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最後のステラ
23 数年後 ①
しおりを挟む数年の月日が流れた。
まだまだ幼いナナゴーをいくらくすぐったところで「ふへふへ(笑い声)」としか言わないので、もう少し成長を見守ることとする。艶っぽい、人魚らしい喘ぎ声が出るようになるのを楽しみにしているぞ。
「ちぇい!」
「おぶ!」
毎日くすぐってたら怒られちゃった。
「ナナゴーばっかり構ってる!」とエイオットが壁から半分だけ顔を出して睨んでいるのだが、最近は、ね。そういうことはなくなった。
尾びれビンタされた頬を摩りながら廊下を歩く。いいことありそう。
「不安ね……。本当に、無理なされなくていいのに」
スキップで進んでいると壁からこそっと覗いている後ろ姿を発見。何を見ているのか。
この視線の先にあるのは、
「ほう」
主人は真面目腐った顔で気配を消すと、そっと近づき脇腹をつっついた。
「うっひゃああ!」
可愛い声を上げてエルフ耳少年が飛び上がる。
しゃがんで脇腹を押さえて震えたのち、キッと振り返り詰め寄ってきた。
「何すんの⁉ 馬鹿じゃない? 今、ティーハヨ……ハヨ助様を見守ってるところなの! 静かにしなさいよ。見つかっちゃうでしょ」
よく通る少年の声。
「見られていた」人たちにばっちり聞かれる。
「ソノハニー。そこにいたんですか?」
ソプラノのような美しい声。
「ぎくっ」
これでもかと主人の頬を伸ばしていた少年の肩が跳ねた。
タオルで汗を拭きながら半透明成人男子という生き物が歩いてくる。
「七夕蛇族」。正真正銘最後の一人。俺に一番効くトラウマアタックを仕掛けた勇者だ。表彰してやろう。拳で。
洋館に来て運動するようになってからというもの、ぐっと身長が伸びた遅れた成長期野郎でもある。キャットと並ぶとちょうど良く、身長の伸び具合にゴージャス執事が戦慄していた。大人の俺より大きくなりそうなんだよね……。これが運動の力か。
用意した服、すべてサイズが合わなくなり、すべて買い替えたティーハヨはすらりとした美青年に進化を遂げていた。キャットの横にいると白黒でオセロを思い出して面白いので、白の燕尾服を用意したぞ。
白地に青い薔薇の刺繍が美しい一点物だ。特注品だからこれ以上身長伸ばすなよ。
蛇を思わせる長い髪もばっさり切り落とし、憑き物が落ちたように晴れやかな顔をしている。本人もプレッシャーから解放されたのだろう。キラキラした光を振りまき、顔を合わせるたび無駄に眩しい。
サングラスをかけた主人に構わず、ソノハニーは膝をつきそうになったがなんとか踏みとどまった。
「そ、その! け、けっして盗み見していた! というわけではなく……。わ、私は、その」
「ソノハニーもご一緒しませんか?」
自分の少年の顔を両手で包み込み、目を合わせてからにこりとほほ笑む。
「……ふわわ」
真っ赤になっちゃうソノハニー君。
やわらかく少年を抱き締める。
おーい。その子は俺の子なんだからね。あまりべたべた触……ソノハニー君の溶けた顔が見られるから許そう。特別だぞ。だらしない顔が可愛い。
「きみは飛べるとか関係ないだろうに。好きだな~」
「おや。主人さん」
今、俺に気づいたようで目線を下げてくる。
ティーハヨはムギちゃんと一緒に「飛べるようになる」訓練を一緒にやっていたところだ。
シャドーリスにたまに遊びに来るようにと、絶対命令チケット(ごっちん)に言ってもらったのだ。ヴァッサーより来てくれる頻度が高くて助かっている。……おばあちゃんはね、お店があるからどうしてもな~。
上着を脱いでシャツの袖をまくっているティーハヨはタオルを首にかける。
後ろを見ると、銀髪男と超かわいい赤髪の男の子がラジオ体操っぽい体操をしていた。羽ばたくのに必要な筋肉をつける運動なのだとか。
暑苦しいシャツ一枚のシャドーリスと、体操服に着替えたムギちゃんが手を振ってくる。
「ご主人様」
「おお! ちび魔女ではないか! どうだ? 一緒にするか?」
うるせぇ。声量を下げろ。
こいつが遊びに来ると陽光知らずの鳥が一斉に飛び立つからすげー分かりやすいわ。
少し背が伸びたムギちゃんが駆け寄ってくる。
「様子を見に来てくれたんですか?」
「おう。今日も可愛いね」
すっかり背を抜かされた。背伸びして赤い頭を撫でる。
ムギちゃんは少し髪を切った。髪を伸ばそうとしているエイオットとお揃いの長さになるようにって……その考えが可愛すぎる!
羽もボロボロ。筋力ほぼなく骨と皮だけだったムギちゃんが。ずいぶんと逞しくなった。
黒羽は艶やかに輝き、もうその辺の翼族の翼より立派で大きい。
だが幼い頃から閉じ込められ地を這っていたムギが飛べるようになるにはもう少しかかりそうだ。幼い頃は日本語を覚えられたが、大人になってから英語を覚えるのは難しい。それと似ている。
身長は、意外なことにハーレム内で一番低い。本人は気にしているが、俺としてはにやけが止まらないね。
「っ、じゃなくて! ティー……ハヨ助様! あなたが身体を鍛えずとも……」
ハーレムで一番高いのはソノハニーだ。年齢的に当然なのだが。この子はあと三百年で成人となる。エルフ、いや花仙ってすげえな。ごっちんの加護無しでこんなに長寿なのかよと驚いた。人間換算すると十八~十九あたりなのだそうだ。
種族によって年の取り方も時間の流れも当然違う。なので、洋館では誕生日パーティーは開かないことにしている。だってソノハニーだけ次の誕生日三百年後とか、ちょっとな。
洋館では「出会った記念日」パーティーにしている。
「またそれか。気の長い種族は同じことを延々と言い続けるな」
ため息をついたのはシャドーリスだ。貯蓄のために色んなモンスターと戦ってはいるが、こいつ以上の化け物に遭遇しない。
ふわふわラベンダー髪を伸ばしているソノハニーが食って掛かる。花仙の血が混じっているせいか髪からもいい香りがする。全身、いい香り。風呂に入るとお湯に香油も垂らしてないのに、花畑の香りが。
「あんたね! て……ハヨ助様に変なこと教えないでよ」
「ソノハニー。これ。私が勝手にやっているのです」
ハヨ助が庇ったのがショックだったのか、おろおろしているムギに抱きつく。
「うわあああ! 私が守るつもりだったのにいいい」
「……ソノハニーさま」
心優しいムギちゃんも若干あきれ顔だ。徐々に簡略化されているとはいえ、まーじでこのやりとりほぼ毎日やってるんだよね。寿命が長い種族の感覚が分からん。
飽きたり、なさらないんですか?
「大丈夫ですよ。ソノハニーさま。鍛えた強さは、絶対無駄にはなりませんから」
「ううっ。ムギ、ムギィ……」
なぐさめスキルが高いムギちゃんが聖母に見える。黒い羽で包み込み、よしよしと頭を撫でてあげている。ソノハニーの髪は細いので触ると気持ちがいい。
「で、ムギちゃんは飛べそうかね?」
「知らん!」
こそこそっと気を遣って小声で話しかけたのだが、銀髪がすべて無駄にしやがった。
そうか。シャドーでもわからんか。俺も分からん。……どうしよう。隠れ里からクロスさま攫ってくるか?
物騒なことを考えているとばたばたと足音が駆け寄ってきた。
「おーい! ムギ。やっぱここにいたか。ポリやろーぜ」
「あう。ムギさん」
アクアとファイアだ。人間換算すると十代半ば。実年齢が不明なので人間換算しなくてはならない。こちらも身長の平均をぶち抜いている。何故だと思ったが、栄養満点飯のせいだな。
この二人はハンターになってモンスターとの戦いの経験を積み、騎士になるのが夢だという。ファイアだけでなく、過去の自分たちのように困っている子どもを助けて、ついでに稼いだ金で孤児院に寄付したいんだと。
ファイアは経験を積んだのち、騎士ではなく医学の道に進むのだとか。立派過ぎて聞いた時、浄化されるかと思った。ごっちんが「主人殿が傍にいるとは思えないほど凛々しく真っ当に育ったな……」と感心していた。何か引っかかる言い方だな?
今も稽古していたのか、こちらも上着を脱いだキャットがやれやれと遅れて歩いてくるところだった。
ポリとはポリキックの略で、日本で言うサッカーだ。ボールの代わりにポリというモンスターの骨をボール代わりにする。頑丈な獣人だから成立するのであって、鍛えていない人族がやると足の骨の方が砕けるので注意だ。
「すみません。今は体操中なので」
「なぐさめ中だったか」
ムギにしがみついているソノハニーを見てだいたい察したのか小馬鹿にするようにへっと笑う。
短気はソノハニーにはカチンときたようで、お互いに額をぶつけ合った。
「なによ。子狸! 何か文句あるわけ?」
「おーう。やるのか? いいぜ。先に五点先取した方が勝ちな? それとも、負けるのが怖いなら、やめとくか?」
「はああー? いいじゃない。コテンパンにしてあげるわ!」
誰に似たのか挑発が上手くなっておられる。
年上をからかっていたアクアはふと主人に気づくと、ツカツカと目の前まで歩いてきた。金の髪を一房手に取り、軽く口づける。
「じゃ、(ソノハニーで)遊んでくるから。主人はあとで構ってやるから、いい子にしてろよ?」
さわやか少年の笑みで頭をかき混ぜると、ソノハニーと共にコートへ走って行く。コートは陽光知らずの一部を伐採して作ったのだがそれより!
「うん……。一応、モンスターには気を付けてね?」
キャットが念のため、ついていってくれる。
ズレた三角帽子を直す。
やっべぇ。アクアにとっては俺もハーレムの一員みたいになってる。このまま成長されると、冷や汗が止まらん。狸耳とぶっとい尾は愛らしいままなのに。灰色の髪は短くそろえているし、スカートも履いてくれなくなっちゃった。サッカー少年みたいなハーフパンツを好むようになって。中学生の部活動を思い出す。男らしさが滲み出てきたというか、泥臭くも活発な少年に成長した。
(今思うと「ごすじん」呼びも可愛かったな~。なくなっちゃって寂しい)
こういう思いは散々してきたはずなのに、毎回きちんと悲しくなる。どばーっと涙を流す魔女っ娘の横で、ファイアがムギにお水を渡していた。
「水分補給、しっかりしてね?」
「ありがとうございます。ファイアさま」
「うん……」
しっとりした雰囲気は変わらず、身長が二番目に高くなったのはファイアだ。アクアとは逆に髪を伸ばし、なぜか後ろで三つ編みにしている。
その髪型やめない? と二回ほど言ってみたのだが。
『ご主人様。ぼくって可愛いでしょ?』
『はい!』
『三つ編み、似合うでしょ?』
『はい!』
『何も文句ないでしょ?』
『うっす!』
口で勝てなくなっちまった。エイオットと俺の口論(いつも俺が負けてる)を見て、俺の言い負かし方を学習しちゃったんだろうね。生意気な。でもみんな、自分たちのこと可愛いと理解しているようで嬉しいよ。
「こまめに水分取ってね? シャドーさまも。どうぞ」
「うむ! 有難くいただこう」
アクア依存は落ち着いたように思うが、夜はアクアと一緒に寝ている。が、このくらいならいいだろう。アクアもちっとも嫌がっていないし、双子が一緒に寝ていると思うと尊くて、俺も元気になる。
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