11 / 95
第1巻:準備編
第11章: 階級
しおりを挟む
時々、重要なのは自分がどれだけ強いと思っているかではなく、自分の強さが他人にとってどれだけ目に見えないかということです。
神々の世界は、潜在能力が示されなければ価値がなく、実力よりも階級制度が重視される非情な世界です。何度戦っても、何度立ち上がっても…成長を認める目がなければ、あなたは弱い者として見られ続けるでしょう。
しかし、最後の者、拒絶された者、忘れられた者が置かれるまさにその片隅でこそ、真の変化が生まれることが多いのです。
GODS の生徒たちがついに最初の公式判定を受ける。彼らの言葉や理想ではなく、戦いで彼らが貢献したことにより。その認知を喜ぶ者もいれば、残酷な真実に目覚める者もいる。
この場所では、それらはまだ何の意味も持ちません。
そして、最後の段階に立っていることを知った瞬間、魂は自らを揺さぶり、ついに上昇することを決意するのです。
—————————————————————————————————————
朝陽がまだ地平線に顔を出したばかりの頃。
その静寂を破ったのは――空中に浮かぶ、小さなホログラムから発せられた声だった。
「全学生へ通達。至急、第一講堂へ集合せよ」
青白く点滅した映像が、すっと消える。
「……マジかよ。まだ訓練終わって一日も経ってねえのに……」
疲れたため息が部屋に落ちる。
講堂への道のりは、いつもより長く、重たく感じた。
壁という壁が、自分を見下ろし、沈黙のまま裁いているかのようだった。
辿り着くと、すでに全員が揃っていた。
見知った顔。
無関心な者。
敵意を隠そうともしない者たち。
教壇の前には、ひとりの人物が佇んでいた。
その存在だけで空気が変わる――気品と威厳をまとった姿。
「来てくれて嬉しいわ。
本日、皆さんには最初の“公式ランク”が与えられます。
これより、各自にランクカードを配布します」
ざわ……と、軽いざわめきが教室を走る。
誰もが、それが何を意味するのか知っていた。
――GODSにおいて、ランクは“全て”だ。
「ご存じの通り――」
彼女は続ける。
「この学院では、“神の候補”たちを“金・銀・銅”の三段階で評価します。
この判定は“潜在能力”ではなく、“実績”に基づくものです。
禅華エネルギー、身体能力、持久力、速度、技術、そして総合的な成果。
――ここでは、可能性ではなく、結果だけが価値を持つのです」
空気が張りつめる。
「それでは、上位から発表していきます」
名前が呼ばれる。
その最初の一人に、誰もが納得していた。
「――金ランク第10位、ヨウヘイ・アクティナ」
彼は、無駄な動きひとつなく立ち上がり、
当然のごとく前に進む。
カードを受け取っても、誰にも視線を向けなかった。
「――金ランク第15位、ゼフ・ミズシマ」
深い沈黙。
彼もまた、表情を崩さぬまま前へ出る。
まるでその数字自体に意味がないかのように。
「――金ランク最後、第20位、ロワ・マッチ」
驚きが走った。
誰もが彼女の名を予想していなかった。
だが、彼女は堂々と歩き出す。
笑顔も、誇りもなく――ただ、静かに、確かに。
そこから、じわじわと不穏な空気が広がっていく。
誰かが待ち望んでいた名前が――呼ばれない。
「――銀ランク第5位、シュウ・サジェス」
微かなざわめき。
そして、それ以上に静かに下を向いたシュウの姿。
何も言わず、ただ……拳を握り、席へ戻る。
ひとり、またひとり。
銅、銀。
ランクと番号が続いていく。
名が呼ばれるたび、空気が冷えていった。
そして――最後の名が読み上げられる。
「――エデン・ヨミ。銅ランク。第45位」
時が止まったかのようだった。
――45位。
――最下位。
空気が、ほんの一瞬だけ、濃くなる。
その時――彼女の声が、少しだけ柔らかくなった。
「……君には、ひとつだけ伝えておく」
「君の持つ可能性に、誰も異論はない。
だが、今の君は“その力を制御できていない”。
制御できない力に、価値はない。
だからこそ、君は“最下位”なの」
エデンは、何も言わなかった。
ただ、脳裏に浮かぶ言葉が、霧のように散っていく。
(……最下位、か)
だが――
声の調子が変わった。
今度は、真っ直ぐで、迷いがなかった。
「――変えたいのなら、“強く”なれ。
自分の力を証明しなさい。
その時こそ、上を目指せる」
重苦しい沈黙が、わずかに解けた。
「最後に一言だけ――」
その声は教室全体を貫いた。
「――私は今年、誰にも負けるつもりはない。
だから、君たちも全力で挑んでこい」
「――はいっ!!」
教室が一斉に応えた。
誰かは拳を握りしめ、
誰かは黙って俯く。
だが、どの心にも――火が灯っていた。
GODSという場所では、ランクがすべてを語る。
だが、それは“今の立ち位置”を示すだけではない。
――どれだけその場所から抜け出したいのか。
その覚悟までも、浮き彫りにするのだった。
教室には、さっきまでの熱気が嘘のように静けさが戻っていた。
だが、その中で――ひとりだけ、心を休められずにいた。
――四十五。
その数字が、壊れた鐘のように、何度も頭の中を鳴り響かせていた。
最下位。
一番下。
他の生徒たちは、それぞれの想いを胸に、談笑していた。
満足そうな者、悔しげな者。
誇らしげに目を合わせる者もいれば、陰でこそこそ囁く者もいた。
その喧騒の中で、彼だけは――微動だにせず、まるでまだ現実を受け入れられずにいるかのようだった。
ポケットの中で、折りたたまれた一通の手紙が存在を主張する。
指先が震えるように、その紙を引き抜いた。
――「GODSに入って、一週間が経った……」
文字は自分のものだった。
だが、文章はまるで“誰かに”ではなく、“自分自身”への呼びかけのようだった。
エデンは、迷わぬよう、初心を忘れぬようにと、
時々こうして手紙を書くようにしていた。
――「最初は不安だった。けれど、仲間たちの力を見たとき、迷いは消えた」
それは、単なる技やエネルギーの話ではなかった。
決意。本能。欲望。
――神の玉座ではなく、“居場所”を求める瞳。
そして――思い出す。
二日前の戦い。
あの者と向き合った日。
ゼウスの息子と――ぶつかった瞬間。
力の差は、誰の目にも明らかだった。
勝つ見込みなど、どこにもなかった。
だが――それでも彼にとっては、意味のある戦いだった。
最初の一撃。
突き刺さるような速さ。
腹にめり込む衝撃。
宙を舞い、円の外へと放り出される瞬間。
だが、立ち上がった。
勝ち目がないと分かっていても。
「……まだ始まったばかりだ」
その言葉は、嘘じゃなかった。
即興の作戦。
無謀な一手。
足を狙ったその一瞬。
――“神の子”が、初めてバランスを崩したその瞬間。
一息。
一歩。
中断された一撃。
勝ちはしなかった。
だが、それ以上の何かを――掴んだ。
相手の中に、疑念を植えつけた。
その“確かさ”は、敗北よりも重かった。
教室に戻った今――
手紙を握る手に、力が入る。
皆が知っている。
地に倒れたのは、彼。
だが――
その場を制したのも、彼だった。
“尊敬”は与えられるものじゃない。
――拳で、勝ち取るものだ。
手紙の最後には、こう綴られていた。
「ここにいる者たちは、誰もが驚くほど強くて、魅力的だ。
……本当なら、もっとこの神の世界を知りたい。
だけど、今のオレには――そんな時間はない。
あいつを見つけなきゃならない。
どこにいようと……必ず、連れ戻す。
――エデン」
しばしの沈黙。
そして――深い、ひとつの呼吸。
どの位置から始めようと、何人が前にいようと――
たったひとつ、確かなことがあった。
――この数字が、オレを決めるわけじゃない。
教室の灯りが、一つ、また一つと消えていく。
最後の忠告が響いたあと――そこには、短くも重い沈黙が残された。
数人は自信に満ちた足取りで教室を後にし、
また別の者たちは小声で囁き合いながら、誰が今どの位置にいるのかを探る。
“ランク”という見えない王冠を背負いながら。
彼は――最後まで席に残っていた。
教室の階段を降りるその足音は、ひとつひとつがやけに大きく響いた。
外に出ると、空気は思った以上に冷たかった。
……緊張のせいかもしれない。
あるいは、久しぶりに“自分が小さく感じた”からかもしれない。
だが、胸にあったのは“悲しみ”ではなかった。
それは、奇妙な感覚だった。
――悔しさ。
――誇り。
――飢え。
まるで、戦いを終えたばかりの空腹――
けれど欲するのは“食事”ではなく、“さらなる闘争”。
「……で、どうだった?」
柱にもたれていた声が、闇の中から姿を現す。
――乱れた髪。
――いたずらな笑み。
どこかすべてを見透かすような視線。
そこに立っていたのは、あの男だった。
まるで“彼が最後に出てくる”ことを知っていたかのように。
「……見てたぞ」
返事を待たずに続ける。
「カードを受け取ったときのあの手の震え……ちゃんと見てた」
返事はなかった。
ただ、まっすぐな視線を返す。
「……悔しかったか?」
「……少しだけ」
「諦める気か?」
「……絶対に、ない」
その一言に、男の笑みが深くなる。
まるで、その答えだけを待っていたかのように。
「……いい子だ」
ふたりは、寮とは反対方向へと歩き出す。
足元の灯りは弱く、道は長かったが――言葉はいらなかった。
目的は、ただ一つ。
――前へ、進むこと。
「なあ、お前。オレがGODSに入った最初の日のランク、知ってるか?」
途中で男が立ち止まる。
その問いに、驚いた顔が答えの代わりとなった。
「……銅ランクの三十九位。
かなり下の方だった。
みんな、笑ってたよ。
――オレがその笑いを“消す”まではな」
「……今は?」
「今は――“誰にチャンスを与えるか”を決める側になった」
再び訪れる沈黙。
だが、それはもう気まずさではなかった。
そこにあったのは――重みと、意味。
「……他人に言われなくても分かってるだろ?」
「お前がどれだけの価値を持ってるか。
でも、それを証明するには――
ヤツら全員に飲み込ませるしかない。
言葉も、数字も、軽蔑の視線も――全部な」
校舎の影が、ゆっくりと二人の前に伸びていく。
「……オレの目には、お前がどう映ってると思う?」
問いに、彼は目を細めた。
「――“戦士”だ。
まだ自分自身の姿に気づいてないだけ。
でも、それに気づいたとき……お前は全てを薙ぎ払う存在になる」
間を置いて、彼が尋ね返す。
「……じゃあ、あんたは?
自分を見て、何が見える?」
しばらく、答えはなかった。
だが――たった一言で、すべてを語った。
「……オレ自身もまだ理解していない、“何か”の始まりだよ」
やわらかな風が、エデンの頬を撫でた。
時間が、ふと止まったような感覚。
その男は、影に包まれながらも、不思議なほど静かに、そして安らかに彼を見つめていた。
「お前の目は、すべてを失った者の目をしている。
……だが同時に、すべてを取り戻す意思を宿した者の目でもある」
エデンは返さなかった。
ただ、呼吸を整えながら、胸の奥で鳴る感情の残響を感じていた。
男は、数歩下がる。
もう語ることはないというように。
だが、立ち去る前に――ほんの少しだけ顔を向けた。
唇には、またあの笑みが浮かぶ。
「……歩き続けろ、少年。
お前の“信念”がもっと強くなったとき――また会おう」
そう言い残し、その姿は――風に溶けるように、ゆっくりと消えていった。
エデンは瞬きをする。
気がつけば、また学院の一角に立っていた。
空には、雲の隙間から陽光が差し込んでいる。
すべてが、いつも通りに戻ったかのように。
――ただひとつを除いて。
胸の中に残る、奇妙な温もりだけが、確かに“何か”が起きたことを告げていた。
「……あの人、誰だったんだろう」
それは、夢だったのか。
それとも――人生で最も“リアル”な邂逅だったのか。
答えが訪れることはなかった。
だが、エデンの中では確信があった。
あの出会いは、終わりじゃない。
――始まりだった。
神々の世界は、潜在能力が示されなければ価値がなく、実力よりも階級制度が重視される非情な世界です。何度戦っても、何度立ち上がっても…成長を認める目がなければ、あなたは弱い者として見られ続けるでしょう。
しかし、最後の者、拒絶された者、忘れられた者が置かれるまさにその片隅でこそ、真の変化が生まれることが多いのです。
GODS の生徒たちがついに最初の公式判定を受ける。彼らの言葉や理想ではなく、戦いで彼らが貢献したことにより。その認知を喜ぶ者もいれば、残酷な真実に目覚める者もいる。
この場所では、それらはまだ何の意味も持ちません。
そして、最後の段階に立っていることを知った瞬間、魂は自らを揺さぶり、ついに上昇することを決意するのです。
—————————————————————————————————————
朝陽がまだ地平線に顔を出したばかりの頃。
その静寂を破ったのは――空中に浮かぶ、小さなホログラムから発せられた声だった。
「全学生へ通達。至急、第一講堂へ集合せよ」
青白く点滅した映像が、すっと消える。
「……マジかよ。まだ訓練終わって一日も経ってねえのに……」
疲れたため息が部屋に落ちる。
講堂への道のりは、いつもより長く、重たく感じた。
壁という壁が、自分を見下ろし、沈黙のまま裁いているかのようだった。
辿り着くと、すでに全員が揃っていた。
見知った顔。
無関心な者。
敵意を隠そうともしない者たち。
教壇の前には、ひとりの人物が佇んでいた。
その存在だけで空気が変わる――気品と威厳をまとった姿。
「来てくれて嬉しいわ。
本日、皆さんには最初の“公式ランク”が与えられます。
これより、各自にランクカードを配布します」
ざわ……と、軽いざわめきが教室を走る。
誰もが、それが何を意味するのか知っていた。
――GODSにおいて、ランクは“全て”だ。
「ご存じの通り――」
彼女は続ける。
「この学院では、“神の候補”たちを“金・銀・銅”の三段階で評価します。
この判定は“潜在能力”ではなく、“実績”に基づくものです。
禅華エネルギー、身体能力、持久力、速度、技術、そして総合的な成果。
――ここでは、可能性ではなく、結果だけが価値を持つのです」
空気が張りつめる。
「それでは、上位から発表していきます」
名前が呼ばれる。
その最初の一人に、誰もが納得していた。
「――金ランク第10位、ヨウヘイ・アクティナ」
彼は、無駄な動きひとつなく立ち上がり、
当然のごとく前に進む。
カードを受け取っても、誰にも視線を向けなかった。
「――金ランク第15位、ゼフ・ミズシマ」
深い沈黙。
彼もまた、表情を崩さぬまま前へ出る。
まるでその数字自体に意味がないかのように。
「――金ランク最後、第20位、ロワ・マッチ」
驚きが走った。
誰もが彼女の名を予想していなかった。
だが、彼女は堂々と歩き出す。
笑顔も、誇りもなく――ただ、静かに、確かに。
そこから、じわじわと不穏な空気が広がっていく。
誰かが待ち望んでいた名前が――呼ばれない。
「――銀ランク第5位、シュウ・サジェス」
微かなざわめき。
そして、それ以上に静かに下を向いたシュウの姿。
何も言わず、ただ……拳を握り、席へ戻る。
ひとり、またひとり。
銅、銀。
ランクと番号が続いていく。
名が呼ばれるたび、空気が冷えていった。
そして――最後の名が読み上げられる。
「――エデン・ヨミ。銅ランク。第45位」
時が止まったかのようだった。
――45位。
――最下位。
空気が、ほんの一瞬だけ、濃くなる。
その時――彼女の声が、少しだけ柔らかくなった。
「……君には、ひとつだけ伝えておく」
「君の持つ可能性に、誰も異論はない。
だが、今の君は“その力を制御できていない”。
制御できない力に、価値はない。
だからこそ、君は“最下位”なの」
エデンは、何も言わなかった。
ただ、脳裏に浮かぶ言葉が、霧のように散っていく。
(……最下位、か)
だが――
声の調子が変わった。
今度は、真っ直ぐで、迷いがなかった。
「――変えたいのなら、“強く”なれ。
自分の力を証明しなさい。
その時こそ、上を目指せる」
重苦しい沈黙が、わずかに解けた。
「最後に一言だけ――」
その声は教室全体を貫いた。
「――私は今年、誰にも負けるつもりはない。
だから、君たちも全力で挑んでこい」
「――はいっ!!」
教室が一斉に応えた。
誰かは拳を握りしめ、
誰かは黙って俯く。
だが、どの心にも――火が灯っていた。
GODSという場所では、ランクがすべてを語る。
だが、それは“今の立ち位置”を示すだけではない。
――どれだけその場所から抜け出したいのか。
その覚悟までも、浮き彫りにするのだった。
教室には、さっきまでの熱気が嘘のように静けさが戻っていた。
だが、その中で――ひとりだけ、心を休められずにいた。
――四十五。
その数字が、壊れた鐘のように、何度も頭の中を鳴り響かせていた。
最下位。
一番下。
他の生徒たちは、それぞれの想いを胸に、談笑していた。
満足そうな者、悔しげな者。
誇らしげに目を合わせる者もいれば、陰でこそこそ囁く者もいた。
その喧騒の中で、彼だけは――微動だにせず、まるでまだ現実を受け入れられずにいるかのようだった。
ポケットの中で、折りたたまれた一通の手紙が存在を主張する。
指先が震えるように、その紙を引き抜いた。
――「GODSに入って、一週間が経った……」
文字は自分のものだった。
だが、文章はまるで“誰かに”ではなく、“自分自身”への呼びかけのようだった。
エデンは、迷わぬよう、初心を忘れぬようにと、
時々こうして手紙を書くようにしていた。
――「最初は不安だった。けれど、仲間たちの力を見たとき、迷いは消えた」
それは、単なる技やエネルギーの話ではなかった。
決意。本能。欲望。
――神の玉座ではなく、“居場所”を求める瞳。
そして――思い出す。
二日前の戦い。
あの者と向き合った日。
ゼウスの息子と――ぶつかった瞬間。
力の差は、誰の目にも明らかだった。
勝つ見込みなど、どこにもなかった。
だが――それでも彼にとっては、意味のある戦いだった。
最初の一撃。
突き刺さるような速さ。
腹にめり込む衝撃。
宙を舞い、円の外へと放り出される瞬間。
だが、立ち上がった。
勝ち目がないと分かっていても。
「……まだ始まったばかりだ」
その言葉は、嘘じゃなかった。
即興の作戦。
無謀な一手。
足を狙ったその一瞬。
――“神の子”が、初めてバランスを崩したその瞬間。
一息。
一歩。
中断された一撃。
勝ちはしなかった。
だが、それ以上の何かを――掴んだ。
相手の中に、疑念を植えつけた。
その“確かさ”は、敗北よりも重かった。
教室に戻った今――
手紙を握る手に、力が入る。
皆が知っている。
地に倒れたのは、彼。
だが――
その場を制したのも、彼だった。
“尊敬”は与えられるものじゃない。
――拳で、勝ち取るものだ。
手紙の最後には、こう綴られていた。
「ここにいる者たちは、誰もが驚くほど強くて、魅力的だ。
……本当なら、もっとこの神の世界を知りたい。
だけど、今のオレには――そんな時間はない。
あいつを見つけなきゃならない。
どこにいようと……必ず、連れ戻す。
――エデン」
しばしの沈黙。
そして――深い、ひとつの呼吸。
どの位置から始めようと、何人が前にいようと――
たったひとつ、確かなことがあった。
――この数字が、オレを決めるわけじゃない。
教室の灯りが、一つ、また一つと消えていく。
最後の忠告が響いたあと――そこには、短くも重い沈黙が残された。
数人は自信に満ちた足取りで教室を後にし、
また別の者たちは小声で囁き合いながら、誰が今どの位置にいるのかを探る。
“ランク”という見えない王冠を背負いながら。
彼は――最後まで席に残っていた。
教室の階段を降りるその足音は、ひとつひとつがやけに大きく響いた。
外に出ると、空気は思った以上に冷たかった。
……緊張のせいかもしれない。
あるいは、久しぶりに“自分が小さく感じた”からかもしれない。
だが、胸にあったのは“悲しみ”ではなかった。
それは、奇妙な感覚だった。
――悔しさ。
――誇り。
――飢え。
まるで、戦いを終えたばかりの空腹――
けれど欲するのは“食事”ではなく、“さらなる闘争”。
「……で、どうだった?」
柱にもたれていた声が、闇の中から姿を現す。
――乱れた髪。
――いたずらな笑み。
どこかすべてを見透かすような視線。
そこに立っていたのは、あの男だった。
まるで“彼が最後に出てくる”ことを知っていたかのように。
「……見てたぞ」
返事を待たずに続ける。
「カードを受け取ったときのあの手の震え……ちゃんと見てた」
返事はなかった。
ただ、まっすぐな視線を返す。
「……悔しかったか?」
「……少しだけ」
「諦める気か?」
「……絶対に、ない」
その一言に、男の笑みが深くなる。
まるで、その答えだけを待っていたかのように。
「……いい子だ」
ふたりは、寮とは反対方向へと歩き出す。
足元の灯りは弱く、道は長かったが――言葉はいらなかった。
目的は、ただ一つ。
――前へ、進むこと。
「なあ、お前。オレがGODSに入った最初の日のランク、知ってるか?」
途中で男が立ち止まる。
その問いに、驚いた顔が答えの代わりとなった。
「……銅ランクの三十九位。
かなり下の方だった。
みんな、笑ってたよ。
――オレがその笑いを“消す”まではな」
「……今は?」
「今は――“誰にチャンスを与えるか”を決める側になった」
再び訪れる沈黙。
だが、それはもう気まずさではなかった。
そこにあったのは――重みと、意味。
「……他人に言われなくても分かってるだろ?」
「お前がどれだけの価値を持ってるか。
でも、それを証明するには――
ヤツら全員に飲み込ませるしかない。
言葉も、数字も、軽蔑の視線も――全部な」
校舎の影が、ゆっくりと二人の前に伸びていく。
「……オレの目には、お前がどう映ってると思う?」
問いに、彼は目を細めた。
「――“戦士”だ。
まだ自分自身の姿に気づいてないだけ。
でも、それに気づいたとき……お前は全てを薙ぎ払う存在になる」
間を置いて、彼が尋ね返す。
「……じゃあ、あんたは?
自分を見て、何が見える?」
しばらく、答えはなかった。
だが――たった一言で、すべてを語った。
「……オレ自身もまだ理解していない、“何か”の始まりだよ」
やわらかな風が、エデンの頬を撫でた。
時間が、ふと止まったような感覚。
その男は、影に包まれながらも、不思議なほど静かに、そして安らかに彼を見つめていた。
「お前の目は、すべてを失った者の目をしている。
……だが同時に、すべてを取り戻す意思を宿した者の目でもある」
エデンは返さなかった。
ただ、呼吸を整えながら、胸の奥で鳴る感情の残響を感じていた。
男は、数歩下がる。
もう語ることはないというように。
だが、立ち去る前に――ほんの少しだけ顔を向けた。
唇には、またあの笑みが浮かぶ。
「……歩き続けろ、少年。
お前の“信念”がもっと強くなったとき――また会おう」
そう言い残し、その姿は――風に溶けるように、ゆっくりと消えていった。
エデンは瞬きをする。
気がつけば、また学院の一角に立っていた。
空には、雲の隙間から陽光が差し込んでいる。
すべてが、いつも通りに戻ったかのように。
――ただひとつを除いて。
胸の中に残る、奇妙な温もりだけが、確かに“何か”が起きたことを告げていた。
「……あの人、誰だったんだろう」
それは、夢だったのか。
それとも――人生で最も“リアル”な邂逅だったのか。
答えが訪れることはなかった。
だが、エデンの中では確信があった。
あの出会いは、終わりじゃない。
――始まりだった。
0
あなたにおすすめの小説
祈りの果てに ― 無限の箱庭で笑う者 ―
酒の飲めない飲んだくれ
ファンタジー
俺は一度、終わりを迎えた。
でも――もう一度だけ、生きてみようと思った。
女神に導かれ、空の海を旅する青年。
特別な船と、「影」の船員たちと共に、無限の空を渡る。
絶望の果てに与えられた“過剰な恩恵”。
それは、ひとりの女神の「願い」から生まれたものだった。
彼の旅路はやがて、女神の望みそのものを問い直す。
――絶望の果て、その先から始まる、再生のハイファンタジー戦記。
その歩みが世界を、そして自分自身を変えていく。
これは、ただの俺の旅の物語。
『祈りの果てに ― 無限の箱庭で笑う者 ―』
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
モブ高校生と愉快なカード達〜主人公は無自覚脱モブ&チート持ちだった!カードから美少女を召喚します!強いカード程1癖2癖もあり一筋縄ではない〜
KeyBow
ファンタジー
1999年世界各地に隕石が落ち、その数年後に隕石が落ちた場所がラビリンス(迷宮)となり魔物が町に湧き出した。
各国の軍隊、日本も自衛隊によりラビリンスより外に出た魔物を駆逐した。
ラビリンスの中で魔物を倒すと稀にその個体の姿が写ったカードが落ちた。
その後、そのカードに血を掛けるとその魔物が召喚され使役できる事が判明した。
彼らは通称カーヴァント。
カーヴァントを使役する者は探索者と呼ばれた。
カーヴァントには1から10までのランクがあり、1は最弱、6で強者、7や8は最大戦力で鬼神とも呼ばれる強さだ。
しかし9と10は報告された事がない伝説級だ。
また、カードのランクはそのカードにいるカーヴァントを召喚するのに必要なコストに比例する。
探索者は各自そのラビリンスが持っているカーヴァントの召喚コスト内分しか召喚出来ない。
つまり沢山のカーヴァントを召喚したくてもコスト制限があり、強力なカーヴァントはコストが高い為に少数精鋭となる。
数を選ぶか質を選ぶかになるのだ。
月日が流れ、最初にラビリンスに入った者達の子供達が高校生〜大学生に。
彼らは二世と呼ばれ、例外なく特別な力を持っていた。
そんな中、ラビリンスに入った自衛隊員の息子である斗枡も高校生になり探索者となる。
勿論二世だ。
斗枡が持っている最大の能力はカード合成。
それは例えばゴブリンを10体合成すると10体分の力になるもカードのランクとコストは共に変わらない。
彼はその程度の認識だった。
実際は合成結果は最大でランク10の強さになるのだ。
単純な話ではないが、経験を積むとそのカーヴァントはより強力になるが、特筆すべきは合成元の生き残るカーヴァントのコストがそのままになる事だ。
つまりランク1(コスト1)の最弱扱いにも関わらず、実は伝説級であるランク10の強力な実力を持つカーヴァントを作れるチートだった。
また、探索者ギルドよりアドバイザーとして姉のような女性があてがわれる。
斗枡は平凡な容姿の為に己をモブだと思うも、周りはそうは見ず、クラスの底辺だと思っていたらトップとして周りを巻き込む事になる?
女子が自然と彼の取り巻きに!
彼はモブとしてモブではない高校生として生活を始める所から物語はスタートする。
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?
大好き丸
ファンタジー
天上魔界「イイルクオン」
世界は大きく分けて二つの勢力が存在する。
”人類”と”魔族”
生存圏を争って日夜争いを続けている。
しかしそんな中、戦争に背を向け、ただひたすらに宝を追い求める男がいた。
トレジャーハンターその名はラルフ。
夢とロマンを求め、日夜、洞窟や遺跡に潜る。
そこで出会った未知との遭遇はラルフの人生の大きな転換期となり世界が動く
欺瞞、裏切り、秩序の崩壊、
世界の均衡が崩れた時、終焉を迎える。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる