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ふしぎな三人組

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「宇宙人⁉」
 ハルカは素っ頓狂な声をあげた。開けた口を閉じるのも忘れて、マスミを見上げたまま固まった。

 窓から入る風もツッコミを入れるように白いカーテンを大きく揺らす。四月も終わろうとしている午後。空は少し霞がかかったような青空で、どこかからクシュンと花粉の残りに反応したようなクシャミの音が聞こえた。

「うん」
 マスミに意見を変える気はないようだ。小6男子が突飛なことを言うのは珍しいことではない。小6男子にしてはスッキリあか抜けたルックスのマスミが背筋を伸ばして自信に満ち溢れた口調で言う。
「出会いがあって、好きになっちゃったら相手が宇宙人でも結婚する」
「でも、だって。相手は宇宙人だよ?」
「一番いい人を選びたいからさ。ボクは男とか女とか性別のことや年齢のことだけじゃなく、人種にもこだわりたくないのさ」

 マスミに女性的な所はないが端正な顔立ちをしているのでボーイッシュな女の子のようにも見える。そんな彼が言うと妙な説得力があった。でも、ハルカには、これだけは言っておきたいことがある。

「いや、宇宙人は人種じゃないから」
「ハルカってば細かいなぁ。要は間口は広くしときたいのさ。昇降口みたいに」

 ハルカのツッコミをまるっと無視して、マスミは自信満々に言った。

「ウフッ。微妙な広さね」
「なんだよ。リオはどうなのさ」

 ムッとした表情でマスミが言うと、リオはぷっくりとした口元に指をあててニッコリと笑った。

「んー。私は結婚はしたくない派」
「あ、リオのトコは離婚したんだっけ。結婚にユメが持てないとか?」

 マスミの無神経な言葉に怒るでもなく、リオはサラっと言う。

「そういうワケでもないけど。面倒でしょ? 他人と暮らすのって」
「そうだねぇ。他人だもんねぇ。面倒だよねぇ」
「でしょー? 」

 ショートカットにした黒髪を何度もブンブンと弾ませてうなずきながらハルカが言えば、その横でリオは柔らかな茶色のロングヘアをサラサラ揺らしてうなずいた。

「男の子って、散らかすでしょ。部屋汚されたり、汚い手で私のものを触られたりするのイヤなのよね」
「いやいや。結婚するころには大人だから。手が汚いとか、ないから」
「そりゃマスミ君は汚い手ではないかもしれないけど。ほら、男子を見て」

 リオはマスミの顔を両手ではさむとクイッと室内に向けた。

 ここは青菜公立学校六年二組の教室である。ゴールデンウイーク直前の室内では、解放感に浮かれる生徒たちが思い思いの事をしていた。特に男子たちは浮かれた様子で、チョッカイを出し合いながらアッチでもコッチでもじゃれている。立って押し合っているくらいならまだマシで、なかには床に転がっている者もいた。席についている男子も何かしら触っていて、それが校庭で拾ってきた何かだったりもした。

 これにはマスミも認めざるおえない。

「うん。清潔とは言えない」
「でしょ?」

「おーい、ハルカ。コレ、ゴミ箱に捨ててぇ~」

 校庭で拾ってきた何かを触っていた男子が、ハルカに向かってゴミを投げた。

「はいよ」

 ハルカは器用にゴミをキャッチすると、軽やかなフォームでゴミ箱に投げ入れた。

「ナイスですねぇ~」
「いつもながら見事ですねぇ~」
「いやぁ~、それほどでもぉ~」

 男子たちの喝さいを浴びて、ハルカは照れたように答えた。それを見て、マスミとリオは固まった。

「うーん。女子の手も油断できない」
「そうね。油断できないわね」

 マスミの意見にリオはうなずいた。ハルカは二人の視線を感じて振り向いた。

「なに? ふたりして変な顔で見ないでよ」
「いや、ハルカさ」
「ゴミって、汚いのよ。分かってる?」
「そりゃ分かってるけど。だから捨てるんでしょ?」
「だからさ~」
「手~」
「手がナニ?」

 ハルカは二人が何を言いたいのかが分からず、キョトンとしていた。

 チビだけど運動神経抜群で日に焼けた健康的な肌色の天然系女子ハルカ。紫外線対策バッチリ色白長身細身のジェンダーフリー男子のマスミ。サラサラロングヘアと大きな目が印象的なフンワリ女子だけどツッコミ強めのリオは、仲良し三人組だ。個性バラバラで共通点がいまひとつ見えないため、ふしぎな三人組と呼ばれている。

 そばで見ていた男子が笑いながら言う。

「オマエら、おもろいな。いつものことだけど」
「「「そんなことないっ」」」

 三人が口をそろえて言ったので、クラス中が爆笑した。そこにタイミングよくチャイムが鳴り響く。 

「おもろいって、ボクたちはコメディアンじゃない」
「そうよね」
「そうだ、そうだ。我々は断固として抗議するぞー」

 ふしぎな三人組は、ブツブツとそれぞれに不満を口にしながら、それぞれの席に着いた。
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