GODS:黒光の章 ― 神々に支配された世界で、選ばれし俺は黒き革命を起こす ―

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第6巻:Zutarts

第90章: ぼやけた記憶

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時々、魂は爆発や涙もなく、静かに崩壊します。

残っているのは遠い声と漠然とした感覚、かつて私たちが何であったかの残響だけです。

記憶は、傷つくと歪んでしまう。

それらは霧の後ろに隠れ、まるで私たちの心が私たち自身を守ろうとしているかのように、時間の裂け目の中に溶け込んでいきます。

しかし、忘れることは決して癒されない。ただ埋めてしまえばいい。

そしてその瞬間が訪れます。

過去が記憶としてではなく、傷として蘇る瞬間。

忘れようと選択したものに直面したとき、私たちは何になるのでしょうか?

愛する人の姿に映った自分自身さえも認識できなくなったとき、私たちに何が残るのでしょうか。

ただ前進するだけでは不十分な場合があります。

私たちはそれに立ち向かわなければなりません。

モンスターの目を見つめなければなりません。

たとえその怪物が我々自身の顔を持っていたとしても。

──────────────────────────────────────

洞窟は、完全な静寂に包まれていた。

戦いの痕跡など一切ない。

ただ舞い上がる塵と、わずか数歩の距離を隔てて立つ二つの影だけ。



裂け目から差し込む風が、緊張をなぞるようにそっと吹き抜ける。



エデンはゆっくりと頭を垂れ、目の前の男をまっすぐに見据える。



「……おじいちゃん」



ジェンの瞳は、嵐のように冷たく、すべてを見尽くした者の静寂に満ちていた。

その身体に刻まれた無数の傷が、語らぬ痛みを物語っている──

過去の傷、罰、時の重み……そして、捨てられた記憶。



「こんなことになって……ごめんなさい。本当に……ごめん」



その声は震えていた。

弱さからではない。

──長いあいだ隠してきた罪悪感が、ようやく溢れ出たから。



「言葉はいらないよ。君の傷が、すべてを語っている」

「痛みも、怒りも……沈黙も。全部、僕のせいなんだ」



エデンの拳が震える。

指を強く握りしめ、爪が掌に食い込む。

堪えてきた怒りが、ついに沸騰し始めた。



「一年以上……ずっと訓練してた。毎日、願ってたんだ」

「おじいちゃんがまだ生きていてくれるように──」

「そして、許してくれるようにって……」



潤んだ目が、迷いなく相手を見据える。



「俺と出会った人たちみんな……何かを失ってしまった」

「まるで……俺が歩く呪いみたいに」



少しの沈黙。



「何度も……何度も思った。あの日に死んでいればよかったって……」

「あるいは、その後のどこかで、終われていればって」



傷だらけの顔が脳裏に蘇る。

拷問された夜。

呼吸だけを頼りに這い続けた日々。

終わりを願った祈り──



「そしたら……誰も、俺のせいで傷つかずに済んだのに」



その唇が、微かに震える。



「……でも、それでも……」



瞳に、炎が灯る。



「生きたいんだよ、おじいちゃん」

「心の奥底から、そう願ってる」



風が洞窟の奥で唸る。

まるで、大地が彼の言葉を聞いているかのように。



「もう逃げるのはやめたい。

ただ惰性で生きるのも、もう終わりにしたい」



一歩、前へ。



「“善”のため? どうでもいい」

「人類? くたばればいい」

「この世界? 壊してやるさ」



喉の奥から絞り出した叫びが、天井を揺らす。



「聞いてるか、運命ッ?! ふざけんな! もう俺の物語を勝手に書くな!!」



その瞳が真紅に染まる。

闇のエネルギーが渦を巻き、意志と怒りの嵐となって身体を包む。



「──俺が、俺の道を描く」



剣を高く掲げる。



「そして……お前を、地獄から解放する」



地面が震える。

二人が同時に動いた。

剣が交差する──

その速さは、肉眼では追えない。



火花。

斬撃。

力の衝突。



エデンは咆哮しながら剣を振るい、

ジェンは沈黙の中でそれを受け止める。



洞窟に響く金属音。

まるで、響きそのものがこの戦いから逃げ出したいと訴えているかのよう。



一撃ごとに、記憶がよみがえる。

剣が交わるたびに、言えなかった告白が刻まれる。

吐息が漏れるたびに、過去の傷が開く。



やがて──



「闇術・シャドウ」



エデンが呟き、顔のない影が彼の隣に現れる。



攻撃が加速する。

エデンとその影が完璧な連携で畳みかける。

ジェンは壁際に追い詰められる。



そして、影が砕け散る刹那──

エデンが背後に現れた。



──一閃。



ジェンの身体が壁に叩きつけられ、土煙が上がる。



エデンは息を切らし、汗で濡れている。



「……チクショウ……この技、消耗がデカすぎる……」



煙の中から姿を現すジェン。

無傷。

その瞳は依然として静か……だが、不気味なほどだった。



「やっぱりな……」



その内側から、声が響く。



『困ってるみたいだな』

ヴォラトラックスの声。



「……まあ、そんなとこ」



エデンが皮肉っぽく笑う。



ジェンの剣に宿る光の精霊が、微かに輝いた。



『もっと本気でいかないといけないな』



エデンが指を組む。



「ダークフレア」



ジェンの足元から黒炎が噴き出す。

だが──その動きは、人間離れしていた。

軽やかに躱す。



……それだけではない。



「──セカンド」



魔法陣が幾重にも展開され、ジェンを囲む。



──同時爆破。



洞窟を覆うような爆音。

轟く咆哮。



「これで……」



しかし、炎が割れる。

その中から、傷一つないジェンが現れる。

服はボロボロだが、身体は無傷。



「……ふざけんなよ」



エデンが呟く。

怒りを隠せない。



ジェンが目を上げる。



「──殺す」



その声に、憎しみはない。

それは──呪いだった。

身体に刻まれた、生きるための命令。



エデンの背に、ぞわりと恐怖が這い上がる。

足が動かない。



大地が鳴動し、

空気が凍りつく。



ジェンの姿が変わっていく──

筋肉が膨張し、

牙が伸び、

その瞳はもはや、人ではなかった。



──赦しを知らぬ、獣。



ジェンの肉体が変貌を始めた。

背骨から濃い橙色の体毛が生え始め、背中、腕、胸、顔へと広がっていく。

まるで──人間の体から獣が誕生するかのように。



瞳は鋭く細くなり、筋肉は倍増し、その存在感はただ一言で表せた。



──圧倒的。



エデンは唾を飲み込む。

この洞窟の中で、何か……“怪物”が育っている。



「な……に?」



その疑問が言葉になる前に──ジェンはもう目前にいた。



巨大な手が、顔を鷲掴みにする。

容赦ない凶暴さで、地面を這わせるように引きずる。



地に刻まれる血の跡、砕ける骨、えぐられた土。



壁に叩きつけられる。だがそれは──安息ではない。



それは、地獄の序章。



次の瞬間、蹴りが襲う。

まるで戦車の突撃。

まるで神の咆哮。



エデンの胸骨が砕ける。

大地が揺れる。

岩が割れる。

洞窟が軋む。



──そして、処刑が始まる。



拳が振るわれる。

拳が、拳が、拳が……



砕ける肉。

裂ける骨。

血飛沫が、暴力という嵐の中で雨のように降る。



一撃ごとに、彼の身体が沈む。

疑念の底へ。

絶望の底へ。

己の底へ。



『……本当に、それでも生きる価値はあるのか?』



穏やかで深い声が、意識の奥底から響いた。



『……何の話だ?』とヴォラトラックスが問い返す。



『なんでこんな苦しみに耐えなきゃいけないんだ?』

『どうして……ただ幸せに生きることが、こんなにも難しい?』



エデンが血を吐きながら、思考の中で叫ぶ。



ヴォラトラックスは数秒、黙ったまま。

やがて、その声が人間らしい柔らかさを帯び始める。



『ある人間が言っていたよ』

『悲しみや痛みは、生きている証だと』

『もし世界が幸せだけだったなら……それは、嘘にしか感じられないだろうって』



『失敗して、また失敗して、それでも……』

『成功したとき、初めてそれを“意味”として受け取れるんだ』

『栄光のためじゃない。耐え抜いたからこそ、だよ』



骨が砕ける音に混じって、その言葉が浮かぶ。

裂けた皮膚と、かすれる息の中で、エデンは思う。



『……人生って、複雑だな』



『ああ』

ヴォラトラックスが、初めて皮肉も嘲笑もなく答えた。



『お前、意外と……悪い奴じゃないんだな』



答えはない。

ただ、沈黙。



──震えていたのは、彼だった。



エデンの中に潜む、光の亡霊。

その輪郭が揺れ、人の形に近づき、

瞳を開いたとき……

そこにあったのは、恐怖だった。



『……もし、生き残れたらさ』



血に染まった微笑みの中で、エデンが呟く。



『お前と、ちゃんと話してみたい。ヴォラトラックス』



死の目前にて。

絶望の只中で。

それでも、エデンは……少年のように笑った。



『寒い……感じるのは、それだけだ……』



『……俺、死ぬのかな?』



魂の奥底から、暗い圧力が溢れ出す。

名もなき嵐。

濁った海のような怒り。



ヴォラトラックスが、低く呟いた。



『……悪いけど、死なせないよ』



『……え?』



『俺は善人じゃないし、別にお前のためじゃない』

『ただ──お前が死ねば、俺も死ぬ』



その言葉とともに、エデンの精神に映る。



縛られたヴォラトラックス。

三体の悪魔に嘲笑され、

子供のように震えている彼の姿。



『今は……倒れるわけにはいかない』



ジェンが剣を構え、

とどめの一撃を振り下ろそうとしたその瞬間──



──爆発。



エデンの身体が、爆風となって炸裂した。



荒れ狂う波動がすべてを飲み込み、

ジェンの巨体を壁へと叩きつける。



その遥か彼方──



血塗れのシュンが、勝利の余韻に浸っていた。

呼吸は穏やか。心拍は落ち着いていた。



……そのときだった。



微かに響く、ねばつくような笑い声。



「……なに?」



虫の息のパペットが笑っていた。



「……どうやら負けたらしい」



「……まだ生きてるのか?」



「さあな……」

口から血を吐きながら、苦笑を浮かべる。



「もう……戦えない。でも、まだ……やるべきことがある」



シュンは警戒を解かずに睨む。



「何を企んでる?」



「さあ、シュン……」

パペットは赤黒い塊を吐き、笑った。



「最後のゲームをしようぜ……」



「ふざけるな。何を──」



「お前は、弟子を救うために間に合うか……」

「それとも、また……間に合わないのか?」



「空間術!!」



ポータルが開く──だが、次の瞬間に粉砕される。



「なっ……!?」



「ようこそ、俺のショーへ……」

「その名も、“爆愛ばくあいショータイム”だ」



──風に溶けるように、パペットの身体が崩れ落ちていく。

だが、その笑みだけは最後まで消えなかった。



「チク……タク……シュン君」



彼は走った。

時を超え、空間を超え、自分の恐怖さえも超えて──



そして──



世界が、沈黙した。



現実を引き裂くような、異形の咆哮。

光が吸い込まれ、

闇の中心点が現れる。



その中から──



彼が現れた。



エデン。



変貌した姿。



紫のオーラが煙のように渦巻き、

頭からは角が二本、

顎からは四本の牙。



皮膚は裂け、燃えるように生きている。

目は真紅に染まり、瞬きすらしない。



そして、その口元は──



──痛みに生まれた悪魔の笑みだった。



ナレーター:この瞬間……エデンはもはや“人間”ではない。



ナレーター:古代の、理不尽で破壊的な力に飲まれ、

      誰にも測れない存在となった。



ナレーター:この姿を──

痛みの悪魔いたみのあくま

と呼ぶ。



地底の空に響き渡る咆哮。



その頃……



地中に隠された数百の爆弾が、

静かに──カウントダウンを始めていた。



一つずつ。

一秒ごとに。



ヴォラトラックスが、かすれた声で呟く。



『……まさか……』



エデンの魂は漂っていた。

黒く、濃い霧の中に沈み込むように。

まるで終わりのない悪夢に囚われたようだった。



ヴォラトラックスは、その内側から見つめていた。

だが──今回は違う。

明らかに、何かが違っていた。



『……いつもと違う……』

『今回のこれは、俺じゃない』

『今回は──彼のほうが、俺の力に飲まれたんだ』

『そんなはずはない……彼が俺を……同化できるわけが……!』



エデンの声が響いた。

歪んだ、誰のものとも思えない声で。



「殺す……全員……殺してやる……」



『エデン!』

ヴォラトラックスの叫びは、虚しく霧に吸い込まれた。



闇の中から、黒い鎖が現れる。

狂った蛇のように這い寄り、

ヴォラトラックスの霊体を絡め取った。



『なっ……!?』



そのとき、もう一つの声が響いた。

古く、重く、冷たい。

肉体を持たずとも、聞くだけで血が凍るような声だった。



「何をしているつもりだ?」



ヴォラトラックスの顔色が変わった。

恐怖に歪む──それは、真の恐れだった。



『……まさか……』



「驚いたか?」

感情のない声が、薄らと続く。

「忘れたとは言わせない」



「お前たちは……皆、私の子なのだから」



──64番目の“未知デスコノシード”。

その存在が支配する声。



『……エデンに、何をした?』



「お前が決してできなかったことをしてやっただけだ」

「彼に、望んでいたものを与えた──“力”をな」



『耐えられるはずがない!』



「失望だよ、ヴォラトラックス。

 追放されて、ただ弱くなっただけか」



「人間一人に、なぜそこまで執着する?」



鎖がきしみ、締めつける。

ヴォラトラックスの形が歪む。



「よく見てみろ……」



霧が晴れる。

そこに現れた光景は、まさに地獄だった。



エデンは、笑っていた。

だが、それは人間の笑いではない。



空っぽで、狂気に満ち、機械のように不気味な笑み。



その目、その口、裂けた肌の隙間から、

狂気がにじみ出ていた。



その前では、ジェンが必死に抗っていた。



破壊の波動。

凶悪な一撃。



ジェンはなんとか受け止めるが、

そのまま投げ飛ばされ、岩も柱も粉砕されていく。



『やめろ、エデン!』



叫びも虚しく──彼には届かない。

エデンは、もはや彼ではなかった。



──そこにあるのは、ただの狂気の微笑み。



「彼には聞こえない」

64番目の“未知”が囁く。

「今の彼は──“痛み”そのものだ」



カウントダウンが進む。

00:43……00:42……



『このままでは……彼は死ぬ!祖父まで手にかけてしまう!』



「……それがどうした?」



「私は彼に力を与えているのだ。

 欲しかったすべてを──叶える力を」



ヴォラトラックスは、目を閉じた。

その瞼の裏に映るのは、終わりの景色。



『もう……こんなことを繰り返させるわけには……』



戦いは続いていた。

エデンは、ただの戦士ではなくなっていた。



その拳には、怒りが込められていた。

復讐が。

破壊が。



「何が一番面白いかって?」

“未知”が冷たく笑う。

「まだ抗おうとしているんだよ。逃げられると思ってる」

「だが、時間の問題さ」



新たな影が現れる。

エデンと同じ姿。

同じ声。

だが、より大きく、より黒く、より壊れていた。



「やめろ!!もう無理だ!!俺はこんな奴じゃない!!」



『こんな奴じゃない?』

その影は嘲笑う。



「俺はお前。お前は俺。

 最初から、そうだったんだ」



「お前は殺しただろう?消えたいと思ったこともあるだろう?」

「お前のせいで、どれだけの命が……」



──その顔は?

──その叫びは?



「お前は善なんかじゃない。お前は……“死”そのものだ」



闇が押し寄せる。

脚が震える。

魂が砕けそうになる。



『……認めろ。これが、お前の“本当”なんだ』



『俺と一つになれば、もう泣かなくていい』

『すべてを取り戻せる。愛したものも──すべて』



『ブラックライツも、悪魔も、カイも、リュウも──皆、破壊できる』



その誘惑は、完璧だった。

その約束は、あまりにも甘かった。



00:10……00:09……00:08……



『俺たちなら、誰にも止められない……』



エデンは、膝をつき、泣いていた。



「ぼ、僕は……」



その時だった。



声がした。



──澄んだ、温かい、懐かしい声。



『強くなったな、エデン』



その瞬間──



ヴォラトラックスを縛っていた鎖が砕け散る。



そして──



“怪物”の顔が……



……初めて、“人間”の顔を持った。



「あ……ああ……おじいちゃん……」



仮面が崩れた。

そこにいたのは、紛れもなく“本物”のエデンだった。



涙で濡れた瞳。

震える声。



『……そんな……』

64番目の“未知”が呟く。

その支配が、崩れ始める。



「エデン……」

ヴォラトラックスが優しく呼ぶ。



そして──



「愛してるぞ」

ジェンが微笑みながら言った。



──その言葉だけで、すべてが変わった。



エデンの心が、壊れた。

だが、それは救いだった。



シュンは、まだ遠くにいた。

必死に走りながら、叫ぶ。



『あの野郎……!急がなきゃ……!』



00:00



──すべてが止まる。



一瞬の沈黙。

一瞬の風。



そして──



BOOM



洞窟を飲み込む巨大な爆発。



吹き飛ぶ岩。

揺れる大地。

炎が全てを包む。



パペットの姿が、風に消える。



エデンがジェンへと駆け寄る。

シュンは動けず、ただ見つめる。



──すべてが、崩壊する。



そして、最後に残ったのは──



シュンの、かすれた絶叫。



『──エデン!!』
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