賞金王と呼ばれた男 〜童貞の果てしなき挑戦〜

桐谷 碧

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第二話 童貞

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「すみません、生一つ」

 馴染みの居酒屋『海斗』に着くと、佐藤は店員に声をかけてから座敷の席についた。すでに飲み始めている地元の仲間たちが談笑している。

「あれっ、なんだよ、キャバ嬢とデートじゃなかったのか」 

 目の前に座る幸四郎がニヤニヤしながら熱燗を手酌している。土曜日の夜、地元メンバーで集まって飲んでいるから佐藤も来れたら顔を出せとグループラインで誘われた。しかし佐藤は狙っているキャバ嬢とデートなので行けないと返信していた。

「ああ、これから出勤なんだとよ」

 おしぼりで顔を拭きながら答える。

「じゃあ同伴してくりゃ良かったのに」

 幸四郎の横でレモンサワーを飲んでいる慎二は、佐藤が同伴が嫌いな事を知った上で言ってくる。

「やだよ、恥ずかしい」 

 運ばれてきたジョッキを三人と合わせると一気に半分ほど飲み干した、先程の小洒落た店ではあまり飲んだ気がしなかった。

「次は戸田なんだろ? 応援に行くよ」 
「正月なのに暇な奴らだな」

 全国に二十四場ある競艇場がボートレーサーの仕事場だ、東京都北区赤羽出身の佐藤は埼玉県にある戸田競艇場が地元水面だった、全国各地を転々としているので中々地元に帰ってくる機会は少ないが、盆と正月はそれぞれの場が地元選手を斡旋するので、皆家に帰ることが出来る、競艇協会の温情だろう。

「先週もまったく当たらなかったからな、六艇しかないのになんでだろうな」 

 確かに競馬は十八頭、競輪は九車、そう考えれば当てやすいと思うが地元の仲間はどうやらセンスがまったくないらしい、ちなみに選手である佐藤は舟券を買うことは禁止されている。
「まあ、次は寿木也が出るんだから、コイツから買っとけば当たるだろうよ、なあ賞金王」
 隣で飲んでいる誠はこの中でも群を抜いて負けているようだが、どういう訳かいつも金回りが良い。

「折角友達が競艇選手なんだから、上手いことイカサマ出来ないのかねえ」 

 幸四郎が冗談ともなく呟いた、競艇は基本的に六日間で一つの大会が開催される、初日から四日目で予選が行われて五日目が準決勝、最終日が決勝といったスケジュールだ、初日の前に前検日が設けられていて選手が使用するボートやエンジンの抽選をこの日に行う事になっている。
 大会期間中は選手は各競艇場に設置された宿舎に閉じ込められる、スマートフォンなど外界と接触出来るような機器は封じられ一切の接触を絶たれる。イカサマ防止の為に仕方のないことだが、酒も飲むことも出来ないので夜は退屈で仕方ない。

「まあ、やろうと思えば出来ないこともないな」

 佐藤は二杯目のビールを頼むとイカサマの方法について考えを述べた。

「例えば、次の戸田開催で俺が一号艇の時には必ずスタートを遅れた上で三着以内に入る、この方法なら二十通り買えば必ず当たる計算になる、いや一号艇が遅れるんだから一着は二号艇か三号艇の確率がかなり高い、八通りで済むな」

 競艇は左回りに三週する競技なので一番内側に位置する一号艇が最も有利になる。

「なるほど、人気の寿木也が一号艇で負ければ配当もかなり高く付くな、良し今度の戸田でスタート遅れてくれ」  

 幸四郎が本気の表情で言う、すでに空になった焼酎のボトルをもう一本頼むか悩んでいるがどうせ頼むだろう、コイツラは信じられないほどの酒豪だ。

「あほか、俺に何のメリットがあるんだよ、得点率も下がるじゃねえかよ」

 競艇選手には個人個人に得点率がありレースの順位で変動する、得点率の高い順にA1、A2、B1、B2と分かれている、舟券を買う客はこの点数を基準に購入、当然点数が高い選手は人気が集まる、佐藤はもちろんA1だ。

「友達思いじゃないねえ」
「だから俺から買っとけば当たるっつーの」
「童貞のくせに偉っそうに」
「あ、それ言った、あー」

 いつも地元の連中と飲んでいるとこの手の話になるが、当然今までにイカサマをした事などない、もしバレたら競艇人生は終わる。
 これから佐藤が生涯に稼ぐ金額を考えたら、バレる可能性があるイカサマなどリスクしかない、生涯獲得賞金が三十億を超えるレーサーもいるのだ。

「じゃあキャバクラでも行きますか」 

 結局最終的にはこうなる、朝まで飲んで記憶がない事もしばしばあるが、気が合う仲間と遊んでいる時こそが佐藤の至福の時間だった。
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