モラハラ夫との離婚計画 10年

桐谷 碧

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『今月ピンチなんだ、三万だけお願い(T . T)』

 ラインのメッセージを見て軽くため息をついてからすぐに返信した。

『いいよ、次に会う時でいい?』

 間髪入れずに返信がある。

『ごめん、電気が止められちゃって。出来れば今日中に振り込んでほしい( ;  ; )』

『はいはい、直ぐに振り込むから口座番号教えて』

 最近はネットバンクで直ぐに振り込める、帰って家が真っ暗じゃあ確かに可哀想だ。

 顔良し、性格良し、私が好き。だけどギャンブルはもっと好き。パチンコ、競馬、競艇、麻雀。なんでもござれ。

 なんで今まで彼女が出来なかったのかは直ぐに判明した。でも平気。

 松本くん、今はゆうくんと呼んでいる。

 ゆうくんと付き合ってからは心が安定している。夫に何をされても寛大な心で許すことができた。

 恒くんも好きだけど火曜日しか会えないし、他にも女がいるのは明白。純粋に私だけを見てくれる、私だけを頼ってくれるのはゆうくんだけ。

『マジありがとう! 口座番号は一一一一』

 スマホで振り込みを済ませていると不意に声をかけられた。

「井上さん、仕事中にニヤニヤしながらスマホをいじらないでもらえる? いくら派遣だからってねえ、もう少しまじめに一一」

「あ、失礼しました」

 いけない、いけない。仕事中だった。視線を右に向けると恒くんが笑いを堪えている。

 しかし、このおつぼねの小泉はよく見ている。てゆーか人の粗ばかり探していて自分の仕事をちゃんとしているのだろうか。

 四十歳、独身。統計によれば四十歳を過ぎてから女が結婚できる確率はおよそ三%。

 絶対無理だろアイツじゃあ。

 そう考えればクソみたいな夫でもいないよりはマシなのかも知れない。自席に戻るお局に憐憫の視線を送った。

 パソコンに向き直りアルバイトの情報サイトを眺める。少ない貯金が削られていくから、なんとか補填しないと。

 しかし、平日は仕事に家事。土日は夫がいると外出できないし。いない時はゆうくんに会いに行きたい。つまり時間がない。

 どうしたものか、と考えているとあっという間に定時になった。残業するほど仕事もないので帰り支度をしているとお局、いや。小泉から声をかけられた。

「ちょっと良いかしら?」

「あ、はい。なんでしょう」

「ここじゃ、ちょっと……」

 歯切れの悪い彼女に促されて非常階段に連れ出された。喫煙所に行くのが面倒な社員が隠れてタバコを吸っている場所だけど今は誰もいない。

「あなた、お金に困ってるの?」

「はい?」

「これ、あげるから」

 彼女は茶封筒を差し出す。

「へ?」

「だから、部長とは別れなさい。良いわね」

「はあ? あの」

 私に無理矢理、茶封筒を握らせると彼女は逃げるように去っていった。真剣な声色だけをその場に残したまま。颯爽と。
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