【完結】無敗の軍神は愛しき夫の子を孕む【全年齢BL】

天田れおぽん

文字の大きさ
5 / 25

第5話 シャイン伯爵家

 バタバタと時は過ぎ、今は冬。
 9月にはオラノスが戴冠式を終えて新国王となった。
 ラファーガは、王国の建て直しのために1、2ヶ月ほど精力的に働いた後は、シャイン伯爵の屋敷に引きこもっていた。

(あと7ヶ月か? 私にはどれだけの時間が残っているのだろう。終わりが来る前にすべきことを済ませておかねば)

 今日もラファーガは、執務室の大きな机の前で仕事をしていた。
 窓の外には積もった雪が朝の光を受けて煌めいている。
 寒い時期ではあるが、魔王との戦いを終えたラファーガにとっては、穏やかな日が続いているように思えた。

 シャイン伯爵家の執事、エタンセルは新しい書類を差し出しながら言う。
 
「旦那さま、そろそろ気分転換に外出なさったらいかがですか?」

 ラファーガは自分の右横にいる執事の方へ顔を向けた。
 軋んだ音が響いたが、椅子はラファーガの大きな体をしっかりと受けとめるのに充分なサイズがある。
 ラファーガは、ペンを持った右手をエタンセルに向けて言う。

「気分転換なんて必要ない。仕事が山積みだ」
「仕事といっても、屋敷で書類を処理しているだけではありませんか。最後に正式な場へ出席なさったのは、国王さまの戴冠式です。あれから3ヶ月も経っていますよ」
「まだ2ヶ月ちょっとだ。私は忙しい」

(本当は王都の屋敷ではなく、領地へ引きこもりたかったのだが……)

 シャイン伯爵家の領地は王都から離れている。
 
(幸い、我が領地は魔王軍による攻撃に直接さらされることはなかった。どうにか軍人としての職は辞することができたが、国王じきじきに王国の復興に手をかせと言われたら断れない)

 ラファーガは溜息を吐いた。
 呪いは確実に彼の体を蝕んでいる。

「最近は鍛錬もされていませんし。少々筋肉が落ちたのではありませんか?」
「ん、そうかもしれない。だがこれからは武人ではなく領主として生きるのだから、そこまで筋肉は要らない」

(少し痩せた、というより、やつれた。エタンセルは元騎士で勘も鋭い。呪いのことに気付かれないといいのだが)

 ラファーガは長年シャイン伯爵家に仕えている執事を見上げた。
 短く整えた白髪をピッチリとオールバックにした長身で細身の老執事は、彼が子どもの頃から変わらない姿をしている。
 グレーの瞳でジッと見られると全ては見透かされているような気持ちになるのも、子どもの頃と変わらない。

(だが呪いのことで、余計な心配などかけたくない。跡継ぎは親戚筋から優秀な者を迎えれば済む。滞っていた伯爵家の仕事にキリをつけて、残された者が困らないように……)

「領地に戻ることなく王都へ残ったというのに、王城にも行かず、社交の場も避けてらっしゃるのでは意味がないではありませんか」
「そんなことはないぞ。魔族の屍を国境に配置するなど、国防に関わる仕事をしているし。私は私なりにやっている」
「何をおっしゃるのです、旦那さま。夜会に出て【軍神ラファーガここにあり】というところを見せてくれば、国の守りなど事足ります」
「ハハッ。エタンセル、それは買い被りというものだよ」

 豪快に笑うラファーガを見て、エタンセルの目元が孫でもみるように優しく緩む。

「夜会に出れば、未来のシャイン伯爵夫人との出会いもあるでしょうに」
「なっ……」

 頬を赤く染めたラファーガを見たエタンセルは楽しそうな笑い声をあげて、次の書類を主人へと差し出したのだった。



感想 0

あなたにおすすめの小説

『2度目の世界で、あなたと……』 ― 魔法と番が支配する世界で、二度目の人生を ―

なの
BL
Ωとして生まれたリオナは、政略結婚の駒として生き、信じていた結婚相手に裏切られ、孤独の中で命を落とした。 ――はずだった。 目を覚ますと、そこは同じ世界、同じ屋敷、同じ朝。 時間だけが巻き戻り、前世の記憶を持つのは自分だけ。 愛を知らないまま死んだ。今度こそ、本物の愛を知り、自ら選び取る人生を生きる。 これは、愛を知らず道具として生きてきたΩが、初めて出会った温もりに触れ、自らの意思で愛を選び直す物語。 「愛を知らず道具として生きてきたΩが転生を機に、 年上αの騎士と本物の愛を掴みます。 全6話+番外編完結済み!サクサク読めます。

【8+2話完結】氷の貴公子の前世は平社員〜不器用な恋の行方〜

キノア9g
BL
氷の貴公子と称えられるユリウスには、人に言えない秘めた想いがある――それは幼馴染であり、忠実な近衛騎士ゼノンへの片想い。そしてその誇り高さゆえに、自分からその気持ちを打ち明けることもできない。 そんなある日、落馬をきっかけに前世の記憶を思い出したユリウスは、ゼノンへの気持ちに改めて戸惑い、自分が男に恋していた事実に動揺する。プライドから思いを隠し、ゼノンに嫌われていると思い込むユリウスは、あえて冷たい態度を取ってしまう。一方ゼノンも、急に避けられる理由がわからず戸惑いを募らせていく。 近づきたいのに近づけない。 すれ違いと誤解ばかりが積み重なり、視線だけが行き場を失っていく。 秘めた感情と誇りに縛られたまま、ユリウスはこのもどかしい距離にどんな答えを見つけるのか――。 プロローグ+全8話+エピローグ

祖国に棄てられた少年は賢者に愛される

結衣可
BL
 祖国に棄てられた少年――ユリアン。  彼は王家の反逆を疑われ、追放された身だと信じていた。  その真実は、前王の庶子。王位継承権を持ち、権力争いの渦中で邪魔者として葬られようとしていたのだった。  絶望の中、彼を救ったのは、森に隠棲する冷徹な賢者ヴァルター。  誰も寄せつけない彼が、なぜかユリアンを庇護し、結界に守られた森の家で共に過ごすことになるが、王都の陰謀は止まらず、幾度も追っ手が迫る。   棄てられた少年と、孤独な賢者。  陰謀に覆われた王国の中で二人が選ぶ道は――。

婚約破棄を望みます

みけねこ
BL
幼い頃出会った彼の『婚約者』には姉上がなるはずだったのに。もう諸々と隠せません。

カランコエの咲く所で

mahiro
BL
先生から大事な一人息子を託されたイブは、何故出来損ないの俺に大切な子供を託したのかと考える。 しかし、考えたところで答えが出るわけがなく、兎に角子供を連れて逃げることにした。 次の瞬間、背中に衝撃を受けそのまま亡くなってしまう。 それから、五年が経過しまたこの地に生まれ変わることができた。 だが、生まれ変わってすぐに森の中に捨てられてしまった。 そんなとき、たまたま通りかかった人物があの時最後まで守ることの出来なかった子供だったのだ。

転生DKは、オーガさんのお気に入り~姉の婚約者に嫁ぐことになったんだが、こんなに溺愛されるとは聞いてない!~

トモモト ヨシユキ
BL
魔物の国との和議の証に結ばれた公爵家同士の婚約。だが、婚約することになった姉が拒んだため6男のシャル(俺)が代わりに婚約することになった。 突然、オーガ(鬼)の嫁になることがきまった俺は、ショックで前世を思い出す。 有名進学校に通うDKだった俺は、前世の知識と根性で自分の身を守るための剣と魔法の鍛練を始める。 約束の10年後。 俺は、人類最強の魔法剣士になっていた。 どこからでもかかってこいや! と思っていたら、婚約者のオーガ公爵は、全くの塩対応で。 そんなある日、魔王国のバーティーで絡んできた魔物を俺は、こてんぱんにのしてやったんだが、それ以来、旦那様の様子が変? 急に花とか贈ってきたり、デートに誘われたり。 慣れない溺愛にこっちまで調子が狂うし! このまま、俺は、絆されてしまうのか!? カイタ、エブリスタにも掲載しています。

悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。

みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。 男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。 メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。 奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。 pixivでは既に最終回まで投稿しています。