森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。

玖保ひかる

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第10話 友人

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 エイダンに事情を話し、川へアリステルを探しに行った。

 やはりアリステルは川で洗濯をしていた。

 真剣に一枚一枚、力をこめて洗っている。

 桶の半分ほどの洗濯物が終わっているようだった。


「アリス」


 レオンが声を掛けると、アリステルはパッと振り向き、にっこり笑った。


「レオンさん!おはようございます」

「ああ、おはよう。アリス、まだケガが治っていないのに大丈夫なのか」

「ええ、ほんの擦り傷ですもの。大丈夫ですわ」

「もう出発の時間だ。洗濯はもういいから戻ろう」

「え!もうそんな時間なのですか?!大変!またわたくし、うまくできなかったんだわ」


 アリステルはがっくり肩を落とした。

 レオンはなぐさめるようにアリステルの頭をポンポンとして、洗濯物を入れた桶を持ってやる。


「こんなにたくさん、一人で終わるわけない。お前が悪いんじゃない」

「…レオンさんは優しいのですね。ありがとうございます。また落ち込んでしまうところでしたわ」


 二人が戻って来たころには、すっかり天幕は片付けられ、もうじき出発するところだった。

 レオンは桶を女衆の荷馬車に持っていくと、すぐに護衛の位置に着く。

 アリステルの周りに、女たちが集まって来た。


「嬢ちゃん、大変だったろ」

「ほら!ライラ、謝りな!」

「あ、ライラさん!申し訳ございません。わたくし、頼まれた仕事が終わりませんでした」


 アリステルがしょんぼりとライラに頭を下げた。

 知らん顔をしたかったライラは慌てて否定する。


「ちょっと、やめてよ!」

「本当にすみませんでした」

「やめてったら!」

「いえ、でも…次はもっと頑張りますから」


 ムニーラや他の女たちが厳しい視線を投げかけていたので、ライラはついに癇癪を起して大きな声を出してしまった。


「いい加減にしてよ!そうやっていい子ぶって…!レオンの気を引こうとしているんでしょ!レオンはあんたが可哀そうな子供だから優しくしているだけなのに、勘違いしないで!レオンはずっと前からあたしの物なんだよ!」

「ライラ!」


 アリステルは少し寂しそうに微笑んだ。


「お気に障ってしまい申し訳ございません。レオンさんが可哀そうな子供だからと気にかけてくださっていることは、承知しておりますわ」


 ムニーラが怒ってライラを睨みつけ、かばうようにアリステルの肩を引き寄せた。


「ライラ、あんたがレオンを好きなのは別にかまわないけど、関係のないお嬢さんを巻き込むのはやめな。アリス、あんたは何も悪くないんだ。謝ることはないよ」


 周りの女たちがムニーラに同意する。

 すると、ライラは怒りで顔を真っ赤にして、目に涙をためてプイと離れて行った。

 別の荷車に乗るつもりなのだろう。


「アリス、嫌な思いをさせちまってごめんよ。ライラも悪い子ではないんだけど、レオンのことになると馬鹿になっちまうんだ」

「いいえ、大丈夫です。ライラさんは親切に洗濯の仕方を教えてくださったのです。汚れを落とすコツまで…。わたくしの手際が悪くてご迷惑をかけてしまいましたけれど、ライラさんには感謝していますわ」

「あんた…、ホントいい子だけど、ちょっと心配になるわね」


 ムニーラは腕を組んで苦笑した。



◆  ◆  ◆



 キャラバンが動き始めて、少し経った頃、レオンがアリステルに寄って来た。


 エイダンも一緒だ。


「アリス、朝飯を食べていないから腹が減っただろう。食え」


 そう言って、レオンは懐からリンゴを取り出し渡した。

 アリステルはにっこり笑って受け取ったが、どのように食べたらよいのかわからず首を傾げた。

 それを見てレオンも首を傾げたが、どうやら食べ方がわからないと気が付き、かじれ、と言った。

 アリステルは恐る恐るリンゴにかじりつく。

 小さい一口ではあったが、みずみずしいリンゴがジュワッとはじけた。


「美味しいわ!レオンさん、ありがとうございます」

「ああ」

「今朝はご迷惑をおかけしました」

「いや…」

「ライラさんを怒らせてしまって…。お二人は恋人なのですね。素敵ですわ」


 レオンはビシッと固まる。


「わたくし、レオンさんに同情で気にかけていただいていること、しっかりわかっていますわ!どうか、ライラさんにそのことをお話してくださいね。わたくしのせいで、お二人が喧嘩するのはいやなので…」


 アリステルが何を勘違いしているのかを理解したレオンは、否定する言葉も出て来ない。

 それを見ていてエイダンはケラケラと声をたてて笑った。


「レオン、ライラと恋仲だったのか!焼きもちを焼くなんて、かわいらしい恋人でいいなぁ!」

「ちがっ…!」

「いいって、いいって。そう恥ずかしがるなよ。嬢ちゃんにかまってるとまた焼きもち焼かれちまうから、これからは俺様が嬢ちゃんの面倒を見てやるよ」


 エイダンは心底愉快そうにレオンの肩をバンバンと叩いた。

 するとレオンは肩を震わせていたかと思ったら、エイダンの頭を脇に抱え込んでギュウっと力を籠めた。


「ひーっ!い、痛い。ギブ、ギブ」


 レオンは無表情のままエイダンの頭を抱え、アリステルに言った。


「俺とライラは恋仲ではない。仕事場が一緒になることがあるただの知り合いだ」

「え…?そうなのですか?ライラさんとよく話し合った方がいいのでは?」

「話し合うほどの関係もないのだが、アリスに迷惑をかけるようなことはやめるよう言おう」

「…?別に迷惑などありませんでしたわ」

「そうか…。それから、別に俺はお前に同情していない」


 そう言われて、アリステルは少しだけ悲しくなった。

 自分の境遇に少しは同情してくれていると勝手に思い込んでしまっていた。


(そうよね…。見ず知らずの間柄だったのに、同情してもらえるなんて、図々しかったわ)


「同情を寄せていただいていると勘違いしてしまいましたわ。わたくし、恥ずかしいです」


 落ち込んだようなアリステルの様子を見て、レオンは慌てた。

 言葉足らずだったかもしれないと思い当たった。


「あ、いや。そうでなくて、何と言えばいいんだ?可哀そうだからとかじゃないんだ。アリスはもう友人だ。親切にするのは当然だろう?」

「ありがとうございます!友人にしてくださるのですね!これから末永くよろしくお願いいたしますわ!」

「ああ」


 まだ頭を締め付けられていたエイダンが、騒ぎながらレオンの腕を叩き、ようやく放してもらった。


「まったく、素直じゃねーな。惹かれてるんだろ?冒険者なんて稼業はいつ、何があるかわからないんだ。その時思ったことはきちんと言葉にして伝えないと、後悔するぜ」


 そんなエイダンのつぶやきは、しかしレオンの耳には届かなった。
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