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第二十五話 ライバル

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 ドラッグストアでコンドームを購入する所を見ていた彼女、なんんとか今夜、それを使用させないために繋がった庭から忍び込んだ、南京錠のナンバーを一つ一つ試して解錠すると部屋に誰もいないことを確認して侵入、目当ての物を処分しようと試みた。

 ところがそのタイミングでドアが開く音がして慌ててクローゼットに隠れると先程の騒ぎに遭遇する。

 絵梨香が出ていった後、放心状態の佐藤にバレないようにクローゼットから脱出すると後を追って来た、というわけだ。

「プッ」

 絵梨香が声を出して笑うと、女も照れくさそうな笑みを浮かべた。 

「そんなに好きなの?あの馬鹿が」

「わからないんです、でも気がついたらココまで来ていました」

 それはもう完全に好きだって広言しているようなものだ。 

「なんで私を追ってきたのよ、今ならもれなく興奮した猛獣が部屋に一人きりよ」

「わかりません、ただ、あなたを一人にしたらいけないような気がして」

 優しい子なんだ――。

「はぁ、なんであんなに鈍感な人好きになったんだろ」

 私のこと惨めな女だって思っているでしょ、問いかけようとして止めた。恐らく彼女はそんな事を考える人間じゃないからだ。童貞のくせに、いい女からばかり好かれる佐藤に腹は立たなかった。

「あなた名前は」
「星野莉菜です」

「私は、進藤絵梨香、私たち友達になれそうね」 
「え、あの、はい」
「お酒は?」
「飲めます」
「良し、莉菜の部屋で飲み明かそう、勿論ルームサービス代はあの馬鹿につけてね」  

 案の定、彼女とは話があった、同じ男を好きになったのだから当然だろう。自分には何もない空っぽの人間なんだと彼女は言う。可愛い笑顔に、大きな胸、東京から熱海まで追いかけてくる行動力と恋敵に塩を送る優しさ、いや甘さか――。

 絵梨香は彼女が、そこいらのゴミのような女に比べたら数百倍も魅力的な女の子だと思ったが口には出さなかった。時折、佐藤の様子を見に隣の部屋を覗いたが、熱海中を探し回っているのか、一向に部屋には戻らなかった。

 最終的に絵梨香の部屋で飲み直している時に戻ってきた佐藤が莉菜を見て腰を抜かしていたが、二人はその様子をみて大笑いした。

 友達だけど、ライバルよ――。

 絵梨香は彼女にまだまだ諦めないと決意表明した、莉菜もまた受けて立ちますと言って握手した。

 しかし、その旅行から一ヶ月後、絵梨香は貨物用の大型トラックに跳ねられ意識不明の重体。

 植物状態になり再び目を覚ます事はなかった――。

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