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第6巻:Zutarts
第90章: ぼやけた記憶
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時々、魂は爆発や涙もなく、静かに崩壊します。
残っているのは遠い声と漠然とした感覚、かつて私たちが何であったかの残響だけです。
記憶は、傷つくと歪んでしまう。
それらは霧の後ろに隠れ、まるで私たちの心が私たち自身を守ろうとしているかのように、時間の裂け目の中に溶け込んでいきます。
しかし、忘れることは決して癒されない。ただ埋めてしまえばいい。
そしてその瞬間が訪れます。
過去が記憶としてではなく、傷として蘇る瞬間。
忘れようと選択したものに直面したとき、私たちは何になるのでしょうか?
愛する人の姿に映った自分自身さえも認識できなくなったとき、私たちに何が残るのでしょうか。
ただ前進するだけでは不十分な場合があります。
私たちはそれに立ち向かわなければなりません。
モンスターの目を見つめなければなりません。
たとえその怪物が我々自身の顔を持っていたとしても。
──────────────────────────────────────
洞窟は、完全な静寂に包まれていた。
戦いの痕跡など一切ない。
ただ舞い上がる塵と、わずか数歩の距離を隔てて立つ二つの影だけ。
裂け目から差し込む風が、緊張をなぞるようにそっと吹き抜ける。
エデンはゆっくりと頭を垂れ、目の前の男をまっすぐに見据える。
「……おじいちゃん」
ジェンの瞳は、嵐のように冷たく、すべてを見尽くした者の静寂に満ちていた。
その身体に刻まれた無数の傷が、語らぬ痛みを物語っている──
過去の傷、罰、時の重み……そして、捨てられた記憶。
「こんなことになって……ごめんなさい。本当に……ごめん」
その声は震えていた。
弱さからではない。
──長いあいだ隠してきた罪悪感が、ようやく溢れ出たから。
「言葉はいらないよ。君の傷が、すべてを語っている」
「痛みも、怒りも……沈黙も。全部、僕のせいなんだ」
エデンの拳が震える。
指を強く握りしめ、爪が掌に食い込む。
堪えてきた怒りが、ついに沸騰し始めた。
「一年以上……ずっと訓練してた。毎日、願ってたんだ」
「おじいちゃんがまだ生きていてくれるように──」
「そして、許してくれるようにって……」
潤んだ目が、迷いなく相手を見据える。
「俺と出会った人たちみんな……何かを失ってしまった」
「まるで……俺が歩く呪いみたいに」
少しの沈黙。
「何度も……何度も思った。あの日に死んでいればよかったって……」
「あるいは、その後のどこかで、終われていればって」
傷だらけの顔が脳裏に蘇る。
拷問された夜。
呼吸だけを頼りに這い続けた日々。
終わりを願った祈り──
「そしたら……誰も、俺のせいで傷つかずに済んだのに」
その唇が、微かに震える。
「……でも、それでも……」
瞳に、炎が灯る。
「生きたいんだよ、おじいちゃん」
「心の奥底から、そう願ってる」
風が洞窟の奥で唸る。
まるで、大地が彼の言葉を聞いているかのように。
「もう逃げるのはやめたい。
ただ惰性で生きるのも、もう終わりにしたい」
一歩、前へ。
「“善”のため? どうでもいい」
「人類? くたばればいい」
「この世界? 壊してやるさ」
喉の奥から絞り出した叫びが、天井を揺らす。
「聞いてるか、運命ッ?! ふざけんな! もう俺の物語を勝手に書くな!!」
その瞳が真紅に染まる。
闇のエネルギーが渦を巻き、意志と怒りの嵐となって身体を包む。
「──俺が、俺の道を描く」
剣を高く掲げる。
「そして……お前を、地獄から解放する」
地面が震える。
二人が同時に動いた。
剣が交差する──
その速さは、肉眼では追えない。
火花。
斬撃。
力の衝突。
エデンは咆哮しながら剣を振るい、
ジェンは沈黙の中でそれを受け止める。
洞窟に響く金属音。
まるで、響きそのものがこの戦いから逃げ出したいと訴えているかのよう。
一撃ごとに、記憶がよみがえる。
剣が交わるたびに、言えなかった告白が刻まれる。
吐息が漏れるたびに、過去の傷が開く。
やがて──
「闇術・シャドウ」
エデンが呟き、顔のない影が彼の隣に現れる。
攻撃が加速する。
エデンとその影が完璧な連携で畳みかける。
ジェンは壁際に追い詰められる。
そして、影が砕け散る刹那──
エデンが背後に現れた。
──一閃。
ジェンの身体が壁に叩きつけられ、土煙が上がる。
エデンは息を切らし、汗で濡れている。
「……チクショウ……この技、消耗がデカすぎる……」
煙の中から姿を現すジェン。
無傷。
その瞳は依然として静か……だが、不気味なほどだった。
「やっぱりな……」
その内側から、声が響く。
『困ってるみたいだな』
ヴォラトラックスの声。
「……まあ、そんなとこ」
エデンが皮肉っぽく笑う。
ジェンの剣に宿る光の精霊が、微かに輝いた。
『もっと本気でいかないといけないな』
エデンが指を組む。
「ダークフレア」
ジェンの足元から黒炎が噴き出す。
だが──その動きは、人間離れしていた。
軽やかに躱す。
……それだけではない。
「──セカンド」
魔法陣が幾重にも展開され、ジェンを囲む。
──同時爆破。
洞窟を覆うような爆音。
轟く咆哮。
「これで……」
しかし、炎が割れる。
その中から、傷一つないジェンが現れる。
服はボロボロだが、身体は無傷。
「……ふざけんなよ」
エデンが呟く。
怒りを隠せない。
ジェンが目を上げる。
「──殺す」
その声に、憎しみはない。
それは──呪いだった。
身体に刻まれた、生きるための命令。
エデンの背に、ぞわりと恐怖が這い上がる。
足が動かない。
大地が鳴動し、
空気が凍りつく。
ジェンの姿が変わっていく──
筋肉が膨張し、
牙が伸び、
その瞳はもはや、人ではなかった。
──赦しを知らぬ、獣。
ジェンの肉体が変貌を始めた。
背骨から濃い橙色の体毛が生え始め、背中、腕、胸、顔へと広がっていく。
まるで──人間の体から獣が誕生するかのように。
瞳は鋭く細くなり、筋肉は倍増し、その存在感はただ一言で表せた。
──圧倒的。
エデンは唾を飲み込む。
この洞窟の中で、何か……“怪物”が育っている。
「な……に?」
その疑問が言葉になる前に──ジェンはもう目前にいた。
巨大な手が、顔を鷲掴みにする。
容赦ない凶暴さで、地面を這わせるように引きずる。
地に刻まれる血の跡、砕ける骨、えぐられた土。
壁に叩きつけられる。だがそれは──安息ではない。
それは、地獄の序章。
次の瞬間、蹴りが襲う。
まるで戦車の突撃。
まるで神の咆哮。
エデンの胸骨が砕ける。
大地が揺れる。
岩が割れる。
洞窟が軋む。
──そして、処刑が始まる。
拳が振るわれる。
拳が、拳が、拳が……
砕ける肉。
裂ける骨。
血飛沫が、暴力という嵐の中で雨のように降る。
一撃ごとに、彼の身体が沈む。
疑念の底へ。
絶望の底へ。
己の底へ。
『……本当に、それでも生きる価値はあるのか?』
穏やかで深い声が、意識の奥底から響いた。
『……何の話だ?』とヴォラトラックスが問い返す。
『なんでこんな苦しみに耐えなきゃいけないんだ?』
『どうして……ただ幸せに生きることが、こんなにも難しい?』
エデンが血を吐きながら、思考の中で叫ぶ。
ヴォラトラックスは数秒、黙ったまま。
やがて、その声が人間らしい柔らかさを帯び始める。
『ある人間が言っていたよ』
『悲しみや痛みは、生きている証だと』
『もし世界が幸せだけだったなら……それは、嘘にしか感じられないだろうって』
『失敗して、また失敗して、それでも……』
『成功したとき、初めてそれを“意味”として受け取れるんだ』
『栄光のためじゃない。耐え抜いたからこそ、だよ』
骨が砕ける音に混じって、その言葉が浮かぶ。
裂けた皮膚と、かすれる息の中で、エデンは思う。
『……人生って、複雑だな』
『ああ』
ヴォラトラックスが、初めて皮肉も嘲笑もなく答えた。
『お前、意外と……悪い奴じゃないんだな』
答えはない。
ただ、沈黙。
──震えていたのは、彼だった。
エデンの中に潜む、光の亡霊。
その輪郭が揺れ、人の形に近づき、
瞳を開いたとき……
そこにあったのは、恐怖だった。
『……もし、生き残れたらさ』
血に染まった微笑みの中で、エデンが呟く。
『お前と、ちゃんと話してみたい。ヴォラトラックス』
死の目前にて。
絶望の只中で。
それでも、エデンは……少年のように笑った。
『寒い……感じるのは、それだけだ……』
『……俺、死ぬのかな?』
魂の奥底から、暗い圧力が溢れ出す。
名もなき嵐。
濁った海のような怒り。
ヴォラトラックスが、低く呟いた。
『……悪いけど、死なせないよ』
『……え?』
『俺は善人じゃないし、別にお前のためじゃない』
『ただ──お前が死ねば、俺も死ぬ』
その言葉とともに、エデンの精神に映る。
縛られたヴォラトラックス。
三体の悪魔に嘲笑され、
子供のように震えている彼の姿。
『今は……倒れるわけにはいかない』
ジェンが剣を構え、
とどめの一撃を振り下ろそうとしたその瞬間──
──爆発。
エデンの身体が、爆風となって炸裂した。
荒れ狂う波動がすべてを飲み込み、
ジェンの巨体を壁へと叩きつける。
その遥か彼方──
血塗れのシュンが、勝利の余韻に浸っていた。
呼吸は穏やか。心拍は落ち着いていた。
……そのときだった。
微かに響く、ねばつくような笑い声。
「……なに?」
虫の息のパペットが笑っていた。
「……どうやら負けたらしい」
「……まだ生きてるのか?」
「さあな……」
口から血を吐きながら、苦笑を浮かべる。
「もう……戦えない。でも、まだ……やるべきことがある」
シュンは警戒を解かずに睨む。
「何を企んでる?」
「さあ、シュン……」
パペットは赤黒い塊を吐き、笑った。
「最後のゲームをしようぜ……」
「ふざけるな。何を──」
「お前は、弟子を救うために間に合うか……」
「それとも、また……間に合わないのか?」
「空間術!!」
ポータルが開く──だが、次の瞬間に粉砕される。
「なっ……!?」
「ようこそ、俺のショーへ……」
「その名も、“爆愛ばくあいショータイム”だ」
──風に溶けるように、パペットの身体が崩れ落ちていく。
だが、その笑みだけは最後まで消えなかった。
「チク……タク……シュン君」
彼は走った。
時を超え、空間を超え、自分の恐怖さえも超えて──
そして──
世界が、沈黙した。
現実を引き裂くような、異形の咆哮。
光が吸い込まれ、
闇の中心点が現れる。
その中から──
彼が現れた。
エデン。
変貌した姿。
紫のオーラが煙のように渦巻き、
頭からは角が二本、
顎からは四本の牙。
皮膚は裂け、燃えるように生きている。
目は真紅に染まり、瞬きすらしない。
そして、その口元は──
──痛みに生まれた悪魔の笑みだった。
ナレーター:この瞬間……エデンはもはや“人間”ではない。
ナレーター:古代の、理不尽で破壊的な力に飲まれ、
誰にも測れない存在となった。
ナレーター:この姿を──
痛みの悪魔いたみのあくま
と呼ぶ。
地底の空に響き渡る咆哮。
その頃……
地中に隠された数百の爆弾が、
静かに──カウントダウンを始めていた。
一つずつ。
一秒ごとに。
ヴォラトラックスが、かすれた声で呟く。
『……まさか……』
エデンの魂は漂っていた。
黒く、濃い霧の中に沈み込むように。
まるで終わりのない悪夢に囚われたようだった。
ヴォラトラックスは、その内側から見つめていた。
だが──今回は違う。
明らかに、何かが違っていた。
『……いつもと違う……』
『今回のこれは、俺じゃない』
『今回は──彼のほうが、俺の力に飲まれたんだ』
『そんなはずはない……彼が俺を……同化できるわけが……!』
エデンの声が響いた。
歪んだ、誰のものとも思えない声で。
「殺す……全員……殺してやる……」
『エデン!』
ヴォラトラックスの叫びは、虚しく霧に吸い込まれた。
闇の中から、黒い鎖が現れる。
狂った蛇のように這い寄り、
ヴォラトラックスの霊体を絡め取った。
『なっ……!?』
そのとき、もう一つの声が響いた。
古く、重く、冷たい。
肉体を持たずとも、聞くだけで血が凍るような声だった。
「何をしているつもりだ?」
ヴォラトラックスの顔色が変わった。
恐怖に歪む──それは、真の恐れだった。
『……まさか……』
「驚いたか?」
感情のない声が、薄らと続く。
「忘れたとは言わせない」
「お前たちは……皆、私の子なのだから」
──64番目の“未知デスコノシード”。
その存在が支配する声。
『……エデンに、何をした?』
「お前が決してできなかったことをしてやっただけだ」
「彼に、望んでいたものを与えた──“力”をな」
『耐えられるはずがない!』
「失望だよ、ヴォラトラックス。
追放されて、ただ弱くなっただけか」
「人間一人に、なぜそこまで執着する?」
鎖がきしみ、締めつける。
ヴォラトラックスの形が歪む。
「よく見てみろ……」
霧が晴れる。
そこに現れた光景は、まさに地獄だった。
エデンは、笑っていた。
だが、それは人間の笑いではない。
空っぽで、狂気に満ち、機械のように不気味な笑み。
その目、その口、裂けた肌の隙間から、
狂気がにじみ出ていた。
その前では、ジェンが必死に抗っていた。
破壊の波動。
凶悪な一撃。
ジェンはなんとか受け止めるが、
そのまま投げ飛ばされ、岩も柱も粉砕されていく。
『やめろ、エデン!』
叫びも虚しく──彼には届かない。
エデンは、もはや彼ではなかった。
──そこにあるのは、ただの狂気の微笑み。
「彼には聞こえない」
64番目の“未知”が囁く。
「今の彼は──“痛み”そのものだ」
カウントダウンが進む。
00:43……00:42……
『このままでは……彼は死ぬ!祖父まで手にかけてしまう!』
「……それがどうした?」
「私は彼に力を与えているのだ。
欲しかったすべてを──叶える力を」
ヴォラトラックスは、目を閉じた。
その瞼の裏に映るのは、終わりの景色。
『もう……こんなことを繰り返させるわけには……』
戦いは続いていた。
エデンは、ただの戦士ではなくなっていた。
その拳には、怒りが込められていた。
復讐が。
破壊が。
「何が一番面白いかって?」
“未知”が冷たく笑う。
「まだ抗おうとしているんだよ。逃げられると思ってる」
「だが、時間の問題さ」
新たな影が現れる。
エデンと同じ姿。
同じ声。
だが、より大きく、より黒く、より壊れていた。
「やめろ!!もう無理だ!!俺はこんな奴じゃない!!」
『こんな奴じゃない?』
その影は嘲笑う。
「俺はお前。お前は俺。
最初から、そうだったんだ」
「お前は殺しただろう?消えたいと思ったこともあるだろう?」
「お前のせいで、どれだけの命が……」
──その顔は?
──その叫びは?
「お前は善なんかじゃない。お前は……“死”そのものだ」
闇が押し寄せる。
脚が震える。
魂が砕けそうになる。
『……認めろ。これが、お前の“本当”なんだ』
『俺と一つになれば、もう泣かなくていい』
『すべてを取り戻せる。愛したものも──すべて』
『ブラックライツも、悪魔も、カイも、リュウも──皆、破壊できる』
その誘惑は、完璧だった。
その約束は、あまりにも甘かった。
00:10……00:09……00:08……
『俺たちなら、誰にも止められない……』
エデンは、膝をつき、泣いていた。
「ぼ、僕は……」
その時だった。
声がした。
──澄んだ、温かい、懐かしい声。
『強くなったな、エデン』
その瞬間──
ヴォラトラックスを縛っていた鎖が砕け散る。
そして──
“怪物”の顔が……
……初めて、“人間”の顔を持った。
「あ……ああ……おじいちゃん……」
仮面が崩れた。
そこにいたのは、紛れもなく“本物”のエデンだった。
涙で濡れた瞳。
震える声。
『……そんな……』
64番目の“未知”が呟く。
その支配が、崩れ始める。
「エデン……」
ヴォラトラックスが優しく呼ぶ。
そして──
「愛してるぞ」
ジェンが微笑みながら言った。
──その言葉だけで、すべてが変わった。
エデンの心が、壊れた。
だが、それは救いだった。
シュンは、まだ遠くにいた。
必死に走りながら、叫ぶ。
『あの野郎……!急がなきゃ……!』
00:00
──すべてが止まる。
一瞬の沈黙。
一瞬の風。
そして──
BOOM
洞窟を飲み込む巨大な爆発。
吹き飛ぶ岩。
揺れる大地。
炎が全てを包む。
パペットの姿が、風に消える。
エデンがジェンへと駆け寄る。
シュンは動けず、ただ見つめる。
──すべてが、崩壊する。
そして、最後に残ったのは──
シュンの、かすれた絶叫。
『──エデン!!』
残っているのは遠い声と漠然とした感覚、かつて私たちが何であったかの残響だけです。
記憶は、傷つくと歪んでしまう。
それらは霧の後ろに隠れ、まるで私たちの心が私たち自身を守ろうとしているかのように、時間の裂け目の中に溶け込んでいきます。
しかし、忘れることは決して癒されない。ただ埋めてしまえばいい。
そしてその瞬間が訪れます。
過去が記憶としてではなく、傷として蘇る瞬間。
忘れようと選択したものに直面したとき、私たちは何になるのでしょうか?
愛する人の姿に映った自分自身さえも認識できなくなったとき、私たちに何が残るのでしょうか。
ただ前進するだけでは不十分な場合があります。
私たちはそれに立ち向かわなければなりません。
モンスターの目を見つめなければなりません。
たとえその怪物が我々自身の顔を持っていたとしても。
──────────────────────────────────────
洞窟は、完全な静寂に包まれていた。
戦いの痕跡など一切ない。
ただ舞い上がる塵と、わずか数歩の距離を隔てて立つ二つの影だけ。
裂け目から差し込む風が、緊張をなぞるようにそっと吹き抜ける。
エデンはゆっくりと頭を垂れ、目の前の男をまっすぐに見据える。
「……おじいちゃん」
ジェンの瞳は、嵐のように冷たく、すべてを見尽くした者の静寂に満ちていた。
その身体に刻まれた無数の傷が、語らぬ痛みを物語っている──
過去の傷、罰、時の重み……そして、捨てられた記憶。
「こんなことになって……ごめんなさい。本当に……ごめん」
その声は震えていた。
弱さからではない。
──長いあいだ隠してきた罪悪感が、ようやく溢れ出たから。
「言葉はいらないよ。君の傷が、すべてを語っている」
「痛みも、怒りも……沈黙も。全部、僕のせいなんだ」
エデンの拳が震える。
指を強く握りしめ、爪が掌に食い込む。
堪えてきた怒りが、ついに沸騰し始めた。
「一年以上……ずっと訓練してた。毎日、願ってたんだ」
「おじいちゃんがまだ生きていてくれるように──」
「そして、許してくれるようにって……」
潤んだ目が、迷いなく相手を見据える。
「俺と出会った人たちみんな……何かを失ってしまった」
「まるで……俺が歩く呪いみたいに」
少しの沈黙。
「何度も……何度も思った。あの日に死んでいればよかったって……」
「あるいは、その後のどこかで、終われていればって」
傷だらけの顔が脳裏に蘇る。
拷問された夜。
呼吸だけを頼りに這い続けた日々。
終わりを願った祈り──
「そしたら……誰も、俺のせいで傷つかずに済んだのに」
その唇が、微かに震える。
「……でも、それでも……」
瞳に、炎が灯る。
「生きたいんだよ、おじいちゃん」
「心の奥底から、そう願ってる」
風が洞窟の奥で唸る。
まるで、大地が彼の言葉を聞いているかのように。
「もう逃げるのはやめたい。
ただ惰性で生きるのも、もう終わりにしたい」
一歩、前へ。
「“善”のため? どうでもいい」
「人類? くたばればいい」
「この世界? 壊してやるさ」
喉の奥から絞り出した叫びが、天井を揺らす。
「聞いてるか、運命ッ?! ふざけんな! もう俺の物語を勝手に書くな!!」
その瞳が真紅に染まる。
闇のエネルギーが渦を巻き、意志と怒りの嵐となって身体を包む。
「──俺が、俺の道を描く」
剣を高く掲げる。
「そして……お前を、地獄から解放する」
地面が震える。
二人が同時に動いた。
剣が交差する──
その速さは、肉眼では追えない。
火花。
斬撃。
力の衝突。
エデンは咆哮しながら剣を振るい、
ジェンは沈黙の中でそれを受け止める。
洞窟に響く金属音。
まるで、響きそのものがこの戦いから逃げ出したいと訴えているかのよう。
一撃ごとに、記憶がよみがえる。
剣が交わるたびに、言えなかった告白が刻まれる。
吐息が漏れるたびに、過去の傷が開く。
やがて──
「闇術・シャドウ」
エデンが呟き、顔のない影が彼の隣に現れる。
攻撃が加速する。
エデンとその影が完璧な連携で畳みかける。
ジェンは壁際に追い詰められる。
そして、影が砕け散る刹那──
エデンが背後に現れた。
──一閃。
ジェンの身体が壁に叩きつけられ、土煙が上がる。
エデンは息を切らし、汗で濡れている。
「……チクショウ……この技、消耗がデカすぎる……」
煙の中から姿を現すジェン。
無傷。
その瞳は依然として静か……だが、不気味なほどだった。
「やっぱりな……」
その内側から、声が響く。
『困ってるみたいだな』
ヴォラトラックスの声。
「……まあ、そんなとこ」
エデンが皮肉っぽく笑う。
ジェンの剣に宿る光の精霊が、微かに輝いた。
『もっと本気でいかないといけないな』
エデンが指を組む。
「ダークフレア」
ジェンの足元から黒炎が噴き出す。
だが──その動きは、人間離れしていた。
軽やかに躱す。
……それだけではない。
「──セカンド」
魔法陣が幾重にも展開され、ジェンを囲む。
──同時爆破。
洞窟を覆うような爆音。
轟く咆哮。
「これで……」
しかし、炎が割れる。
その中から、傷一つないジェンが現れる。
服はボロボロだが、身体は無傷。
「……ふざけんなよ」
エデンが呟く。
怒りを隠せない。
ジェンが目を上げる。
「──殺す」
その声に、憎しみはない。
それは──呪いだった。
身体に刻まれた、生きるための命令。
エデンの背に、ぞわりと恐怖が這い上がる。
足が動かない。
大地が鳴動し、
空気が凍りつく。
ジェンの姿が変わっていく──
筋肉が膨張し、
牙が伸び、
その瞳はもはや、人ではなかった。
──赦しを知らぬ、獣。
ジェンの肉体が変貌を始めた。
背骨から濃い橙色の体毛が生え始め、背中、腕、胸、顔へと広がっていく。
まるで──人間の体から獣が誕生するかのように。
瞳は鋭く細くなり、筋肉は倍増し、その存在感はただ一言で表せた。
──圧倒的。
エデンは唾を飲み込む。
この洞窟の中で、何か……“怪物”が育っている。
「な……に?」
その疑問が言葉になる前に──ジェンはもう目前にいた。
巨大な手が、顔を鷲掴みにする。
容赦ない凶暴さで、地面を這わせるように引きずる。
地に刻まれる血の跡、砕ける骨、えぐられた土。
壁に叩きつけられる。だがそれは──安息ではない。
それは、地獄の序章。
次の瞬間、蹴りが襲う。
まるで戦車の突撃。
まるで神の咆哮。
エデンの胸骨が砕ける。
大地が揺れる。
岩が割れる。
洞窟が軋む。
──そして、処刑が始まる。
拳が振るわれる。
拳が、拳が、拳が……
砕ける肉。
裂ける骨。
血飛沫が、暴力という嵐の中で雨のように降る。
一撃ごとに、彼の身体が沈む。
疑念の底へ。
絶望の底へ。
己の底へ。
『……本当に、それでも生きる価値はあるのか?』
穏やかで深い声が、意識の奥底から響いた。
『……何の話だ?』とヴォラトラックスが問い返す。
『なんでこんな苦しみに耐えなきゃいけないんだ?』
『どうして……ただ幸せに生きることが、こんなにも難しい?』
エデンが血を吐きながら、思考の中で叫ぶ。
ヴォラトラックスは数秒、黙ったまま。
やがて、その声が人間らしい柔らかさを帯び始める。
『ある人間が言っていたよ』
『悲しみや痛みは、生きている証だと』
『もし世界が幸せだけだったなら……それは、嘘にしか感じられないだろうって』
『失敗して、また失敗して、それでも……』
『成功したとき、初めてそれを“意味”として受け取れるんだ』
『栄光のためじゃない。耐え抜いたからこそ、だよ』
骨が砕ける音に混じって、その言葉が浮かぶ。
裂けた皮膚と、かすれる息の中で、エデンは思う。
『……人生って、複雑だな』
『ああ』
ヴォラトラックスが、初めて皮肉も嘲笑もなく答えた。
『お前、意外と……悪い奴じゃないんだな』
答えはない。
ただ、沈黙。
──震えていたのは、彼だった。
エデンの中に潜む、光の亡霊。
その輪郭が揺れ、人の形に近づき、
瞳を開いたとき……
そこにあったのは、恐怖だった。
『……もし、生き残れたらさ』
血に染まった微笑みの中で、エデンが呟く。
『お前と、ちゃんと話してみたい。ヴォラトラックス』
死の目前にて。
絶望の只中で。
それでも、エデンは……少年のように笑った。
『寒い……感じるのは、それだけだ……』
『……俺、死ぬのかな?』
魂の奥底から、暗い圧力が溢れ出す。
名もなき嵐。
濁った海のような怒り。
ヴォラトラックスが、低く呟いた。
『……悪いけど、死なせないよ』
『……え?』
『俺は善人じゃないし、別にお前のためじゃない』
『ただ──お前が死ねば、俺も死ぬ』
その言葉とともに、エデンの精神に映る。
縛られたヴォラトラックス。
三体の悪魔に嘲笑され、
子供のように震えている彼の姿。
『今は……倒れるわけにはいかない』
ジェンが剣を構え、
とどめの一撃を振り下ろそうとしたその瞬間──
──爆発。
エデンの身体が、爆風となって炸裂した。
荒れ狂う波動がすべてを飲み込み、
ジェンの巨体を壁へと叩きつける。
その遥か彼方──
血塗れのシュンが、勝利の余韻に浸っていた。
呼吸は穏やか。心拍は落ち着いていた。
……そのときだった。
微かに響く、ねばつくような笑い声。
「……なに?」
虫の息のパペットが笑っていた。
「……どうやら負けたらしい」
「……まだ生きてるのか?」
「さあな……」
口から血を吐きながら、苦笑を浮かべる。
「もう……戦えない。でも、まだ……やるべきことがある」
シュンは警戒を解かずに睨む。
「何を企んでる?」
「さあ、シュン……」
パペットは赤黒い塊を吐き、笑った。
「最後のゲームをしようぜ……」
「ふざけるな。何を──」
「お前は、弟子を救うために間に合うか……」
「それとも、また……間に合わないのか?」
「空間術!!」
ポータルが開く──だが、次の瞬間に粉砕される。
「なっ……!?」
「ようこそ、俺のショーへ……」
「その名も、“爆愛ばくあいショータイム”だ」
──風に溶けるように、パペットの身体が崩れ落ちていく。
だが、その笑みだけは最後まで消えなかった。
「チク……タク……シュン君」
彼は走った。
時を超え、空間を超え、自分の恐怖さえも超えて──
そして──
世界が、沈黙した。
現実を引き裂くような、異形の咆哮。
光が吸い込まれ、
闇の中心点が現れる。
その中から──
彼が現れた。
エデン。
変貌した姿。
紫のオーラが煙のように渦巻き、
頭からは角が二本、
顎からは四本の牙。
皮膚は裂け、燃えるように生きている。
目は真紅に染まり、瞬きすらしない。
そして、その口元は──
──痛みに生まれた悪魔の笑みだった。
ナレーター:この瞬間……エデンはもはや“人間”ではない。
ナレーター:古代の、理不尽で破壊的な力に飲まれ、
誰にも測れない存在となった。
ナレーター:この姿を──
痛みの悪魔いたみのあくま
と呼ぶ。
地底の空に響き渡る咆哮。
その頃……
地中に隠された数百の爆弾が、
静かに──カウントダウンを始めていた。
一つずつ。
一秒ごとに。
ヴォラトラックスが、かすれた声で呟く。
『……まさか……』
エデンの魂は漂っていた。
黒く、濃い霧の中に沈み込むように。
まるで終わりのない悪夢に囚われたようだった。
ヴォラトラックスは、その内側から見つめていた。
だが──今回は違う。
明らかに、何かが違っていた。
『……いつもと違う……』
『今回のこれは、俺じゃない』
『今回は──彼のほうが、俺の力に飲まれたんだ』
『そんなはずはない……彼が俺を……同化できるわけが……!』
エデンの声が響いた。
歪んだ、誰のものとも思えない声で。
「殺す……全員……殺してやる……」
『エデン!』
ヴォラトラックスの叫びは、虚しく霧に吸い込まれた。
闇の中から、黒い鎖が現れる。
狂った蛇のように這い寄り、
ヴォラトラックスの霊体を絡め取った。
『なっ……!?』
そのとき、もう一つの声が響いた。
古く、重く、冷たい。
肉体を持たずとも、聞くだけで血が凍るような声だった。
「何をしているつもりだ?」
ヴォラトラックスの顔色が変わった。
恐怖に歪む──それは、真の恐れだった。
『……まさか……』
「驚いたか?」
感情のない声が、薄らと続く。
「忘れたとは言わせない」
「お前たちは……皆、私の子なのだから」
──64番目の“未知デスコノシード”。
その存在が支配する声。
『……エデンに、何をした?』
「お前が決してできなかったことをしてやっただけだ」
「彼に、望んでいたものを与えた──“力”をな」
『耐えられるはずがない!』
「失望だよ、ヴォラトラックス。
追放されて、ただ弱くなっただけか」
「人間一人に、なぜそこまで執着する?」
鎖がきしみ、締めつける。
ヴォラトラックスの形が歪む。
「よく見てみろ……」
霧が晴れる。
そこに現れた光景は、まさに地獄だった。
エデンは、笑っていた。
だが、それは人間の笑いではない。
空っぽで、狂気に満ち、機械のように不気味な笑み。
その目、その口、裂けた肌の隙間から、
狂気がにじみ出ていた。
その前では、ジェンが必死に抗っていた。
破壊の波動。
凶悪な一撃。
ジェンはなんとか受け止めるが、
そのまま投げ飛ばされ、岩も柱も粉砕されていく。
『やめろ、エデン!』
叫びも虚しく──彼には届かない。
エデンは、もはや彼ではなかった。
──そこにあるのは、ただの狂気の微笑み。
「彼には聞こえない」
64番目の“未知”が囁く。
「今の彼は──“痛み”そのものだ」
カウントダウンが進む。
00:43……00:42……
『このままでは……彼は死ぬ!祖父まで手にかけてしまう!』
「……それがどうした?」
「私は彼に力を与えているのだ。
欲しかったすべてを──叶える力を」
ヴォラトラックスは、目を閉じた。
その瞼の裏に映るのは、終わりの景色。
『もう……こんなことを繰り返させるわけには……』
戦いは続いていた。
エデンは、ただの戦士ではなくなっていた。
その拳には、怒りが込められていた。
復讐が。
破壊が。
「何が一番面白いかって?」
“未知”が冷たく笑う。
「まだ抗おうとしているんだよ。逃げられると思ってる」
「だが、時間の問題さ」
新たな影が現れる。
エデンと同じ姿。
同じ声。
だが、より大きく、より黒く、より壊れていた。
「やめろ!!もう無理だ!!俺はこんな奴じゃない!!」
『こんな奴じゃない?』
その影は嘲笑う。
「俺はお前。お前は俺。
最初から、そうだったんだ」
「お前は殺しただろう?消えたいと思ったこともあるだろう?」
「お前のせいで、どれだけの命が……」
──その顔は?
──その叫びは?
「お前は善なんかじゃない。お前は……“死”そのものだ」
闇が押し寄せる。
脚が震える。
魂が砕けそうになる。
『……認めろ。これが、お前の“本当”なんだ』
『俺と一つになれば、もう泣かなくていい』
『すべてを取り戻せる。愛したものも──すべて』
『ブラックライツも、悪魔も、カイも、リュウも──皆、破壊できる』
その誘惑は、完璧だった。
その約束は、あまりにも甘かった。
00:10……00:09……00:08……
『俺たちなら、誰にも止められない……』
エデンは、膝をつき、泣いていた。
「ぼ、僕は……」
その時だった。
声がした。
──澄んだ、温かい、懐かしい声。
『強くなったな、エデン』
その瞬間──
ヴォラトラックスを縛っていた鎖が砕け散る。
そして──
“怪物”の顔が……
……初めて、“人間”の顔を持った。
「あ……ああ……おじいちゃん……」
仮面が崩れた。
そこにいたのは、紛れもなく“本物”のエデンだった。
涙で濡れた瞳。
震える声。
『……そんな……』
64番目の“未知”が呟く。
その支配が、崩れ始める。
「エデン……」
ヴォラトラックスが優しく呼ぶ。
そして──
「愛してるぞ」
ジェンが微笑みながら言った。
──その言葉だけで、すべてが変わった。
エデンの心が、壊れた。
だが、それは救いだった。
シュンは、まだ遠くにいた。
必死に走りながら、叫ぶ。
『あの野郎……!急がなきゃ……!』
00:00
──すべてが止まる。
一瞬の沈黙。
一瞬の風。
そして──
BOOM
洞窟を飲み込む巨大な爆発。
吹き飛ぶ岩。
揺れる大地。
炎が全てを包む。
パペットの姿が、風に消える。
エデンがジェンへと駆け寄る。
シュンは動けず、ただ見つめる。
──すべてが、崩壊する。
そして、最後に残ったのは──
シュンの、かすれた絶叫。
『──エデン!!』
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