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後悔とは後からやってくるもの

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「失敗した気がする」

何がといえば、例の駄龍……こと私の夫(仮)の調教がである。

あの男はバレていないと思っているのだろうが、あのねちっこい閨の手つきも、無駄に色気を垂れ流すあの声色も。
何もかもが、昔からほぼ変わっていない。

つまり、主導権を握られた振りをしながら、実質上あの男のやることは何一つとして変わらず。
相変わらず、好きなように食われ続けているわけで。

人の意識が朦朧としているのをいいことに、よくもまぁ散々貪ってくれて……。

あのうすら寒いやに下がった笑顔を、完全に隠しきれているとでも思っているのだろうか。

「ーーーんな訳あるかっての!!」

伊達に長い年月夫婦関係をしていた訳ではなく、こちらの手の内がバレバレなら、あちらの考えもまたお見通しで。

「そもそもですよ。ろくに子作りもしない生き物が、あんな馬鹿でかい逸物を持っている意味が本気でわからない」

生殖器とはそのものズバリ生殖活動を行うための器官であり、馬鹿みたいな長寿の代わりに子孫を残せる可能性が殆んどないあの駄龍には、あれは過ぎたる代物ではないか。

「それとも何?王を名乗るからにはアソコのサイズもキングサイズじゃなきゃいけないっていう決まりでもあるのか?え?」

だとしたらそんな一族さっさと滅びてしまえと心から思う。

内心で常にイライラしながら、互いに騙された振りをして相手に話を合わせると言う何とも無駄な攻防を繰り返す日々。

「女王様キャラがそろそろ本気でしんどい」

本人のキャラとは正反対の人格を演じることは、なかなかに精神力(主に羞恥心)を消耗する事だと今になって激しく後悔した。
キャラを作りすぎて本人が辛くなる典型的な例だ。
今の私には、小倉○子(ゆう○りん)の気持ちがよくわかる。

だが、最早ここまで来て引き下がることはできない。

「沢尻エ○カ様、杉○彩様、菜○緒様………!私に鬼畜を退ける力を……!!」

ありとあらゆる女王様キャラに祈りを捧げたい気分だ。

平々凡々な私が美人女王様キャラだなんてと、激しい羞恥心に襲われながらその足元でハリウッドにも存在しないような美貌の男性を足蹴にせねばならない。

これは一体なんの罰ゲームだ。

内心軽く修羅場である。


「逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ………」

お決まりの台詞を呪文のごとく暗唱し、両方の手の平で自身の頬を軽く挟むと、パンッと叩いて気合いをいれる。

そして最後はこの決まり文句。

「諦めたらそこで試合終了だ!!」

鬼畜の調教。
それは長く険しい道である。

けれどもそれをやり遂げなければ、これからの私に未来はない。

あの男がやがて消滅するその日まで、半永久的に恐ろしい苦しみが待っている。

生きながら食われる。
その苦痛は人間性すらも歪めかねない苦行だ。

この気持ちを真に理解できるのは、地球上においては熊かなにかに食われて死んだ人間だけではないか。
ごくまれに見るゾンビ映画では、怖いよりも先に食われた被害者に同情して泣けてしまう。

ーーーわかる、わかるよ!超怖いよね!!

そのくらい、かつての私の死に際はトラウマ物の記憶なのだ。

なんとしてもそれだけは回避したい。
その為にはまず、あの男の躾(調教)が何よりの急務。


「頑張れ私…!!一度くらいちゃんとお墓に入るんだ………!!」

高すぎる試練を前に、低すぎる志を待って戦う女王様。


ーーー彼女の苦悩はまだまだ続く。


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