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はじまり
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天に向かって濃くなる藍色。
迷いなく闇に沈む空が光に裂かれて朝が来る。
まず姿を現すのは砂地。
それが広大な砂漠の様相を見せ始めたころに岩陰の緑、サボテンが浮かび上がる。
荒地にあっても瑞々しいサボテンの葉先には、作り物のような花が飾られていた。
白い花の向こうに揺れる光。
それは、小さな湖の澄んだ湖面の輝き。
水辺には、ささやかではあるものの、豊かな緑が広がっていた。
金糸の雲を引き連れた太陽がくっきりと姿を現せば、生き物達の気配も動き始める。
太陽の温かさを求めたトカゲは、次にはヒョイと頭を動かすと、暑くなり過ぎたとばかりに細長い影を引きずって物陰に隠れた。
いつもと変わらぬ朝のなか、いつもと変わらぬ身勝手さを内に抱えた生き物がうごめく。
それは、一帯を統治する者にとっても同じである。
砂漠地帯を馬に乗り進む一行の姿が、光の下に現れた。
「この辺で良い。止まれ」
統治者である王の低い声が響く。
率いていた一行は大人しく従ったものの、ひとりが代表して疑問を口にした。
「王様、本当に何か起こるのでしょうか?」
「じきに分かるであろう。何も起こらぬも良し。起こるも良し。物事は吉凶表裏一体。いずれにしても、我らが心がけ如何。恐れる事は無い」
王は、遠い地平線を見つめた。
一帯の統治者であり、宗教の長でもある王の声は深く揺らぎながら響く。
言葉が表す信念には揺らぎはなく自信に満ちていた。
供の者は、黙って側に仕えるしかない。
心の底に怯えを抱えながら。
皆は心細さを宿した瞳を、主人の視線と同じ方向に向けた。
と、突然。
遠く雲間より落ちる光が鋭く大地に突き刺さった。
大気が揺れ、供の者は騒めく。
「あれは何だ?」
口を真一文字に結んだまま鋭い視線を光の落ちた方向に向けた王は、迷うことなく馬をその方角へと進める。
供の者たちは怯えながらも、黙って従うしかなかった。
用心深く近付けば、柔らかな砂の大地に布に包まれた何かが受け止められているのが見える。
布に包まれたそれは、獣の様な鳴き声を上げた。その声とは、皆が聞き覚えのあるものだった。
「赤子、か?見てみよ」
ひとりが恐る恐る近付き、そっと包みを開く。
するとそこには、人の子、とおぼしき者が居た。
人の子、と、断言出来ぬのは、それが余りに異なる形をしていたからだ。
「なんと……」
供の者は口元を覆い、後ずさった。
王は馬から降りて生き物に近付き、じっくりと眺めた。
「このような者と関わってはなりませぬ。このまま。ここに捨て置いて城に戻りましょう」
供の者の言葉は怯えに震えていた。
「いや。その子を城に連れ帰り、我が育てよう」
王の言葉に、供の者たちは息をのんだ。
「このように醜い生き物を、城に入れるのですか? 王宮であるだけでなく、国で一番、神に近い場所である城に?」
「私の決定に異論でもあるのか?」
王の向けた一瞥は、供の者の口を封じるに十分なものであった。
温厚で徳深い統治者であったとしても、王の決定が絶対であることには変りはない。
だが、その醜い異形の子を抱く事は、供の者たちには出来なかった。
王は迷うことなく自らの手で、異形の子を抱き上げた。
子の醜さに変りはなかったが、王の姿は朝日を浴びて輝き、供の者たちの信仰心を高めることには成功した。
王は、布に包まれたその子を天に高く掲げ、こう宣言した。
「この子に、名を授ける。その名は異形」
その名について、異論を唱える者は居なかった。
王の率いる一行は、揺らめく影を引きずりながら、来た道を城に向かって戻って行った。
迷いなく闇に沈む空が光に裂かれて朝が来る。
まず姿を現すのは砂地。
それが広大な砂漠の様相を見せ始めたころに岩陰の緑、サボテンが浮かび上がる。
荒地にあっても瑞々しいサボテンの葉先には、作り物のような花が飾られていた。
白い花の向こうに揺れる光。
それは、小さな湖の澄んだ湖面の輝き。
水辺には、ささやかではあるものの、豊かな緑が広がっていた。
金糸の雲を引き連れた太陽がくっきりと姿を現せば、生き物達の気配も動き始める。
太陽の温かさを求めたトカゲは、次にはヒョイと頭を動かすと、暑くなり過ぎたとばかりに細長い影を引きずって物陰に隠れた。
いつもと変わらぬ朝のなか、いつもと変わらぬ身勝手さを内に抱えた生き物がうごめく。
それは、一帯を統治する者にとっても同じである。
砂漠地帯を馬に乗り進む一行の姿が、光の下に現れた。
「この辺で良い。止まれ」
統治者である王の低い声が響く。
率いていた一行は大人しく従ったものの、ひとりが代表して疑問を口にした。
「王様、本当に何か起こるのでしょうか?」
「じきに分かるであろう。何も起こらぬも良し。起こるも良し。物事は吉凶表裏一体。いずれにしても、我らが心がけ如何。恐れる事は無い」
王は、遠い地平線を見つめた。
一帯の統治者であり、宗教の長でもある王の声は深く揺らぎながら響く。
言葉が表す信念には揺らぎはなく自信に満ちていた。
供の者は、黙って側に仕えるしかない。
心の底に怯えを抱えながら。
皆は心細さを宿した瞳を、主人の視線と同じ方向に向けた。
と、突然。
遠く雲間より落ちる光が鋭く大地に突き刺さった。
大気が揺れ、供の者は騒めく。
「あれは何だ?」
口を真一文字に結んだまま鋭い視線を光の落ちた方向に向けた王は、迷うことなく馬をその方角へと進める。
供の者たちは怯えながらも、黙って従うしかなかった。
用心深く近付けば、柔らかな砂の大地に布に包まれた何かが受け止められているのが見える。
布に包まれたそれは、獣の様な鳴き声を上げた。その声とは、皆が聞き覚えのあるものだった。
「赤子、か?見てみよ」
ひとりが恐る恐る近付き、そっと包みを開く。
するとそこには、人の子、とおぼしき者が居た。
人の子、と、断言出来ぬのは、それが余りに異なる形をしていたからだ。
「なんと……」
供の者は口元を覆い、後ずさった。
王は馬から降りて生き物に近付き、じっくりと眺めた。
「このような者と関わってはなりませぬ。このまま。ここに捨て置いて城に戻りましょう」
供の者の言葉は怯えに震えていた。
「いや。その子を城に連れ帰り、我が育てよう」
王の言葉に、供の者たちは息をのんだ。
「このように醜い生き物を、城に入れるのですか? 王宮であるだけでなく、国で一番、神に近い場所である城に?」
「私の決定に異論でもあるのか?」
王の向けた一瞥は、供の者の口を封じるに十分なものであった。
温厚で徳深い統治者であったとしても、王の決定が絶対であることには変りはない。
だが、その醜い異形の子を抱く事は、供の者たちには出来なかった。
王は迷うことなく自らの手で、異形の子を抱き上げた。
子の醜さに変りはなかったが、王の姿は朝日を浴びて輝き、供の者たちの信仰心を高めることには成功した。
王は、布に包まれたその子を天に高く掲げ、こう宣言した。
「この子に、名を授ける。その名は異形」
その名について、異論を唱える者は居なかった。
王の率いる一行は、揺らめく影を引きずりながら、来た道を城に向かって戻って行った。
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