神の狗は十字を背負う~ワケあり吸血鬼の災難な日々~

隆駆

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十字架を背負う娘

37話

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「・・・・・・・・・・飲め!」

ドン、っと置かれたブランデーに、 ヴァーニスはひくついた笑みをもらした。

 「・・・・い、一体どこから・・・。っていうかそれ、調理用のブランデーなんですけど・・」

 満足な食事の後、後片づけに没頭していたヴァーニスの後ろで、今日はやけに大人しくしているなぁと思われていたエメラルドは実は、堂々と酒を漁っていた。
 
「男ならこれくらい一気にいけ!ほら、飲め!」

 「・・・・ですから、前も言ったでしょうがっ!お酒なんて、私には無理ですっ!」

 「それでも吸血鬼のはしくれかっつ!吸血鬼って言うのは自分の城で赤いワインをグラスに注いで『う~ん』とかやってる口だろ!」
 
「端っこだからいいんですっ!!っていうかなんですか、その変な吸血鬼象はっ!!物語の見過ぎですよ!」

(そもそも『う~ん』ってなんだ、『う~ん』って!)

 「あっつ!!!エーメさんっつ!!ちょっと、一気のみなんて健康に悪いですよっつ!!」

 「知るかボケ」

ぐいっとタンブラーを一気にあおる。

 「ほら、私も飲んだんだからお前も飲め!」

そのまま、豪快にもう一度ブランデーをつぎ、たぷんと波紋を揺らしながらヴァーニスの前に突きつける。

 「・・・あの、ですから、飲めないって・・・・・」

 「あぁ?私の酌を断るだと?何でもいいからとにかく飲め!」

 「うっぷっ」
 
無理やり口を割られ、 琥珀色の液体が喉を流れた。

 「なんだ・・・・。案外平気じゃないか」

 「ゴホッ・・・!!平気じゃありませんって!!!!」
 
無理やり流し込まれたブランデーが喉を熱く焼く。

 「もう一杯呑んだら後は一緒だろ?ほら、次だ」

どうにか飲ませたことに満足したのか、エメラルドは上機嫌でまた新たなタンブラーを用意していた。
 
「・・・・はぁぁ。やっぱり酔ってますよね、エーメさん」

まったく気づいていなかったが、心なしか頬は赤い。

 「酔ってる?そんなわけないだろ」

 「いや、酔ってますって」

しぶしぶ、また新しいブランデーを受け取るヴァーニス。

 「どうしたんですか?エーメさん。こんな急に。 今まで、うちでアルコール類に口をつけた事なんてなかったでしょ?」

 「その前にお前の家にまさかブランデーがあるとは思わなかった」
 
「・・・・・・悪かったですねッツ!貧乏で~~!!それは、婦人会の方が下さったんです」

「なるほど。確かに、洋酒は味を引き立てるからな。ま、お前の料理ならこれくらいなくても平気だろ」

 誉められているようだが、ただ酒を飲みたいだけともいえる。

「飲みたい気分の時もあるんだよ。追求するな」

そのまま、反論を許さないというようにまたぐいっとあおる。
そして。

 「・・・・・なぁ、お前、やめたい?」

 「やめたい・・・・って?」

 突然言われたことに首をかしげる。

 「吸血鬼退治。お前がやめたいっていうんなら、もうこれ以上付き合わなくてもかまわない」

それは、フレイアにも言ったこと。
今まで、言い出すことは出来なかったが。

 「別にこのままでいいですよ。最後まで付き合います」

 「・・・・・・・・そうか」

エメラルドは、力なく笑った。
たぶん、ヴァーニスが自分を見捨てることはないと、なんとなく知っていた。
それは、恐らく、エメラルドへの愛情でもなんでもなく。
ただ、自らヴァーニスを手放すことは、もう出来そうになかったから。

 「・・・・・・・なら、早く怪我治せよ。お前がそれだと、こっちの調子も出ないからな。早く、直せ」

ブランデーが、心の奥まで焼いていく。

「なぁ、ヴィー?」

「なんですか?」

それは出来心からくるものか、それとも心の奥底で、ずっと願っていたものか。
エメラルドは自らの襟ぐりをくつろがせ、その白い肌をヴァーニスの前にさらす。
その思いもよらぬ行動に、ヴァーニスが目を見張る。

「エーメさん・・・・・・?」

何をしてるんですか、と。

口にしようとしたセリフが、喉の奥にべたりとこびりついて離れない。
カラカラに乾いた喉が、ゴクリとなった。
白い肌の下に流れる、真っ赤な血。
それは黄金の―――――――。

「私の血を、吸うか?」
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