異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

文字の大きさ
475 / 1,316
第14章 拳の王

第475話 「鎧の騎士」と「徒手空拳」と

しおりを挟む
 しばしの後、オレ達は一行――というにはあまりにも色とりどりで濃すぎるメンツ――は先ほどの廃虚にさしかかっていた。
 ちなみに同行していたガイザー信徒達は一言も口をきかなかったが、これは先ほど話に聞いた『戦闘指向の信徒との会話禁止=汚染』を心配しているのだろう。
 それにも関わらず、彼らが非武装だからと守るマクラマンは少なくとも高潔な人間である事は確かだろう。
 しかしこの世界では『弱者を救うために命を賭ける』だけの高潔さを有しても、それは決して正しい事を意味しない。

 以前に出会った一神教の宣教師であるフレストルは一神教の布教に命を捧げ、その身を賭けて人々を助ける高潔な人間だったが、同時に一神教の優越を高らかに唱え、多神教徒を見下す困った人間でもあった。
 どこの世界でも同じだが、単純な善悪で割り切れるような話ではないのだ。
 いずれにせよオレがどうにか出来るのは、ごく身近なところだけだ。

「ここでいいのですね?」
「……」

 ガイザーの巡礼者達は無言のまま、一礼して先に進む。
 守ってもらっておいて、感謝の一言も無いのはあまりにも不義理な態度だが、マクラマンの方もまた特に文句を言う気は無いらしい。
 もっとも面甲をつけたままなので、その下の顔がどうなっているかなど、オレには全くうかがい知れないけどな。
 だがそうしていると、金属が叩きつけられる音がした。
 見ると巡礼者が硬貨を何枚か、廃虚の道ばたに残っていた石の台座に載せていたのだ。
 彼らの質素な服装からすれば、決して安い額では無いはずだが、明らかにただうっかり落とした等という事ではない。
 そうするとこれは戒律で口を利くことが出来ない彼らなりにマクラマンに対する『守ってくれた事に対する返礼』なのだろう。
 彼らもガイザーの戒律は信じているだろうけど、それでも人としての礼節ぐらいはわきまえているか。
 だがそれとほぼ同時に廃虚の奥の方から、信徒に囲まれた大柄な男――もちろんビネース――が現れて、周囲の緊張感は一気に高まる。
 そして先に口を開いたのはマクラマンの方だった。

「愚僧の名はマクラマン。馬上より失礼しますよ」
「こちらも名乗っておきますが我が名はビネース。見たところあなたはイーヒルムの神官戦士のようですな。いかなるご用件ですかな?」
「別にこの地に用などありませんよ。ただ武器を持たぬ無力な人々がこの地に巡礼したいという事だったので、愚僧は同行しただけです」

 そういえば巡礼者の方はどうやって意志疎通したのだろうか。たぶんそのあたりは『神様も目をつぶってくれる』というところで、最初にそれだけ伝えて後は黙っていたのかね。
 それとも禁止されているのは『会話』なので筆談でもしたのだろうか。
 後でそのあたりの話も聞きたいところだ。

「なるほど。それについては我らがガイザー神に代わって礼を述べましょう。ご存じでしょうけど一般の信徒はあなたと口をきくことが出来ませんからな」

 ビネースはそう言って、深々と頭を下げる。

「いいえ。気にはしていませんよ。愚僧は報酬も感謝も望みません。敢えて言えば法を守り、正義を遂行し、弱き者を助ける事が出来ればそれが報酬なのです」

 これは想定外だったが、ビネースとマクラマンは仲良く出来るのか?
 いや。そんな都合の良い展開などあるはずがない。

「とにかくあなたのような武器を持つ人間に対し、私が取るべき事は一つだけです」

 そう言ってビネースはひとりマクラマンに近寄り、それを見たガイザーの信徒達は揃って息を呑み、緊張の空気が周囲に漂う。

「愚僧は別に武器を持ちたいわけでもありませんよ。先ほど申し上げたように、ただ法と弱き者を守るために必要なだけに過ぎません」

 マクラマンも平然と答えるが、ビネースはその騎士の胸板を指し示す。

「そのいかつい鎧もまた武器です。それは我らのような平和の追求では無く、むしろその防御によって別の争いを引き起こすに過ぎません」
「いいえ。この鎧は確かに我が身を守りますが、同時に武器を持つことの出来ない弱き者達を守るための正義の鎧でもあるのです。強固な鎧は法と秩序を守る事の証明です」

 予想通りこの二人もまた会話がかみ合わない。
 そしてビネースは指し示した指を握って拳に変える。

「ならばその鎧を賭けて一騎打ちをしましょうか」

 う~ん。幾らビネースが凄いと言っても、素手で完全武装の騎士と一騎打ちを挑むなんて、勝てるつもりなのか?
 いや。ルールが『最初に血が流れた方が負け』とすれば、関節部だとか弱いところを攻撃すればいいだけか。
 ビネースほどの拳の達人ならば、当然そのような相手との戦いも訓練されているだろう。

「繰り返しますが愚僧の戦いはあくまでも法と弱き者を守り、悪を討ち果たすためのものです。こんなところで無益な争いを行う事をイーヒルム神は望んでおりません」
「逃げたと見てよいのですかな?」
「そのような事で何を言われようが愚僧も我が神も気にはしません」

 マクラマンは少なくとも表向きは何の変化も見られない。

「我らイーヒルムに仕えし者は武勇や名声を誇るのではありません。どれだけ多くの人々を救ったのか、どれだけの悪を滅ぼしたかが誇りなのです」

 ここでマクラマンはビネースの背後で固唾を呑んで見守っている先ほどの巡礼者達を指差す。

「この鎧と剣のお陰で、彼らをここまで届けられた事は愚僧にとっても喜ばしい事です。そしてそれを成し遂げた以上、愚僧は新たな法と正義と弱者を守る戦いに向かわねばならず、あなたと不毛な一騎打ちをしている余裕などありません。それでは失礼」

 マクラマンはそう言って頭を下げ、馬の踵を返させる。
 要するにマクラマン達、イーヒルムの信徒は一騎打ちを挑まれて断る事を特に不名誉とは考えていないので、ビネースとやり合う理由も無いという事らしいな。
 この場では争いは無く片付いたようで、オレとしてはホッとしたところだ。
 しかしここでマクラマンはオレの前で馬を止める。

「それではあなたは愚僧と同行して下さいますかな?」
「え? どういうことでしょうか?」

 急に不吉な予感が胸元で跳ね上がった気がするぞ。
 そして大抵の場合、それが外れる事は滅多に無いのがオレの運命なのだ。

「アルタシャを名乗る者は、法の定めにより取り調べを受ける事になっていましてな。これも正義の遂行なのですよ」

 オレの前でマクラマンはそれまでと全く変わらない態度と口調で言い切った。
しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...