異世界TS転生後、元の世界に召喚されたら前世の○○が夫になりました。

隆駆

文字の大きさ
21 / 28
ブラック企業に勤める社畜OLが異世界トリップして騎士の妻になるそうです

水も滴る悩めるオヤジ

しおりを挟む
「え~っと…。今日はお越しいただいて有難うございます」
時間を迎え、現れたのは予定通りの二人。
それにみはる、リュートを加えた4人がテーブルに肩を並べる。
まず最初に、と頭を下げたみはるをじろりと睨んだのはアイリーンだ。
「今さら雁首並べて話すことなんてないわよ」
「俺も…まさかそっちのお嬢さんが来るとは思っても見なかったなぁ」
困った顔を見せるセインは、ちらりとリュートを気にしているようだ。
「関係者には一度に集まっていただいた方が早いかと思いまして…」
みはるの言葉に当たり前の様子で席についているリュートには、なんの動揺もない。
「あ~あれか…?こりゃ、俺のつるし上げってこと?」
睨み付けるアイリーンに対し、気まずげな様子で首を傾げるセイン。
「だったら先に謝っとく。こないだはすまなかったな、嬢ちゃん」
「いえ…」
「そんな事の為にわざわざこのメンバーで集まらせる必要なんてないでしょう。馬鹿なの?」
神妙な面持ちで頭を下げたセインを鼻で嗤うアイリーン。
聞いていた話の通り、彼女とセインとの仲は相当険悪なようだ。
最も、明らかな敵意をむけるアイリーンに対し、どこかセインの方は彼女に負い目があるような様子だ。
「ミハル、その様子じゃご領主に直接話を聞いたんでししょ?
貴方にしては上出来よ。正解だわ」
「…!リーデルグのお嬢さん、あんたまさか…」
リーデルグ、と聞きなれない名称を口にして鋭い視線を向けたセインだったが、みはるとリュート、二人の動じない様子に、「…話しちまった、ってことか」と大きく頭をかく。
「参ったな、こりゃ。薮蛇だったか」
「リュートさんの血筋に関する話は、本人に直接聞かせていただきました。
…その上で、お二人に聞きたいことがありまして…」
まずは食事にしましょうと促すみはるだが、当然ながら手を出すものはいない。
「二人とも、話は後だそうだ。冷めては料理人に悪い。まずは乾杯でもしようか」
それまでだまっていたリュートが初めて口を開き、目の前に置かれたグラスを取り上げる。
琥珀色の食前酒が光を反射し、リュートの手の中でとろりとした光沢を放つ。
「…懐かしいわ。王都でよく好まれた酒ね。あの人も好きだった」
「厨房の人間がうまく手に入れてくれた。さぁ、グラスを」
促すリュートに、まずはアイリーンが目を細めながらそれを手に取る。
みはるもまた同じだ。
残されたのはただ一人、セインのみ。

「こりゃ、いけねぇなぁ。悪酔いしそうな酒だ」

じっと目の前のグラスを見つめていたかと思うと、大きく首を振る。
そしてゆっくりと、一見なんの関係もないような話を口にし始めた。
「なぁリュート…。俺はお前をアディの奴から頼まれたと思ってるんだ。
あいつは不器用な馬鹿だから、なにも言わずに逝っちまったが…それがあいつの供養だと思ってな」
その言葉に対して、バンっとテーブルを叩き、怒りを顕にしたのはアイリーンだ。
「白々しい。あの人の供養ですって?一体どの口がそんな事を…。
言っておくけど、ミハルに余計な手出しをするるもりなら覚えておきなさい。
どんな手を使ってでも潰してあげるわ。
それから…あなたが軽々しくあの人の名前を口にしないで。
この…裏切り者!」
「裏切り者…か。久々に聞いたな、そりゃ。
だがな、お嬢さん。あんたがそこの娘に肩入れすんのもアイツの為だろう?
だったら…なにがリュートの為になるかわかるんじゃ」
「御託は結構。裏切り者のいうことに聞く耳なんてないわ。
…ミハル、あなたもこの男の言うことなんて気にする必要はない。彼が選んだのはあなたなんだから」
「アイリーンさん…」
おろおろと二人の様子を見守っていたみはるだが、どんどん険悪な空気になっていく二人に口を挟む好きがない。
「お嬢さん。あんた前もそう言って身を引いたな。だがその結果はどうだ?どうなった?馬鹿なアイツの最期を知ってるだろう。アイツは本来彼処で死ぬような男じゃなかったんだ…。俺は…いつかあいつが…」
パシャッ…!
「…食卓を汚してご免なさいね。お許し頂けるかしら」
自身の前に置かれていたグラスの中身を全てセインに向けてぶちまけたアイリーンは、口許をきゅっとつり上げると、主人であるリュートにその非礼を侘びる。
その肩は今もまだおさまりきれぬ怒りに震えているようだった。
「…嬢ちゃん、せっかく招待して貰ったってのに悪いね。
こういうことだから、今夜はここまでで勘弁してくれるかい」
ポタポタと酒の滴をたらしながら、平然とした様子のセインは、慌てて駆け寄ってきた使用人から大きめなナフキンのようなものを受け取るとそのまま立ち上がる。
料理人と二人、この食事会の為に残ってもらっていた数少ない使用人が、おろおろとした様子でリュートを窺っている。
「…そのまま返すわけにはいかないだろう。湯あみの用意ができているなら、先にセイン殿をそちらに案内してくれ」
「は、はい!」
「おいおいリュート。本気か?俺がここに留まるのを嫌がってたんじゃねぇの」
「先に失礼をしたのがこちらの人間である以上、礼を尽くすのが領主としての役割だ」
「…こちらの人間、ね」
アイリーンを身内とし、その上で明確にセインとの線引きを見せたリュートに、皮肉げな笑みがこぼれる。
「そんな男、そのまま放り出せばいいのよ」
あくまでも強硬な姿勢のアイリーン。
どうすべきか悩み、リュートの横顔を見上げたミハルだったが、このままではいけないと思い立ち、勢いよくたちあがる。
「待ってください。湯殿へなら、私がお連れします。招待したのは私ですし…ここの女主人になるわけですから」
リュートがアイリーンの行動に謝罪すると云うのなら、みはるもまたそれに倣う。
アイリーンは領民で…守るべき存在だ。
例え旧知の仲であったとしても、セインはあくまで領主の客人である。
「いいですよね、リュート様」
「…あぁ」
一瞬の躊躇いを見せた後で頷くリュート。
「嬢ちゃん、お前…」
「風邪を引きますよ、セインさん。着替えはリュート様のものを出してもらうのでそれを使ってください。
二人は先に食事を。私もすぐに戻りますから」
「…わかった」
「じゃあ、頼むとするかね…」
渡された布で未だ滴る酒の雫を拭き取りながら、セインがみはるに従う。
アイリーンは最後まで何か言いたげにこちらを見つめていたが、それを見ぬふりで扉を出た。
きついアルコール臭がその周囲に漂い、酒に弱いみはるなど匂いだけで酔いそうだ。
「しっかし遠慮なくやってくれたな、おい。こんなのは久しぶりだぜ、全く…」
くっくっと声を殺してセインが笑う。
「全部頭めがけてかけてきやがった…最低だな。まあ、あん時よりゃ、マシだが…」
言葉の割には何故かその表情は明るく、文句というよりはただの愚痴になのかもしれない。
その顔にどこか見覚えが有るような気がして、妙な既視感に一瞬くらっと目の前が揺れた。


―――いつも馬鹿ばかりしているように見えて、誰よりも臆病な男だった。
   

   最期に、をさせるつもりなどなかったのに―――――


あぁ。


「いつも貧乏くじばかりだな、お前は…」


ぽろり、と口からこぼれた言葉は、みはるの意識には存在しないはずの言葉だった。

パッ…。


「あ‥れ?」


確かに、先ほど何か口にしていたはずなのだが。
自分が何を口走ったかまったく思い出せず、はたと立ち止まる。
幸い、少し離れて酒の雫と格闘していたセインにはみはるが零したセリフは届かなかったのだろう。
立ち止まったみはるに、「なんだ、迷子にでもなったのか?」と揶揄する声をかける。
その声に、ようやく我に返ったみはるは、とりあえず先ほどの事は忘れることにして、小さく笑う。
「迷子…ある意味そうかもしれませんね。私の場合、もう帰れそうにはありませんけど」
帰れない。いや帰らないと決めたのだ。
「…なぁ、嬢ちゃん。あんたの故郷がどこだかは知らねぇが…。
なんとかして俺が必ず嬢ちゃんを故郷に送り返してやるって言ったら…リュートの元を離れてくれるかい」
懇願するようなセインの言葉に、みはるはただ「無理ですね」と答える。
「頼む。あいつと、別れてやって欲しい」
「嫌です」
首をふり、縋り付くようなセインの瞳を正面から見据えた。
―――正直、昨日リュートとの話し合いがなければ、きっと自分はここで揺らいでいたのだろう。
だが、彼の為にもう、揺らぐわけにはいかないのだ。
帰れないことに心を痛める時期はもう終わったのだ。
リュートとともにここで新しい家族を作る。
それが、たとえセインを突き放してでも叶えたいと思うみはるの願い。
そんなみはるの決意は彼にも十分伝わったのだろう。

先に目をそらしたのはセインの方だった。

大げさに天を仰ぎ、「あ~あ」と漏らす。


「…くそ…まったく、親子揃って厄介な女にばかり惚れやがって…。
俺がどれだけ苦労してきたと思ってんだよ…バカ野郎…」


それはみはるに対してではなく、ただの泣き言だったのだろう。
もう、ここにはいない親友への。


みはるがその言葉に対して返せる答えは、ない。
彼の望みを叶えることが、みはるにはできないのだから。



「幽霊でもなんでもいいから戻って来いよ…アディ…。てめぇの息子の話だぞ…。
なぁんで俺がこんな苦労しなきゃなんねぇんだよ…なぁ?」


両手で顔を覆い隠してこぼした、小さな、ほんの小さな彼の囁きに。



今はただ、気づかないふりをした。



―――見えない刺だけが、心の中に突き刺さる。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

処理中です...