【完結】長編版 王太子に婚約破棄されましたが幼馴染からの愛に気付いたので問題ありません

天田れおぽん

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婚約披露の夜会へ

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 ライラックの花咲くアプローチに、スタイツ伯爵家の馬車が止まった。

 静かに沈んでいく太陽を背に浮かびあがる馬車は、白馬が引く二頭立ての青い馬車だ。

「公園に行った時の馬車ね」

 馬車へと向かいながらアリシアが言う。

 夜会へと運んでくれる馬車にはカンテラの灯りが添えられている。

「ああ。スタイツ伯爵家で一番よい馬車だからね。夜会へ行くなら見栄えも大事だよ」

「ふふ、そうね。今日もレアンは素敵よ」

 若きスタイツ伯爵は、婚約者の言葉に白い肌をポンと赤く染めた。

 今日のレアンはグリーン地に金刺繍の入った貴族服にレースのクラバットをしている。

 婚約者の瞳の色であるグリーンは、金髪金目に映えた。

 アリシアはふんわりとした金色のドレスだ。

 侍女のマイラが『レアンさまコレクション』と呼んでいる中から選んだ一着である。

 金糸を織り込んだようなレースをふんわりと何枚も重ねて作られたドレスは華やかではあるが派手すぎず、アリシアによく似合っていた。

「今日のキミも素敵だよ、アリシア。会場で皆の注目の的だね」

 レアンはそう言いながら馬車の中へとアリシアをエスコートする。

 馬車に乗り込んだのは三人。

 アリシアとレアンは向かい合って座る。そしてレアンの隣には侍女が座った。

「本日は私も参りますので何かありましたらお申し付け下さませ」

 澄ました顔をしているマイラは、侍女らしく濃紺に白襟の目立たない服装をしているが妙に存在感がある。

「ええ、そうするわ」

 アリシアが言うと、黒髪をキュッとお団子にしてしている彼女は黒い瞳をキランと輝かせた。

「何があってもお任せください。ドレスの乱れも即時対応でお直ししますし、お化粧がとれてもすぐ直せますから大丈夫ですよ」

「ん、それは安心」

 大げさに頷いて見せる婚約者に、アリシアはフフフと笑う。

「そうね。マイラが一緒なら髪が乱れても安心だわ」

 今夜のアリシアは長い金髪をハーフアップにしていた。

 キラキラと輝く艶やかな髪を彩るのは生花と愛する人から贈られた宝石。

 水晶のなかに金の入ったルチルクォーツやエメラルドを使った髪飾りが輝いている。

 丁寧にブラッシングされた髪は、一本一本が黄金のように輝いていた。

 一段と魅力的になった婚約者にレアンがお茶目かつ色っぽい視線を投げつつ言う。
 
「ねぇアリシア。いつでもキスができるね」

「もうっ、レアンったら」

 真っ赤になったアリシアは白い手袋をした小さな手でペシペシと婚約者の腕を叩く。

 それを見てマイラはフフフと笑った。

 夜会会場である城に近付くにつれ道を行く馬車の数は増えていく。

 様々な色やデザインの馬車が華やかに列を作る頃には、普段にも増して豪華に飾られた城の入り口や居並ぶ衛兵たちの姿が見えた。

 馬車を降りて進む道にも花が咲いている。

 城内に入っても花は飾られていて大理石の廊下を進み大広間が近くなればなるほど花弁が大きく華やかなものになっていく。

「随分と派手なのね」

「ああ。最近の王室は何かと派手なんだ」

 アリシアのつぶやきに、レアンは眉をしかめて答えた。

(あぁ。ペドロさまとミラさまの結婚が近いから、と、いうことね)

 そのことに気付いたところでアリシアに思うところはない。隣には既に愛しい婚約者がいる。

「ん? 何かついてる?」

 ジッと見上げるアリシアの視線に気付いたレアンがニコッと笑う。

(この人の側に居れば大丈夫)

 いつの間にかレアンの腕に縋るように手を回していた自分に気付いたアリシアはスッと背を伸ばし、婚約者に笑みを向ける。

「いいえ。何もついてないわよ」

 そう答えるアリシアの耳元に「何かつけてくれてもいいけど」と、レアンは囁く。

 真っ赤になったアリシアは「もう、もう……」と、言いながら、白い手袋をした小さな手でペシペシと婚約者の手の平を叩く。

 それを後ろに控えるマイラが満足そうな微笑みを浮かべて眺めていた。

 横を通り過ぎていく貴族たちの好奇に満ちた視線に気付いたアリシアは、小さくコホンと咳をして話題を変えた。

「今夜は人が多いわね」

「そうだね」

 レアンは同意しながら愛しい婚約者を人混みから守るように自分にそっとに近付けた。

 人の流れに任せて進んだアリシアたちが赤いカーテンが綺麗なドレープを描く会場の入り口に辿り着いた頃には、周囲に人が溢れていた。

「王太子殿下が御結婚される年の国王主催の夜会ですもの。欠席するのは難しいわよね」

「そうだね。我々ですらここにいる」

「そうね」

 レアンとマイラはさりげなくアリシアの様子を伺っていたが、当の本人は全く意に介していなかった。

(本来であれば、わたしは招待する側だったわよね。今となっては招待される方でよかったわ。不敬になるから口には出せないけれど)

 そんな風に考えているとは見えない澄ました顔をしたアリシアは、案内係に言われるがまま上流階級の人々が入場待ちをしている列にレアンたちと並んだのだった。
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