ZEROにバディと珈琲一杯

ミースケ

文字の大きさ
1 / 1

プロローグ

しおりを挟む
 なぜ僕は全てを失った?
 僕が弱かったから?僕に力が無かったから?
 ___力があればこんな事にはならなかったのか?
 街中のあらゆる方向、至る所から助痛々しい悲鳴が…必死に助けを求めるような声が耳に入ってくる。それは啜り泣くような声から悲痛な断末魔の様な叫び声まで様々で、それはその声を発している一人一人にそれぞれにかけがえの無い人生がある事を表している。いや、最早"あった"と…言うほうが正しい人間も中にはいるのだろう。
 もし、僕が変わりに死んでいたら…もしかしたら、そんなこの世を去った人たちも未だに生きて悲鳴を上げたり、必死に生きようと全力で藻掻くことが出来ていたのかもしれない…
「・・・っぁぁ!」
 僕は絶望の底から来る叫び声を身体の外に吐き出して楽になろうとするが、喉の奥に何かが支えているかのようになぜか声を上手く発することが出来ない。
 父親を殺した。そうすれば、奴隷のようなクソみたいな生活を終えて誰よりも幸せな生活を送っていけるようになると…そう信じて疑っていなかったからだ。
 お母さんを守れなかった。この世で最も愛していた人…僕のことを、あの吐瀉物や排泄物を混ぜ合わせて煮詰めたような父親から、己がなんど傷つけられようとも守ってくれた人。手の届く所にいたのに…僕があと少しだけでも早く覚悟を決めれていたら助けられたかも知れないのに。
 皆を助けるために頑張っている"お姉さん"の事を助けようとした。独りぼっちになり絶望の底に居た僕を、震えながらも明るく照らしてくれたお姉さんは間違いなく僕の恩人だ。今思えば、他人のために迷わず命を掛けられる人と初めて出会い、それに触れる事によって僕も感化されたのかもしれない。
 僕やお姉さんのことを助けてくれた、気のいい皆と全員で一緒に生き残りたかった。皆とても良い人たちで、助けを求める人たちを決して見殺しにはしなかった。だけど…だからこそそんな人達だから、僕とお姉さんを逃がすために皆は犠牲になってしまった。
「ごめん…ごめん…ごめんなさい…」
 僕の喉から絞り出すような声で発せられた言葉は"謝罪"だった。それと共に胃酸が逆流してきて、喉の奥が焼けるように熱い感覚を覚える。
 そうだ、僕が生きているから皆が死ぬのだ。お母さんだって、お姉さんだって、他の皆も僕の事なんかを助けようとしなければ死ぬことなんて無かったんだ。
 死にたい、楽になりたい、あの世でもう一度お母さんに会いたい…これが僕の本心だ。これ以上他人に不幸をばら撒いてしまうくらいなら…いっそもうここで…
「・・・っぅぅ…ぅぁ…!」
 僕は声を押し殺すように抑えながら、涙を流しながら目の前の"それ"に縋り付く。
 それは、"先程までお姉さんだったもの"。僕自身が手に掛けたお姉さんの身体は冷たくなり、目にはもう光がなく、僕の事を照らしてくれる様な明るい口調で喋ってくれることももう無い。そんなお姉さんの遺体を見て、僕は思い直す。
 自ら死を選ぶ?それは許されない。ここで僕が死んでしまえば、僕を助けるために死んでしまったお母さんとお姉さん、優しかった皆…その他の全員の死に意味が無くなってしまう。
 だから僕は、この先、生きて生きて生きて生きて生きて!何が何でも全ての元凶を殺す…それが、僕に出来る皆への最大の償いだから___
 そう決心した僕の胸に青白い光が確かに宿るのを感じ、僕はお姉さんの遺体に手を合わせてからゆっくりと立ち上がる。
「お姉さん…ありがとう。僕、貴方達の分まで精一杯生きるよ…!」
 此処から先に絶望は要らない。だから、お姉さんには悪いけど"絶望"はここに置いて行かせてもらうよ。
 その代わり、誰よりも幸せになって見せるから。天国で見ててよね___
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

続・冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。 の続編です。 アンドリューもそこそこ頑張るけど、続編で苦労するのはその息子かな? 辺境から結局建国することになったので、事務処理ハンパねぇー‼ってのを息子に押しつける俺です。楽隠居を決め込むつもりだったのになぁ。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

処理中です...