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第9章 瑞穂の亡霊たち
第515話 掩体壕の囚人たち
横田基地、より正確に言うと横田飛行場は多摩地域にある空軍飛行場だ。
在日米軍の所有する飛行場であり、航空自衛隊も間借りをしている。
おまけで国連軍の後方司令部も置かれている。
というのも忘れがちだけど朝鮮戦争が正式には終わってないからね。
なにかあったときのための連絡用に人員が配置されているのだ。
だけど基本的には在日米軍の基地である。
軍人と軍属、その家族のための居住エリアも存在する。
だが裁判所はなく、刑務所、留置所などの収監施設自体が存在しない。
なぜなら横田基地内は事実上の米国であり、この基地内では日本の刑法すら通用しないのだ。
犯罪者を取り締まるのはアメリカ空軍警備隊であり、日本の警察に権限はない。
在日米軍の兵士が基地の外で事件を起こして、逮捕前に基地内に戻ってしまった場合、その身柄の引き渡しが問題になるのはこのためだ。
アメリカと日本の間には犯罪人引渡し条約が結ばれているけど、実際に引き渡すかどうかは任意だよね。ということ。
さて話を戻そうか。
基本的に犯罪者を留置させることのない横田基地に運び込まれた、タイで確保された中華系犯罪集団がどういう扱いを受けているのか。
もちろん拘束し続けたままでは扱いに手間がかかりすぎる。
僕の手元にはスミスさんから渡された拘束者のリストがあるから、一応全員から聞き取りはしたのだろう。
百名くらいと聞いていたけど、134人もいますね。
中国人、タイ人、カンボジア人、ベトナム人、韓国人、日本人、うーん、国際的。
年齢も未成年者から60歳以上まで、多彩だ。
欧米人がいないなと思ったけど、口は挟まない。
本当にいなかったのかもしれないし、そっと別にしてあるだけかもしれない。
まあ、国際問題になりそうなことまでしてくれたのだから、それくらいは見逃すよ。
「こちらです」
案内されたのは円筒を半分に割って地面に置いたような、いわゆる掩体壕《シェルター》だ。
塹壕が地面を掘って攻撃から逃れるための空間を作るものであるのに対し、掩体壕は航空機を守るために設置された建造物だ。
空爆に耐えられる作りのものだと、非常に頑丈で、ただの人間が壊して逃げるというようなことは考えられない。
つまり出入り口となる側さえ封鎖してしまえば巨大な監獄ができあがる。
最低限の物資さえ搬入しておけば、しばらく死ぬようなことはない。
内部で殺し合いでもしないかぎりは。
自動小銃を手にした兵士たちが見張る掩体壕の中には134人がそれぞれ地面に座り込んでいた。
いくつかのグループに分かれているが、独りでいる者も多い。
暴力は行われていないか、もう懲りたか、どちらかであろう。
少なくともいまは全員が大人しくしている。
怪我をしているように見える人はいないけれど、米軍が回復魔法使いを置いていないはずがないので、回復されたのだろう。
現代《いま》は暴力のもみ消しが簡単な時代なんだ。
「例の時みたいに縛り上げますか?」
スミスさんが聞いてくる。
うーん、そうさせてもいいんだけど、手間だな。
「こちらのやることに一切口出しはしない。そういうことでいいですね?」
「ええ、間違いなく」
「じゃあ、アナ、英語、中国語、タイ語、ベトナム語、カンボジア語、韓国語で復唱してもらっていい?」
スミスさんが僕のことを樋口湊としているようだから、メルも樋口アナスタシア恵里ということになる。
メルはちょっと迷ったように首を傾げた。
「んと、英語、北京語、タイ語、ベトナム語、えとクメール語、韓国語でいいかな? 取りこぼしがあるかも」
「ああ、そうか、その国の人が必ずしも公用語を使えるとは限らないか。まあ、でも周りがやってたら同調するだろうし、従わない人は強制的にってこともできる。一旦やろうか」
僕はそう言って掩体壕の中に足を踏み入れる。
「注目! 皆さん、全員で手を繋ぎ、ひとつの輪を作ってください」
「Attention! Everyone, join hands and form a circle together.」
英語を皮切りに、メルは色んな国の言語で輪を作るように指示する。
僕らは威圧感を出してはいないけれど、背後にいる米兵の持った自動小銃が彼らの行動を後押しした。
なんにせよ彼らは従うしかないのだ。
それをすでに思い知らされている。
少し時間がかかったが、彼らは大きな輪を作り終えた。
「アナ、パーティ解散するよ」
いまリーダー権限を持つ僕はいつでもパーティ解散ができるのだけど、ちゃんと一声添えておく。こういう連絡はとても大事だ。こと恋愛に関してはね。
「うん。どっちも行っちゃったら、ここの人も不安だろうし。いってらっしゃい」
メルは僕にそうする言い訳をくれる。
本当はただ僕があちら側の光景をメルに見せたくないだけなんだけどな。
アーリア側の転移先は昨晩のうちにアーリアのダンジョン30層のポータル近くに変更してある。
僕は手近にいた人の肩に触れてキャラクターデータコンバートを発動した。
在日米軍の所有する飛行場であり、航空自衛隊も間借りをしている。
おまけで国連軍の後方司令部も置かれている。
というのも忘れがちだけど朝鮮戦争が正式には終わってないからね。
なにかあったときのための連絡用に人員が配置されているのだ。
だけど基本的には在日米軍の基地である。
軍人と軍属、その家族のための居住エリアも存在する。
だが裁判所はなく、刑務所、留置所などの収監施設自体が存在しない。
なぜなら横田基地内は事実上の米国であり、この基地内では日本の刑法すら通用しないのだ。
犯罪者を取り締まるのはアメリカ空軍警備隊であり、日本の警察に権限はない。
在日米軍の兵士が基地の外で事件を起こして、逮捕前に基地内に戻ってしまった場合、その身柄の引き渡しが問題になるのはこのためだ。
アメリカと日本の間には犯罪人引渡し条約が結ばれているけど、実際に引き渡すかどうかは任意だよね。ということ。
さて話を戻そうか。
基本的に犯罪者を留置させることのない横田基地に運び込まれた、タイで確保された中華系犯罪集団がどういう扱いを受けているのか。
もちろん拘束し続けたままでは扱いに手間がかかりすぎる。
僕の手元にはスミスさんから渡された拘束者のリストがあるから、一応全員から聞き取りはしたのだろう。
百名くらいと聞いていたけど、134人もいますね。
中国人、タイ人、カンボジア人、ベトナム人、韓国人、日本人、うーん、国際的。
年齢も未成年者から60歳以上まで、多彩だ。
欧米人がいないなと思ったけど、口は挟まない。
本当にいなかったのかもしれないし、そっと別にしてあるだけかもしれない。
まあ、国際問題になりそうなことまでしてくれたのだから、それくらいは見逃すよ。
「こちらです」
案内されたのは円筒を半分に割って地面に置いたような、いわゆる掩体壕《シェルター》だ。
塹壕が地面を掘って攻撃から逃れるための空間を作るものであるのに対し、掩体壕は航空機を守るために設置された建造物だ。
空爆に耐えられる作りのものだと、非常に頑丈で、ただの人間が壊して逃げるというようなことは考えられない。
つまり出入り口となる側さえ封鎖してしまえば巨大な監獄ができあがる。
最低限の物資さえ搬入しておけば、しばらく死ぬようなことはない。
内部で殺し合いでもしないかぎりは。
自動小銃を手にした兵士たちが見張る掩体壕の中には134人がそれぞれ地面に座り込んでいた。
いくつかのグループに分かれているが、独りでいる者も多い。
暴力は行われていないか、もう懲りたか、どちらかであろう。
少なくともいまは全員が大人しくしている。
怪我をしているように見える人はいないけれど、米軍が回復魔法使いを置いていないはずがないので、回復されたのだろう。
現代《いま》は暴力のもみ消しが簡単な時代なんだ。
「例の時みたいに縛り上げますか?」
スミスさんが聞いてくる。
うーん、そうさせてもいいんだけど、手間だな。
「こちらのやることに一切口出しはしない。そういうことでいいですね?」
「ええ、間違いなく」
「じゃあ、アナ、英語、中国語、タイ語、ベトナム語、カンボジア語、韓国語で復唱してもらっていい?」
スミスさんが僕のことを樋口湊としているようだから、メルも樋口アナスタシア恵里ということになる。
メルはちょっと迷ったように首を傾げた。
「んと、英語、北京語、タイ語、ベトナム語、えとクメール語、韓国語でいいかな? 取りこぼしがあるかも」
「ああ、そうか、その国の人が必ずしも公用語を使えるとは限らないか。まあ、でも周りがやってたら同調するだろうし、従わない人は強制的にってこともできる。一旦やろうか」
僕はそう言って掩体壕の中に足を踏み入れる。
「注目! 皆さん、全員で手を繋ぎ、ひとつの輪を作ってください」
「Attention! Everyone, join hands and form a circle together.」
英語を皮切りに、メルは色んな国の言語で輪を作るように指示する。
僕らは威圧感を出してはいないけれど、背後にいる米兵の持った自動小銃が彼らの行動を後押しした。
なんにせよ彼らは従うしかないのだ。
それをすでに思い知らされている。
少し時間がかかったが、彼らは大きな輪を作り終えた。
「アナ、パーティ解散するよ」
いまリーダー権限を持つ僕はいつでもパーティ解散ができるのだけど、ちゃんと一声添えておく。こういう連絡はとても大事だ。こと恋愛に関してはね。
「うん。どっちも行っちゃったら、ここの人も不安だろうし。いってらっしゃい」
メルは僕にそうする言い訳をくれる。
本当はただ僕があちら側の光景をメルに見せたくないだけなんだけどな。
アーリア側の転移先は昨晩のうちにアーリアのダンジョン30層のポータル近くに変更してある。
僕は手近にいた人の肩に触れてキャラクターデータコンバートを発動した。
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