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1巻
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しおりを挟む第一話 王太子に婚約破棄された公爵令嬢は辺境伯に嫁ぐ
「いま、何とおっしゃいまして?」
わたくしは公爵令嬢、クラウディア・エクスタイン、十八歳。
わたくしの婚約者は王太子、ライネル・カルネード、十八歳。
王太子さまと結婚なんて、あら素敵。そう思われるかもしれませんが、実際はそう甘いモノでもありません。
「クラウディア! お前は次期王妃に相応しくないっ! 婚約破棄だっ!」
長い金髪をなびかせたライネルさまが、国旗や色とりどりの大振りな花で華やかに飾られた壇上で声を荒らげて叫んでいます。
王族らしい整った顔立ちに青い瞳の王太子は見た目が良いです。
声も悪くはありませんが、いかんせん発言内容が良くありません。
金の刺繍が映える白いウエストコートを羽織った姿の見栄えが良いだけに、悪目立ちしております。
ここは王立学園の大広間、今は卒業式典の真っ最中。卒業生が一堂に会する門出の場で、王太子ともあろうお方が婚約破棄を宣言するなど正気の沙汰とは思えません。
しかも式典最後の華である、ダンスタイムに入ろうかというタイミング。華やかな衣装で身を包みソワソワとしていた卒業生たちは、一瞬にして静まりかえってしまいました。
王立学園ですから、生徒といっても貴族の子息や令嬢など身分の高い者ばかり。
そのような方々の記念すべき晴れの舞台を私心で邪魔するなど、王族の信用に関わります。
国王王妃両陛下が公務により欠席され、ライネルさまは卒業生の一人でありながら代理として挨拶を読み上げる予定でした。
なのに。これは一体どういうことなのでしょうか。
聞きたいことはいろいろとありますが、まずはコレを聞かなくてはいけません。
「ライネルさま。どのような理由で、そのような結論に辿り着かれたのですか?」
わたくしはサッと広げた扇子で口元を隠し、首をコテンと右に傾けます。
貴族社会を生き抜くには、それなりの作法と根性が必要です。ストレス軽減のために扇子に頼るというのも情けない話ですが、長年の癖になっているので仕方ありません。
本日の扇子は卒業という華々しい席に相応しく、紅白に金ラメの散る艶やかなものを選びましたの。いかがかしら? と、聞く前に暴挙に出られた王太子をどうあしらったものか。
わたくしは扇子を小さくパタパタと振りながら考えます。
ライネルさまの瞳の青とわたくしの瞳の緑を使った華やかなベルラインのドレスは、卒業式典に合わせてお父さまがあつらえてくれたものです。本来であれば婚約者から贈られたドレスを着るものですが、用意してもらえなかったので仕方ありません。
それでも婚約者の顔を立ててライネルさまの色を使ったというのに、この仕打ち。
しかもライネルさまが愚かな振る舞いに出たのは今日が最初というわけでもありません。最後でもないでしょう。
それにしても今回は内容が大胆すぎます。
「お前はブリリアント・バークレイ男爵令嬢をいじめたそうじゃないか」
「そのような事実はございません」
キッパリと言い切るわたくしに、こちらを指さしてポーズを決めているライネルさまは全身をワナワナと震わせました。
「えーいぃっ、言い訳か!? この期に及んで見苦しいっ!」
いえ、見苦しいのはライネルさまです。お祝いムード満点の華やかな壇上にいるのに言動が祝いの席とは合っていないライネルさまは残念ながら浮きまくっています。
わたくし、会場を埋める卒業生の皆さまからの視線が痛いです。
静まり返る生徒たちは巻き添えになることを恐れながらも、興味津々といった様子でことの成り行きを見守っています。公爵令嬢として簡単には引けない場面です。
「わたくしたちの婚約、ならびに結婚は政略的なものでしてよ。王太子殿下であっても勝手に破棄できませんわ」
貴族の結婚相手は好いた惚れたで決めるものではありません。政略的なものなのです。
特に王族に関しては比類なき厳しさがあります。
ちょっと可愛い娘がいたから妃にしよう、などと、安易に決められるものではないのです。
「王太子殿下の婚約者に相応しい立場にある年の近い女性は、わたくししかおりません。国内はもちろん、国外に目を向けても釣り合いのとれる女性は他におりません。その辺りの事情もライネルさまはご承知ではございませんか」
わたくし、公爵令嬢ですよ? 貴族社会、ましてや王族ともなれば、後ろ盾含めてナンボのもんの存在なのです。
ですから、わたくしが気に入らないからといって切り捨てて良いわけがありません。
バカなの死ぬの? と口にするのはさすがに不敬にあたりますので、扇子を細かくパタパタ振って耐えます。わたくし、公爵令嬢ですから。
「えぇいっ、うるさいっ! ブリちゃんから聞いているぞ。お前がどんなひどい仕打ちを彼女にしたかを!」
ブ、ブリちゃん!? 思わずわたくし、言葉も息も呑みこみました。
ライネルさま、バークレイ男爵令嬢のことをブリちゃんと呼んでいるの!? なかなかの衝撃です。
今日一番の驚きといっても過言ではありません。
ブリリアント・バークレイ男爵令嬢とライネルさまの仲が噂になっていることは、わたくしも知っていました。
噂どころか他人の目など気にせず、学園内のアッチでもコッチでもイチャイチャイチャイチャしているのですから、見たくなくても目に入ってしまいます。
わざと見せつけるような真似をしているから、私の気を引いて構ってほしいのかしら、それとも怒らせて何か行動を起こさせたいのかしら、などと、アレコレと考えこんでしまった時期もありました。
ですが、当人たちには特に深い思惑もない様子です。無邪気すぎてわたくし、かえって戸惑ってしまいました。
ゆえに、わたくしは公爵令嬢として王太子の婚約者として、相応しい態度をとることに決めたのです。
――バークレイ男爵令嬢のことをまるっと無視いたしましょう。
それが王太子の婚約者たる公爵令嬢のあるべき姿だと思いましたので。
けれど今日こんな形で結実しようとは想像もしていなかったのです。
いや、ダメでしょう? ツッコミたいです。ツッコみたいけどツッコめません。
ここでツッコんでしまったらわたくしの負けです。
すべては扇子の下に隠すのです。ええ、隠します。隠しますとも。
「クラウディア! お前はこの可愛く可憐でなよやかなブリリアント・バークレイ男爵令嬢を見て、守ってあげたいとは思わないのかっ!」
「ライさまぁ~。私、こわぁ~い」
ラ、ライさま!? 絶句です。
バークレイ男爵令嬢はライネルさまのことをライさまと呼んでらっしゃるの!?
そのバカ、一応は王太子ですのよ。それを、ライさま!?
「あーよしよし。ボクが守ってるから、一緒にいなさい」
「はぁ~い」
もう言葉どころか溜息も出ません。
わたくしは、ピンクの髪をふわふわと揺らして細い体に見合わぬ大きな胸をライネルさまの腕に押しつけるようにして絡まるブリリアント・バークレイ男爵令嬢を無言で見つめます。
長い睫毛に囲まれた目にハートを浮かべ、うっとりとライネルさまを見上げているご令嬢。
あざとい。絵に描いたようなあざとさでこちらが赤面してしまうわ。
ただ、あなたが絡まってるその男はわたくしの婚約者なのですけど、その点についてはどう考えていらっしゃるのかしら。
思わぬ急展開に、卒業式典の会場はざわめいています。
お祝いムードがぶち壊しになったのですから当たり前です。王太子といえば次期国王。
次期国王が男爵令嬢を腕に絡めて公爵令嬢に婚約破棄を宣言したのですから、皆が動揺するのは当然でしょう。
婚約解消ならいざ知らず、婚約破棄。上位貴族令嬢ならまだしも相手は下位貴族の男爵令嬢。
ツッコミどころが満載すぎてどこからどう言及すればいいのか悩むところです。
とはいえわたくしにとっても、ライネル・カルネード王太子は好ましい人物とは言えません。
むしろこのまま婚約破棄を受け入れて結婚を取り止めることもやぶさかではありません。ええ、むしろ渡りに船です。あんなのと結婚しないで済むのなら、わたくしにとっても良いことでしょう。
ですが、ライネルさまと結婚する、ということは次期王妃になるということです。
未来の国母になるのですから条件がいろいろとあります。平民の結婚とは違うのです。
そう考えこんでいた時、ライネルさまが口角を吊り上げて悪辣な笑みを浮かべました。
「クラウディア・エクスタイン。お前が泣いてすがるなら側妃にしてやってもいいがな」
「っ!?」
なんたる暴言! 驚きのあまり言葉が出てきません。あまりの言われように我慢できず、わたくしはライネルさまを睨みつけました。
わたくしは今、ひどい侮辱にあっているのです。簡単に引いては私の矜持に傷がつきます。
ライネルさまの高笑いが王立学園の大広間に響き渡ります。
その腕に絡まるピンク髪の物体も同じように高笑いしています。
卒業式典会場のざわめきは一層大きくなっていきました。
学園の大広間は天井も高くて音がよく響きますから、ざわめきは何倍にもなっていきます。
わたくしはいたたまれません。いろいろな意味で。
「お前ごときがこなせた王妃教育をブリちゃんがこなせないとは思わないが」
「うんっ、ブリリアントがんばるっ」
「可愛いなぁ、ブリちゃんは。がんばれ」
「うんっ。私、ライさまのためにがんばるねっ」
なんでしょうか、このバカップル。周りの空気を一切読まない図太さは王族向きかもしれませんが、それ以外はお世辞にも相応しいとは言えないです。主に頭とか。
「あぁ、可愛ぃ~。クラウディア、お前にブリちゃんの千分の一でも可愛げというものがあればなぁ……」
必要ありません、そんな可愛げ。
不敬になりそうな言葉を呑み込んで、わたくしはライネルさまの上機嫌な顔を睨みつけました。
ニヤニヤと下品な笑いを浮かべる王太子殿下は、何を勘違いしているのかベラベラと喋り続けます。
「ブリちゃんがいくら可愛くても、まずは授業を受けなければ身につくモノも身につかない。その間くらいは代理が必要だ。代理くらいなら、お前にだって務まるだろう」
いや無理ですから。ハッキリと言葉に出せば面倒な反応がありそうなので言いませんけど、公爵令嬢は男爵令嬢の代理など務めません。
その男爵令嬢が王妃教育を学び終えるまで何年かかるか存じませんが、代理などお断りです。
わたくしは無言でいることでお断りの意思表明をしました。
それがライネルさまに伝わったかどうかはわかりませんけれど。
「正妃はブリちゃん。側妃がお前。しっかり働いてくれるなら、ボクはそれでも構わない」
伝わっていなかったようです。残念ですがライネルさまはバカだから仕方ありません。
「……承知いたしました」
わたくしが返事をした瞬間、会場にいた卒業生たちが一気に息を呑む音が聞こえてきます。
「そこまでおっしゃるのなら、婚約破棄を受け入れますわ」
「「えっ!?」」
ライネルさまもブリリアント・バークレイ男爵令嬢もずいぶんと驚いていますが、驚かれることに驚きを感じます。
二人とも人間性を映した間の抜けたバカっぽい表情になってしまいました。面白いから構いませんけど。
「手続きについては家を通して正式に行ってくださいませ。不備のないよう確実に、かつ迅速にお願いしたく存じます。つきましては、明日からの王妃教育は辞退させていただきますわ」
わたくしはここ一番という時の笑顔を浮かべて、壇上のライネルさまとブリリアント・バークレイ男爵令嬢を見上げます。
「では、失礼いたします」
とびっきり美しいカーテシーをとり、ピカピカの床を踏みしめながら思い出深い王立学園をあとにしました。
◇◆◇
「ただいま戻りました」
「おかえり、クラウディア」
自宅に戻ったわたくしは、真っ先にお父さまの執務室へ報告に出向きました。
いつもと同じように貴族らしい服装で執務机に向かっていたお父さまは、笑みを浮かべてわたくしを迎えてくれました。
淡い金髪に縁取られた整った顔。瞳の色とお揃いの空色でできたウエストコートに白いシャツ、フリルのついたクラバット。柔らかな色合いの花模様の刺繍も踊っていて、四十歳を超えても若々しいお父さまにはお似合いです。
ですが、今日はずいぶんと疲れているように見えました。
「まぁ、座りなさい」
お父さまは応接用の椅子に座るように促すと、侍女にお茶の用意をさせました。
執務室は天井近くまである本棚と大きな窓に囲まれていて紙とインクの匂いがする落ち着いた仕事部屋です。お父さまが一日のほとんどを過ごす場所であり、お父さまが恋しくなった時にわたくしが訪れる部屋でもあります。
大きな執務机からわたくしの向かい側の椅子へと席を移したお父さまとお茶を飲みながら、わたくしは卒業式典での顛末を報告します。
話が進むにつれ、お父さまの表情は曇っていきました。
「それは大変だったね」
「ですが、これからはもっと大変になりますわ。新しい婚約者を決めなくてはなりませんから」
わたくしはもう十八歳。年頃や身分の合う令息たちはすでに婚約しているか結婚しています。しかし公爵令嬢が身分の低い相手と婚姻を結ぶことなどできません。
婚約者探しは大変でしょうけれど、相応しい結婚相手を選ぶのが公爵令嬢としての務めであり、わたくしの気概です。
「早くに亡くなったお前の母、マリアのためにも、私はお前を幸せにしたい」
「わかっておりますわ、お父さま」
わたくしを産んだあと、お母さまの体は回復せずに儚くなってしまわれた。周囲の方々はお父さまに再婚を勧めたそうです。
けれど、お母さまを深く愛しているお父さまは新しい妻を迎えることなく、わたくしとお兄さまを男手一つで育ててくれました。
母によく似たわたくしを、お父さまもお兄さまも大変可愛がり愛してくれています。溺愛です。
わたくしに王太子であるライネルさまとの縁談が持ち上がった時、そんな二人が手放しで喜んだかといえばそうではありません。
王族に嫁ぐということは苦労の連続です。我が家は金も力もある公爵家ですから、わたくしに苦労させないことなど簡単にできます。
ただでさえ『王家に嫁いで苦労する必要などない』と考えていたお父さまにとって、今回のことは腹立たしいこと以外の何物でもないでしょう。
「今日、何かが起きることは察しがついていたよ」
予感的中ですね、お父さま。ですが『予感』というにはお父さまの態度は確信に満ちています。
「何かありましたの?」
お父さまは封筒を一通、差し出しました。
「これを見てごらん」
「……まぁ!」
わたくしは驚きました。その高級そうな封筒には王家の紋章が刻まれていたからです。
「これは?」
わたくしの問いかけに答えようとしたお父さまでしたが、それを遮るように、別の声が響きました。
「クラウディア! クラウディアはいるか!」
叫びと共にスラリと背の高い男性が部屋に飛び込んできます。
「お兄さま……」
怒りに顔を赤くして眉根を寄せて空色の目を吊り上げたセシルお兄さまが、淡い金色の髪をなびかせてわたくしたちの前に現れました。
服装が似ていることもあり、お兄さまはお父さまとそっくりです。
しかし若い分、感情が表に出やすいのです。貴族としてはいかがなものかとわたくしは常々思っているのですが。
妹思いのお兄さまは怒りをあらわにしながらも、わたくしに優しい声で問いかけました。
「婚約破棄されたと聞いたが、大丈夫か?」
「ええ、わたくしは大丈夫でしてよ、お兄さま」
お兄さまは立ち上がったわたくしを優しく抱きしめました。
「あぁ、クラウディア。可哀想に。辛かったね」
「お兄さま……」
「あのバカがバカなことをするのはいつものことだが、バカとはいえ今回のバカは許しがたいっ!」
お兄さま、あまりバカバカ言うのはお勧めできません。不敬ですよ。
いくら真実でも、言っていい真実と言ってはいけない真実が貴族社会にはありますよね、と言いたいところですが、これを言うのも不敬だと気付いたわたくしは、賢明にも言葉を呑みこみました。
「バカだバカだと思っていたが、ここまでバカだったとは。私の可愛いクラウディアを悪役令嬢にするなんて」
「……悪役令嬢?」
首を傾げるわたくしを、お兄さまは怒りの冷めやらない顔で覗きこみます。
「あのバカとその恋人が、お前のことを悪役令嬢と触れ回っているのだよ」
「えっと……悪役令嬢とは?」
「悪役令嬢とは、小説やお芝居でヒロインの敵役となる令嬢のことだよ」
それでしたらわたくしにもわかります。しかし、お兄さまの説明が続いていくことで理解は追いつかなくなるのです。
「家柄や財産、容姿などがヒロインよりも有利で恋路の邪魔になる悪役だ。ブリリアント・バークレイ男爵令嬢よりもクラウディアのほうが、家柄もいいし財産もあるし、容姿だっていい。頭だって性格だってクラウディアのほうがいいのだ。敵役どころか、まともに張り合うことすら無理なのに、まるで勝ったようなドヤ顔をしていたそうじゃないか。辛かったね、クラウディア」
わたくしは返事のしようがありません。敵役はわかりますが、悪役令嬢とは何たるかが再び謎に包まれてしまったからです。
ドヤ顔? それはどのような顔でしょうか。お兄さまの知識が豊富なことには驚きましたがそのほとんどは理解できません。
そもそもすべての条件がヒロインを上回ってしまったら勝負にならないと思うのですが、違うのでしょうか。王妃教育で忙しく恋愛小説など読む暇などなかったわたくしには、未知の世界です。
「まぁまぁ、セシル。落ち着きなさい」
「父上は腹が立たないのですか!?」
お兄さまは怒りが収まらない様子です。これは妹が可愛いという意味だけではありません。
わたくしをコケにしたということは、我が公爵家をコケにしたのと同じことです。
貴族社会で生き残るには名誉は大切ですから放置していい問題ではありません。
「二人ともまずは座って落ち着いてくれないか? ひとまずそれを見てほしいのだよ」
お父さまはお兄さまを宥めながら、そう言います。
お父さまの真剣な声音を聞いて、お兄さまは渋々とわたくしの隣の椅子に座りました。
「中を見てごらん」
「はい」
お父さまに促されてわたくしは封筒の中身を取り出します。
中に入っていたのは、表に王令と書かれた一枚の紙。
『アレクサンドロ・コルネリア辺境伯とクラウディア・エクスタイン公爵令嬢の婚姻をここに命ずる』
その紙には、そう書かれていました。
「……は?」
さすがにわたくしも間の抜けた声を出してしまいました。公爵令嬢としてはあり得ませんが、一人の人間としては許容の範囲でしょう。
王令? これは王令ですの? 王令は国王によって法を定めるときに使うものです。なぜわたくしの婚姻が法として命ぜられるのでしょう……疑問がわたくしの中に渦巻きますが、落ち着いてお父さまの説明を待ちたいと思います。
「これはクラウディアが帰ってくる少し前に届いたのだが……」
「えっ」
国王陛下はわざわざ公務にいく前にコレを用意された、ということでしょうか。ならば国王陛下は今回の茶番を事前に了承されていたということになります。しかもわたくしの次の婚約者まで決めていたということです。
わたくしが衝撃のあまり固まっていると、お兄さまが私の肩を指先でチョンチョンと突いてから書類上の一点を示しました。
「ここを見て」
「なんですか? お兄さま」
「このサイン……」
王令には陛下のサインが入るものです。サインがあるのは普通のことなのですが……
「……あら」
お兄さまに指摘されてよくよく見ると、そこにあるのは流麗でいて力強く、思わず溜息が出てしまうほど達筆な陛下のサインではありません。
サインが入るべき場所にあったのは、見覚えはあるけれどへったくそな字です。
ペン先の制御すらまともにできていないミミズがのたくったような線で書かれた、バランスのバの字すら感じられないサインがそこにあります。このサインは……
「ライネルさま、ですね」
「ああ」
つまりこれは、ライネルさまが父である国王陛下の名を騙ってサインした王令です。
「父上。この明らかに陛下のものではない王令を、いかがするおつもりですか?」
「私もどうしたものかと迷っている段階なのだよ」
サインの偽造というのも問題ですが、この場合は王令ではなく王命を使うのが自然なのです。王令と王命を間違えるなんて、バカ王太子でお馴染みのライネルさまらしいです。
そこまでして自分以外の者との婚姻を成立させたいのですね。ならば受けて立ちましょう。
「悩むことはありませんわ、お父さま、お兄さま」
「ん?」
「このお話、お受けします」
「「えっ!?」」
お父さまとお兄さまが、そっくりな表情を浮かべて驚いています。
けれどわたくし、売られた喧嘩は買うだけでなく、利子をつけてお返しする主義なのですわ!
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