転生ロリ王女は脳筋王子をおとしたい

須田トウコ

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ロリは庇った

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「ヒヒン!!」
「確かこっちだったな、リンリンとロリが登った木の向こう側は…」

 馬に乗ったドルーガは必死にライネベルテを追っていた。
 実は先程もう少しで捕まえられそうだったが、あと一歩の所でリンリンが木に登り、壁を伝い乗り越えた先へ逃げてしまったのだ。
 そうなると馬では後を追えない。仕方なく遠回りしたのである。
 そのまま先へ進むと…伏せっているリンリンと、そこに寄りかかってグッタリしているライネベルテを見つけた。ドルーガは慌てて近づき、馬から降りて彼女を抱き寄せた。

「ロリ!!!大丈夫か?!!」
「あ…ドラ様…?会えて良かった。ロリは…リンリンに勝ちましたのよ…」
「ん?一体何の話だ?…それより、怪我はないか?!ああ、所々体を擦っているな。でも目立った外傷は無いか…」
「ええ、大丈夫ですわよ…ちょっと魔力を使い過ぎて頭がクラクラしているだけ…ですわ」
「そうか、よかった…」

 そう言って安堵の表情をしたドルーガだったが、すぐに顔から表情を無くしてリンリンを見た。
 …自身の武器である、大槍を持ちながら。それを横目で見たライネベルテは驚き、叫んだ。

「お、お待ちになってドラ様?!一体何をなさるおつもりなの?!」
「リンリンは人間に手を出した。このまま城へ連れ帰る事はできない…可哀想だが…」

 ドルーガは持っていた大槍をクルッと回し、穂先をリンリンに向けた。
 その行動の先を読んだライネベルテは、魔力切れの体を起こし、なんとか這いずってリンリンとドルーガの間に割って入る。

「だ、だだだダメですドラ様!!!」
「そこを退くんだ、ロリ」
「嫌ですわ!何か誤解されてますわね?!ロリとリンリンは、その…じゃれていただけですわ!」
「障壁魔法の使いすぎで魔力切れになるほど、じゃれていたのか?」
「うっ…」
「…タナノフではあまり肉食動物を飼わない。すぐ北に魔獣の巣があるからな、気づけば魔獣化してしまう事が多いんだ。
 リンリンもこれまで人様に手出しをしてこなかったから飼えたんだが…ロリを連れ去る所を多くの兵が見てしまっている。今頃城じゃ大騒ぎだ。
 例え一緒に帰っても…皆リンリンが魔獣化したんじゃないかと怖がって、もう誰も面倒を見ようとはしないだろう」
「じゃ、じゃあ…ロリが面倒をみますわ!ご飯もちゃんとあげるし、散歩もするわ!」

 …まるで、ダンボール犬を拾った子供と親のやりとりになっていた。

「連れ去られた張本人が飼うなんて、周りが反対するに決まってんだろ」
 そうドルーガに言われたライネベルテは…逆ギレした。

「…なによ、なによ!元はと言えば、ドラ様が悪いんじゃない!!」
「は?オラ??」

 突然自分の名を出されて、首を傾げるドルーガ。

「ドラ様が素敵だから…リンリンが惚れちゃって…近寄るロリを目の敵にしたのよ!
 今だってドラ様をめぐって争って…私が勝ったけど…大変だったんだから!!
 全部ドラ様がカッコいいのが悪い!!!」
「は?なんだそりゃ…」

 ドルーガはよく理解できないのか、こめかみを掻いた。
 その時、ライネベルテの背後で伏せっていたリンリンが、静かに立ち彼女の背に擦り寄った。まるで、「もういいわ」とでも言いたげに。

「リンリン…?」
「…ガウ」
 リンリンはドルーガに向かってゆっくりと頭を下げた。そして背を向け、トボトボと歩き出す。

「ちょっと待ってよリンリン!どこへ行くのよ?!」
「ガウッ…ガウ」

 止めようと手を伸ばすライネベルテに対して頭を左右に振り、彼女にも一礼した。
「止めなくていい…ありがとう」と、言っているようだった。
 そのままリンリンはガサガサと草むらに入って行き、やがて姿が見えなくなった。

「リンリンーー!!うわあああああん!!」
 ライネベルテはその場で大泣きした。

「…とりあえず城へ戻るぞ。皆心配してるからな」
 と、ドルーガに念願のお姫様抱っこをされたのに、ライネベルテはそれどころではなかった。

「うわああああん!リンリンの気持ちに気づかないなんて…ドラ様の鈍感ーーー!!」
「痛てっ。そ、それはオラが悪いのか?相手は虎だぞ?!」

 抱いている彼女に手足をバタつかせられ、理不尽な攻撃をくらうドルーガだった。

 するとそこへ、
「ちょっと!あんたたち!!そこで一体何をしてるんだい!!」
 と、ある女性の怒声がその場に響くのだった。
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