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闇の子供
27話
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「うわー。なんだか、一気に天気が悪くなりましたね。そろそろ、雨が降りそうだ」
普段よりも多く湿気を含む風は、恐らくはそのせいだろう。
どんよりと曇った空は、今にも大粒のあめが落ちてきそうだ。
「仕方ない。昼でも取るか?まだ少し早いが、雨宿り代わりにもなるしな」
「あ、でも私、お金持ってないんですけど」
全然ない、とは言わないが、せいぜい子供のこづかいの半額程度である。
まさに赤貧。
「心配するな。お前に払えとは言わない。つき合わせた礼だ。私が食わせてやる」
「え!エーメさんが?!」
「・・・・・なんだ?私が奢ったらおかしいのか?なら、お前自分で・・・・・」
「い、いえいえいえ~~~!!驚いただけですってば!うれしいですぅ!」
それこそ滅多にない機会である。
今の経済状態では、その言葉に甘えるのが一番最良だ。
「じゃ、ひとまず何を食うか・・・・・・。何か注文でもあるか?」
「いえ。もうなんでも大丈夫です」
贅沢は敵な男の言う台詞には何気に説得力がある。
「じゃあ、まぁ適当に覗いて、うまそうなところに入るか」
そういえば、通りになかなかの客の入りの店があった、とエメラルドが手を打つ。
それを頼りに二人はひとまず、エメラルドの記憶の店に向った。
――――――だが。
「・・・・・・・・・・・・まずい」
料理屋で一口料理を口にするなり、エメラルドが言った台詞がこれだった。
思わず、小心者は店員がそばにいないが確かめてしまう。
それなりの客の入りと、それなりにリーズナブルな値段。
エメラルドが頼んだのは、鴨の香草焼き。
ヴァーニスが頼んだのは、シンプルに子羊のシチューだ。
ヴァーニスとしては、まぁまぁだと思っていたのだが、どうやらエメラルドは違ったらしい。
「エーメさん、いくらなんでもそれを言っちゃ・・・・」
「だが、まずいものはまずいんだからしょうがないだろ」
好き嫌いの激しい子供のような台詞をはき、ヴァーニスの隙を突いて、一口、ヴァーニスの料理に手を伸ばす。
だが、反応は先ほどと同じだった。
「・・・・・・・・・まずい」
「エーメさん、舌が肥えすぎですって」
少々香辛料がきつすぎるが、まずいというほどのものでもない。
まずいと感じるのは、普段エメラルドが食べているものとのギャップのせいだ。
港や大きな市場から遠い町では、自然食材の鮮度がどうしても落ちる。
それをごまかすために職人が少々多めに香辛料を使うのは仕方のないことだった。
「家でお前の料理を食べたほうが良かったな」
文句をいいながらも、ひとまずエメラルドはしぶしぶ料理を口に運ぶ。
料理を無駄にすると、もったいないお化けが出現する恐れありなので、それは正しい。
「じゃあ、家に帰ったら、エーメさんの好きなもの、何でも作ってあげますから。ごはんのお礼です」
誉められて悪い気分もしないヴァーニスの提案に、エメラルドにすぐに飛びついた。
「本当だな?」
「ええ。本当ですって。でも、材料はあんまりないんですけどね」
「気にするな。帰りに買えば良いだけだ」
ニコニコと、先ほどまでの不機嫌を一掃したエメラルドが答える。
「なるべく、新鮮な市場が良いな。 料理は、腕の必要だが、食材も必要だ。お前ならたいていの食材を使いこなせるだろうが、やっぱり上を目指すなら、上等な食材が欠かせない」
すっかりヴァーニスの提案を気に入ったらしく、上機嫌に何度も頷く。
どうやら機嫌が向上したらしいエメラルドにヴァーニスがほっとしつつ、やはり香辛料の強いシチューを口に運ぶ。
ふと、入り口に目を向けると、外からは数人の男たちがずぶぬれのまま店に駆け込んできた。
どうやら、とうとう雨が降ってきたらしい。
「私達も足止めだな」
店の天井を打つ激しい雨音。
「そうみたいですね。まぁ、こんな雨では、いくら吸血鬼でも行動できないでしょう。ゆっくりしていきましょうよ」
「……だな」
賑やかな店の中では、雨音もすぐに気にならなくなる。
その後も何人か、急いで駆けこんで来る客は絶えなかったが、激しい雨のため、店を出ようとするものはほとんどいない。
昼からの豪雨がいつ止むのかなど、誰にも分かりはしなかった。
普段よりも多く湿気を含む風は、恐らくはそのせいだろう。
どんよりと曇った空は、今にも大粒のあめが落ちてきそうだ。
「仕方ない。昼でも取るか?まだ少し早いが、雨宿り代わりにもなるしな」
「あ、でも私、お金持ってないんですけど」
全然ない、とは言わないが、せいぜい子供のこづかいの半額程度である。
まさに赤貧。
「心配するな。お前に払えとは言わない。つき合わせた礼だ。私が食わせてやる」
「え!エーメさんが?!」
「・・・・・なんだ?私が奢ったらおかしいのか?なら、お前自分で・・・・・」
「い、いえいえいえ~~~!!驚いただけですってば!うれしいですぅ!」
それこそ滅多にない機会である。
今の経済状態では、その言葉に甘えるのが一番最良だ。
「じゃ、ひとまず何を食うか・・・・・・。何か注文でもあるか?」
「いえ。もうなんでも大丈夫です」
贅沢は敵な男の言う台詞には何気に説得力がある。
「じゃあ、まぁ適当に覗いて、うまそうなところに入るか」
そういえば、通りになかなかの客の入りの店があった、とエメラルドが手を打つ。
それを頼りに二人はひとまず、エメラルドの記憶の店に向った。
――――――だが。
「・・・・・・・・・・・・まずい」
料理屋で一口料理を口にするなり、エメラルドが言った台詞がこれだった。
思わず、小心者は店員がそばにいないが確かめてしまう。
それなりの客の入りと、それなりにリーズナブルな値段。
エメラルドが頼んだのは、鴨の香草焼き。
ヴァーニスが頼んだのは、シンプルに子羊のシチューだ。
ヴァーニスとしては、まぁまぁだと思っていたのだが、どうやらエメラルドは違ったらしい。
「エーメさん、いくらなんでもそれを言っちゃ・・・・」
「だが、まずいものはまずいんだからしょうがないだろ」
好き嫌いの激しい子供のような台詞をはき、ヴァーニスの隙を突いて、一口、ヴァーニスの料理に手を伸ばす。
だが、反応は先ほどと同じだった。
「・・・・・・・・・まずい」
「エーメさん、舌が肥えすぎですって」
少々香辛料がきつすぎるが、まずいというほどのものでもない。
まずいと感じるのは、普段エメラルドが食べているものとのギャップのせいだ。
港や大きな市場から遠い町では、自然食材の鮮度がどうしても落ちる。
それをごまかすために職人が少々多めに香辛料を使うのは仕方のないことだった。
「家でお前の料理を食べたほうが良かったな」
文句をいいながらも、ひとまずエメラルドはしぶしぶ料理を口に運ぶ。
料理を無駄にすると、もったいないお化けが出現する恐れありなので、それは正しい。
「じゃあ、家に帰ったら、エーメさんの好きなもの、何でも作ってあげますから。ごはんのお礼です」
誉められて悪い気分もしないヴァーニスの提案に、エメラルドにすぐに飛びついた。
「本当だな?」
「ええ。本当ですって。でも、材料はあんまりないんですけどね」
「気にするな。帰りに買えば良いだけだ」
ニコニコと、先ほどまでの不機嫌を一掃したエメラルドが答える。
「なるべく、新鮮な市場が良いな。 料理は、腕の必要だが、食材も必要だ。お前ならたいていの食材を使いこなせるだろうが、やっぱり上を目指すなら、上等な食材が欠かせない」
すっかりヴァーニスの提案を気に入ったらしく、上機嫌に何度も頷く。
どうやら機嫌が向上したらしいエメラルドにヴァーニスがほっとしつつ、やはり香辛料の強いシチューを口に運ぶ。
ふと、入り口に目を向けると、外からは数人の男たちがずぶぬれのまま店に駆け込んできた。
どうやら、とうとう雨が降ってきたらしい。
「私達も足止めだな」
店の天井を打つ激しい雨音。
「そうみたいですね。まぁ、こんな雨では、いくら吸血鬼でも行動できないでしょう。ゆっくりしていきましょうよ」
「……だな」
賑やかな店の中では、雨音もすぐに気にならなくなる。
その後も何人か、急いで駆けこんで来る客は絶えなかったが、激しい雨のため、店を出ようとするものはほとんどいない。
昼からの豪雨がいつ止むのかなど、誰にも分かりはしなかった。
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