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戸惑い
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なぜかメリーはキャメロンと使用人部屋に入れられてしまった。
「ここは広めの部屋ですし、ベッドもふたつあるからよかったですよね」
いや良くないよ、と突っ込みたいメリーだったが、ニコニコしているキャメロンを見ていると胸がキュンとする。
なぜだろう、なぜかしら。
意味がさっぱり分からない。
メリーは、改めてキャメロンをジロジロと見てみた。
だが、どこからどう見ても女の子である。
シュッとまとめた金色の髪に、宝石のようにきらめく緑の瞳。
元気そうではあるが、細身の体からは男性のような力強さは感じられない。
どこからどう見ても女性。
しかも、少女寄りの女性に見えた。
「ふふ、そんなに見られたら恥ずかしいです。お嬢さま」
キャメロンは頬を紅潮させながらも、どこか嬉しそうに言った。
これのどこが男性だと?
メリーは疑問に思った。
しかも婚約していたとは。
意味がさっぱり分からない。
「なぜ私とあなたが婚約していたのかしら?」
「そこも忘れてしまわれているのですね……」
キャメロンが悲しそうに言うのを見て、メリーは少しだけ罪悪感を覚えた。
頭に靄がかかったようになっていて詳しくは思い出せないが、心が苦しくなるということは、彼らの言うことは本当なのだろう。
たしかにメリーはキャメロンのことが好きだった。
でもそれは侍女として好きなのだと思っていた。
そもそも、性別が安定しないってなんだ?
「私の一族は呪いがかかっていて、ときどき私のような者が生まれるのです。男性と女性を行き来する体質です」
「それは難儀ね?」
「はい。それがメリーさまとのお出かけ中、ずぶ濡れになって。女同士だからいいじゃないと、部屋で二人きりになって着替えたときに……」
と言いながら、キャメロンの全身がゆでたように赤くなる。
部屋で二人きりになった時、なにがあったんだ?
メリーが表情で促すと、キャメロンはモジモジしながら言う。
「それまで女性体であったものが、突然、男性体となり……」
「あら、それは大変」
貴族女性が男性と二人きりに。
しかも着替え途中となれば、素っ裸の可能性もある。
「それで急遽、婚約することに……」
「まぁ」
そりゃあ、びっくりだ。
メリーは驚きすぎて真顔になった。
性別が安定しないとか、女性が男性になるとか、信じがたい話である。
そもそも性別が安定していない人間を見たら、びっくりするし、人によっては嫌悪感を覚えるだろう。
世の中には髪型をコロコロ変えるだけでも嫌がる人間はいる。
性別が日替わりになったら、嫌悪感を覚えるなり、爆笑するなり、何らかの反応があってしかるべきだ。
だがメリーは、そうなんだ~と軽く受け止めている自分をどこかで感じている。
しかもキャメロンを見ていると嫌悪感ではなく、罪悪感を覚えるのだ。
嘘には思えない。
「婚約して以降、私は男性体で安定していたのですが……突然、メリーさまがトレンドア伯爵さまと真実の愛に目覚めたと婚約を解消されてしまったのです」
キャメロンの表情が暗くなった。
「ほぉ……」
真実の愛。
それが夫であるトレンドア伯爵との間にあったとは思えない。
そもそも真実の愛が二人の間にあったなら、夫は愛人囲ったりしなかっただろうし、メリーはちっとも幸せでないことに気付いて実家に帰って来たりしないだろう。
全てが嘘くさい。
「で、婚約解消されたキャメロンが、侍女としてついてきたのは、なぜ?」
「私は婚約解消のショックで男性体から女性体になり、そのまま安定してしまったのです」
「まぁ」
「女性体になるとお仕事の選択肢がギュッと狭くなりますので。お嬢さまの侍女を選ばせていただきました。それに急な嫁入りでしたから、どう考えても胡散臭く……お嬢さまをお守りするためにも、侍女としてお側にいることを選んだのです」
「そっちのほうが真実の愛っぽいわね」
(婚約者が女性体になったからって、そのまま侍女として娘につけるって、家の親はどうなってるの?)
そう思ったメリーであったが、婚約解消されたうえ、とっとと他の男性と結婚されてしまったキャメロンの立場に立つと突っ込む気持ちにもなれない。
「お嬢さまの様子があまりに異常でしたので、旦那さまと奥方さまも反対しきれず……止めるには、牢にでも入れないと無理な感じでしたし。牢に入れても脱走してトレンドア伯爵の所にいってしまう勢いでしたから。それなら嫁に出した形をとって私を側につけたほうがいい、という結論になりまして」
「なかなか大胆な決断ね?」
一体何がどうなっているのか?
当事者であるメリーにはさっぱり分からない。
「お嬢さまが正気に返ってお屋敷に戻ってみれば、今度はアレクさまの様子が変ですし」
「やっぱり、アレは変よね?」
いくら両親が留守だといっても、婚約者に屋敷を仕切らせるとか、キャメロンと一緒に使用人部屋を割り当てるとか、変な事だらけである。
「見たところ、アレクさまは婚約者であるコレットさまの言いなりです。アレクさまは元々優しいお方ではありましたが。お嬢さまの弟らしい賢いお方ですし。侯爵家を継ぐために勉学にも励んでいた良識のある方でしたのに」
「良識があったら、実家へ戻った姉に使用人部屋を割り当てないわよね? そもそも、今は女性だとしても元婚約者と同室とかありえないわ」
「その点につきましては、私は嬉しいので問題ありません」
キャメロンがニコニコしている。
「でも男女で同室は……」
「今は女性体ですから、問題ありません。二十四時間体制でお世話させていただきます」
「それはちょっと嫌かも……」
とりあえずメリーは両親へ手紙を書いて助けを求めた。
「ここは広めの部屋ですし、ベッドもふたつあるからよかったですよね」
いや良くないよ、と突っ込みたいメリーだったが、ニコニコしているキャメロンを見ていると胸がキュンとする。
なぜだろう、なぜかしら。
意味がさっぱり分からない。
メリーは、改めてキャメロンをジロジロと見てみた。
だが、どこからどう見ても女の子である。
シュッとまとめた金色の髪に、宝石のようにきらめく緑の瞳。
元気そうではあるが、細身の体からは男性のような力強さは感じられない。
どこからどう見ても女性。
しかも、少女寄りの女性に見えた。
「ふふ、そんなに見られたら恥ずかしいです。お嬢さま」
キャメロンは頬を紅潮させながらも、どこか嬉しそうに言った。
これのどこが男性だと?
メリーは疑問に思った。
しかも婚約していたとは。
意味がさっぱり分からない。
「なぜ私とあなたが婚約していたのかしら?」
「そこも忘れてしまわれているのですね……」
キャメロンが悲しそうに言うのを見て、メリーは少しだけ罪悪感を覚えた。
頭に靄がかかったようになっていて詳しくは思い出せないが、心が苦しくなるということは、彼らの言うことは本当なのだろう。
たしかにメリーはキャメロンのことが好きだった。
でもそれは侍女として好きなのだと思っていた。
そもそも、性別が安定しないってなんだ?
「私の一族は呪いがかかっていて、ときどき私のような者が生まれるのです。男性と女性を行き来する体質です」
「それは難儀ね?」
「はい。それがメリーさまとのお出かけ中、ずぶ濡れになって。女同士だからいいじゃないと、部屋で二人きりになって着替えたときに……」
と言いながら、キャメロンの全身がゆでたように赤くなる。
部屋で二人きりになった時、なにがあったんだ?
メリーが表情で促すと、キャメロンはモジモジしながら言う。
「それまで女性体であったものが、突然、男性体となり……」
「あら、それは大変」
貴族女性が男性と二人きりに。
しかも着替え途中となれば、素っ裸の可能性もある。
「それで急遽、婚約することに……」
「まぁ」
そりゃあ、びっくりだ。
メリーは驚きすぎて真顔になった。
性別が安定しないとか、女性が男性になるとか、信じがたい話である。
そもそも性別が安定していない人間を見たら、びっくりするし、人によっては嫌悪感を覚えるだろう。
世の中には髪型をコロコロ変えるだけでも嫌がる人間はいる。
性別が日替わりになったら、嫌悪感を覚えるなり、爆笑するなり、何らかの反応があってしかるべきだ。
だがメリーは、そうなんだ~と軽く受け止めている自分をどこかで感じている。
しかもキャメロンを見ていると嫌悪感ではなく、罪悪感を覚えるのだ。
嘘には思えない。
「婚約して以降、私は男性体で安定していたのですが……突然、メリーさまがトレンドア伯爵さまと真実の愛に目覚めたと婚約を解消されてしまったのです」
キャメロンの表情が暗くなった。
「ほぉ……」
真実の愛。
それが夫であるトレンドア伯爵との間にあったとは思えない。
そもそも真実の愛が二人の間にあったなら、夫は愛人囲ったりしなかっただろうし、メリーはちっとも幸せでないことに気付いて実家に帰って来たりしないだろう。
全てが嘘くさい。
「で、婚約解消されたキャメロンが、侍女としてついてきたのは、なぜ?」
「私は婚約解消のショックで男性体から女性体になり、そのまま安定してしまったのです」
「まぁ」
「女性体になるとお仕事の選択肢がギュッと狭くなりますので。お嬢さまの侍女を選ばせていただきました。それに急な嫁入りでしたから、どう考えても胡散臭く……お嬢さまをお守りするためにも、侍女としてお側にいることを選んだのです」
「そっちのほうが真実の愛っぽいわね」
(婚約者が女性体になったからって、そのまま侍女として娘につけるって、家の親はどうなってるの?)
そう思ったメリーであったが、婚約解消されたうえ、とっとと他の男性と結婚されてしまったキャメロンの立場に立つと突っ込む気持ちにもなれない。
「お嬢さまの様子があまりに異常でしたので、旦那さまと奥方さまも反対しきれず……止めるには、牢にでも入れないと無理な感じでしたし。牢に入れても脱走してトレンドア伯爵の所にいってしまう勢いでしたから。それなら嫁に出した形をとって私を側につけたほうがいい、という結論になりまして」
「なかなか大胆な決断ね?」
一体何がどうなっているのか?
当事者であるメリーにはさっぱり分からない。
「お嬢さまが正気に返ってお屋敷に戻ってみれば、今度はアレクさまの様子が変ですし」
「やっぱり、アレは変よね?」
いくら両親が留守だといっても、婚約者に屋敷を仕切らせるとか、キャメロンと一緒に使用人部屋を割り当てるとか、変な事だらけである。
「見たところ、アレクさまは婚約者であるコレットさまの言いなりです。アレクさまは元々優しいお方ではありましたが。お嬢さまの弟らしい賢いお方ですし。侯爵家を継ぐために勉学にも励んでいた良識のある方でしたのに」
「良識があったら、実家へ戻った姉に使用人部屋を割り当てないわよね? そもそも、今は女性だとしても元婚約者と同室とかありえないわ」
「その点につきましては、私は嬉しいので問題ありません」
キャメロンがニコニコしている。
「でも男女で同室は……」
「今は女性体ですから、問題ありません。二十四時間体制でお世話させていただきます」
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とりあえずメリーは両親へ手紙を書いて助けを求めた。
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