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ロリはアレが来てしまった
しおりを挟む果物を食べ終わった二人は、城へ戻りながら話をする。勿論、ドルーガの肩にライネベルテを乗せながらだ。
「それで、ドラ様…魔獣はおりましたか?」
「それがな、近辺を探したが一体もいなかったんだよ」
「えっ、そうですか…」
リンリンは動物が次々と魔獣化させられていると言っていた。
なのに全く見つからないとは…まさか、ウソをつかれたのだろうか。ライネベルテは急に不安になった。
「…逆に怪しいよな、ロリ」
「?何がですか?」
「よく出現する場所を集中して探したが、全くいねえんだ。普通一体くらいはいるだろ。
つまり魔獣化された動物たちは、どこかに集められ…何かの企みに利用される可能性が高いんじゃねぇかとオラは思う」
「そんな!動物達にはなんの罪もないのに…」
「だな。早々に見つけなきゃいけねぇが…とりあえず昼メシだな」
今さっき果物を食べたばかりなのに、と内心思うライネベルテだった。
・・・・・・・
昼食を食べる前に、また着替えさせられる。なぜ急に訪れた自分にこんなにドレスが用意されているのだろう、まさか国の金を使っているのでは?!と疑った貧乏王族のライネベルテだったが、それは違った。
それぞれのドレスが、かつてムキムキメイドさん達が着たくても着られなかったものをリメイクしたのだという。とっておくくらい未練があるなら着ちゃえばいいのに。
袖を通す前に、お手洗いに行かせてもらった………が、そこで事件は起きた。
「う、うそ……き、来ちゃっ…た……」
呆然とするライネベルテ。
そう、彼女にアレが来てしまったのである。これから半世紀近く付き合うことにあるであろう、アレ。月に一回コンニチワする、アレが。
前世でも経験していたのに、彼女はその場でアタフタしながらメイドさん達に報告した。
すると、たちまち大騒ぎになった。あるメイドは祝いの料理と菓子を用意すると言い出し、あるメイドは心を落ち着かせるための香炉を持ってきた。さらにあるメイドはリボンやフリルがふんだんに使われた服を持ってきた。
理由を聞くと、タナノフではアレが来た女の子はもう一人前の女性として扱わないといけないらしい。
そのためアレが終わる頃には落ち着いた服装にしないといけない。だから今のうちに悔いなくフリル服を着て欲しいとの事だ。
…別に今からでもシンプルな服を着たいのだけど。
まだ痛みはないが、身体に違和感があるため動きたくない…料理を食べる気力もなくなってしまった為、昼食を断りベッドでしばらく寝かせてもらう事にした。
(おっかしいわね…自分でももっと喜ぶと思ったのだけど。だってこれから胸がバーンて出て腰がキューってしてお尻もボーンってなっていく(願望)のよ?
大人の女性の仲間入りじゃない。なのに…こんなに寂しい気持ちになるなんて…)
何故か悶々としながら一人ベッドに入っていると、ドルーガが入って来た。
「おう、ロリ。…なんか体調が良くないんだってな。オラはナッジ達とまた付近を見回りに行ってくるから、休んどけ。な?」
「あっ…いえ、今度はロリもついて行きたいです。体は大丈夫ですから」
そう言って起きあがろうとするライネベルテだったが、ドルーガに手で制止された。
「おいおいおい、無理すんなって。
…オラそういうの無頓着だからさ。結構ツライやつはツライんだろ?ナッジが言ってたぞ。いいから寝とけって。んじゃ、出かけてくる」
「…………はい、お気をつけて…」
パタン、とドアが閉まる。独りぼっちになった部屋のベッドで、ライネベルテはさらに悶々とした。
(なによ…別に病気じゃないんだから…。
昨日まで皆してチヤホヤしてくれたのに…なんだか距離を置かれた感じ…。
なんだか寂しい…また私…こうやって一人きりになって…死んで………!!)
―その時、彼女の脳裏にまたもや前世の記憶がよみがえった。
…ある日仕事中に倒れ、病院に運ばれた。そこで彼女は余命一年の宣告を受ける。難病だった。
当然仕事は辞めざるを得なくなり、延命の治療を受ける一週間前に旅行した。やけくそだった。
旅行先で好きなものを食べ、飲み…そして釣りをしていた。そこで同じく一人旅をしていた女性と知り合い、仲良くなった。その矢先に…だめだ、それ以上は…思い出したくない。
―気づいたら、ライネベルテは部屋を飛び出していた。外で待機していた護衛の兵士がギョッとしている。
「お待ち下さいライネベルテ様!どちらへ?!」
「…やっぱり、先程出て行かれたドルーガ様について行きます!すぐ追いつくから心配しないで!」
言い終わらないうちに廊下を曲がり、階段を降りる。確か城の外へ出るには訓練場を通ったはずだ。そう思いながらひたすら走った。
しかし、まだ城に来たばかりのライネベルテは道を間違えていた。気がついたら訓練場ではなく、ポツンと建っている礼拝堂の前に来ていた。
「え…?どうしよう、違う場所に来てしまったわ……」
これではもうドルーガ達に追いつけない。
そう悟ったライネベルテは引き返そうとしたが…せっかくだからお祈りしていこう、と思い、礼拝堂の中へ入った。
マルロワ国とは違い、あまり華美な内装ではなかった。シンプルに長椅子と、奥にはこのマルタナアイ大陸を創ったという女神様の小さな像があった。
ライネベルテは奥まで進み、女神像の前で膝をついて祈った。
(どうして今まで深く考えなかったの…あたしは現世ではどれくらい生きられるんだろう。成人したらドラ様と結ばれて、なんて夢見る少女でいたけれど…その前にポックリいっちゃう可能性だってあるじゃない。
ああっ…怖い。怖いよ……誰か…)
突然襲われる不安にブルブル震えながら手を組み祈り続けていると、不意に入り口のドアが開く音がした。入ってきたのは…
「ん?こんな場所に来る人がいるなんて…おや、アンタはロリちゃんじゃないか!」
「…?あ、あなたは…ドミナさん…?」
この神聖な場所に不釣り合いの、キャットスーツに身を包んだドミナ看守長だった。
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