愛しい番に愛されたいオメガなボクの奮闘記

天田れおぽん

文字の大きさ
14 / 28

第14話 襲撃 3

しおりを挟む
 ボクはオズワルドの背後から化け物をそっと覗いた。
 赤黒く溶岩のように燃え盛るゴリラに翼があるような化け物が、ボクたちに向かって飛んでくる。

 カーティスは殺気を全身にまとって化け物を睨み叫ぶ。

「やはり狙いはセインさまかっ! このカーティス、命に代えてもセインさまをお守りしますっ!」
「無理をするな、カーティス! 我も戦えるっ!」

 セインも真剣な表情を浮かべて剣を構えている。

 ボクたちのすぐそばにいるけど、カーティスも、セインも、オズワルドに守ってもらう気なんて欠片もないようだ。
 
 クラスメイトなのにボクとは大違いだ。

 緊張感が張り詰めるなか、化け物の羽ばたきと共に、熱気がボクたちを襲った。

「熱っ!」

 空気だというのに燃えてしまいそうな熱気だ。
 オズワルドが冷気をまとわせた剣を振って熱気を払う。
 しかし化け物本体が溶岩のように熱い。
 吐く息すら生き物では危険な熱さだ。

「くそっ! 空から来られたら、手も足も出ないっ」

 オズワルドが嘆いている。
 
 もともとオズワルドは文官だ。
 劣性とはいえアルファだから人間相手ならそれなりの勝負になるが、化け物相手は最初からムリだ。

「アイリスッ! 今行くぞっ!」

 お母さまの声が聞こえる。
 大剣を振るい戦い慣れしているお母さまなら、この化け物もなんとかなるかもしれない。

 だが。

「うわっ、壁がっ!」
「木がっ!」

 屋敷の壁や庭の木が来客たちの上に降り注ぐのを薙ぎ払いながら進むお母さまの歩みは遅い。
 ドスン、バンッと何かが落ちたり壊れたりする音や振動を感じるものの、助けはなかなか来ない。

 自分たちで何とかするしかないのだ。

「アイリス。心配しなくていい。オレにだって多少の魔法は扱える」

 オズワルドは右手で剣を構えながら襟元からネックレスにぶら下がる魔法道具を取り出した。

 あれは防御壁が展開されるやつだ。
 ボクがオズワルドにプレゼントしたものだよ。
 ずっと身に着けてくれていたんだ。
 嬉しいね。

 ……って、そんな場合じゃないっ。

「来るぞっ、オレの陰に隠れて!」
「はいっ」

 ボクは再びしっかりとオズワルドの陰に隠れた。
 
 でもなんで?

 化け物はギラギラと光る赤い目でボクを見ている。
 狙いはボク?
 え? なんで?

 ボクの腕のなかでシロが震えている。
 守ってあげるよ、シロ。
 でもボクの足はガタガタ震えて、立ってるだけでせいいっぱいだけどね!

 化け物はドンと地上に足をつけた。
 鳥のような足は炎が上がっていて、近くの花壇の花が枯れた。
 熱のせいかもしれないが、瘴気も出ている可能性もある。
 もし瘴気が出ているのなら、近付かれただけで人間の命を脅かす。
 しかもボクたちのほうへ地面を揺らしながら近付いてきている。

 異変に気付いたセインが声を上げた。
 
「あの化け物、アイリスを狙っているのか⁉」
「分かりませんっ。アイリスさまを狙っていると見せかけて、本当の狙いはセインさまかもしれませんっ! 油断なさらないようにっ」
「分かっているっ」

 カーティスに注意されて、セインがイラっとした声を上げた。
 おいおい、セイン。
 この事態で変に騒ぐなよ。

 化け物がギロッとセインを睨んだ。

 うわぁー、こわーい。
 そのままセインのほうへ行ってくれないかなぁ?

 などとボクが思っていると、化け物は再び顔の向きを変えて、ガッとこちらを見た。

 怖い。

 ボク、化け物の恨みをかうようなことしてないよー。

 化け物ゴリラは天に向かって吠えた。
 轟音が辺りを揺るがす。

 でも……。
 マキシム?
 あの化け物、名前を呼んでないか?

 そんなことを思った瞬間、ボクたちのほうへ大きな手が伸びてきた。

「危ないっ!」

 オズワルドが叫びながら剣を振った。
 ボクは両腕をクロスさせてシロを抱きしめながら化け物に手のひらを向けた。
 鋭くて大きな黒い爪が、ボクの前を横切って、くうを切る。
 
 黒い爪の先と溶岩のような皮膚がピッと切れて、ボクたちの上に降り注いだ。
 サッとオズワルドは避けたけれど、炎を上げて燃える鋭い欠片が彼に降りかかった。
 ピッと頬をかすめた欠片のせいで、オズワルドの肌がスッと切れた。
 白い肌に赤い血がツゥーと伝う。

 その時、ボクの頭が怒りでカッと赤く染まった。
 一瞬のことだ。
 全身を何がが巡って。
 気付いた時には、ボクの手のひらから白く強烈な光が化け物に向かって放たれていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】可愛いあの子は番にされて、もうオレの手は届かない

天田れおぽん
BL
劣性アルファであるオズワルドは、劣性オメガの幼馴染リアンを伴侶に娶りたいと考えていた。 ある日、仕えている王太子から名前も知らないオメガのうなじを噛んだと告白される。 運命の番と王太子の言う相手が落としていったという髪飾りに、オズワルドは見覚えがあった―――― ※他サイトにも掲載中 ★⌒*+*⌒★ ☆宣伝☆ ★⌒*+*⌒★  「婚約破棄された不遇令嬢ですが、イケオジ辺境伯と幸せになります!」  が、レジーナブックスさまより発売中です。  どうぞよろしくお願いいたします。m(_ _)m

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

劣等アルファは最強王子から逃げられない

BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。 ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。

無自覚オメガとオメガ嫌いの上司

蒼井梨音
BL
ベータとして生きてきた無自覚オメガの小国直樹は、オメガ嫌いの白鷹課長のいる部署に異動になった。 ビクビクしながら、なるべく関わらないように仕事をしてたのに、 ペアを組んでいた先輩が倒れてしまい、課長がサポートすることに。 そして、なぜか課長にキスされてしまい…?? 無自覚オメガ→小国直樹(24) オメガ嫌いの上司→白鷹迅(28)アルファ 第一部・完 お読みいただき、ありがとうございました。 第二部 白鷹課長と一緒に住むことになった直樹。 プロジェクトのこととか、新しくできた友だちの啓さんのこととか。 相変わらず、直樹は無自覚に迅さんに甘えています。 第三部 入籍した直樹は、今度は結婚式がしたくなりました。 第四部 入籍したものの、まだ番になってない直樹と迅さん。 直樹が取引先のアルファに目をつけられて…… ※続きもいずれ更新します。お待ちください。 直樹のイラスト、描いてもらいました。

白花の檻(はっかのおり)

AzureHaru
BL
その世界には、生まれながらに祝福を受けた者がいる。その祝福は人ならざるほどの美貌を与えられる。 その祝福によって、交わるはずのなかった2人の運命が交わり狂っていく。 この出会いは祝福か、或いは呪いか。 受け――リュシアン。 祝福を授かりながらも、決して傲慢ではなく、いつも穏やかに笑っている青年。 柔らかな白銀の髪、淡い光を湛えた瞳。人々が息を呑むほどの美しさを持つ。 攻め――アーヴィス。 リュシアンと同じく祝福を授かる。リュシアン以上に人の域を逸脱した容姿。 黒曜石のような瞳、彫刻のように整った顔立ち。 王国に名を轟かせる貴族であり、数々の功績を誇る英雄。

【完結】初恋のアルファには番がいた—番までの距離—

水樹りと
BL
蛍は三度、運命を感じたことがある。 幼い日、高校、そして大学。 高校で再会した初恋の人は匂いのないアルファ――そのとき彼に番がいると知る。 運命に選ばれなかったオメガの俺は、それでも“自分で選ぶ恋”を始める。

『アルファ拒食症』のオメガですが、運命の番に出会いました

小池 月
BL
 大学一年の半田壱兎<はんだ いちと>は男性オメガ。壱兎は生涯ひとりを貫くことを決めた『アルファ拒食症』のバース性診断をうけている。  壱兎は過去に、オメガであるために男子の輪に入れず、女子からは異端として避けられ、孤独を経験している。  加えてベータ男子からの性的からかいを受けて不登校も経験した。そんな経緯から徹底してオメガ性を抑えベータとして生きる『アルファ拒食症』の道を選んだ。  大学に入り壱兎は初めてアルファと出会う。  そのアルファ男性が、壱兎とは違う学部の相川弘夢<あいかわ ひろむ>だった。壱兎と弘夢はすぐに仲良くなるが、弘夢のアルファフェロモンの影響で壱兎に発情期が来てしまう。そこから壱兎のオメガ性との向き合い、弘夢との関係への向き合いが始まるーー。 ☆BLです。全年齢対応作品です☆

多分嫌いで大好きで

ooo
BL
オメガの受けが消防士の攻めと出会って幸せになったり苦しくなったり、普通の幸せを掴むまでのお話。 消防士×短大生のち社会人 (攻め) 成瀬廉(31) 身長180cm 一見もさっとしているがいかにも沼って感じの見た目。 (受け) 崎野咲久(19) 身長169cm 黒髪で特に目立った容姿でもないが、顔はいい方だと思う。存在感は薄いと思う。 オメガバースの世界線。メジャーなオメガバなので特に説明なしに始まります( . .)"

処理中です...