GODS:黒光の章 ― 神々に支配された世界で、選ばれし俺は黒き革命を起こす ―

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第6巻:Zutarts

第88章:傀儡の使命

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私たちを動かす糸は、全てが目に見えるわけではありません。恐怖から生まれたものもあれば、罪悪感から生まれたものもあります…しかし、最も危険なのは、私たちが正しいことをしていると思い込み、自ら織りなす糸なのです。

自分の大義が正しいと信じたとき、人はどこまで行けるだろうか?

そして、他者を救うために、自分が滅ぼすと約束した怪物そのものとなった彼は、どこまで堕ちていくのか?

舞台は整いました。

幕が下りた。

そして忘れ去られた過去の闇から、新たな作品が生まれる...

各俳優がすでに自分の役柄を選んでいる演劇では、

そして、あらゆる決断が終わりか再生を意味することになるのです。

これは簡単な任務ではありません。

それは魂の対決です。

壊れた真実の迷宮、

破れたマスクの…

ついに自ら糸を切った操り人形たち。

──────────────────────────────────────

空気は、重かった。

死と血の臭いが、肌にまとわりつくように染みついていた。

テノチティトランは、もはや都市ではなかった。



──それは大地に横たわる、燃え尽きた死体だった。



炎はなおも瓦礫を照らし、赤く染まった顔には兵士も民間人も区別はない。

年齢も、立場も、今となっては何の意味もない。

静寂だけが支配するこの場に、時折、足音や呻き声が割り込む。

それすらも神聖な祈りのように聞こえるほどに、沈黙は深かった。



シュンは焦げた遺体を越えて進み、王の前に立った。

その瞳は、未だ消えぬ炎よりも燃えていた。



「……知ってたんだろ?」

その声は静かだったが、震える手が怒りと痛みを代弁していた。

「なぜ、もっと兵を出さなかった? なぜ……こんな地獄を許したんだ?」



最後の言葉は、かすれた。



「……あのとき、すべて話してくれていれば……こんな無駄な死は防げたはずなんだ」



しばしの沈黙。

それは、異なる痛みを背負った者同士だけが共有できる、重い沈黙だった。



エスカトスは、すでにその代償を受け入れた者のように、穏やかに答えた。



「……必要な犠牲だった。お前もそれを理解しているはずだ」



「ブラック・ライツは、すべてを見ている。特務部隊も、十二家も、完全に安全とは言えなかった。

もし大きな動きをすれば……あいつらは絶対に姿を現さなかった」



「奴らを仕留めるには、これしかなかった。

……そしてお前も、それを知っていたからこそ、今ここにいるのではないか?」



シュンは視線を逸らした。

口をつぐみ、喉の奥までこみ上げた罵倒を飲み込んだ。



遠く、応急テントが広がっていた。

雑多な布で作られた仮設の天幕、血に染まった包帯、途切れた悲鳴。



その中をアフロディテが静かに歩く。

まるで自らの責任を確かめるように。



「……本当に、ひどい有様ね」



低く、苦しげな声だった。



ティレシアスは地図と包帯の山に囲まれ、うなずいた。



「兵士も市民も、万単位で死んだ。

そして結局……何も掴めなかった。奴らは逃げた」



近くでアレックスボルトはうつむいていた。

血のにじむ拳を固く握りしめながら。



(……掴んでいたのに)

(あと少しだったのに……)

(俺は、なんて無力なんだ……)



「……あの子は?」とヨーサが震える声で問う。



「大丈夫だ」

ティレシアスが昏睡状態のエリスを示しながら応じた。

「あと一歩遅ければ……助からなかった」



ヨーサは息を吐いた。

その場に崩れ落ちそうになるほど、張り詰めていた身体が崩れた。

そして、涙が一筋、二筋と零れ落ちる。



「……次は、絶対に勝つ」



ティレシアスは黙って微笑んだ。

言葉のいらない、父のような微笑みだった。



少し離れた場所で、ゼフはヨウヘイを見つめていた。

血塗れの制服もそのままに、彼は肩で息をしていた。



「……ズタボロだな」



「……ジパクナに……完敗だった」



二人はロワの包帯だらけの姿を見やった。



「大丈夫かな……?」



「……あの人は、俺たちよりずっと強い。きっと大丈夫だよ」



沈黙のなかに立ち尽くす男がいた。

テスカトリポカ──何も語らない、虚ろな目。



「……何か言ったらどうなんだ」

ケツァルコアトルの声には怒りと、かすかな哀しみが混ざっていた。



「……あいつは、お前を……あんなにも──」



テスカトリポカは、ゆっくりとうなずいた。



「……そうだな」



「俺には……お前を裁く資格はない」

「お前を……憎むことすら、できない」

「……もし俺がお前の立場だったら、きっと同じことをした」



「だから……ただ一つだけ、言わせてくれ」



「兄弟の犠牲を……無駄にするな」



テスカトリポカの顔に、わずかな笑みが浮かんだ。

それは、救いではない。

──諦めか、それとも赦しに似た何かだった。



少し離れたその場所。

エデンは、動かずに立っていた。

その目の前には、瀕死のタカハシ。



暗闇が彼を包んでいた。

心の闇が、形を持ったかのように。



(まただ……)



(また俺のせいで……)



(こんなにも多くの人が……)



(イサク……イース……ゲン……ユキ……シュウ……シュン……テンザク……ヘラ……)



(……俺なんか、いなくなればよかった)



その胸に、黒くて重いエネルギーが巻きつき始めていた。

まるで罪の意識という蛇が、彼を締め上げているかのように。



その時──



誰かが背中に、そっと手を置いた。



それは強くない。

けれど確かな“存在”だった。



振り返ると、そこにはシュンがいた。

真剣さと優しさを混ぜた眼差しで、彼を見つめていた。



「……なんでそんな死にそうな顔してんだよ」



エデンはゆっくりと顔を上げた。

まだ息をすることすら信じられないような表情で。



「……どうして……お前はそんなに……平然としていられるんだ……?」



「さあな」

シュンは軽く肩をすくめた。



「……また守れなかった……」



「夢があって……家族がいて……未来があった人たちを……」



「……俺が、奪ったんだ」



「……お前、成長したな」

シュンは微笑んだ。



「……なに?」



「今のその言葉……初めて“他人”のことを語ったじゃないか」

「それだけで……大きな一歩だよ、バカ」



エデンはまばたきした。

何かが、内側で少しだけ動いた。



「……いつか……みんな、俺を許してくれるかな」



「……誰のことだ?」



「……グレク、ノーク、サンタイ……そして、今日の皆」



「……もう俺の約束なんて、意味がない気がしてきた。

死んでた方が……良かったのかもな……あの日……」



シュンの表情が強張った。



「……それだけは二度と言うな」



エデンは驚いたように目を見開く。



「……本気でそう思ってんのか?」



「……パペットに立ち向かった兵たちは、自分に“力”がないと分かってた。

それでも戦ったのは、“力を持つ誰か”が来てくれると……信じてたからだ」



風が強くなった。



「だから言えよ、エデン」



「──これから、お前はどうするつもりだ?」



風の音が、灰を巻き上げて瓦礫の上をすべっていく。



エデンとシュンは、傷だらけの地平線を前に、ただ黙って立っていた。

沈黙の中、エデンは目を伏せる。罪悪感と空虚感に囚われたまま。



「でも……彼らはもう……」



「まだ終わってない」



シュンの声が鋭く空気を切った。



エデンは顔を上げた。戸惑いを浮かべながら。



「どういう意味だ?」



「外に出ろ。すべて話す」



言葉を交わすことなく、二人は歩き出した。

テノチティトランの廃墟が、大地に刻まれた傷痕のように広がる。

風は強く、誰の声も届かない世界。



そこには、彼ら二人だけがいた。



シュンが立ち止まり、ポケットから何かを取り出した。

金属の光を放つ小さな装置が、かすかに点滅している。



エデンは、それを見てすぐに理解した。



「それは……」



「……追跡装置だ」シュンが静かにうなずいた。

「これは……彼らの死を無駄にしないための、唯一のチャンスだ」



エデンの心臓が激しく脈打った。



「なぜ……もっと早く言わなかった? それがあれば、僕たちは──!」



「言えば、誰かに壊されてた」

「あるいは奪われてた。だから……今この瞬間まで、君以外には誰にも話していない」



その声は、悲痛ではなかった。

すでにすべての代償を覚悟した人間の声だった。



「どんな犠牲があろうと、俺は構わなかった。やらなきゃいけないことだった」

「だが、お前を除いて進むことはできなかった」



「……お前が、どれだけこの戦いに全てを懸けてるか知ってるからだ」



「だから、選んでくれ」



シュンの目が、エデンを見据える。

怒りではない。ただ、深い問いかけ。



「逃げるのか?」

「それとも、まだ戦うのか?」

「──もう戦えない者たちのために」



エデンはごくりと唾を飲んだ。

背中を汗が伝う。

脚が震えていた。



──恐怖。

だが、その奥に、確かにあった。



──決意。



「無理強いはしない」

「だが……迷ってる時間はない」

「奴らはすでに……俺の感知範囲を離れようとしてる」

「そうなれば、追跡も不可能だ」



「ぼ、僕は──……」



───



深い森の中、暗闇が音もなく流れていた。



枝は走る影たちに触れることもなく、ただ後ろに流れていく。

ブラック・ライツの面々は、影に溶け込むように移動していた。



「クソ……あいつら、退路を全部塞ぎやがった……」



ウィロクが唸るように吐き捨てる。

「しかも……追ってきてる」



ヨゲンは後ろを見ずに走っていた。



「構わない。すぐに感知範囲を抜ける。

一度外に出れば、もう誰にも追えない」



「だが……」ビーストが周囲を警戒しながら声を漏らす。

「まるで……俺たちの動きが完全に読まれてるみたいだ」



その言葉が、重く空気に沈んだ。



……そのときだった。パペットが突然、足を止めた。



目を見開き、何かに気づいたかのように。



「……なに?」ヨゲンが目を細める。



パペットは応えない。

ただ、地面を見つめながら、汗を浮かべていた。



「まさか……そんなことが……」



───



【回想】



「ハハハ! もっと! 楽しませてくれよォォ!!」



叫びながら、パペットは糸を狂ったように操っていた。

シュンはその猛攻をギリギリで捌いていた。



ある瞬間、パペットが腕を交差させ、殺傷力の高い一撃を放つ。

シュンはそれをかわし、連続の突きで反撃。一本が命中した。



「この野郎ォ!!」



怒りに叫びながらパペットが後退したその瞬間──



シュンの手から放たれたエネルギーの欠片が、パペットの傷口に命中する。



───



【回想終わり】



「……あれは……」



パペットは、胸に手を当てて呟く。



「殺すための攻撃じゃなかった……」



「……何かを……仕込んだんだ……」



「──センサーだ」



凍りつく空気。



ヨゲンをはじめ、全員の顔色が青ざめる。



「……まさか……俺たち、あんた経由で……追跡されてんのか?」



パペットの顔が、悔しさに歪む。



「……あの野郎……シュンめ……!」



空気を切り裂くような緊張感が辺りを包んでいた。



霧に霞む森の中、ブラック・ライツの一団は音もなく進んでいた。

足跡をほとんど残さず、気配すら感じさせない──だが、それでも彼らは気づいていた。



……追いつかれている。



「クソが……」

ヨゲンが小さく唸るように言った。

「やつら……もう近い」



「リーダー」



不意に、パペットが静かな声で口を開いた。



「……なんだ?」



「ここで別れましょう」



その言葉に、ヨゲンは眉をひそめた。



「は? 何を言って──」



振り向いたそのとき。

ヨゲンは言葉を失った。



そこには、いつも命令に忠実だったはずのパペットが、

まるで"背く"ような……

妙な笑みを浮かべて立っていた。



「このままじゃ、俺たち……任務に失敗する」

「でも、まだ可能性はある。勝ち筋は残ってる」



その声には焦りも迷いもない。

計算され尽くした確信と……奇妙な熱意すら感じられた。



「ふざけるな、パペット。お前──」



「ありがとう、ヨゲン」



パペットは優しい口調で言った。

「でも、ここからは……俺の楽しみの時間だ」



静寂。



手を軽く上げ、ふざけたような笑みを浮かべる。



「夢、叶うといいな。友よ」



ヨゲンは答える声に、かすかに敬意を滲ませた。



「……またな。パペット」



「地獄で会おうぜ、相棒」



次の瞬間、パペットの姿は霧の中に消えていた。



まるで、闇に帰っていく悪魔のように。



───



すぐ近く、偵察隊が茂みをかき分けて駆けていた。

目印を追い、全速力で。



「隊長!!」



一人の隊員がシュンに駆け寄ってきた。



「目標が進路を変更しました! グループから離れたようです!」



シュンの顔に、戦意と確信が混ざったような笑みが浮かぶ。



「……気づいたか」



風が彼の桃色の髪をなびかせる。



拳に力が入る。



「追え。分裂したなら、今がチャンスだ」



「了解ッ!!」



───



遠く離れた野営地──

混乱の痕が色濃く残るその拠点に、息を切らした兵士が飛び込んだ。



「陛下!!」



エスカトスは地図に目を落としたまま、反応する。



「何が起きた?」



「シュン様が……エデンを連れて脱出しました。

ブラック・ライツを追っていると……推測されます!」



エスカトスは、まばたきひとつせず答えた。



「……関係ない」



「は、はい!? しかしシュン様でも──彼らの戦力は尋常では──」



「……」



しばらく黙ったまま、兵士を見つめる。

その瞳にあったのは、哀れみと諦め。



やがて、ぽつりと口を開く。



「……お前は、本当にあいつを理解してないな、シュン」

「……大嘘つきが」



顔を伏せて地図を閉じる。



「やらせてやれ。あの化け物を……鎖で繋ぐことなんてできないさ」



「今は負傷者の救助を最優先しろ。そして……万が一に備えて部隊を一つ動かしておけ」



「か、かしこまりました!」



兵士が敬礼して去った後、エスカトスは深くため息を吐いた。



「やれやれ……本当に、お前は捕まらんな、怪物め」



───



森の奥、根と岩が絡み合う道を

シュンとエデンが全力で駆け抜けていた。



空は葉に覆われ、ほとんど見えない。



二人は、ある洞の前でぴたりと足を止めた。

その入り口は、苔と闇に覆われていた。



「状況は?」

シュンが問いかける。



「ここで感知が止まりました」



特殊部隊の兵が、追跡タブレットを手に近づいた。



「この場所は……政府の旧研究所だと記録されています。

もう何年も前に放棄された場所です」



シュンの表情に、険しい笑みが浮かんだ。



「……クソ野郎め。面白いゲームを用意してくれたな」



隣のエデンが、一歩前へ出る。

その手には剣。



そしてその眼差し──

もう、あの頃のエデンではなかった。



鋭く、覚悟の宿る視線。



「ありがとう、助かった」

シュンは兵に声をかける。

「ここから先は……俺たちだけで行く」



「かしこまりました、隊長」



シュンはエデンのほうを向く。



「覚悟はいいか?」



エデンは唾を飲み込む。



「……多分な」



「……よし。行くぞ、バカ」



「……ああ、ピンク頭」



二人が放つ気が、周囲の葉をざわめかせる。



森の静寂が、破られた。



空気が変わった。



──その洞窟の奥。

誰かが、静かに彼らを見下ろしていた。



その目は、炭のように赤く輝く。



「……覚悟するんだな」



パペットが、口元を歪めて呟いた。



「……最高のショーを始めようか」



不気味な笑い声が、石の壁に吸い込まれていく。



その足元には──



灰色の髪の、動かぬ人形が転がっていた。
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