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「トイレに……」
もよおしたわけじゃ無いけど脱出のチャンスが有るかも知れないと思い聞いてみた。部屋を見渡しても出入り口の扉以外は見当たらない。
「トイレは五十点以上で獲得できるよ」
「は?」
「カラオケの機械の所に点数表があるから」
彼が何を言っているか理解出来なかったけど私はゆっくりと立ち上がり部屋に唯一ある機械に向かう。五十インチはありそうなテレビの下にはブルーレイのようなデッキにマイクとタブレット端末のような物がある。
デッキの上にパウチされたA4サイズの紙を発見して手に取った。
・外出 100点
・スマホ 98点
・シャワー 95点
・睡眠 80点
・お酒 75点
・食事 70点
・水 50点
・トイレ 50点
「何ですか……これ?」
「そこのカラオケで歌を歌って、出た点数によって賞品が出るシステムなんだ。面白いだろ?」
面白くねえよ。テレビの見過ぎだろコイツ。
「冗談ですよね?」
どこに話しかけて良いか分からないから天井に向かって呟いた。
「アイドルにも歌唱力が求められる時代だから」
「あの、こんな事。立派な犯罪ですよ、警察に捕まっちゃいますよ。私が家に帰らなかったら主人が不審に思うし……」
どうだろうか。自信はない。
「優香」
「はい?」
「一人称は優香」
「は?」
「私じゃなくて、自分の事は優香と呼べ」
低い声が室内に響き渡る。背筋が凍り冷や汗が首筋を伝った。
「アイドルへの道は始まってるんだ!」
今度はでかい声で怒鳴られる。耳がキーンとして思わず下を向いた。
「トイレに行きたければさっさと歌え!」
逆らったら殺される。その恐怖心から私は黙って頷いた。端末を取り出して選曲をする素振りを見せながら考えを巡らせる。
彼を刺激しないようになるべく時間を稼がないと。助けはすぐに来る、はず。
「アイドルソング限定だからね」
素直に言う事を聞く私を見て優しい声色になったので胸を撫で下ろした。
しかし……。
パウチされた点数表を見て「ふっ」と鼻を鳴らした。
私も舐められたものね。心の中で一人ゴチる。こう見えてカラオケは得意だ。派遣時代にはストレス解消で一人カラオケに興じていた。
高得点を出すためのコツも知っている。チラッと機種を確認する。
「DAMか……」
ジョイサウンドの方が点数機能が甘めだが、歌い慣れているのは断然DAM。私はニヤリと唇の端を上げた。
慣れた手つきでデンモクを操作した。乃木坂の『インフルエンサー』を入力して送信する。すぐにマイクの音量、エコーを調節した。部屋が広いから音量は高め。
マイクを引き抜いてビニールを取る。目をつぶってイントロを待った。
曲が始まる。スピーカーが壁に埋め込まれているのか音響は悪くない。歌い出しが遅れないように右足でリズムを取る。
「ブーンブンブンブーンブンブン」
完璧な歌い出し。目を開いて右を見ると鏡にはアイドルの衣装を纏った私がノリノリでステップを踏んでいる。なかなか様になっていた。
久しぶりのカラオケは思いのほか気持ちよくて、自分が拉致監禁されている事実をすっかり忘れさせた。
喉の開きが甘かったが一曲目にしては満足のいく出来だった。さっそく点数がテレビ画面に表示される。
『58点』
ふう。まあ、こんなもんだろう。
「コングラッチェレーション」
頭上から拍手と共にハスキーボイスが聞こえた。
「トイレで良かったかな?」
「あ、はい」
一分ほど待つと入り口の扉がガチャリと開いた。人影がチラッと見える。僅かに開いた隙間から箱のような物が差し入れられた。同時に扉は閉まりガチャっと施錠される音が室内に鳴り響く。
私はおずおずと入り口に向かった。扉の前に置かれたそれを見て血の気が引いていく。これが何かは知っている。実家では猫を飼っていたから。
五十センチ四方のプラスチックケースには目一杯砂が敷き詰められている。猫用のトイレだ。
「冗談……ですよね?」
私の声は広い室内で静かに反響していた。
もよおしたわけじゃ無いけど脱出のチャンスが有るかも知れないと思い聞いてみた。部屋を見渡しても出入り口の扉以外は見当たらない。
「トイレは五十点以上で獲得できるよ」
「は?」
「カラオケの機械の所に点数表があるから」
彼が何を言っているか理解出来なかったけど私はゆっくりと立ち上がり部屋に唯一ある機械に向かう。五十インチはありそうなテレビの下にはブルーレイのようなデッキにマイクとタブレット端末のような物がある。
デッキの上にパウチされたA4サイズの紙を発見して手に取った。
・外出 100点
・スマホ 98点
・シャワー 95点
・睡眠 80点
・お酒 75点
・食事 70点
・水 50点
・トイレ 50点
「何ですか……これ?」
「そこのカラオケで歌を歌って、出た点数によって賞品が出るシステムなんだ。面白いだろ?」
面白くねえよ。テレビの見過ぎだろコイツ。
「冗談ですよね?」
どこに話しかけて良いか分からないから天井に向かって呟いた。
「アイドルにも歌唱力が求められる時代だから」
「あの、こんな事。立派な犯罪ですよ、警察に捕まっちゃいますよ。私が家に帰らなかったら主人が不審に思うし……」
どうだろうか。自信はない。
「優香」
「はい?」
「一人称は優香」
「は?」
「私じゃなくて、自分の事は優香と呼べ」
低い声が室内に響き渡る。背筋が凍り冷や汗が首筋を伝った。
「アイドルへの道は始まってるんだ!」
今度はでかい声で怒鳴られる。耳がキーンとして思わず下を向いた。
「トイレに行きたければさっさと歌え!」
逆らったら殺される。その恐怖心から私は黙って頷いた。端末を取り出して選曲をする素振りを見せながら考えを巡らせる。
彼を刺激しないようになるべく時間を稼がないと。助けはすぐに来る、はず。
「アイドルソング限定だからね」
素直に言う事を聞く私を見て優しい声色になったので胸を撫で下ろした。
しかし……。
パウチされた点数表を見て「ふっ」と鼻を鳴らした。
私も舐められたものね。心の中で一人ゴチる。こう見えてカラオケは得意だ。派遣時代にはストレス解消で一人カラオケに興じていた。
高得点を出すためのコツも知っている。チラッと機種を確認する。
「DAMか……」
ジョイサウンドの方が点数機能が甘めだが、歌い慣れているのは断然DAM。私はニヤリと唇の端を上げた。
慣れた手つきでデンモクを操作した。乃木坂の『インフルエンサー』を入力して送信する。すぐにマイクの音量、エコーを調節した。部屋が広いから音量は高め。
マイクを引き抜いてビニールを取る。目をつぶってイントロを待った。
曲が始まる。スピーカーが壁に埋め込まれているのか音響は悪くない。歌い出しが遅れないように右足でリズムを取る。
「ブーンブンブンブーンブンブン」
完璧な歌い出し。目を開いて右を見ると鏡にはアイドルの衣装を纏った私がノリノリでステップを踏んでいる。なかなか様になっていた。
久しぶりのカラオケは思いのほか気持ちよくて、自分が拉致監禁されている事実をすっかり忘れさせた。
喉の開きが甘かったが一曲目にしては満足のいく出来だった。さっそく点数がテレビ画面に表示される。
『58点』
ふう。まあ、こんなもんだろう。
「コングラッチェレーション」
頭上から拍手と共にハスキーボイスが聞こえた。
「トイレで良かったかな?」
「あ、はい」
一分ほど待つと入り口の扉がガチャリと開いた。人影がチラッと見える。僅かに開いた隙間から箱のような物が差し入れられた。同時に扉は閉まりガチャっと施錠される音が室内に鳴り響く。
私はおずおずと入り口に向かった。扉の前に置かれたそれを見て血の気が引いていく。これが何かは知っている。実家では猫を飼っていたから。
五十センチ四方のプラスチックケースには目一杯砂が敷き詰められている。猫用のトイレだ。
「冗談……ですよね?」
私の声は広い室内で静かに反響していた。
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