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兄の来訪
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「お前、スゲェーじゃん。本当に男爵さまなんだな」
王都で働いている兄、メラスが屋敷にやってきました。
「もうっ。子どもではないのだから、そんなことで騒がないでよ。恥ずかしいわ」
「いやだって。妹が突然、男爵さまになったら驚くし興奮するって」
へらへら笑う騒がしい兄を屋敷の応接室に通すと、首を巡らせて部屋の中をしげしげと見ています。
「落ち着かないわ。こちらへ座って」
「はい、はい。オレの妹は、繊細だなぁ。でも……本当にすごいね」
兄は勧められるままに椅子へ腰を下ろしました。
でも値踏みは止めないようで、キョロキョロしながら部屋の中を見回しています。
一応、兄は商売人ですから物の価値とか分かるのかもしれません。
今日は商売人らしく茶毛の癖っ毛はどうにか整えて、茶色のジャケットにトラウザーズと見た目はキチンとしています。
ですが、赤い瞳からはもちろん、全身から揶揄ってやるぞオーラが出まくっていてウルサイくらいです。
お調子者で口が上手い兄は、そばかすの浮いた顔に憎めない笑顔を浮かべてお茶を出しているメイドに軽く会釈しています。
私の目の黒いうちは家のメイドに手は出させませんよ、という思いを乗せて赤い瞳で睨んでやりました。
へへへ、と笑うだけで反省した様子はないですが、兄はいつもこんな感じなので仕方ありません。
何かしでかさないよう目を離さないで、と後で執事に伝えておくことにしましょう。
心の中にメモする私と、隣に座るイジュとを見比べて兄はニヤニヤしています。
「なんだ、うまくやってるみたいじゃん。クソ真面目なアマリリスと、初心なイジュの組み合わせでどうなることかと思ったけど心配なかったみたいだな」
兄の感想に大した含みはないのかもしれませんが、後ろめたいことのある私はちょっとカチンときました。
「当たり前でしょ。私とイジュは幼馴染だもの。うまくやるくらい簡単よ」
ちょっと必要以上にキツイ口調になってしまいました。
兄がちょっとポカンとした表情を浮かべています。
まずいです。これは遠回しな自白になってしまった可能性があります。
右隣りにチラリと目をやれば、イジュがへラリと笑っていました。
イジュにしては珍しいへラリ笑いです。
男くさく整った顔にへラリ笑いを浮かべると、普段のちょっと怖い印象から可愛い印象に変わって大変良いです。
それについては御馳走さまという感じですが、どういう意味のへラリ笑いでしょう。
兄へと視線を移すと、ちょっと呆れた表情でイジュの方を見ています。
男同士、何か通じるものがあるのかもしれませんが、いったい何が通じたのか女性である私には意味不明です。
「まぁ……人生長いんだから、ゆっくりやってけばいいよ……」
などと兄がモゴモゴ言っていますが。
それはどういう意味ですか?
はっきり聞くのも何なので、話題を逸らそうと思います。
「薬草栽培の話が出ているのだけれど、商売としてはどうかしら?」
「薬草、か」
兄は目をグルリと回しながら考えているようだ。
「クヌギ村で薬草を栽培して売ることができれば、大きな収入源になると思います」
イジュの言葉に、兄はうなずいた。
「確かに薬草は需要があるし、高く売れる。しかも乾燥させるとか、ちょっと加工を加えるだけで値段も上がるし、日持ちもする。いいかもしれないね」
「商売になるなら、本気でやりますよ」
イジュの言葉が心強いです。
「クヌギ村から薬草を出荷する、となると……やっぱり、王都に持ってくるのが一番、金になるかな」
「そうですか。ちょっと距離がありますね」
「薬草の場合、収穫してそのままで出荷した方がいい野菜とは違うから加工して持ってくればいいよ。乾燥させたりとか、細かく砕いたりとか、加工してからのほうが値段も上がるし、日持ちもする。ん、確かにクヌギ村で栽培するメリットは大きいな」
兄とイジュの目は真剣です。
私としては、薬草を村で育てることができればイジュの手柄が出来るから良いかな、くらいの感覚でしたが。
兄の目の輝き方から察するに、商売としておいしい話になっていきそうな予感がします。
「どの薬草が適しているか、庭師の方に依頼して調べてもらっていますので。結果が出たら、また詳しい話を聞きたいですね」
「ん、分かったよ。イジュがやる気なら、私も出来る限り協力するよ」
男同士の話し合いがまとまったようです。
本格的に薬草栽培のビジネスが始まるようなら、男爵家の執事も交えて一番メリットの高い商売につなげたいものです。
とはいえ、物事には順番があります。
庭師の報告を待って、次の話し合いをすることになりました。
「いやぁ、こんなところで商売の話になるとは。来てよかったよ」
兄はホクホクした満足そうな笑顔を浮かべ、椅子から立ち上がります。
帰りは男爵家の馬車で兄を送ることになったので、私とイジュは玄関まで見送りにでました。
すると、兄が振り返って私に呼びかけてきました。
「なぁ、アマリリス」
「なに?」
「幸せそうでよかった」
兄は、今日一番の良い笑顔を浮かべています。
はい、私が幸せそうに見えたなら良かったです。
男爵家の馬車に乗り、手を振って帰っていく兄を見送ります。
私は手を振り返しながら、私は幸せだけれどイジュどう感じているのか、とても気になってきました。
王都で働いている兄、メラスが屋敷にやってきました。
「もうっ。子どもではないのだから、そんなことで騒がないでよ。恥ずかしいわ」
「いやだって。妹が突然、男爵さまになったら驚くし興奮するって」
へらへら笑う騒がしい兄を屋敷の応接室に通すと、首を巡らせて部屋の中をしげしげと見ています。
「落ち着かないわ。こちらへ座って」
「はい、はい。オレの妹は、繊細だなぁ。でも……本当にすごいね」
兄は勧められるままに椅子へ腰を下ろしました。
でも値踏みは止めないようで、キョロキョロしながら部屋の中を見回しています。
一応、兄は商売人ですから物の価値とか分かるのかもしれません。
今日は商売人らしく茶毛の癖っ毛はどうにか整えて、茶色のジャケットにトラウザーズと見た目はキチンとしています。
ですが、赤い瞳からはもちろん、全身から揶揄ってやるぞオーラが出まくっていてウルサイくらいです。
お調子者で口が上手い兄は、そばかすの浮いた顔に憎めない笑顔を浮かべてお茶を出しているメイドに軽く会釈しています。
私の目の黒いうちは家のメイドに手は出させませんよ、という思いを乗せて赤い瞳で睨んでやりました。
へへへ、と笑うだけで反省した様子はないですが、兄はいつもこんな感じなので仕方ありません。
何かしでかさないよう目を離さないで、と後で執事に伝えておくことにしましょう。
心の中にメモする私と、隣に座るイジュとを見比べて兄はニヤニヤしています。
「なんだ、うまくやってるみたいじゃん。クソ真面目なアマリリスと、初心なイジュの組み合わせでどうなることかと思ったけど心配なかったみたいだな」
兄の感想に大した含みはないのかもしれませんが、後ろめたいことのある私はちょっとカチンときました。
「当たり前でしょ。私とイジュは幼馴染だもの。うまくやるくらい簡単よ」
ちょっと必要以上にキツイ口調になってしまいました。
兄がちょっとポカンとした表情を浮かべています。
まずいです。これは遠回しな自白になってしまった可能性があります。
右隣りにチラリと目をやれば、イジュがへラリと笑っていました。
イジュにしては珍しいへラリ笑いです。
男くさく整った顔にへラリ笑いを浮かべると、普段のちょっと怖い印象から可愛い印象に変わって大変良いです。
それについては御馳走さまという感じですが、どういう意味のへラリ笑いでしょう。
兄へと視線を移すと、ちょっと呆れた表情でイジュの方を見ています。
男同士、何か通じるものがあるのかもしれませんが、いったい何が通じたのか女性である私には意味不明です。
「まぁ……人生長いんだから、ゆっくりやってけばいいよ……」
などと兄がモゴモゴ言っていますが。
それはどういう意味ですか?
はっきり聞くのも何なので、話題を逸らそうと思います。
「薬草栽培の話が出ているのだけれど、商売としてはどうかしら?」
「薬草、か」
兄は目をグルリと回しながら考えているようだ。
「クヌギ村で薬草を栽培して売ることができれば、大きな収入源になると思います」
イジュの言葉に、兄はうなずいた。
「確かに薬草は需要があるし、高く売れる。しかも乾燥させるとか、ちょっと加工を加えるだけで値段も上がるし、日持ちもする。いいかもしれないね」
「商売になるなら、本気でやりますよ」
イジュの言葉が心強いです。
「クヌギ村から薬草を出荷する、となると……やっぱり、王都に持ってくるのが一番、金になるかな」
「そうですか。ちょっと距離がありますね」
「薬草の場合、収穫してそのままで出荷した方がいい野菜とは違うから加工して持ってくればいいよ。乾燥させたりとか、細かく砕いたりとか、加工してからのほうが値段も上がるし、日持ちもする。ん、確かにクヌギ村で栽培するメリットは大きいな」
兄とイジュの目は真剣です。
私としては、薬草を村で育てることができればイジュの手柄が出来るから良いかな、くらいの感覚でしたが。
兄の目の輝き方から察するに、商売としておいしい話になっていきそうな予感がします。
「どの薬草が適しているか、庭師の方に依頼して調べてもらっていますので。結果が出たら、また詳しい話を聞きたいですね」
「ん、分かったよ。イジュがやる気なら、私も出来る限り協力するよ」
男同士の話し合いがまとまったようです。
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とはいえ、物事には順番があります。
庭師の報告を待って、次の話し合いをすることになりました。
「いやぁ、こんなところで商売の話になるとは。来てよかったよ」
兄はホクホクした満足そうな笑顔を浮かべ、椅子から立ち上がります。
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すると、兄が振り返って私に呼びかけてきました。
「なぁ、アマリリス」
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はい、私が幸せそうに見えたなら良かったです。
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