私の執事は王子様〜イケメン腹黒執事は用意周到にお嬢様の愛を乞う〜

玖保ひかる

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閑話 花園のお茶会

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 ルシアがアルフォンソのプロポーズを受けて、晴れて二人が婚約者となった後。

 部屋に乱入してきたアデレードとコルティジアーナに誘われて、ルシアは温室に用意された茶会の席に着いた。

「素敵な温室ですね」

 ルシアがお世辞抜きで褒めると、コルティジアーナが答えた。

「ここはアルフォンソ殿下の母君でいらしたミランダ側妃様が大切にしていた温室よ。ミランダ側妃様がご生前の頃は、御自身で手入れされていたそうよ。亡くなられてからは庭師がしているけど」

「そうなのですね。リアムのお母様が…」

「ルシアさん、これからは公の場ではアルフォンソ殿下とお呼びなさい。私的な場ではいいと思うけれど」

 アデレードに指摘され、ルシアは口元を上品に手で覆った。

「大変失礼いたしました。以後気を付けますわ」

「ふふふ、素直でかわいいわね。アルフォンソが好きになるのもわかるわ」

 妖艶な笑みを浮かべるアデレードに見つめられて、ルシアは照れて視線を下げた。

「ねえ、ルシアさん。あなた、どのくらいアルフォンソのことを知っているのかしら」

「…事情という意味でしたら、少し聞きかじったくらいであまりよく把握しておりません。ご教授いただけると嬉しいです。アルフォンソ殿下のお人柄、という意味でしたら、わたくしはだれよりも近くで彼を見て来たという自負はあります」

「あら、自信があるのね」

「ふふふ、わたくしたち二人とも、かつてアルフォンソの婚約者だったのよ」

「えっ」

 ルシアはアデレードとコルティジアーナを交互に見比べた。

 どちらも甲乙つけがたい飛び切りの美人。

 それに比べてルシアはチェスナットブラウンの髪に瞳、人目を引くような美人ではないと自覚があった。

(でも…)

 ルシアはここで下を向いたりはしなかった。

「それは存じませんでした。大変失礼ですが、おふたりはアルフォンソ殿下との婚姻をご希望されていらっしゃるのですか」

 二人はぷっと吹き出して、コロコロと美しい笑い声を立てた。

「ごめんなさいね、ルシアさん。ちょっとからかって見たくなっただけなの。わたくしたちが婚約者だったことは本当なのよ。でも、それも子供の頃に短い期間だけで婚約者らしい交流なんてまったくなかったわ」

「わたくしも幼馴染のような感じで、恋愛感情はなかったわ。もともとはわたくしと婚約が決まっていたのだけど、アデレード様がニコラオ元殿下との婚約を嫌がったからアルフォンソ殿下がそちらにあてがわれたのよ」

「ごめんなさいね。どうしてもニコラオとは結婚したくなかったから」

「あら!わたくしだっていやだったのですよ。国のため、どうしようもなく引き受けたけれども。破談になって本当によかったわ」

「だから心配しなくていいわ。わたくしたちはアルフォンソに恋しているわけじゃないの」

 ルシアは正直、かなりホッとした。

「お二人とライバルになるのは、かなり荷が重いと思ってしまいました」

「ほほほほ、そうは言うけど、アルフォンソはあなたのことしか考えていないわ。ライバルになったら、勝つのはあなたよ」

 そう言われてルシアはまた頬を赤く染めた。

 コルティジアーナは意志の強そうな瞳で、ルシアに告げた。

「わたくしはアンダレジアの王妃になるべく教育を受けて来たわ。かなり前からそのつもりでいたから、今さら王妃にならないという選択肢はないの。だからアルフォンソ殿下が立太子されていたら、王太子妃に名乗り出たと思うわ。でも、立太子されたのは第三王子のルクス殿下。少し年下だけれども、わたくしが支えて立派な王にしてみせますわ」

 すでに王妃の貫録を感じて、頭を下げたくなるルシアであった。

「だからあなたがアルフォンソ殿下と結婚するなら、わたくしたちは姉妹になるわ。あなたがお姉さまよ」

「そんな、コルティジアーナ様の方がどう考えてもお姉さまなのに…」

「ふふふ、わたくしもなんだか妹を持ったようで嬉しいわ。あなたとは長い付き合いになるから、仲良くなりたかったの。よろしくね」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」

 コルティジアーナとの会話がひと段落するのを待って、アデレードが口を開く。

「ねえ、ルシアさん。あなた、オーウェルズの貴族なのでしょう?ナリス第二王子のことは知っていて?」

「ええ、つい先日も港町でお会いしました」

「ああ、カスティヤで?」

「そうです。わたくしが乗って来た船に乗って国に帰られるとかで、たまたま。それでわたくしがアルフォンソ様に会いたいと申しましたら、紹介状を書いてくださったのです」

「あら、親切なところもあるのね?」

「え?はい。ナリス様はいつも親切ですが…」

「そうかしら。わたくしには、少し意地悪に思えましたわ」

 ルシアはびっくりしてアデレードを見た。

「何かございましたの?ナリス様は国ではどなたにでも親切で優しくて、お顔も美しいので令嬢には大変な人気でございました。意地悪な所は拝見したことがありませんわ」

「やはり令嬢に人気があったのね?」

「ええ、そうですね」

「あの方、わたくしのことは無視しますのよ」

「えっ!!」

 アデレードは少しいじけて見えた。

 それを横で聞いていたコルティジアーナが、呆れたように訂正する。

「ルシアさん、信じちゃだめよ。ナリス様は別にアデレード様を無視していなかったわ。ただ、特別扱いをしなかっただけで」

「このわたくしを見て、おきれいですねの賛辞もないのよ?信じられる?」

「会う度に今日もおきれいですねって言ってらしたわよ、ナリス様は」

「だから、あんなのは社交辞令でしょう?本音で言ってほしかったのよ」

「本音だったかもしれないじゃないですか」

「本音だったら、もう少し頬を赤らめるとか、恥じらいがでるでしょう?そういうのが一切なかったじゃない」

「はぁ…もう、ルシアさん、アデレード様はこのようにナリス様にぞっこんですの」

「まぁ!」

「ぞっこんじゃないわよ!頭に来てるの!」

 そう言いながらも顔を赤らめるアデレードを見て、ルシアは無邪気な笑みを浮かべた。

「ナリス様とアデレード様でしたら、美男美女でお似合いですね!素敵だわ!」

「…そうかしら?まあ、あちらが望むならば、考えなくもないわ」

「ナリス様は決まった婚約者の方もいらっしゃいませんし、女性に人気とはいえ浮いた噂は今まで一つも聞きませんわ。誠実な良い方です。わたくしは何度かお会いしていますが、一度もおきれいですねとは言われませんでしたよ。だからきっと、本当にアデレード様のことをおきれいと思っておっしゃったと思います!」

「まぁ、そうなの?ほほほほ、ルシアさんもかわいらしいわよ。女性を褒めないなんて、ダメな方ね」

 アデレードの機嫌が良くなったところで、コルティジアーナは矛先をルシアに変えた。

「それで、ルシアさんとアルフォンソ殿下のコイバナを聞かせてくださいまし」

「コイバナ!?」

「そうよ。どこで出会って、どう過ごして来たのかしら」

「えーっと…」

 こうしてルシアとリアムのコイバナが、根掘り葉掘りと掘り起こされ、後日、リアムは盛大に冷やかしを受けるのであった。


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