喪女が魔女になりました。

隆駆

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明日の約束

Aliis si licet, tibi non licet

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「なんなんですかね、これ……」
「見ないでゴミ箱に捨てちゃう?」
「それはさすがに……」
まるで不審物の如くテーブルの上に置かれた二つの包。
一つはアクセサリーサイズの小さな小箱で、もう一つは袋に詰められていて中身がわからない。
だが、持った感じ、やはりなかには同じような小さな小箱が入っているようだ。
後は何か布のような感触がある。
時期的に、マフラーやショールといったたぐいだろうか……?
ちなみに小箱だけが薫、袋入りが雛子へのプレゼントである。
「でも絶対ろくなものじゃないよ…」
「実のお父さんなんだから少しは信用してあげたら……」
「あのね、雛ちゃん。あのオヤジは予想の斜め上を行く相手だよ」
「………」
否定はできないな、そう思った。
3D熊の解体現場は幼児には決して見せられない惨劇だ。
「とりあえず、開けてみましょうよ」
「う~ん」
家に帰ってから、と釘を刺されていたので一応自宅まで持って帰ってきたのだが、いい加減中身が気になる。
「僕から開けるから、ちょっとまって」
変なものが入ってたらそのまま捨てる、とぼやきながら、薫が小箱の包みを外していく。
見た感じ、どうやら装飾品のようなのだが、なんだろう。
「……ネックレスだ」
「え?」
覗き込んだそこにあったのは、シルバーの鎖。
トップには何か英語のような筆記体の文字が刻印されたプレートが付けられ、その右上にはくり抜かれたハートのマーク。
「なんて書いてあるんですか?」
英語だと思ったのだが、どうも違うようだ。
「ラテン語だね……。意味は……『僕の心臓をあなたに捧げる』かな……?」
「だからハート?ってことはもしかして」
思いついたことを確認しようと雛子が袋の包みを開く。
そこには小箱以外にもなにか薄い別の包が入っていたが、今はこちらが先だ。
「やっぱり、対になってるんですね」
中に入っていたのは、ハートモチーフのネックレス。
中央に一粒だけ、きらりと真っ赤なストーンが埋め込まれている。
サイズ的にも、薫のプレートの空間とぴったりはまるはずだ。
「ってことは、このハートが僕の心臓ってこと?」
「…ロマンチックですねぇ、雄次郎さん……」
さすが雑貨店オーナーだ。
「デザインも可愛いし、あとでお礼を言わないと……」
「褒めるのは癪だけど、趣味だけはいいんだ、あのオヤジは……」
はぁ、とため息をつきながらも、しっかりネックレスを服のポケットにしまい込む。
「気に入った?雛ちゃん」
ネックレスを軽く持ち上げて眺めていた雛子に、どこか恨めしげな薫が声をかける。
「この赤い石……。偽物、ですよね……?」
そこらへんの雑貨店でよく見かける模造石の類かと思ったのだが、光にかざしてみるとどうも違うような…。
「……本物のガーネットだね。もしかして、アンタレスを気取ったつもりなのかも……」
本物の宝石だということにも驚いたが、苦々しげな薫の口調も気になった。
「アンタレスって、さそり座のことですよね」
「そう。さそり座の中で最も輝く恒星。別名は”蠍の心臓”」
なるほど、確かにぴったりだ。
「でも、ガーネットって、本物でこのサイズだと……」
「いいのいいの、どうせ好きでやってるんだから、雛ちゃんが気に入ったんならもらってやって。
気に入らなかったら捨てても……って言いたいところだけど、それが僕の心臓って言われるとなんだかそれもちょっともやっとする…」
あのオヤジ、それを狙ったのか…?とらしくない表情でぼそぼそとぼやく薫。
だが、不意になにか気になった様子で、一度手放した雛子のネックレスに再び手を伸ばす。
「?ごめん雛ちゃん、もう一回それ、見せて」
「はい?」
「さっき何か裏に刻印が……やっぱりあった!」
「またラテン語ですか?なんて書いて……」
あったんですか、と聞こうとした瞬間、薫がぴしりと固まった。
「あ、あの……?」
「……我が愛しの娘へ、だって」
………。
あの時さんざん義娘呼ばわりしていたが、100パーセントの本気だったのか。
それは、薫が言いたがらないわけである。
「薫さんの方にはなにかメッセージはないんですか……?」
その言葉を受けて、取り出したネックレスをもう一度まじまじと見れば、プレートの裏に、こちらもなにか刻印が見えた。
「fatuus (ファトゥウス)」

「?なんて意味なんですか」
問いかけた雛子に、薫は手のひらの中のネックレスをぐしゃっと乱暴に握った、


「……馬鹿者、だってさ」


Aliis si licet, tibi non licet(他人が許そうとも自身はそれを許さない)
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