交際0日同棲生活

おみなしづき

文字の大きさ
32 / 33

彼女?がいます! ②

しおりを挟む
 女装で、一緒に手を繋いで街を歩く。
 最初はすっごく緊張して、足取りもおぼつかなかった。
 履き慣れない靴に歩き方も女性っぽくなっている気がする。
 けれど、すごく嬉しそうにするたっつんに絆されて、自分も少しずつ悪くないと思えるようになってきた。

 たっつんは、ずっと手を離さなかった。

「こんな風に街を歩けて嬉しいです」
「そ、そうだな……」

 俺は声を出したら男だとバレるので、なるべくたっつんの耳元で囁く。
 慣れてきても恥ずかしいものは恥ずかしい。
 今だって道の端っこを歩く感じだ。

「ふふっ。食事して帰りますか?」
「でも……あまり人がいる所は嫌だ……」
「でしたら……個室がある所があるんです。そこにしましょうか」

 個室ならいいかもと思いつつ、コクリと頷いた。

「あれ? 白石?」

 そう言ってすれ違い様に声を掛けてきたのは、山下やましたと言って、たっつんの大学の同級生らしい。
 相手もデートだったようで派手な女性と腕を組んでいた。
 ペコリとお辞儀だけする。

 手を離そうとしたけれど、たっつんは握ったまま離そうとしなかった。
 仕方なく手繋ぎのまま話をする。

「新しい彼女? こんな綺麗な人と付き合ってんの? 今まで来るもの拒まず去るもの追わずだったけど……今回も彼女からか?」

 クスクス笑いながらそんな事を言ってきた。
 なんだ? こいつ……過去のたっつんの事を俺に教えてどうするんだ?
 俺が過去を気にするやつだったら、たっつんと喧嘩になってもおかしくない。
 少し失礼なやつだな……。

「僕からですよ」

 たっつんもニコニコとするだけで、何を考えているのやら……。

「え? そりゃ珍しい……」

 マジマジと見るなよ。
 とりあえず微笑んでおく。

「白石さんて、とってもカッコいいですね」

 男が男なら、女も女だ。彼氏の前で別の男をカッコいいって言うか?
 ほら、彼氏がちょっとムッとしたぞ。
 あ。そーいや、彼氏も俺のこと綺麗な人とか言ってたな。男とも知らずに笑っちゃうな。

「俺ら、これからそこの店で食事だけど、お前らも来るか?」

 そう言って指差したのは、高層ビルだった。
 そこのレストランって事?
 これは断ってほしいかも……。

「会員制だから、お前らだけじゃ入れない所だぜ。一緒に連れてってやるよ」

 ニヤニヤと意地が悪い。
 たっつんが俺の方を向いて微笑む。

「マサ……ミ……いいですか?」

 マサミ……って誰だよ……。

 たっつんのマサミ呼びに心の中で大笑いだ。思わずマサって言っちゃって、俺はマサミになったらしい。
 こんな奴らと食事は嫌だけれど、たっつんが面白かったので、それに免じて少し付き合ってやろうと思う。

「いいわ」

 自分の出せる一番高い声でそっと話してみた。
 意外といけるものだ。
 おまけの笑顔も忘れずに。

「白石の彼女……本当綺麗だな……」

 ボソリと山下が呟いた言葉に、内心で大笑いだ。

     ◆◇◆

 連れて来られた高級レストランに目が飛び出そうだった。

「お前ら、俺が一緒で良かったな」

 山下が得意げにそんな事を言うが、顔がひきつらないようにするのが精一杯だ。

「彼、山下商事の息子だから」

 彼女も得意げに胸を張るが、お前関係ないだろ……。

「お前らには払えないだろうから、俺が出してやるよ」
「結構です」
「あっそ……」

 たっつんは、ニコニコと断ってしまう。
 山下がご機嫌ナナメだけれど、機嫌取るべきか?

「た、たっつん……本当に大丈夫?」
「問題ありません」

 ヒソヒソと囁き合う。
 なんともないように言うたっつんを信じるしかない。

 値段もわからないようなこんな高級店に連れてくるなんて、ちょっとした嫌がらせも入っているみたいだった。

 山下達の態度にムカついていたけれど、やっぱり付いてこなきゃ良かったと思い始めていた。

 店の中に入って、ギャルソン姿の店員さんは、丁寧に頭を下げる。

「山下ですが……」
「山下様。ご予約ありがとうございます。二名様というご予定でしたがそちらは?」
「どうしてもここで食事したいって言うから連れてきたんです。いいですか?」

 おい。そんな事一言も言ってないぞ山下。

「急な変更は困りますが──おや?」

 店員さんは、たっつんを見て満面の笑みを向けた。

「龍彦様ではないですか。ご無沙汰しております」
「原さん、お久しぶりです」

 たっつんは、にこやかに挨拶なんて交わして、名前で呼び合っている。
 それを見て、山下もその彼女も驚いたのに声が出ないと言う風に、口をパクパクしていた。
 俺も内心で驚いていた。

「白石! お前、ここの会員なのか⁉︎」
「ええ。顔馴染みです」
「すっご~い。ねぇ、白石さん。来るもの拒まずなんでしょ? 私と連絡先交換しません?」

 うぉい! 彼氏の前で別の男ナンパすんな!
 しかも、彼女は、俺達が手を繋いでいる反対側のたっつんの腕を組もうとする。
 俺の前で堂々と腕を組もうとするなんて神経の図太い女だ。
 たっつんは、冷めた目で彼女を見据えて手を振り払った。

「いつの話をされているんですか? あなたみたいな下品な女性は勘弁してほしいですね。僕は彼女しかいらないです」

 そう言って、繋いでいた手の甲にチュッとキスされた。
 真っ赤になった俺に微笑む。

「山下様と、ご一緒ではないのですか?」
「いいえ。違います。急なんですが、で食事したいので、個室は空いていますか?」
「はい。こちらにどうぞ」

 たっつんは、そう言って山下達を置いていってしまった。
 そうして案内された個室でたっつんと対面しながら食事をする。
 メニューなんてわからないから全部たっつんに任せっぱなしだ。

 俺はもちろん大笑いしたいのを堪えてフルフルと震えていた。
 まさかたっつんの方が来慣れていた店だとは思わなかった。
 家賃いらないとか言ってる時もあったし、たっつんは、俺が思っている以上にセレブなんじゃないかと思う。

「見たか! あいつらの顔! ははっ、今頃揉めてるぞ!」
「ふふっ。面白かったですね」
「たっつん、ここのお店ってわかってたのか?」
「指差して会員制だと言った時に何となくです」

 ニコニコと笑うたっつんも実はあいつらと一緒が嫌だったみたいだ。

「友達じゃないのか?」
「友達じゃありませんよ。大学時代から何かと因縁つけて絡んでくるやつだったので、スッキリしました」
「そりゃ良かった。一緒に食事するって行った時は、どうしようかと思ったけどな」
「せっかくの正親さんとのデートなんです。二人きりがいいに決まっています。邪魔されたくありません」

 嬉しい事を言ってくれる。

 原さんと呼ばれていた店員さんは、給仕の合間にたっつんと言葉を交わしていた。

「龍彦様が女性を連れてくるだなんて初めてですね」

 初めてなんだ……。
 来るもの拒まずだったはずなのに、女性を連れて来るのが初めてだなんて嬉しい。
 プライベートな空間に、入れてくれたような気がした。

「僕の大切な人です」

 たっつんがそう言いながらこちらを見つめるので真っ赤になる。

「ごゆっくりしていって下さい」

 そう言って微笑まれたら余計に恥ずかしかった。

     ◆◇◆

 お腹はいっぱいになったけれど、履き慣れない靴のせいで足が痛くなってしまい、デートは終了だ。
 家の前でタクシーを降りる。
 抱っこしたがるたっつんを、家までは歩けると説得して歩く。
 その間もずっと手を繋ぎっぱなしだ。
 いつの間にか恋人繋ぎになっていて、嬉しいやら恥ずかしいやら……。

「今日はとても楽しかったですね」
「そうだな……でも、もう二度とこんな格好したくない。気を使いすぎて疲れた」
「それでも、僕の為にしてくれたんですよね? ありがとうございます」

 嬉しそうにお礼を言われると、こんな格好をした甲斐がある。
 家の前に来て、自分達の家のドアを開ける。

「俺も……手を繋いでいられて……う、嬉しかったよ……」

 パァァァッと音がしそうなたっつんの笑顔が眩しい。
 家の中に入ると同時に手は離れてしまったけれど、ギュッと抱きしめられた。

「正親さん……その格好もいいですけど……僕はやっぱりいつもの正親さんが好きです」
「うん。俺も自分じゃないみたいで……もう脱いでいい?」
「脱がしてあげます。化粧も落として、いつもの正親さんを抱かせて下さい」
「お風呂……連れてって……」
「はい!」

 お姫様抱っこでお風呂場に直行だ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

【完結】エデンの住処

社菘
BL
親の再婚で義兄弟になった弟と、ある日二人で過ちを犯した。 それ以来逃げるように実家を出た椿由利は実家や弟との接触を避けて8年が経ち、モデルとして自立した道を進んでいた。 ある雑誌の専属モデルに抜擢された由利は今をときめく若手の売れっ子カメラマン・YURIと出会い、最悪な過去が蘇る。 『彼』と出会ったことで由利の楽園は脅かされ、地獄へと変わると思ったのだが……。 「兄さん、僕のオメガになって」 由利とYURI、義兄と義弟。 重すぎる義弟の愛に振り回される由利の運命の行く末は―― 執着系義弟α×不憫系義兄α 義弟の愛は、楽園にも似た俺の住処になるのだろうか? ◎表紙は装丁cafe様より︎︎𓂃⟡.·

タトゥーの甘い檻

マリ・シンジュ
BL
執着系わんこ攻(大学生)× 高潔な美形教授受(30代) どのお話も単体でお楽しみいただけます。 ​「先生、ここ……僕の瞳を入れるから。ずっと、僕だけを見てて」 ​真面目な大学教授・新城が、大学生の・羽生にだけ許した、あまりにも淫らな「わがまま」。 ​それは、誰にも見えない内腿の奥深くに、消えないタトゥーを刻むこと。 「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。 アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。 ​ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。 愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。 ​「……お前のわがままには、最後まで付き合う」 ​針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。 執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。

死ぬほど嫌いな上司と付き合いました【完結】

三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。 皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。 涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥ 上司×部下BL

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

処理中です...