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最後のステラ
最終話 数年後 ③
しおりを挟む「あ。皆ここにいたんだ」
太陽のように明るい声。ムギがぴゃっと頬を染め、主人はサングラスをかけていて良かったと胸を撫で下ろす。
俺のゴールデンスイートハート。
「飛ぶ練習中だった? 頑張ってるムギちゃんステキ」
「エイオットさま……」
動きやすそうな剣士の服装に、雨風を防ぐためのフード付きのローブ。大きな弓矢を背負い、颯爽と最奥の森を歩いてくる。
主人たちを見て気を抜いたのか、束ねていた髪を解く。
金にも見える稲穂色の髪は誰よりも真っすぐで、月光下でも妖しく輝く。活発な印象の少年に妖艶さが混じり始め、吊り目なのにまったく怖がられたりしない。歩くたびにフェロモンをばら撒いている気がする。視線をハエトリグサのように集めるので、ごっちんと二人っきりで散歩に行かせられない。
背はそれほど伸びなかったようだが、その分小回りが利くようで、あっという間に昇格してしまった。
エイオットは現在、「黒」ランクのハンターである。
「エイオット。お帰り」
「ただいま。おれのご主人様」
主人は目をハートにして近づく。エイオットはグラサンを取り上げ自分の頭に乗せると、触れるようなキスをしてくれた。胸いっぱいです。
真っ赤になって逃げようとしたムギもさっと捕まえると、当たり前のように唇を重ねる。
「ただいま。ムギちゃん」
「ふぎゅう」
ばたばたと主人とムギが倒れてしまう。
「おおう。お前は相変わらずだな。気安く女性に声をかけるなよ。問題になるぞ」
「声をかけただけで?」
あきれ顔のキャットにくすっと笑ってみせる。
エイオットはやはりハンターになりたいと言って、洋館を出て近くの街で一人暮らしをしている最中だ。たまにこうやって顔を見せに帰ってきてくれる。……俺が寂しいので週一で帰ってきてもらっている。でないと気が狂う真面目に。
エイオットはみるみる強くなった。とはいえ心配は心配なので、護衛に三日月君をつけている。最奥のモンスターくらいなら体当たりで吹っ飛ばせるので、逃げる隙くらい作れる。三日月君は俺が調子乗って作ったオートマタなので、護衛程度なら簡単だ。
弓が地面につかないように、キャットの横でしゃがむ。
「お兄ちゃんも、キスする?」
「しない。ファイアとハヨ助ならいつもの図書館にいるから、はよ行ってこい」
「おかえり」
ごっちんは遠慮なく頭を撫でてやる。ふさふさの狐耳がぴぴんと揺れた。
「えへ。ごっちん君もただいま。ところでムギちゃん。悲しそうな顔してたけど、何か、あった?」
がばっとムギは起き上がる。
「にゃ、何もないです!」
「そう? でも」
「何も無いです! さあ! シャドー様! 特訓を続けますよ」
たたーっと崖の上に戻っていく。
「おい。怖かったんじゃないのか?」
「怖いって何がですか⁉ シャドー様。なにか怖いんですか?」
シャドーがやれやれと頭部を掻いている。男という生き物は惚れた子の前では強がっちゃうものである。
「古事記にも書いてあるしな」
「ムギちゃん。頑張ってー」
装備を脱ぐこともせず、ムギの応援をしている俺の太陽が眩しい。
「はい! 見ててください、エイオットさま」
崖の上でフンスフンスと、謎の動きをしているムギも可愛い。
「おいおい……。張り切ってると思ったらエイオットか」
「あら。お帰り。もう一週間経つのね」
「お土産は?」
アクアとソノハニー、お土産をねだるナナゴーまで見物に来る。俺の子たちが可愛すぎて困る。
「ちょあーっ」
ばっと地を蹴り、ムギの身体が宙に投げ出される。
翼を広げ大の字で空気を受け止めている。
だがムギは何もせず、シャドーの両腕に落ちてきた。何気に衝撃を完全に殺して受け止めているシャドーがすごいな。
「……」
ただ飛び降りただけになったので変な空気になるが、下ろしてもらったムギの瞳は輝いていた。
「あ、なんだかさっきより怖くなかったです!」
報告してくるムギが可愛いが、エイオットがすかさずツッコむ。
「怖かったんじゃん」
はっと自分の失言に気づき口を塞ぐ。
「ちが! ……身体が硬直しなかった、と言いたかったんです!」
「怖かったんだろ」
「アクアさま! 違いますって。私は」
「怖かったのなら素直に言いなさいよ」
「そ、ソノハニーさま……」
「ムギ。怖がりやーいやーい」
「……」
ムギがごっちんにしがみついてしまった。拗ねちゃった。可愛い。
「違うもん」
「そうだな。その調子でどんどん頑張ると良い。シャドーがいつでも付き合うぞ」
「え?」
ごっちんが優しく髪を撫でているが、予定のあるシャドーが口を開けている。
膝に二人も乗っているがキャットは平気そうだ。
「お前らだってビビってただろうが」
「だから素直に言えって。先輩からのアドバイスしてんじゃん」
モンスターに怖がっていたアクアはムギの背中を軽く叩く。
「アクアさま」
「応援してるぞ、ムギ。ほら。エイオットでも見て元気出せ」
ぐいっとエイオットを引っ張ってくる。この子も騎士を目指しているので、装備をつけたエイオットを軽々とムギの前に設置した。
間近に迫ったエイオットに、ムギはますますごっちんの胸に顔を埋めてしまう。
「ひゃいいいいい」
「ムギちゃん。可愛い顔みーせて」
「ムギ。もう一度、飛んでみよう」
あの辺だけ顔面偏差値高いな。エイオット、サングラス返して。
後ろから近づくも、エイオットはすっと立ち上がってしまう。そうなると背伸びしても届かん。
「あー。サングラス」
「おれ、似合うでしょ? でも、ご主人様にはどうだかね。可愛い顔が見えないよ」
バチコンとトドメにウインクをされ、主人は背中から倒れた。誰だこの子にウインクなんて凶悪な技を教えたのは。
「いやー。お前もそんなに似合ってないぞ」
「え? アクアひどーい」
エイオットの色香に惑わされず意見できるのはアクアくらいか。この二人はちょうど良い距離感だ。仲が悪いわけでもなく、お互いがお互いにあまり興味ない感じ。
「てゆうか、ちょっと楽しそうよね……」
ソノハニーの呟きに全員が振り返る。
「うぐ! あんたら耳良すぎでしょうが!」
誤魔化すように怒鳴るが、アクアとエイオットにがっちりと両腕を掴まれた。
「へ?」
声が裏返ったソノハニーから冷や汗が噴き出る。
「いいじゃん。飛んでみろよソノハニーも」
「そうだねー。ムギちゃん一人じゃ退屈だろうし? 一緒に飛んであげる子がいたら、楽しいかも」
「ちょ、ちょっと! 今のは、い、言ってみただけで……。ムギ! 止めなさいよこいつらっ……ああーーー」
ずるずると崖上まで引きずっていかれる。日本でもあったな、バンジージャンプさせるテレビ番組。
仲間が出来て嬉しいのか、ムギも後を追いかけていく。
「おい。二人は受け止められんぞ?」
「ああ? それでも四天王最強か? 頑張りたまえ」
「……」
難しい顔で、いつもの崖下でスタンバイする。シャドーはもう、魔族最強を名乗っても差し支えないな。
子どもたちがいなくなったのを確認し、ごっちんを抱いたまま立ち上がる。
「で?」
「ん?」
「お前はいつ、ちきゅうとやらに帰るんだ?」
キャットの満月の瞳が「一刻も早くいなくなれ」と言ってくる。
主人は魔女帽子の中に手を突っ込んでぼりぼりと頭を掻く。
「そりゃー。ハヨ助が死んで、ナナゴーが性に目覚めたら、だよ」
「……先の長い話だな」
俺だって! 人魚族の成長をゆるやかにするほど、楽園を与えた伏龍に文句言いたいよ。
「やっぱ、牙をへし折ってくるか」
「それなら俺も行こう。海底にまだ欲しい素材があったのだ。シャドー。また海底まで連れてってくれんか?」
「おいまて。話しかけるな。集中しているんだ。同時に二つのこと出来んぞ俺は!」
「私も連れて行ってくれ。興味ある」
「ごっちん様……!」
シャドーがごっちんに目を向けた瞬間、地上のことなど知らない二人が降ってくる。ムギと手を繋いで、ソノハニーは……泣いてるな。「きゃああああああ」と絶叫が聞こえてくる。
「ああっ」
シャドーの両手はなんとか二人を抱きとめていた。
「おお、やるな」
拍手していると眠そうなファイアと困惑顔のハヨ助がやってくる。
「何してるの?」
「ソノハニー⁉ 何事です? どうしてあなたまで飛んでるんですか?」
「うううう……」
「大丈夫ですか?」
ムギたちが撫でるも、ソノハニーの目は回っていた。ファイアの指示で、せっせと部屋に運び込まれベッドに寝かされる。
苦笑を浮かべてそれを見守る大人組。
これまで通り、子どもの成長を見守ろう。
地球に帰るその日まで。
【完】
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