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7,ずるい男
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「相席でよろしいですか?」
ランチで賑わう人気のお蕎麦屋さん、普段はお弁当だけど夫がいらないという時にわざわざ一人分は作らない。
「はい、大丈夫です」
席に案内されて座る、ざる蕎麦に天丼を付けるか悩んでると不意に声をかけられた。
「井上さん?」
一瞬、誰のことか分からずにキョトンとしていると目の前にあるアクリル板越しに手を振っているのは経理部の責任者、藤原だった。
「あ、部長。お疲れ様です」
会社からは結構離れてるから油断していた。
「一人?」
「はい」
面倒だけど無視するわけにもいかない。
「ご注文お決まりですか?」
「あ、ざる蕎麦を一つ」
「かしこまりましたー」
天丼付けられなかった、張る必要のないミエ。しょうもな。
「それだけで足りるの? 井上さん細いもんね、あ、こんなんセクハラ?」
「いえ」
「でもここの天丼うまいから食ってみな、食べきれなかったら俺が食うから。すみませーん!」
彼は勝手に天丼を追加したが内心嬉しかった。
ベラベラと話しかけられたら面倒だなと思ったが彼は黙々と蕎麦と天丼を食べ始めた、助かる。
綺麗な食べ方、そう見えるのはなんでだろう。なんとなく観察していると手が綺麗なことに気がついた。男性っぽくない細く長い指。
ついつい見つめてしまう。
「ん?」
「あ」
「食べ方へん?」
「いえ、美味しそうに食べるなぁって」
「ハハっ、よく言われる」
子供みたいに笑う、こんな風に笑う人なんだ。知らなかった。
「お待たせしましたー、ざる蕎麦と、天丼ね」
「ありがとうございます」
よし、目の前のご飯に集中。食べるのは早い方だ、けど目の前に上司がいるとあまりがっつけない。チラッと上目遣いで確認する。
こちらを注視する仕草はない、相席しただけの他人。そりゃそうか。派遣社員の事なんていちいち構っていられないだろう。安心して蕎麦に箸をつけた。
満足。天丼追加してもらって良かった、蕎麦だけじゃ午後持たない、お腹をさすって目の前を見たら彼もちょうど食べ終えたところだった。
ちょうど? ん?
私よりかなりはやく食べ始めてたのに。
「どう? 天丼うまいでしょ」
「あ、はい。頼んで良かったです」
「でしょー」
「あ、なんか私が早食いみたいで恥ずかしいです……」
「あー、違うよ。俺がわざと遅く食べたんだ、井上さんに合わせようと思って」
「え、なんでですか?」
「知らない人と相席になるよりは良いかと思ってさ、じゃあ午後も頑張ろう」
そう言って彼は私の分の伝票まで引き抜いて席を立った。そのあまりのスムーズさに「あっ」としか声にならず、ただ退店する彼の背中を眺めていた。
ランチで賑わう人気のお蕎麦屋さん、普段はお弁当だけど夫がいらないという時にわざわざ一人分は作らない。
「はい、大丈夫です」
席に案内されて座る、ざる蕎麦に天丼を付けるか悩んでると不意に声をかけられた。
「井上さん?」
一瞬、誰のことか分からずにキョトンとしていると目の前にあるアクリル板越しに手を振っているのは経理部の責任者、藤原だった。
「あ、部長。お疲れ様です」
会社からは結構離れてるから油断していた。
「一人?」
「はい」
面倒だけど無視するわけにもいかない。
「ご注文お決まりですか?」
「あ、ざる蕎麦を一つ」
「かしこまりましたー」
天丼付けられなかった、張る必要のないミエ。しょうもな。
「それだけで足りるの? 井上さん細いもんね、あ、こんなんセクハラ?」
「いえ」
「でもここの天丼うまいから食ってみな、食べきれなかったら俺が食うから。すみませーん!」
彼は勝手に天丼を追加したが内心嬉しかった。
ベラベラと話しかけられたら面倒だなと思ったが彼は黙々と蕎麦と天丼を食べ始めた、助かる。
綺麗な食べ方、そう見えるのはなんでだろう。なんとなく観察していると手が綺麗なことに気がついた。男性っぽくない細く長い指。
ついつい見つめてしまう。
「ん?」
「あ」
「食べ方へん?」
「いえ、美味しそうに食べるなぁって」
「ハハっ、よく言われる」
子供みたいに笑う、こんな風に笑う人なんだ。知らなかった。
「お待たせしましたー、ざる蕎麦と、天丼ね」
「ありがとうございます」
よし、目の前のご飯に集中。食べるのは早い方だ、けど目の前に上司がいるとあまりがっつけない。チラッと上目遣いで確認する。
こちらを注視する仕草はない、相席しただけの他人。そりゃそうか。派遣社員の事なんていちいち構っていられないだろう。安心して蕎麦に箸をつけた。
満足。天丼追加してもらって良かった、蕎麦だけじゃ午後持たない、お腹をさすって目の前を見たら彼もちょうど食べ終えたところだった。
ちょうど? ん?
私よりかなりはやく食べ始めてたのに。
「どう? 天丼うまいでしょ」
「あ、はい。頼んで良かったです」
「でしょー」
「あ、なんか私が早食いみたいで恥ずかしいです……」
「あー、違うよ。俺がわざと遅く食べたんだ、井上さんに合わせようと思って」
「え、なんでですか?」
「知らない人と相席になるよりは良いかと思ってさ、じゃあ午後も頑張ろう」
そう言って彼は私の分の伝票まで引き抜いて席を立った。そのあまりのスムーズさに「あっ」としか声にならず、ただ退店する彼の背中を眺めていた。
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