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第5話 シャイン伯爵家
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バタバタと時は過ぎ、今は冬。
9月にはオラノスが戴冠式を終えて新国王となった。
ラファーガは、王国の建て直しのために1、2ヶ月ほど精力的に働いた後は、シャイン伯爵の屋敷に引きこもっていた。
(あと7ヶ月か? 私にはどれだけの時間が残っているのだろう。終わりが来る前にすべきことを済ませておかねば)
今日もラファーガは、執務室の大きな机の前で仕事をしていた。
窓の外には積もった雪が朝の光を受けて煌めいている。
寒い時期ではあるが、魔王との戦いを終えたラファーガにとっては、穏やかな日が続いているように思えた。
シャイン伯爵家の執事、エタンセルは新しい書類を差し出しながら言う。
「旦那さま、そろそろ気分転換に外出なさったらいかがですか?」
ラファーガは自分の右横にいる執事の方へ顔を向けた。
軋んだ音が響いたが、椅子はラファーガの大きな体をしっかりと受けとめるのに充分なサイズがある。
ラファーガは、ペンを持った右手をエタンセルに向けて言う。
「気分転換なんて必要ない。仕事が山積みだ」
「仕事といっても、屋敷で書類を処理しているだけではありませんか。最後に正式な場へ出席なさったのは、国王さまの戴冠式です。あれから3ヶ月も経っていますよ」
「まだ2ヶ月ちょっとだ。私は忙しい」
(本当は王都の屋敷ではなく、領地へ引きこもりたかったのだが……)
シャイン伯爵家の領地は王都から離れている。
(幸い、我が領地は魔王軍による攻撃に直接さらされることはなかった。どうにか軍人としての職は辞することができたが、国王じきじきに王国の復興に手をかせと言われたら断れない)
ラファーガは溜息を吐いた。
呪いは確実に彼の体を蝕んでいる。
「最近は鍛錬もされていませんし。少々筋肉が落ちたのではありませんか?」
「ん、そうかもしれない。だがこれからは武人ではなく領主として生きるのだから、そこまで筋肉は要らない」
(少し痩せた、というより、やつれた。エタンセルは元騎士で勘も鋭い。呪いのことに気付かれないといいのだが)
ラファーガは長年シャイン伯爵家に仕えている執事を見上げた。
短く整えた白髪をピッチリとオールバックにした長身で細身の老執事は、彼が子どもの頃から変わらない姿をしている。
グレーの瞳でジッと見られると全ては見透かされているような気持ちになるのも、子どもの頃と変わらない。
(だが呪いのことで、余計な心配などかけたくない。跡継ぎは親戚筋から優秀な者を迎えれば済む。滞っていた伯爵家の仕事にキリをつけて、残された者が困らないように……)
「領地に戻ることなく王都へ残ったというのに、王城にも行かず、社交の場も避けてらっしゃるのでは意味がないではありませんか」
「そんなことはないぞ。魔族の屍を国境に配置するなど、国防に関わる仕事をしているし。私は私なりにやっている」
「何をおっしゃるのです、旦那さま。夜会に出て【軍神ラファーガここにあり】というところを見せてくれば、国の守りなど事足ります」
「ハハッ。エタンセル、それは買い被りというものだよ」
豪快に笑うラファーガを見て、エタンセルの目元が孫でもみるように優しく緩む。
「夜会に出れば、未来のシャイン伯爵夫人との出会いもあるでしょうに」
「なっ……」
頬を赤く染めたラファーガを見たエタンセルは楽しそうな笑い声をあげて、次の書類を主人へと差し出したのだった。
9月にはオラノスが戴冠式を終えて新国王となった。
ラファーガは、王国の建て直しのために1、2ヶ月ほど精力的に働いた後は、シャイン伯爵の屋敷に引きこもっていた。
(あと7ヶ月か? 私にはどれだけの時間が残っているのだろう。終わりが来る前にすべきことを済ませておかねば)
今日もラファーガは、執務室の大きな机の前で仕事をしていた。
窓の外には積もった雪が朝の光を受けて煌めいている。
寒い時期ではあるが、魔王との戦いを終えたラファーガにとっては、穏やかな日が続いているように思えた。
シャイン伯爵家の執事、エタンセルは新しい書類を差し出しながら言う。
「旦那さま、そろそろ気分転換に外出なさったらいかがですか?」
ラファーガは自分の右横にいる執事の方へ顔を向けた。
軋んだ音が響いたが、椅子はラファーガの大きな体をしっかりと受けとめるのに充分なサイズがある。
ラファーガは、ペンを持った右手をエタンセルに向けて言う。
「気分転換なんて必要ない。仕事が山積みだ」
「仕事といっても、屋敷で書類を処理しているだけではありませんか。最後に正式な場へ出席なさったのは、国王さまの戴冠式です。あれから3ヶ月も経っていますよ」
「まだ2ヶ月ちょっとだ。私は忙しい」
(本当は王都の屋敷ではなく、領地へ引きこもりたかったのだが……)
シャイン伯爵家の領地は王都から離れている。
(幸い、我が領地は魔王軍による攻撃に直接さらされることはなかった。どうにか軍人としての職は辞することができたが、国王じきじきに王国の復興に手をかせと言われたら断れない)
ラファーガは溜息を吐いた。
呪いは確実に彼の体を蝕んでいる。
「最近は鍛錬もされていませんし。少々筋肉が落ちたのではありませんか?」
「ん、そうかもしれない。だがこれからは武人ではなく領主として生きるのだから、そこまで筋肉は要らない」
(少し痩せた、というより、やつれた。エタンセルは元騎士で勘も鋭い。呪いのことに気付かれないといいのだが)
ラファーガは長年シャイン伯爵家に仕えている執事を見上げた。
短く整えた白髪をピッチリとオールバックにした長身で細身の老執事は、彼が子どもの頃から変わらない姿をしている。
グレーの瞳でジッと見られると全ては見透かされているような気持ちになるのも、子どもの頃と変わらない。
(だが呪いのことで、余計な心配などかけたくない。跡継ぎは親戚筋から優秀な者を迎えれば済む。滞っていた伯爵家の仕事にキリをつけて、残された者が困らないように……)
「領地に戻ることなく王都へ残ったというのに、王城にも行かず、社交の場も避けてらっしゃるのでは意味がないではありませんか」
「そんなことはないぞ。魔族の屍を国境に配置するなど、国防に関わる仕事をしているし。私は私なりにやっている」
「何をおっしゃるのです、旦那さま。夜会に出て【軍神ラファーガここにあり】というところを見せてくれば、国の守りなど事足ります」
「ハハッ。エタンセル、それは買い被りというものだよ」
豪快に笑うラファーガを見て、エタンセルの目元が孫でもみるように優しく緩む。
「夜会に出れば、未来のシャイン伯爵夫人との出会いもあるでしょうに」
「なっ……」
頬を赤く染めたラファーガを見たエタンセルは楽しそうな笑い声をあげて、次の書類を主人へと差し出したのだった。
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