廃課金最強厨が挑む神々の遊戯

葉簀絵 河馬

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第一章

第二十四話 エルディン戦役後 後編

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 アクロシア王国におけるヴォーダンによって【隷従】を掛けられた者たちの解放作業は、夜通し行われていた。ギルドマスターガルバロスや王国騎士団第三部隊隊長のケリー=ネッドを始めとした高レベルの者は事前に解放されていたため、時間さえ掛ければ解放ができるものの、王国が受けた被害はそれだけに留まらない。

 特に【隷従】を受けた者の心の傷と王国への信頼失墜は、壊滅的なまでの被害を受けたと言わざるを得ない。【隷従】を受けた者たちが、この日に最初に命令されたことが自分に近しい者を殺すことだったことが大きいだろう。少なくない犠牲が出ていることは確実で、それでも何とか進めることが出来ているのは、幸運により助かった者たちの尽力だと言える。

 ラナリアは次々に上がってくる報告に、投げ出したくなる気持ちを抑えるのに必死だった。現王でありラナリアの父にあたるデイヴィッド・オブ・デア・プファルツ・アクロシアは、【隷従】の支配下から解放された時点で気を失ってしまい、母も気は失っていないとは言え【隷従】の支配下にあった時の記憶によって塞ぎ込んでしまっている。

 もしも、あのフォルティシモという青年が傍に居れば、この作業にも楽しみを見つけられただろうと、あってはならない現実逃避をしていた。

「ラナリア様」
「ガルバロス」

 ギルドマスターであるガルバロスが姿を見せて、ようやく一息つくことができる。

 ラナリアの直轄である女性騎士も警戒を緩めて、お茶の準備を指示しているところからも、これまでどれほど大事であったかが窺える。要人のみを通す茶室へガルバロスを通し、部屋の中にはラナリアとガルバロス、ラナリア付きの護衛である女性騎士だけになる。

「ガルバロス、あなたの情報で本当に助かりました」
「勿体ないお言葉です。しかし、私自身【隷従】を受け、王国への背信を」
「その件に関してはお父様が復帰されてから考えることにしましょう。ですが、私はあなたは最高の情報を上げてくれたと考えていますよ」

 ガルバロスは明らかに年下であるラナリアに対しても礼節を失っておらず、老獪さを感じさせる態度で応じている。

「此度の件、フォルティシモという冒険者が主犯を滅したと主張をしておりましたが」
「事実です。私の目の前で、エルディンの首魁を一撃の下に斬り伏せました」

 王宮の天井を爆縮し、純白の神鳥を連れた彼は、天空を切り裂く漆黒の刃を以て憎きエルフの男を消滅させた。

「かなりの高レベルであると見ていましたが、それほどでしたか」
「レベル九九九九、否定もしなかったことから、事実でしょう」
「っ………。事実であれば、国家の均衡が崩れる緊急事態です」

 現実を正しく認識している高レベルで高い地位に就いている者が居ることに安堵する。彼一人でパワーバランスが崩れるなら、まだ考慮の余地がある事態だが、彼の機嫌一つで王国が壊滅するのは治安や安全保障以前の問題だ。今この瞬間にも何も知らない一般人が彼の機嫌を損ねて、王国崩壊の引き金を引いてしまうかも知れない。

 しかし、レベル八〇〇を高レベルと感じていた今までに、内心笑ってしまう。

「それには私も同意しますが、フォルティシモ様には、それ以上の秘密があると思います」
「秘密、ですか?」
「彼はレベル四二〇〇の者に対して、【解析】と思われるスキルを使いました。明らかに格下の者に対して、使う必要のないものです」
「【解析】が使えるのであれば、使うのは普通に感じますが」
「違います。彼はレベル四二〇〇でも敵になるかどうかを確認したのです。分かりますか? 彼はレベル九九九九という異常な数値でありながら、その数値だけが強さだと判断していないのです」

 レベル四二〇〇、それは異常なほど高レベルだと言える。人生の全てをレベルアップに捧げても到達できないほどのレベルだ。しかし、それすらも遙かに凌駕してなおかつ問題にならないと思う男がいる。

「我々にとって、未知の何かを知っている、ということですね」
「私は彼を一冒険者などと考えるつもりはありません。彼は、もはや一国の戦力以上と数えることのできる存在でしょう」

 王宮を爆縮させた魔術はまだ手加減していたのだろうが、あのヴォーダンというエルフの男を一撃の元に斬り伏せた魔技は、世界を割るかのような一閃だった。今思い出しても背中から震える。

「国力以上、ですか?」
「考えてもみてください。彼がその全力を以て、アクロシア王国を滅ぼすと言ったら、どうなりますか?」

 ヴォーダンが数年を掛けて【隷従】を仕掛けたなんて問題にならない。ラナリアの予測では数時間で王都は陥落し、ほとんど全ての人間は支配下に置かれるだろう。

 ガルバロスは、ラナリアの言葉を理解して神妙に頷いた。

「私は運が良かった。彼との面識を得られたのですから」
「とにかく、【隷従】への対策をしなければならないでしょう。奴隷商を呼び、早急に対策を話し合いましょう」
「そうですね。ですが、同じことはしばらくは起きません。私が見知らぬ誰かに隷属させられることもありません」

 ラナリアはフォルティシモの【隷従】を受けた。すべての制限がないと目の前で言われているし、フォルティシモが健在である限り誰かの【隷従】を受けることはない。

「それは? ………ま、まさか!」

 ラナリアはガルバロスの察しの良さに笑みを見せる。

「馬鹿なっ! 我が国の王女が、そんな!」
「ええ、私から望み、使って頂きました」
「っ、それは余りにも早急な決断です! フォルティシモの、奴の目的もハッキリしない、その状況で王女の!」
「ガルバロスの懸念も理解しています。私も同じことを考えました」

 ガルバロスはラナリアの考えた通りの進言をしてくれる。それはラナリアを守護している騎士にも聞こえるように、発言をしてくれる。

「しかし、あの瞬間しかありませんでした。あの時だけが、我が国の者が彼の懐に入れる瞬間でした。あの瞬間を逃せば、彼にとって我が国は路傍の石と成り果てたでしょう」
「それはっ」
「その瞬間に私の弟ではなく、私が立ち会えたことを女神に感謝しなければなりません」

 実際、弟が立ち会えたとしてもフォルティシモの興味を引けたとは思えない。フォルティシモが気にしたのは、ラナリアの容姿だけだっただろう。アクロシア王国王女という地位も、身につけた所作や教養も無しに、あの最強を名乗る男が見たのはラナリアの見た目だ。

「この件に関しては、ハッキリと申し上げさせて頂きます」
「どうぞ」
「彼の者は確かに高レベル。それも歴史上類を見ないほどの。しかし、精神的な成熟はそうではありません。彼は恐らく、社会の厳しさを知らずに育った者です。社会に守られているという感覚が欠如している。だから国への忠誠を考えることはありませんし、最後の一線において規則や規範を守ることもないでしょう」

 ラナリアよりも以前からフォルティシモと面識のあったガルバロスの言葉を聞いて、ラナリアは自分の予測が当たっていたことを確信した。

「しかも、あの力ですから、気に入らないことを全て力で解決して来た、いえ、解決出来てしまった。だから彼は自分の気に食わないものは力でねじ伏せ、欲しいものを諦めることがない」
「私の見立ても同じです。下手をすれば二国を敵に回す状況で奴隷の女の子一人を助けにやってくるなんて、英雄譚の読み過ぎです。子供だって空想するだけで実行しようとは考えません」

 フォルティシモという青年の評価はラナリアとガルバロスはそう変わらない評価を下しているものの、そこから導く結論は異なっている。ラナリアは何故異なるかを理解しているので、それに関しての議論をするつもりはない。

「彼のことはあなたでは踏み込めないでしょう。あなたはギルドマスターとして接してください」
「お待ちくださいラナリア様、どうなさるおつもりですか?」
「父が目覚めたら今回の報告とウィリアムを国政へ参加させるように伝えます」
「ら、ラナリア様は?」
「フォルティシモ様に付いて行くことになるでしょう」
「馬鹿なっ!」

 ガルバロスは大声を出して立ち上がった、テーブルのお茶が零れそうになる。自分でも有り得ないことを言っている自覚があるため、ガルバロスの反応が面白いと場違いな感想が浮かんでしまう。

「彼の傍で親しくなれば人となりも更に分かります。彼は情に弱い性格でしょうから、キュウさんしか居ない状況で共に行けるのは大きなアドバンテージでしょう。私が彼とキュウさんと親密になれば、アクロシアが他国に攻められた際も簡単に防衛できます。超高レベルとレベル以外の強さに関しても教えて貰えるかも知れません」

 ガルバロスは尚も納得できない表情をしていた。

「私が彼の子を産むと、その子はどうなると思いますか?」
「将来の火種になりかねないかと」
「私の考えは違います。あの力を受け継ぐ子が、アクロシアの王となるのです」

 今回の侵略もあり、さすがのガルバロスもその意味を理解した。父である王もガルバロスも【隷従】を受けてしまった被害者ではあるが、国の安全を担わなければならない立場だ。一人の冒険者の英雄的行動で助かりました、めでたしめでたしでは終わらない。二度と同じことが起きないようにしなければならない。

 そして、それを防ぐ有効な手段が強い王の誕生であることは自明で、その方法はラナリアがあの最強を自称する男の子を産み、育てること以外に見つかっていない。さらに言えば、それまでの期間を彼に国を守って貰えれば言うことはない。

「自らの弱さを恥じ入るばかりです」
「彼が異常なほどに強いのでしょう」

 ガルバロスは椅子に座り直し、現状の報告をしてから退出した。護衛の女性騎士も言いたいことはあるだろうが、何も言わずに居てくれる。

「私も嘘が上手くなったものですね」

 ラナリアの自嘲は誰かに聞かれることはなかった。
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