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第5話 クロとディーの出会い
しおりを挟むある日天界に、小さい黒猫が現れた。よろよろとふらつきながら、天界の門をくぐったのは、クロである。
飼い主の女の子に襲い掛かった暴漢に勇敢にもかみつき、ひっかき、果敢に戦った結果、投げ飛ばされて死んでしまったが、クロが頑張っている間に、物音を聞きつけ人が来たため、女の子は助かった。
(よかったにゃ…。さみしいけれど、バイバイにゃ…)
魂になって天に昇りかけたとき、ものすごい力で引っ張られる感じがして、気が付けば天界の入り口にいた。
(今の力はにゃんだろう…。ここはどこだろう…。あぁ…おにゃかすいたにゃ)
フラフラと歩いているクロを見て、天界の人々は冷たい視線を向ける。
「黒猫?なんて不吉な」
「猫の死神だと?!まさか終末戦争が始まるのか?!」
口々に恐ろしいことを言うので、クロは人目を避けて何日も過ごした。お腹がすいても、だれにも食べ物を与えてもらえなかった。
(もう、力が出にゃい…。消えちゃいそうなのよ…。もう一度あの子のもとに行きたかったにゃ)
クロが小さな瞳から、小さな涙を流したその時、柔らかい体を持ち上げる手があった。
「おい、大丈夫か」
それがクロとディーの出会いだった。
ディーは部屋にクロを連れて行くと、ミルクを温めて飲ませた。クロは少しずつなめて用意したミルクを全部飲んだ後、意識を失うように眠りに落ちた。寝ている間も、ディーは何度もクロの頭を優しくなでた。
クロが目覚めて食事を取れるようになると、ディーはクロをラダの執務室に連れて行った。
「おや、その子は。小さいかわいい子ですね」
「さまよっていたので拾いました。その、黒猫だったから」
ラダは一つ力強く頷いた。
「話ができるようにしましょう」
そう言ってラダは指をパチリと鳴らした。すると、小さな黒猫だったクロの体は、くるりと回転して人型に変化した。もとが子猫だからか、まだ年端もいかない少年の姿だ。
黒い髪に、黒い耳、柔らかそうな毛の黒い尻尾。
ディーはびっくりしてクロの体をまじまじと見つめた。
クロ自身も自分の手を見つめて、手を握ったり開いたりしてみている。そのあと、手で顔を触って見て、「ヒゲがにゃいー!」と叫んでいる。
ラダはふふふ、と嬉しそうに笑った。
「ぼく人間ににゃったの?!」
「いいえ、人型が取れるようになっただけです」
「にゃんだ、そうかー。びっくりしたのよ」
「名前は何と言うのですか」
「にゃまえ…」
クロは目をしばしばさせながら考え、そして答えた。
「クロ」
「クロというのですね。ディー、世話をしておあげなさい。元気になったら、仕事のことを説明しましょう」
ディーは無言で頷いた。ラダの執務室から出たとき、クロは丸い目をごしごしとこすった。
「あの人はだれ?」
「ラダ様だ」
「ディーはラダ様を見てもまぶしくにゃいの?ぼくはまぶしくて目がチカチカするのよ」
クロには、ラダは光の粉をまき散らしているみたいに見えた。あのように美しい人を見たことはなかった。
「ああ、直視しなければ大丈夫だ」
「直視?」
「まっすぐ見なければいいんだ」
「えー、でもラダさま、美しいから顔は見たいにゃ。どうやって見ればいいにゃ」
「たしかにラダ様は美しいが、ラダ様が言うにはハーデス様はもっと美しいらしい」
「にゃ!?じゃあハーデス様を見たら目がつぶれちゃうのよ」
「ははは、大丈夫だよ。俺たちがハーデス様にお会いすることはないから」
しばらくディーの部屋で世話をされ、すっかり元気を取り戻すと、何度もくるりと回っては猫になったり人になったりしてみた。
人型になったときでも、耳と尻尾がついているのが、クロとしては誇らしかった。
ディーの部屋の隅に、キラキラと光る粒が入っている透明な瓶があった。クロはその瓶が気に入って、何度もうっとりと眺めた。
「ディー、このキラキラはにゃに?」
「それは星のかけらだ」
「星のかけら、きれい」
「ああ、きれいだな。いっぱい集めると願いをかなえてもらえるんだ」
「えー!すごい!ぼくもほしいのよ!」
「…叶えたい願いがあるのか?」
「飼い主のもとにかえりたいのよ。とってもとっても大切な人にゃのよ」
クロは大好きな飼い主の女の子を思い出した。茶色いおかっぱの髪を揺らして、楽しそうに笑うあの子。毎日たくさん遊んでくれた。毎日一緒にご飯を食べて、一緒に眠った。
「そうか。叶うといいな」
「うん!」
クロの笑顔に、ディーは久しぶりに安らぎを感じるのだった。
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