ!」
「ムギを虐めるんじゃねーよ!」
「あーう……」
いい大人は高らかに笑う。
「なんだよ。お前らの主人にいつもこうやって遊ばれているんだろ? 今さら恥ずかしがるなって」
狂ったような顔に、子どもたちはたじっと一歩下がる。
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