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変身するの?

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「ミュッ、ミュッ。ミュッ、ミュッ」

 宇宙人は長い指でお菓子をつかんでは口に放り込み、ムニャムニャと食べていた。
 食べ続けていた。
 ちょっとハルカたちが心配になるくらいに食べ続けている。
 三人は、よく食べる宇宙人をマジマジと眺めていた。

「かなり、お腹が空いていたんだね」
「いや、マスミ君。単純に食いしん坊なだけかもしれない」
「地球の食べ物が口に合うのかしら? キチンと消化できているか心配だわ。お腹こわさないといいのだけど」
「そうだよね。宇宙人だから。いつも食べてる物とは、きっと違うよね」
「ええ。普段食べている物とは違うと思うわ」
「グミは宇宙食っぽいのかな?」
「似ていたとしても、成分とかは、確実に違うわよね」

 ハルカは驚いて言った。
「えっ。食べ物って、星によって違うものなの?」
「そりゃ、そうだろ。星によって育つ作物も違うだろうし」
 マスミが呆れたように言えば、
「そうよ。地球だって国によって育ちやすい作物が違うくらいだもの」
 と、リオも言う。

「えー。そうなんだー。大丈夫かなぁ」
 ハルカは宇宙人に視線を戻して言った。ハルカが心配そうに見守るなか、宇宙人は相変わらずパクパクと食べ続けている。
「おかわりがいるかなぁ……」
 と、別の心配もし始めた頃、ハルカは気付いた。

「アレ? 口に入れるとき、別のものになってない?」
「えっ、ナニ?」
「どういうこと?」
 驚いたマスミとリオも、宇宙人の口元をマジマジと見た。

「あっ」
「ホントだわ」

 食べ物が口に入る瞬間、何か違うモノになっている。なぜ分かるかといえば、イチゴ色のグミが別の色に変わっているからだ。

「これって……どゆこと?」
「モノを変える力がある、とか?」
「自分で自分の体に合う食べ物に変えているのかしら」
「えー、それって賢い~。いいなぁ。いつでもどこでも自分の好きなモノが食べられて」

 三人が見守るなか、宇宙人は、またひとつグミをとった。今度は口に入れる前に色を変えて遊んでいる。長い指の先で、グミが弾む。弾んだ拍子にイチゴ色が黄色になり、また指先で弾かれて緑色になった。次は青色になり、もう一度つつかれてると紫になった。また指先で弾かれてイチゴ色になり、もう一度跳ねて灰色になった。その時にはグミとは違う質感の、何だかよく分からないモノに変わっていた。それを見た宇宙人は満足そうな顔をして、パクッと口に入れた。モギュモギュと食べた宇宙人は、すっかりご機嫌になって、手を叩いて喜んでいる。その手は大きさを変えながら、伸びたり、縮んだり、していた。

「もしかして……」
 マスミはケータイを取り出すと、動画を表示させて宇宙人の前に置いた。

「この子、モノや自分を変身させる能力があるのかもしれない」
「ああ、そうね。食べ物を変えられるだけではないかもね。普通は、手の大きさだって変えられないもの。あんな風には」

 リオの言う通り、宇宙人の手は動かして変化しているというより、形そのものが変化しているように見えた。

「え? 変身能力? 食べ物を変えられる魔法が使えるとかでなく?」
「魔法って、ハルカ。それは、宇宙人でも使えないと思うよ」
「そうよ。科学技術とかなら別だけど、魔法は難しすぎるわ。宇宙人とはいえ。魔法よりも、生物としての特徴として変身できる、と、見る方が簡単よ」
「生物の特徴?」
「カメレオンとか、色を変えられる生き物なら、地球上にもいるじゃないか」
「あ、そうか」
「この宇宙人には、形そのものを変えられる特徴があるのかもしれないわ」
「え、でも、それと動画を見せることが、どう繋がるの?」
「地球の色々な映像を見せたら、意思疎通できるものに変身できるかも、と、思って」
「マスミ君、頭いいわね」
「……さっぱり、わからん」
「アナタはそれでいいわ、ハルカ」
「ああ。ハルカは理解できなくていいよ。どうなるか、を、観察しよう」
「うん」

 ハルカは、さりげなく悪口を言われたような気がしたが、それよりも宇宙人がどうなるのかが気になった。だから、ふたりに向けていた視線を、宇宙人にうつした。宇宙人は動画に興味を持ったようで、熱心に画面を覗き込んでいる。

「ミュッ?」

 宇宙人は画面を覗き込み、動画に反応していた。楽しげな音楽と共に、クルクルと映像が切り替わっていく。宇宙人は大きな目をキラキラさせながら、楽しそうに見ている。そして、変化が訪れた。
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