神の狗は十字を背負う~ワケあり吸血鬼の災難な日々~

隆駆

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ヴィスティ

50話

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「・・・・・・遅いっつ!!!」
 
再会の瞬間、感動の抱擁すらなく、エメラルドは容赦なくヴァーニスの頭を殴りつけた。

 「ちょ、エーメさんッツ!?なんかもの凄く扱いが酷くありませんっ!?」

 「遅いのが悪いんだろ!?男らしく甘んじて受けろ!」
 
「エーメさ~~~ん!!!」

「うるさい。おとなしく殴られろ」

そういいながらも、その手にはすでに力はない。
闇の中でも、まったく変わらない。
そう、何一つ、変わることはない。
そこにある安堵の表情に、ヴァーニスもその表情を緩ませる。

 「いくら殴っても八つ当たりでも横暴でもいいですから、エーメさんはそのままでいてくださいね」

 「・・・あ?」

一瞬、理解不能という顔をし、その言葉を理解した瞬間、エメラルドは容赦なく再びヴァーニスを殴っていた。
しかし、それにヴァーニスは文句も言わず、笑っている。
泣き笑い。
それが、今の2人の心情に、最も近かったのかもしれない。
エメラルドは、やはり実感させられたその想いに。
そしてヴァーニスは、決して失うことの出来ないその重さに。

 「で、あとでいくらでも殴られますから、ひとまずこの場をどうにかしませんか?」

ひとまず殴られるのは決定事項とし、提案してみる。

先ほどから、決して感じずに入られない、闇。
あえて無視してみたが、そろそろまずい。

 「・・・・そうだな」

すっ・・・と、ようやくエメラルドの瞳に普段の力が戻る。

 『・・・・なかなか、面白い付き合い方だね、君たちは』

くすくす、と響く笑い声。
どうやらここまで何もしなかったのは、楽しげに笑っていたかららしい。
エメラルド、ヴァーニス、共に不愉快そうに眉をひそめた。
 
『本当に、面白い・・・・・・。まさか、こんな風景が見られるとは思っていなかったよ。君に感謝しなくてはね?』

ひとしきり笑い、ネイはヴァーニスへとその視線を向けた。
 
『趣向は楽しんでいただけたかな?なかなか、時間をかけたつもりなのだけれど』

「相変わらず最低な趣味ですね」

 間髪いれず、ヴァーニスが辛辣に言い返す。

「あんな気色の悪いものを見せ、私にどんな反応を期待してるんですか?」

「・・・・・気色の悪いもの?何だそれは」

まるきり意味の通じない話に、エメラルドがヴァーニスをつつく。

「聞かないほうがいいですよ。悪趣味がうつりますから」

けんもほろろなヴァーニスの言いように、ネイがいかにも無念そうに肩を下げる。

 「まぁ、別にさして興味もないが・・・。とりあえず、この場をどうにかするんだろ?さっさと帰るんだから、手を貸せ」
 
「それは私もとても賛成ですね」

本当に興味なさげなエメラルドに、ほっと息を吐くヴァーニス。
見なくてもいいものなど、見ないほうがいい。
だが、ネイはあえて悲しげに言い放つ。

『君が興味を示してくれないのでは、しかたないな。
では、この映像は君にプレゼントしよう。気丈なお嬢さん。いい物を見せてもらったお礼だよ』

 「・・・・・本当に、どこまでも最悪な男ですね」

ヴァーニスが憎憎しげにつぶやいた、その瞬間だ。

 「・・・・・・・・ッ!!!!!」

エメラルドは、真っ赤になった視界にその目を覆う。

――それは、赤。 全て赤一色になった、絶望の世界。
 
声が、聞こえる。
耳ではなく、脳に直接響く、その声。
それは、幼い少女の悲鳴だった。

 『・・・・・・・悪魔・・・・・・・!!!悪魔ぁぁぁ!!!!!!!』

 「エーメさんッツ!!!しっかりしてください、それは幻影です!!」

 混ざり合う、声。
 闇がひそやかに微笑んだ―――――。


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