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第19話 問題解決
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子どもの頃によく行った公園は、王都の端の方にある。
カナン男爵家からは近い。
レーアン子爵家からは遠いが、その近くに祖父母の家があったのだ。
「子どもの頃は、よく来たわよね」
ディアナは公園の入り口から園内を見渡した。
久しぶりに来たはずだが、記憶にある光景とあまり違いがない。
アレックスと一緒に連れて来られた公園で、ディアナは兄やサミエルたちと一緒に飛び回って、いつも乳母をハラハラさせていた。
「そうだね。休みの日には、ディアナたちがこっちへ遊びにきていたから、一緒によく遊んだよね」
ディアナの隣には乳母ではなくサミエルがエスコートとして立っている。
時は流れ、状況は変わった。
「カフェは、こっちかな」
「可愛いガゼボが並んでいるわ」
サミエルにエスコートされて訪れた先には、園内の花がよく見える場所に作られたカフェだった。
「ここは子どもの頃にはなかったわね」
「そうだろう? 僕たちが来ていた頃には、園内には売店すらまともないくらいで……」
「あっ、そうそう。出店が来ていた日は当たりだったのよね」
ディアナたちは近くで花の咲くガゼボへと案内された。
今日は天気がいい。
カーテンは大きく開けられて、風は気持ちよく通っていくし、花咲く庭がよく見える。
それでいて隣のガゼボから見えないように横幕はしっかりと閉まっていた。
開放的でいて2人きりの空間がそこにある。
ディアナはサミエルと顔を見合わせて、少し照れたように笑った。
ガゼボの向こうに広がる花畑を2人で眺めて、初夏の賑やかな花々と緑の香りを嗅いだ。
よい香りの紅茶を飲み。
季節限定の桃のタルトを2人で食べて。
どうでもよいことを笑いながら喋って、会話を楽しんだ。
「……はぁ、楽しい」
「そうだね。公園の中も歩きたいし、そろそろ行こうか」
「ええ。そうね」
2人はガゼボを後にして、思い出の公園を腕を組んで歩いた。
兄と3人で転がるようにしてはしゃいだ思い出の地を眺めながら、昔話をしながら2人は笑い合う。
「あの時のディアナときたら……」
「サミエルだって……」
思い出話は尽きることを知らない。
「楽しかったわね」
「ん、楽しかったよ」
楽しい交流は、10代前半まで続いていた。
急激に疎遠となったのは、ディアナの婚約が決まった16歳以降だ。
「あのまま、楽しい時が続いていたらよかったのに」
「そうだね」
サミエルの笑顔が少し憂いを帯びたが、それは通り過ぎる雲のようにあっという消えた。
「ディアナは足が速かったから追いつくのが大変だったよね」
「ふふふ。そうだったかしら? でも私は運動神経がいいのにダンスは苦手で、学園では苦労したわ」
「そう? そうは見えないけど。ちょっと踊ってみようか」
サミエルに誘われて、ディアナは広場の隅のほうで踊った。
「ほら。うまいうまい」
「本当に? サミエルは褒め上手だから」
「そんなことはないよ、ディアナ。君は何でも器用にこなす……」
音楽が流れているわけでもないのに、2人は本格的に踊り始めた。
子どもたちがはしゃぐ声と、親や乳母たちが注意を促す声がバックミュージックだ。
「あの時……」
「え?」
最初に動きを止めたのはサミエル。
続いてディアナが足を止めた。
「僕のほうが先に婚約を申し込んでいたら、未来は変わっていただろうか?」
「サミエル……」
見上げた先には、見慣れた茶色の髪と瞳。
整った顔に真剣な表情を浮かべたサミエルは、普段の2割増し、ハンサムに見えた。
(先に婚約を申し込まれていたら……私はどうしたかしら?)
正直なところ、ディアナには分からない。
でも分かっていることはある。
「過去は変えられないわ」
ディアナは視線を下に落とした。
足元の踏み荒らされた芝生が見える。
「それに私はイーサンのことが好きだったもの。……あんな人でも好きだったのよ。バカでしょう?」
「そんなことない。そんなことないよ……ディアナ……」
サミエルはディアナを抱きしめた。
(温かい……人肌の温かさ……)
ディアナは改めて10年に渡って自分自身の孤独を知った。
最初からこの人を選んでおけばよかった、という思いと、イーサンを好きだった自分を否定するのも違うという思い。
他にも様々な感情が浮かんでは、ディアナの中で複雑に交錯する。
(過去は変えられないけれど、未来は変えられる)
ディアナはサミエルの腕の中で彼を見上げた。
どうということはない茶色の瞳が、自分を見ている。
見慣れた茶色の髪と瞳。見慣れた顔。
なのにドキドキと騒ぐ、この心臓の音は何?
(私は……サミエルのことが……)
ディアナは少しだけ足のかかとを持ち上げて、自分を見下ろしている顔に唇を近付けた。
触れるだけの軽いキス。
息を呑む音。
熱くなる体。
(この熱は、どちらの体のものかしら?)
茶色の瞳で茶色の瞳を見つめながら、ディアナは思う。
「ディアナ……結婚して」
「ええ。私も結婚したいわ、サミエル」
ディアナは、サミエルの腰のあたりが自分の体にあたっている熱いモノを感じながら、自分の望みは全て叶えられそうだと思った。
カナン男爵家からは近い。
レーアン子爵家からは遠いが、その近くに祖父母の家があったのだ。
「子どもの頃は、よく来たわよね」
ディアナは公園の入り口から園内を見渡した。
久しぶりに来たはずだが、記憶にある光景とあまり違いがない。
アレックスと一緒に連れて来られた公園で、ディアナは兄やサミエルたちと一緒に飛び回って、いつも乳母をハラハラさせていた。
「そうだね。休みの日には、ディアナたちがこっちへ遊びにきていたから、一緒によく遊んだよね」
ディアナの隣には乳母ではなくサミエルがエスコートとして立っている。
時は流れ、状況は変わった。
「カフェは、こっちかな」
「可愛いガゼボが並んでいるわ」
サミエルにエスコートされて訪れた先には、園内の花がよく見える場所に作られたカフェだった。
「ここは子どもの頃にはなかったわね」
「そうだろう? 僕たちが来ていた頃には、園内には売店すらまともないくらいで……」
「あっ、そうそう。出店が来ていた日は当たりだったのよね」
ディアナたちは近くで花の咲くガゼボへと案内された。
今日は天気がいい。
カーテンは大きく開けられて、風は気持ちよく通っていくし、花咲く庭がよく見える。
それでいて隣のガゼボから見えないように横幕はしっかりと閉まっていた。
開放的でいて2人きりの空間がそこにある。
ディアナはサミエルと顔を見合わせて、少し照れたように笑った。
ガゼボの向こうに広がる花畑を2人で眺めて、初夏の賑やかな花々と緑の香りを嗅いだ。
よい香りの紅茶を飲み。
季節限定の桃のタルトを2人で食べて。
どうでもよいことを笑いながら喋って、会話を楽しんだ。
「……はぁ、楽しい」
「そうだね。公園の中も歩きたいし、そろそろ行こうか」
「ええ。そうね」
2人はガゼボを後にして、思い出の公園を腕を組んで歩いた。
兄と3人で転がるようにしてはしゃいだ思い出の地を眺めながら、昔話をしながら2人は笑い合う。
「あの時のディアナときたら……」
「サミエルだって……」
思い出話は尽きることを知らない。
「楽しかったわね」
「ん、楽しかったよ」
楽しい交流は、10代前半まで続いていた。
急激に疎遠となったのは、ディアナの婚約が決まった16歳以降だ。
「あのまま、楽しい時が続いていたらよかったのに」
「そうだね」
サミエルの笑顔が少し憂いを帯びたが、それは通り過ぎる雲のようにあっという消えた。
「ディアナは足が速かったから追いつくのが大変だったよね」
「ふふふ。そうだったかしら? でも私は運動神経がいいのにダンスは苦手で、学園では苦労したわ」
「そう? そうは見えないけど。ちょっと踊ってみようか」
サミエルに誘われて、ディアナは広場の隅のほうで踊った。
「ほら。うまいうまい」
「本当に? サミエルは褒め上手だから」
「そんなことはないよ、ディアナ。君は何でも器用にこなす……」
音楽が流れているわけでもないのに、2人は本格的に踊り始めた。
子どもたちがはしゃぐ声と、親や乳母たちが注意を促す声がバックミュージックだ。
「あの時……」
「え?」
最初に動きを止めたのはサミエル。
続いてディアナが足を止めた。
「僕のほうが先に婚約を申し込んでいたら、未来は変わっていただろうか?」
「サミエル……」
見上げた先には、見慣れた茶色の髪と瞳。
整った顔に真剣な表情を浮かべたサミエルは、普段の2割増し、ハンサムに見えた。
(先に婚約を申し込まれていたら……私はどうしたかしら?)
正直なところ、ディアナには分からない。
でも分かっていることはある。
「過去は変えられないわ」
ディアナは視線を下に落とした。
足元の踏み荒らされた芝生が見える。
「それに私はイーサンのことが好きだったもの。……あんな人でも好きだったのよ。バカでしょう?」
「そんなことない。そんなことないよ……ディアナ……」
サミエルはディアナを抱きしめた。
(温かい……人肌の温かさ……)
ディアナは改めて10年に渡って自分自身の孤独を知った。
最初からこの人を選んでおけばよかった、という思いと、イーサンを好きだった自分を否定するのも違うという思い。
他にも様々な感情が浮かんでは、ディアナの中で複雑に交錯する。
(過去は変えられないけれど、未来は変えられる)
ディアナはサミエルの腕の中で彼を見上げた。
どうということはない茶色の瞳が、自分を見ている。
見慣れた茶色の髪と瞳。見慣れた顔。
なのにドキドキと騒ぐ、この心臓の音は何?
(私は……サミエルのことが……)
ディアナは少しだけ足のかかとを持ち上げて、自分を見下ろしている顔に唇を近付けた。
触れるだけの軽いキス。
息を呑む音。
熱くなる体。
(この熱は、どちらの体のものかしら?)
茶色の瞳で茶色の瞳を見つめながら、ディアナは思う。
「ディアナ……結婚して」
「ええ。私も結婚したいわ、サミエル」
ディアナは、サミエルの腰のあたりが自分の体にあたっている熱いモノを感じながら、自分の望みは全て叶えられそうだと思った。
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