異世界TS転生後、元の世界に召喚されたら前世の○○が夫になりました。

隆駆

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ブラック企業に勤める社畜OLが異世界トリップして騎士の妻になるそうです

壁ドンは正義ですがそれは二次元に限る

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―――突然ですが、只今私命の危機に陥っております。
「な、なんの話ですか…?私にはさっぱり…」
既に明かりが消え、薄暗いベットの上。
仰向けになって休んでいたみはるに対し、突如覆いかぶさるようにしてその全身を拘束した男は、口元に笑さえ浮かべたまま、みはるの喉元に短剣を突きつける。
「残念だがな、嬢ちゃん。疑わしい人間ってやつは大抵、今の嬢ちゃんみたいな知らぬ存ぜぬを通そうとするもんなんだ。…もう一度聞く。嬢ちゃんはどこの人間だ?リュートに近づき、その懐に入って何をしようとしてる」
すっと、首筋に刃をひかれ、薄皮一枚切れるかきれないかのギリギリで刃が止まる。
「ですから誤解ですって!どこの人間って…え~と、それは…」
―――異世界人です、なんて言ったらそれこそふざけていると思われて殺されるんではないかろうか。
ヒクつく喉で、なんとか答えを考えようとするが、なんと答えても嘘くさく思われるのがオチだ。
この男が納得するような答えなど、初めから持ち合わせてはいないのだから仕方ない。
というか、自分は一体何に間違われているのだろう。
眠っている所に音もなく忍び込んできたかと思えば、急にコレだ。
リュートの元へ送り込まれた他国のスパイ?暗殺者?
でも、なぜリュートの元にそんな相手が送り込まれなければならないのだろう。
かろうじて騎士と下級貴族の称号を受けてはいるが、それは父親の功績によるもので、リュート自身の手柄ではない。
恐らく貴族籍も一代限りのもので、リュートさえ亡くなってしまえばあっという間に領主館を追い出され、その子供はただの平民に戻されることだろう。
このままみはるがリュートと結婚したとして、その息子が領主を継げる保証もない。
それは、この結婚を受け入れる前に、リュートから直に説明を受けていた。
突然現れた得体の知れない自分と、貴族のリュートの結婚。
結婚後、周囲から罵声を浴びせられる鉄板シチュエーションじゃないかと気づき、やっぱりそんなのは無理です、と言い出したみはる対してリュートが苦笑しながら話してくれたことだ。
自分はどうせ一代限りの貴族で、自分達が結婚したとしても、息子は恐らくこの領地を継ぐことは出来ない事。
それどころか、都合が悪くなれば、いつこの領地を取り上げられて平民に戻されてもおかしくはない。
自分の貴族籍はあくまで父親の功績によるもので、自分は今でもただの平民だと思っている。
そして領地自体もほとんど王都からはほとんど顧みられないような辺境で、領主の妻となる人間が、平民だろうと移民だろうと誰も気にするものはない。第一、彼らの息子がこの領地を受け継ぐわけではないのだから、血統など無意味な話だ。みはるがどこの人間であっても、領民が既にみはるの事を受け入れているのだから、みはるはもうこの土地の人間であり、何も心配はいらないと、そう言われたのはつい先日のことだ。
まぁ、実際にはそれからわずか数日後にこの事態トラブルに遭遇しているわけだが。
しかし、リュートの話を聞く限り、いくら身元不明の怪しい女とはいえ、正直ここまで危険視されるような理由が特に思い当たらない。
それとも、領主の金目当てとでも思われたのだろうか?だが、それにしては男の言葉は変だ。
なにか、リュート自身に狙われるだけの理由があるとしか思えない。
緊迫した空気の中、半ば現実逃避的につらつらと考えていたが、ちらりと上目遣いに仰ぎ見た男の瞳に宿る殺気は限りなく本気で、荒事になれない日本人の生存本能が激しく警報を鳴らし、下手な真似をしたら本気で殺されるな、と自覚する。
ぎしり、とベットが軋む音がし、さらに一歩、男とみはるの距離が縮まった。
「…男を誑し込める程の色気もないように見えるんだが…。リュートの奴、一体どこを気に入ったんだろうな?」
まったくもって余計なお世話、と反論したいが、正論過ぎて涙も出ない。
「それとも顔に反した手練手管でも持ち合わせてんのか?それなら俺のこともその手で篭絡してみたらどうだ」
首元にあった短剣がゆっくりと喉元をすぎ、寝巻きの襟元をついとひっかける。
「脱げよ」
一番上のボタンの糸が、ぷつりと音を立てて切れた。
男の腕が、みはるの頭のすぐ横のシーツを沈ませ、至近距離で見つめ合う形になったかと思うと。
「俺を満足させれば、見逃してやるかもしれないぜ」


耳元で囁かれた睦言を思わせる甘いセリフに、、みはるは震え上がった。



「みぎゃぁぁぁぁあぁ!!!!!」




「勘弁してください本当に勘弁してくださいっつ!顔面偏差値三流大学並の平凡女が偏差値東大レベルのリュート様と結婚しようなんて百年早かったですっ!土下座でもなんでもして結婚も取りやめますから助けてっ!18禁のエロゲ展開は処女にはレベルが高すぎてついていけませんっ。いや、ある意味壁ドン(?)なんて美味しいものを実際に目の前で体験させてもらってごちそうさまです!でもそんなセリフ言われるのが自分とか本当にありえないしっつ!」

つか、これは乙女の命貞操の危機!!

これから結婚しようという相手単語リュートとすら未だ白い関係だというのに、なんで自分がこんな目に。
緊張と興奮で決壊した涙腺からはドバドバと一気に涙が流れ、垂れ下がった鼻水をぶるんぶるん揺らしながら、みはるは持ちうる限りの力で暴れ始める。
―――自分の貞操いのちは自分で守らねばっ!!
「お、おい嬢ちゃん!何わけのわからんことを…」
そんなみはるに対し、なぜか突然慌て始めた男は、とりあえず叫ぶのをやめさせようと思ったのか、みはるの口元を手のひらで塞ごうとするが、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになったその顔面を前に一瞬「うぉ」と動きがとまった。
「おいおい、なんつー顔を…。それでも年頃の女か?いくらなんでもこんな…」

―――こんなスパイ(及び暗殺者)いるか…?
       いや、いねぇ。


「やべ。俺の勘違いか…!?」
その瞬間、男の顔色が明らかに変わるが、そんなもの、未だえぐえぐと泣き続けているみはるが気づくはずもない。
ようやく、叫べば助けを呼べる事を思い出し、みはるは一度思い切りずずずっと鼻をすすると、声を上げて叫んだ。
「神様仏様リュート様!!助けてください犯されるぅぅぅぅ!!!!!!!!」
ぴぎゃー!!!!!
「誰が嬢ちゃんみてぇな餓鬼んちょに手をだすかよ!ちょっとした冗談…つか俺が悪かったから叫ぶのはやめ…!」
やはり口を塞ぐかと、みはるにむかい、男が再び手を伸ばした、その時だ。
バタンっ!!!
「ミハルッ!!!!」
「リュート様っ!」


「…あちゃ~。来ちまったかぁ…」
初めから部屋のすぐそばまでは来ていたのだろう。
着の身着のまま、といった様子で飛び込んできたリュートの姿に、男は額に手を当て、深い溜息を吐く。

「りゅ、リュート様っ!変質者が、乙女の敵がっ!エロゲよりの使者が私の貞操を!!」

             

               「狙ってねぇ!!!」
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