【完結】無敗の軍神は愛しき夫の子を孕む【全年齢BL】

天田れおぽん

文字の大きさ
11 / 25

第11話 結婚式

しおりを挟む
 3月。
 春の日差しが降り注ぐなか、煌びやかな結婚式が神殿で行われることになった。
 身支度を整えたラファーガたちは、神殿の控室で出番を待っていた。
 イーリスの父であり宰相でもあるストーム侯爵は、控室のソファにドカリと座り、姿見の前で最後の確認をしている息子を見上げて口を開いた。

「本当にウエディングドレスでなくてよかったのか? イーリス」
「いいですっ! 大丈夫ですっ! 私はドレスなんて着ませんっ!」

 イーリスは目を吊り上げて自分の父を睨んだ。
 
(イーリスさまと宰相さまは、仲がよいな。微笑ましい)

 ラファーガは父と息子のやり取りを見ながら、クックックッと肩を揺らす。

「ウエディングドレスなら、お前の亡き母の物が……」
「それは大事な思い出と共に、父上がっ、抱きしめていてくださいっ」

 ストーム侯爵はイーリスに年を取らせ、少し男らしい精悍さを足したような人物だ。
 2人はとてもよく似ていて、口喧嘩すら仲の良さのアピールに見える。

(今日のイーリスさまは特別に綺麗だ)

 イーリスは、ウエディングドレスではなく白地に銀刺繍の入ったパンタロンスーツを着ていた。
 銀刺繍と宝石で華やかに飾り付けられた膝下まである長いコートは、ドレスのようにも見える。
 軽やかな生地で作られている裾広がりで幅広のズボンにも刺繍やレース、宝石などが賑やかに付けられていた。
 真珠やダイヤモンドといった高価な物が使われていが、光沢のある白のシルク生地や銀色の刺繍といった物の組み合わせなので悪目立ちするようなことはない。

 父であるストーム侯爵は、イーリスの全身を眺め、眉を困ったように下げながら言う。

「だけど今日の服は、ほぼドレスじゃないか。それなら……」
「そんなことはないですっ。これだって立派な貴族服ですっ。華やかなだけですっ」

 イーリスは食いつかんばかりの口調で言うとラファーガに助けを求めた。
 
「ラファーガさまも、言ってやってください。デカい女装した男と一緒に歩く気はないって」

 ラファーガとイーリスは体格こそ違うが、身長はさして変わらない。
 
「私はドレス姿のイーリスさまと歩くのもやぶさかではありませんが……」
「もうっ。ラファーガさままでっ」
「ふふ。でもドレスだと髪を結い上げなければなりませんからね。今から髪を結い上げるのは大変そうです」

 イーリスは長い銀髪を緩く三つ編みにして、銀刺繍の入った白いベルベットのリボンを結んでいる。
 太目のリボンには宝石が飾られているし、髪には白い花を咲かせた生花が差されていた。
 イーリスが嘆くように言う。

「あぁ私も、ラファーガさまと同じ服がよかった」
「一応、白の礼服だが……これは軍服ですよ?」
「だからそっちの方がいいんですよっ」

 ラファーガは、自分の着ているどうということはない白の軍服を眺めて首を傾げた。
 イーリスは小さな声でブツブツ言っている。
 
「もうっ、ラファーガさまは無自覚なんだから……本当にカッコいい……オレだってカッコいい方が……」

 ストーム侯爵は落ち着きのない息子を眺めながら溜息を吐いた。

「まったくお前ときたら幾つになっても……。今日は国王陛下もいらしているし、他国からの来賓もいらしている。恥ずかしくないようにしなさい」
「分かっていますよ、父上。今日の式の目的は【軍神ここにあり】とラファーガさまの元気な姿を見せることですからね」

 イーリスの言葉を聞いて、ラファーガは苦笑する。

「私を買い被り過ぎです」
「いや買い被りではないです。自覚を持ってくださいよ、ラファーガさま」

 楽しそうにじゃれついている2人に向かって、ストーム侯爵は釘をさす。

「仲良しなのはいいことだが、今日の目的は修復した神殿をアピールすることも含まれる。とにかく国力が落ちていないことを近隣諸国に分かってもらわないとな」
「そうですね、ストーム侯爵さま。せっかく平和になったというのに、他国に攻め込まれては意味がない」

 ソファに背中を預け、両腕と両足を組んでいるストーム侯爵は大きく頷きながら答える。

「そういうことです、ラファーガさま。ところで、いつから義父上ちちうえと呼んでもらえるのですか?」

 真顔でストーム侯爵に言われて、ラファーガの顔が分かりやすく赤く染まった。

「父上っ。結婚といっても形だけなのですから、ラファーガさまを困らせないでくださいっ」
「吠えるな、イーリス。うるさい」

 そこにタイミングよく、下級神官が3人を呼びにやってきた。

「花嫁。ブーケを忘れるなよ」
「分かってますよ、父上」

 ストーム侯爵に促され、イーリスはうんざりした表情を浮かべて白いカラーの花束を手に持った。
 長い茎をそのまま活かした白いカラーの花束には、根本には白いレースが巻かれていて、太い白いリボンで束ねられていた。
 スッキリとした美しさを持つブーケは、スラリと背の高いイーリスに似合っている。

「こうやって持てばいいのかな?」

 不貞腐れたイーリスが、可憐な花嫁が持つようにわざと両手でブーケを抱えると、ラファーガとストーム侯爵は耐え切れずに噴き出した。

 下級神官について3人が会場に入っていくと、既に来客は着席していた。

「お、兄上だ」

 イーリスはそう言うと、親族席に腰を下ろしている兄に小さく手を振った。
 兄の方は握った右手を顔の前に上げると親指をグッと立てる。
 イーリスは軽く笑って、ストーム侯爵は顔をしかめた。
 ラファーガは笑いをこらえて、真面目な顔を作った。

「ラファーガさまは祭壇前へ。イーリスさまは、宰相さまと少し後からいらしてください」

 下級神官に言われて、3人は頷いた。
 ラファーガは一足早く祭壇前へと進む。

(ここも魔王軍に壊されていたが……綺麗に直したな)

 神殿のなかを眺めながらラファーガは思った。

 来賓席に腰を下ろしている貴族たちは、ラファーガの姿を見て噂する。

「ラファーガさまだわ」
「軍神だ」
「魔王を討ちとったのはあの腕か」
「健康状態が心配されていたけれど、ご健在だわ」
「これで他国に攻め込まれる心配はないな」

(私が生きていることで戦争にならないなら、それはそれで意義のあることだ)

 ラファーガは大神官の前で止まり、後ろを振り返る。
 そこにはストーム侯爵に手を取られて進むイーリスの姿があった。

(だが私は、彼の望まないことをさせたくはない。それが国の危機を招くとしても……。そもそも気持ちは自由に操ることなどできない。自分自身にだって自分の気持ちは操れないのだから、ましてや他人の気持ちなど無理だ)

 魔王がかけた呪いは【イーリスに受け入れらず、抱かれもしなければ、愛されもしなかった時に】発動するのだ。

(愛は強要など出来ないからな)

 ラファーガは、愛を諦めながら、愛しい人を待つ。
 ストーム侯爵の手からイーリスの手を渡されて、愛しい人のぬくもりを左の手のひらに受け取る。
 教えられた誓いの言葉を教えられたままイーリスと共に神の前で唱える。

(彼はどうか知らないが、私の誓いは真実)

 ラファーガは心の中で呟き、隣に立つ美丈夫へと視線を向けた。
 イーリスの青い瞳は、ラファーガをジッと見ていた。
 ラファーガの心臓がドクンと跳ねる。

「2人は夫夫ふうふと認められました!」

 大神官の宣言を受けて、客席はワッと沸いた。
 そしてどこからともなく上がるキスコール。

「どうします? ラファーガさま。私たち、キスを求められちゃってますよ」

 イーリスに耳元で囁かれ、ラファーガは耳まで赤くなった。
 大神官は笑って言う。

「ふふふ。軽く唇に触れるキスでも披露したらいかがですか? その程度でしたらよくあることですよ」
「だって。どうしますか? ラファーガさま」
「どっ……どうって……」

(イーリスさまと、キス⁉)

 真っ赤になったラファーガの肩を、思いのほか強いイーリスの手がグッと引き寄せる。
 温かくて柔らかなものが、一瞬だけラファーガの唇に触れて離れた。

(キス⁉⁉⁉)

 目を見開いて固まるラファーガの視線の先には、悪戯な笑みを浮かべるイーリスの姿。

(イーリスさまと、キスしてしまった!!!)

 湯気が上がるほど真っ赤になったラファーガと、その横で澄ました顔をして両手でブーケを抱えるイーリスに向かって、客席からはヒューヒューと冷やかすような歓声が上がった。

(うわぁぁぁぁぁぁ。キスぅぅぅぅぅぅぅぅぅ、したぁぁぁぁぁぁぁぁ)

 下級神官に促されて2人は祭壇前を後にした。
 ラファーガの左手はイーリスに握られている。

「おお、イーリスさまがリードしている」
「これは、かかぁ天下か?」
「かかぁ天下では軍神さまの威光が下がるのでは?」
「いや、下がらないよ。むしろイーリスさま怖ぇ~って話よ」
「イーリスさまは未来の宰相さまだからな」
「フルオロセンス王国は安泰ということよ」

 客席では来客たちがザワザワと騒めく。
 その声を聞きながらも、ラファーガは、ふわふわと夢心地だ。

(このまま幸せになれたらいいのに……)

 そう願ったが、この幸せが永遠には続かないことをラファーガは知っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ
BL
雪のなか僕を、ひろってくれたのは、やさしい男の子でした。 ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります! ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

オレにだけ「ステイタス画面」っていうのが見える。

黒茶
BL
人気者だけど実は人間嫌いの嘘つき先輩×素直すぎる後輩の (本人たちは気づいていないが実は乙女ゲームの世界である) 異世界ファンタジーラブコメ。 魔法騎士学院の2年生のクラウスの長所であり短所であるところは、 「なんでも思ったことを口に出してしまうところ。」 そして彼の秘密は、この学院内の特定の人物の個人情報が『ステータス画面』というもので見えてしまうこと。 魔法が存在するこの世界でもそんな魔法は聞いたことがないのでなんとなく秘密にしていた。 ある日、ステータス画面がみえている人物の一人、5年生のヴァルダー先輩をみかける。 彼はいつも人に囲まれていて人気者だが、 そのステータス画面には、『人間嫌い』『息を吐くようにウソをつく』 と書かれていたので、うっかり 「この先輩、人間嫌いとは思えないな」 と口に出してしまったら、それを先輩に気付かれてしまい・・・!? この作品はこの1作品だけでも読むことができますが、 同じくアルファポリスさんで公開させていただいております、 「乙女ゲームの難関攻略対象をたぶらかしてみた結果。」 「俺が王太子殿下の専属護衛騎士になるまでの話。」 とあわせて「乙女ゲー3部作」となっております。(だせぇ名前だ・・・笑) キャラクターや舞台がクロスオーバーなどしておりますので、 そちらの作品と合わせて読んでいただけたら10倍くらい美味しい設定となっております。 全年齢対象です。 BLに慣れてない方でも読みやすいかと・・・ ぜひよろしくお願いします!

炎の精霊王の愛に満ちて

陽花紫
BL
異世界転移してしまったミヤは、森の中で寒さに震えていた。暖をとるために焚火をすれば、そこから精霊王フレアが姿を現す。 悪しき魔術師によって封印されていたフレアはその礼として「願いをひとつ叶えてやろう」とミヤ告げる。しかし無欲なミヤには、願いなど浮かばなかった。フレアはミヤに欲望を与え、いまいちど願いを尋ねる。 ミヤは答えた。「俺を、愛して」 小説家になろうにも掲載中です。

英雄の溺愛と執着

AzureHaru
BL
転生した世界は前世でどハマりしたBLゲーム。最推しは攻略対象!ではなく、攻略対象達の剣術の師匠である、英雄の将軍閣下。メチャクチャイケオジでドストライクだった主人公はこのイケオジみたさにゲームをやっていた。その為に、ゲームの内容など微塵も覚えていなかった。 転生したからには将軍閣下を生でみないとというファン根性で付きまとう。 付き纏われていることに気づいていた将軍だか、自分に向けられる視線が他とは違う純粋な好意しかなかったため、戸惑いながらも心地よく感じていた。 あの時までは‥。 主人公は気づいていなかったが、自分達にかけらも興味を持たないことに攻略対象者達は興味をそそられ、次第に執着していく。そのことにいち早く気づいたのは剣術指南役の将軍のみ。将軍はその光景をみて、自分の中に徐々に独占欲が芽生えていくのを感じた。 そして戸惑う、自分と主人公は親子ほどに歳が離れているのにこの感情はなんなのだと。 そして、将軍が自分の気持ちを認めた時、壮絶な溺愛、執着がはじまる。

追放オメガ聖帝の幸せな結婚〜クールなスパダリ騎士に拾われて溺愛されるまで〜

あきたいぬ大好き(深凪雪花)
BL
ノルディーナ王国の聖帝サーナは、教皇のありもしない嘘のせいで聖宮から追放されてしまう。 行く当てがないサーナが国境に向かうと、そこで隣国ルミルカ王国の騎士であるムーシュと出会う。ムーシュから諸事情により偽装結婚を提案されて、サーナは期限付きの偽装結婚ならばよいと承諾し、一時的に保護してもらうことに。 異国暮らしに慣れていく中で、やがてムーシュから溺愛されるようになり……?

【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。

明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。 新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。 しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…? 冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。

君さえ笑ってくれれば最高

大根
BL
ダリオ・ジュレの悩みは1つ。「氷の貴公子」の異名を持つ婚約者、ロベルト・トンプソンがただ1度も笑顔を見せてくれないことだ。感情が顔に出やすいダリオとは対照的な彼の態度に不安を覚えたダリオは、どうにかロベルトの笑顔を引き出そうと毎週様々な作戦を仕掛けるが。 (クーデレ?溺愛美形攻め × 顔に出やすい素直平凡受け) 異世界BLです。

処理中です...