賞金王と呼ばれた男 〜童貞の果てしなき挑戦〜

桐谷 碧

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最終話 エピローグ

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「そう言えば今日は競艇の賞金王決定戦でしたね」

 病院に向うタクシーの中で武志は運転手に話しかけた。

「ええ、そうですよ、ラジオ付けましょうか」

「お願いします」

 運転手がラジオのツマミを調整してチューニングを合わせる。窓の外には冬の澄んだ青空が広がっていた。

「今年はずいぶん盛り上がってるね、復活した佐藤と女性初の賞金王を狙う星野、お兄さんは誰か応援してるの?」

 ちらっとコチラを向いた運転手に武志は答えた。

「佐藤選手です、兄貴なんですよ」

 
 病室に着くとテレビをボートレース番組に合わせた、ベッドの角度を調整して絵梨香が見やすいようにする。テレビではこれから走る選手の紹介をアナウンサーがしている所だった。


『注目はやはり一号艇の佐藤寿木也、史上最年少の賞金王から五年、ここ数年は右手の怪我の影響もあり成績が落ち込んでいましたが、今年に入り不死鳥の如く復活。SG二回、G1四回の優勝と絶好調のまま、ここ住之江に乗り込んできました』

 興奮した口調でアナウンサーが続ける。

『そして、人気、実力共に佐藤を凌ぐと言われている最強女子レーサー、四号艇の星野莉菜、彗星の如く現れたスピードスターは平均スタート、コンマ05と言う驚異の動体視力で――』

 タクシー運転手の言う通り今年はこの二人の活躍でボートレースの盛り上がりは最高潮に達していた、八百長問題で一時は落ち込んだ各競艇場の売上も、この二人が斡旋されると売上が倍以上に伸びるようだ。

 長々と選手紹介を終えると、コメンテーターがエンジンの素性や選手の分析を語る、出走時間まで五分を切った、武志は自分の事のように緊張してきた。

「姉ちゃん、はじまるよ」

 出走のファンファーレと共に六艇がピットアウトする、雲ひとつ無い青空の下、大歓声に包まれた住之江水面はキラキラと太陽の光りを反射していた。

『今年もついにやってきました、グランプリファイナル優勝戦、インコースには史上最年少賞金王から五年の歳月を経て、佐藤寿木也がV2を狙います、二号艇には――』

「二人とも頑張って……」

 武志が息を呑んでスタートの瞬間を待っていると、隣から微かな声が聞こえてきた。

「え?」

 テレビから絵梨香に視線を落とす、当然目を閉じて眠っている。ついに幻聴が聞こえる様になったかと、再び画面に視線を戻した。

『ボートレース界の最高峰、頂上決戦、これより第十二レースの優勝戦がスタートします、大時計の針が今、白い針から十二秒針の回転となっています。穏やかな競争水面上で、一億円争奪のラストバトルはいよいよ進入です』

 ダッシュの三艇から助走に入る、続いて佐藤の艇がゆっくりと動き出した、四号艇のスタートが早く見える、大丈夫だろうか、武志は拳を握った。

『一番、二番、三番、ダッシュが四番、五番、六番、今一斉に――スタートしましたー。好スタートは四号艇、続いて一号艇、二号艇と並んでいます、四号艇の星野莉菜がグーンと伸びて三号艇を飲み込んで行くー! そのまま一気に捲っていく体勢だが佐藤が伸び返してきたー!』 

 伸び返してきた佐藤をかわして、一マークで捲り刺しに変化する星野。先マイした佐藤は渾身のVモンキーを決めて一気に逃走する。

 バックストレッチで軽量級の女子レーサー、星野がぐんぐん伸びて佐藤に舳先を掛けようとする、佐藤は一歩手前で内側に艇を運んで難を逃れた。

「あっぶねー」

 武志は息をするのも忘れてテレビに釘付けになっていた、一周、二週、三周目、佐藤はトップを譲らないまま最後のターンマークを迎える。

『ラストコーナーをトップで旋回、一号艇の佐藤寿木也、今ゴールラインに向かっていきます、第五十五回グランプリファイナルの優勝は一号艇の佐藤寿木也が今ゴールイン――』

「やった、やったよ姉ちゃん、え……」

 武志はベッドに視線を戻し驚愕した。絵梨香の開いた瞳からは一筋の涙が流れている。武志はナースコールを押すよりも先に病室を飛び出した。

「先生ー!! 姉ちゃんが」

 病院中に響く大声を出して武志は病室を飛び出していった。テレビには優勝者インタビューを受ける佐藤、その視線の先にはやはり絵梨香がいた。

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