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芽生え始めた恋心

近づいてはいけない存在

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 久しぶりに会えたのに、ただその遠く離れた距離を改めて知っただけだった。自分に手を挙げた彼女はともかく、他の三人は上品で家柄も良い。
 


 遠い遠い彼との距離・・・・・・

 それでも帰りに彼が送ってくれたのは、嬉しかった。これと言った会話があった訳では無いけれど、二人っきりでいられたことだけで幸せと感じられた。
 
 また、普段と同じ生活をなぞっている。朝食を作ることから始まり、夜に洗濯する物を集めることで終わる。少しずつ気温が下がり、夜や早朝は肌寒いと上着を羽織ることも増えた。仕事は嫌では無いのに、はぁと深いため息をこぼすことが多くなった。原因はきっと、ゼライだろう。本心を言ってしまえば、ずっと側にいたいぐらいなのに、もう一生会えないと思う。そう思うだけでため息がこぼれ、寂しく、恋しくなる。

 メイにも会えないし、ゼライにも会えない。






 もう全て忘れてしまおう。好きという気持ちも、会いたいという気持ちも、全部無かったことにしてしまおう。
 ゼライなんて人は知らない。だから好きな訳がない。

 そしたらきっと、こんな辛い思いをしなくていい。見えないほど遠くに手をのばさなくてもいい。
 布団の中で涙を流さなくてもいい。
 

 あの日のように全て忘れてしまえばいい。




 大好きって、愛してますって、名前を呼ぶだけでも良かったのに・・・・・・・


 無かったことにするんだ。

 幸せになるために

 


 これが私の愛の形でいい。


 

 さようなら、私の記憶の中のゼライ様。
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