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最後のステラ
14 話が進まない
しおりを挟む「―――……」
目を覚ますと、『くらやみ遺跡』だった。
分かっていたのに。
鉛のような喪失感と苛立ち、現実が全身にのしかかり、この時の俺は不穏な目つきになっていたと思う。
「起きたか」
「……テレス」
テレスは崩れた遺跡の一部にうまいこと腰掛けていた。怪我はなさそう……って泥人形か。
彼の目がわずかに泳いでいるので、もしや、さっきの出来事は――
「あ、あの。ご、ごめん、なさい」
真横から声が聞こえびっくりした。真横にいたのに気づかなかった。
影が薄いとかではない。
リアルに透けている。
ムギと並べば縁起の良さそうな真っ白な髪に、幼い顔立ち。自信なさげにおどおどした垂れ目。服は上等な物で、シルクの大布を身体に巻きつけている。
「……」
可愛いとは思うが、どうしたことか。
未成年センサーが発動しない。
だらだらと、内心冷や汗が流れる。
「謝っているということは、何かしたのかい?」
透けている人はビクッと両手を顎の下で合わせ、祈るようなポーズになる。半透明だが体内が見える、とかではなく、アニメや怖いドラマで描かれる背景が見えるタイプだ。
「……その。あの。えっと……」
もごもごと口ごもり、やがてうつむいてしまう。
え? そんな、なにか危険なことされたの?
主人はすぐ魔女っ娘ボディを確認したが、特に異変は見つけられなかった。
それより俺はもう一人が気になって仕方がない。
「違うのよ! ティーハヨ様は悪くないの! 怒らないでよ!」
後ろで何か応援しているような素振りをしていた子が、俺と半透明の間に割って入ってくる。んっふふふふふふふ。可愛い未成年ですなぁ。
によっと笑う魔女っ娘に、割って入ってきた子は虫嫌いな子が虫を見たような反応を取った。
「うげっ……! 何よ。あんた」
「「こちらの台詞だな」」
俺とテレスの声が被った。だが、どこぞの右腕と違い、舌打ちしてこなかった。
薄いラベンダー色の髪をした未成年はぐっと言葉に詰まる。
「〈黄金〉も起きたことだし。説明してもらおうか」
「は、はい。それは……分かっております……」
半透明は何度も頷く。
「…………」
一分ほど待ったが、話し始めない。テレスは暇そうに遺跡内を眺め、主人は正座でラベンダーっ子を見つめ、ラベンダーっ子は拳を震わせてハラハラと半透明を見つめている。
「あの……。実は……」
「うん」
「…………えっと」
「うん」
「ごめ、……ごめんなさい」
「……うん」
根気強いテレスが相槌を打っていたが、五分もするとテレスは白目を剥き始めた。一向に何も話し始めないし、何一つ情報量が増えない。
ここで六分経ったが六分前と何も変わってない。
六分もあれば、テレスなら街ひとつの情報を集め終えている。故に、何分間も無情報と言うのは結構クる。俺も一日あれば億は稼げるので、ここにいるのがテレスでなかったら暴言吐いて探索に出ているぞ。
ここにいるのはテレスと――俺。
パァン!
「ぷきゅうっ⁉」
主人は半透明の頬を引っ叩いた。触れるかどうかの確認も込めて。思ったより軽く、ごろごろと吹っ飛んでいく。
「きゅうう」
「はああっ⁉ ティーハヨ様っ」
未成年っ子が慌てて追いかける。
半透明を抱き上げ、怪我がないことを知ると心から息を吐いた。
俺をキッと睨む。
「何してくれてんのよ!」
「さっさと話したまえ。頭蓋を割って情報ごと脳みそを取り出す、でも良いんだぞこっちは」
「ぶ、無礼者! この方をどなただと心得てるの⁉」
「それなら早く名乗りたまえ」
「うう……」
半透明は目を覚ますが、完全に未成年の背中に隠れてしまった。
「この御方はティーハヨ様」
「うん」
「……。これ以上は教えられないわ。私たちは、この御方を守るために存在しているのよ」
テレスと顔を見合わせる。
ふわふわしたラベンダーの髪に、気が強そうな吊り上がった瞳。耳には紫の石、ピアス、いや恐らく護石を左右につけ、シルクよりは質の低い布をこれまた巻きつけているだけの原始人スタイル。わきや生足が見えていて、俺は満足です。
「俺は〈黄金〉。こっちの足の長いチンピラがテレス。きみの名前は?」
先ほどと打って変わって優しい口調になった魔女っ娘に、ラベンダーっ子はじいぃっと見つめてくる。
「私はティーハヨ様をお守りする『その821』よ」
まさかの番号。
「種族名は? 教えてくれないのかい?」
「それを隠しているのに教えたら馬鹿じゃない! 馬鹿じゃないの? あんた」
「こ、こら。『その821』やめなさい……」
注意しているのだろうが、声が小さすぎて『その821』さんに聞こえていないぞ。聴覚強化している俺とテレスにだけ聞こえている。
「守ってくれる存在を番号呼びか。いい趣味だな」
「え? ……どうも?」
皮肉を込めて言ったのだが、キョトンとした挙句、お礼を言われた。でも頭を下げないところを見るに、高貴な身分……なのだろうとは予想できる。
いややっぱどうかな。ごっちん普通に頭下げるしな。他のお偉いさんってどんなんだろうか。魔法帝に謁見したことはあるが、何も覚えていない。脳の容量の無駄としか感じなくて。だってショタじゃないし。
皮肉が効いてないときが一番虚しいかもしれない。心理的に。
「で? 何に謝っていたのかね?」
「え? えうう……。そ……それは……。………………」
振り出しに戻る。
「頭蓋割っても良いかな?」「いいぞって言うと思ってんのか?」と、テレスと目線で会話していると半透明が『その821』に耳打ちしていた。
「そんな! 話しても良いとおっしゃるんですか?」
「……」
『その821』の肩に手を置いて何度も頷いている。命……頭蓋の危機を感じ取ったのか。
「迷惑を、かけて……しまいましたから」
「ティーハヨ様が悪いわけじゃ、ないのですよ⁉」
「いいん、です」
『その821』は主人とティーハヨ様を交互に見たあと、コホンと咳払いした。
「……話すけど。他言無用だからね⁉」
「うむ」
真っすぐな強い瞳が煌めいている。
「ティーハヨ様は……」
ぐっと拳を握り、口を開く。
「七夕蛇族。その末裔よ」
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