13 / 16
第13話 失敗
しおりを挟む「マリーが魂の捕獲に失敗した?」
仕事を終えて戻って来たばかりのディーは、ラダに告げられ、珍しく動揺した。
「そうなのです。いま地の果てで間違えて捕獲してしまった魂から激しいクレームを受けていますので、処理に出向いてはくれませんか」
マリーが天界に来てから、少しばかりの時が過ぎ、今では転生屋の一員として現場に出ている今日この頃。
聞けば、今日マリーが担当したのは大規模な爆発事故の現場だったらしい。いくつもの魂が同時に天に昇り始め、まだ初心者のマリーは間違えて、隣の人間の魂を網ですくってしまったらしい。その間に正しい転生者は黄泉へと渡ってしまった。地の果てへ引き上げられた魂が情報と違ったため、ミスが発覚した。
かくなる上は、間違えて掬ってしまった魂に事情を説明して黄泉に渡ってもらうしかないのだが、この魂は間違えた詫びに転生させろと主張している、とのことだった。
転生屋になったばかりの妹が失敗したと聞けば、駆け付けて手伝ってやりたいと思うのが兄妹というものだ。
「わかりました。自分が行きます。クロ、悪いがつきあってくれるか」
「もちろんにゃ」
「戻って来たばかりなのにすまないね」
二人はマリーの許へと急いで向かった。まだ視界が開けないうちから、どすの利いた恫喝が聞こえて来た。質の悪い男のようだ。これではマリーとその相方は、困惑しているだろう。
マリーがペアを組んでいるのは、ネロという真面目で優しい青年だ。ディーよりは歴が短いが、クロよりは長い。
ディーは声の方にスーッと近づいて行って、唾を飛ばして怒鳴っている男の魂が視界に入った途端、掌を男の目の前に向けた。
「落ち着け」
「あーん?!なんだてめーは」
「私も転生屋だ。異世界転生を希望していると聞いた。魂の情報を読ませてもらう。クロ、端末をつないで」
「了解にゃ」
有無を言わせず、男のペースには巻き込まれない。
外套からクロが機械を取り出してセッティングすると、この男の情報を閲覧できる状態にした。
コペル・ハーゲ(44歳)、爆発事故による死者の一人。しかし純粋な被害者とも言えない。なぜなら、爆発事故を起こした組織の一員だからだ。
大規模な強盗組織の構成員として、様々な国を渡り歩き、窃盗、強奪、脅迫、詐欺、あらゆる犯罪に手を染めている。先日、ケチな縄張り争いから足が付き、人身売買のアジトに強制捜査が入った。それを知った組織の幹部たちは、アジトを爆弾でぶっ飛ばし、混乱している間に逃亡を図った。
この爆発で多くの犠牲者が出た。アジトにいた下っ端の構成員たち、さらわれてきた幼い子どもや獣人たち、捜査に入った警察官たちも巻き込まれた。
「残念ながら不幸指数も善人指数も基準に満たないため、異世界転生はできない」
「さっきから言ってるだろ!そっちが間違えて連れて来たんだから、責任持って転生させるのがケジメってもんだろうが!」
品のない顔をして、品のない言葉を吐き捨てる、品のない男であった。マリーとネロが説明しても聞く耳を持たず、ずっとごね続けているようだ。
「間違いを正そうとしているのだが。まあ、いい。希望通り、転生ができるよう取り計らおう」
ディーがため息交じりにそう言うと、マリーとネロが「えっ」と驚く。それを見てコペルはずるそうに舌なめずりをし、ニヤリと笑った。
「おう、わかってるじゃねぇか。最初からそうしろって言うんだよ。まったく。一番大物が行く世界に行かせてくれよ」
「ああ、それならばいい世界がある。めったにそこまで行ける者はいない、特別な世界だ」
「いいじゃねーか、そこに行かせてくれ」
「希望を確認した。クロ、ハーデス第八世界へ世界の扉をつなげてくれ」
「了解にゃ」
クロがキーボードを打ち始めると、コペルは用心深くディーに尋ねた。
クロがキーボードを打ち始めると、コペルは用心深くディーに尋ねた。
「そのハーデス世界って言うのはどういう世界なんだ?」
「ハーデス様は数多あるすべての世界に干渉することのできる大変力の強い神だ。神々はみなハーデス様の力にあこがれ、少しでも近づきたいと欲している。ハーデス世界とは、そのハーデス様が治める世界だ。魂の位に応じて第一から第八世界に振り分けられるのだ。一番大物が行くのは第八世界だ」
「おい、そっちの死神!こいつの言っていることは本当か?」
にらまれてマリーが少し震えた声で答える。
「本当よ。わたしたち転生屋はこの地の果てで嘘をつくことはできないの」
「ふーん、そうか。それじゃあお言葉に甘えて、ハーデス第八世界へ行ってくるわ」
「お気をつけて」
空間に魔法陣が現れると、コペルはニヤニヤと乗った。すぐさま強い光がコペルを包み込み、消え去った。
「そうやら無事に黄泉へ渡ったようだ。大変だったな、マリー、ネロ」
ディーの言葉を聞いて、マリーとネロは脱力してしゃがみこんだ。
20
あなたにおすすめの小説
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
【完結】憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
転生『悪役』公爵令嬢はやり直し人生で楽隠居を目指す
RINFAM
ファンタジー
なんの罰ゲームだ、これ!!!!
あああああ!!!
本当ならあと数年で年金ライフが送れたはずなのに!!
そのために国民年金の他に利率のいい個人年金も掛け、さらに少ない給料の中からちまちまと老後の生活費を貯めてきたと言うのに!!!!
一銭も貰えないまま人生終わるだなんて、あんまりです神様仏様あああ!!
かくなる上はこのやり直し転生人生で、前世以上に楽して暮らせる隠居生活を手に入れなければ。
年金受給前に死んでしまった『心は常に18歳』な享年62歳の初老女『成瀬裕子』はある日突然死しファンタジー世界で公爵令嬢に転生!!しかし、数年後に待っていた年金生活を夢見ていた彼女は、やり直し人生で再び若いままでの楽隠居生活を目指すことに。
4コマ漫画版もあります。
異世界でまったり村づくり ~追放された錬金術師、薬草と動物たちに囲まれて再出発します。いつの間にか辺境の村が聖地になっていた件~
たまごころ
ファンタジー
王都で役立たずと追放された中年の錬金術師リオネル。
たどり着いたのは、魔物に怯える小さな辺境の村だった。
薬草で傷を癒し、料理で笑顔を生み、動物たちと畑を耕す日々。
仲間と絆を育むうちに、村は次第に「奇跡の地」と呼ばれていく――。
剣も魔法も最強じゃない。けれど、誰かを癒す力が世界を変えていく。
ゆるやかな時間の中で少しずつ花開く、スロー成長の異世界物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる