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闇の子供
25話
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「ところでお前、こんな隣町の道もわからないなんて、ちょっと問題があるんじゃないか?」
教会までの道のりはまっすぐ、特にものめずらしいものもないエメラルドが退屈そうに尋ねた。
「隣町といっても、私はほとんど自分の教区外にでたことがありませんからね」
「・・・・・出たことがない?」
「ええ。ほとんど」
予想外の答えに、エメラルドの歩みが少々止まる。
「なぜ?たいした距離じゃないだろう?ここまでなんて。もっと若い頃にでも、一度も?」
「ええ。一度も」
「・・・・・・・・・お前、おかしいんじゃないか?」
どう考えても、おかしい。
ヴァーニスの住む教区がそれなりに栄えた場所だというのならわかる。
だが、エメラルドの見る限りあの教区には何一つ娯楽と呼べるものすらない。
普通、一度くらいは外の世界に刺激を求めてでてきたくなるものなのではないだろうか。
「おかしいといわれましてもねぇ・・・・・」
それまで考えたこともなかったのか、困ったように首をかしげる。
「お前、あの教区の生まれじゃないよな?」
肯定がかえってくるとの予想から発せられた言葉だったが、しかしそれは裏切られる。
「いえ。あそこで生まれましたよ。あれ?知らなかったんですか」
「・・・・・・・・・・・・・」
あっさり言い切ったヴァーニスに、エメラルドは何か納得がいかなげに顔を渋らせた。
「ちゃんと戸籍にも乗ってますよ?私は先代牧師の一人目の妻の息子です。父と母は早くに亡くなりましたが、その後はずっと義母に育てられたので」
エメラルドの様子も気にせず、のほほんとヴァーニスは言う。
「・・・・・・・・・」
「ですから、本当ですって」
すっかり疑っているエメラルドにヴァーニスが苦笑する。
「あそこも、緑がきれいないい場所ですよ?のどかで」
「・・・・・まぁ、お前にはあってるのかもな」
「でしょう?自然が豊かで・・・・・・・あ、春になると、とてもきれいな花が咲くんですよ。
私の義母のお気に入りの花も在るんです。とても、良い匂いのする黄色の花なんですよ」
ようやく口を開いたエメラルドに、本当に自分の町に誇りを持っているのか、何か嬉しげヴァーニスが自分の思い出を語る。
「義理の母親……父親の後妻か?」
「ええ。生まれつき体が弱く、5年程前に亡くなってしまいましたけどね」
それにはさすがにエメラルドが顔を曇らせた。
そこで、なにか謝罪すべきかと珍しく困惑している時に、タイミングよく、ヴァーニスが声をあげる。
「エーメさん。どうやら、たどり着いたみたいですよ」
「・・・・・・・・セント・グリディッジ教会、か」
どうやらこの教会は町の丁度中央部に建てられているらしい。
この規模の町にしては大きな教会を中心にして、街に向かって道がいくつかに分かれているようだ。
だが、それにしては。
「・・・・・・人がいない」
「そりゃ、不幸があった後ともなるとな」
先程まではある程度にぎわっていた町並を、しかし教会の一体だけ、静まり返った沈黙が支配していた。
人はほとんど誰もおらず、通行人も皆一言も喋らない。
ひどく重苦しい空気だ。
「ひとまず、入ってみましょう」
「そうじゃないと始まらないからな」
二人は、扉を開く。
足を踏み入れたそこは黴臭く、澱んだ空気に包まれていた。
教会までの道のりはまっすぐ、特にものめずらしいものもないエメラルドが退屈そうに尋ねた。
「隣町といっても、私はほとんど自分の教区外にでたことがありませんからね」
「・・・・・出たことがない?」
「ええ。ほとんど」
予想外の答えに、エメラルドの歩みが少々止まる。
「なぜ?たいした距離じゃないだろう?ここまでなんて。もっと若い頃にでも、一度も?」
「ええ。一度も」
「・・・・・・・・・お前、おかしいんじゃないか?」
どう考えても、おかしい。
ヴァーニスの住む教区がそれなりに栄えた場所だというのならわかる。
だが、エメラルドの見る限りあの教区には何一つ娯楽と呼べるものすらない。
普通、一度くらいは外の世界に刺激を求めてでてきたくなるものなのではないだろうか。
「おかしいといわれましてもねぇ・・・・・」
それまで考えたこともなかったのか、困ったように首をかしげる。
「お前、あの教区の生まれじゃないよな?」
肯定がかえってくるとの予想から発せられた言葉だったが、しかしそれは裏切られる。
「いえ。あそこで生まれましたよ。あれ?知らなかったんですか」
「・・・・・・・・・・・・・」
あっさり言い切ったヴァーニスに、エメラルドは何か納得がいかなげに顔を渋らせた。
「ちゃんと戸籍にも乗ってますよ?私は先代牧師の一人目の妻の息子です。父と母は早くに亡くなりましたが、その後はずっと義母に育てられたので」
エメラルドの様子も気にせず、のほほんとヴァーニスは言う。
「・・・・・・・・・」
「ですから、本当ですって」
すっかり疑っているエメラルドにヴァーニスが苦笑する。
「あそこも、緑がきれいないい場所ですよ?のどかで」
「・・・・・まぁ、お前にはあってるのかもな」
「でしょう?自然が豊かで・・・・・・・あ、春になると、とてもきれいな花が咲くんですよ。
私の義母のお気に入りの花も在るんです。とても、良い匂いのする黄色の花なんですよ」
ようやく口を開いたエメラルドに、本当に自分の町に誇りを持っているのか、何か嬉しげヴァーニスが自分の思い出を語る。
「義理の母親……父親の後妻か?」
「ええ。生まれつき体が弱く、5年程前に亡くなってしまいましたけどね」
それにはさすがにエメラルドが顔を曇らせた。
そこで、なにか謝罪すべきかと珍しく困惑している時に、タイミングよく、ヴァーニスが声をあげる。
「エーメさん。どうやら、たどり着いたみたいですよ」
「・・・・・・・・セント・グリディッジ教会、か」
どうやらこの教会は町の丁度中央部に建てられているらしい。
この規模の町にしては大きな教会を中心にして、街に向かって道がいくつかに分かれているようだ。
だが、それにしては。
「・・・・・・人がいない」
「そりゃ、不幸があった後ともなるとな」
先程まではある程度にぎわっていた町並を、しかし教会の一体だけ、静まり返った沈黙が支配していた。
人はほとんど誰もおらず、通行人も皆一言も喋らない。
ひどく重苦しい空気だ。
「ひとまず、入ってみましょう」
「そうじゃないと始まらないからな」
二人は、扉を開く。
足を踏み入れたそこは黴臭く、澱んだ空気に包まれていた。
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