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第3話 夏休み開始は計画的に
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夏休みはアッという間にやってきた。
だが全寮制の学校で四方を山に囲まれている陸の孤島学園から出るには、高校生1人の力では難しい。
よって脱出するには、学園が用意したバスに乗るか、家族による迎えが必要だ。
真城と黒江は、校舎二階の廊下にある窓へ絡みつくようにしながら、バスや自動車でごった返している校庭を眺めていた。
「おー、みんな帰っていくな?」
「そうだな」
校舎の二階といっても、山の上に建っている校舎は敷地内の少し高い場所にある。
木々に囲まれた学校の敷地のなかで一番広く切り開かれているのは校庭なので、窓の外を見下ろせば、大体のことはわかるのだ。
真城は黒江の横で、大きな荷物を抱えた生徒や車を指さしては、そいつの名前や夏休みの予定をギャーギャーと並べ立てていた。
黒江は呆れた表情を浮かべると、色素の薄い小柄な少年を見下ろして言う。
「お前……詳しいな? さては陽キャだな?」
「キャハハハッ。陽キャじゃなくても情報くらい手に入るさ。ココで暮らしてるの、用務員さんとか入れたって300人いないじゃん」
「そりゃそうだけど……」
黒江が複雑そうな表情を浮かべたのを真城は不思議そうに見上げた。
「なに気にしてんだよ」
「いや、ちょっとな……」
「ふーん」
言葉を濁す黒江から、真城の意識は簡単に逸れた。
窓の外に視線を移した真城は見知った顔を見つけて指さした。
「おっ。あいつ……同じクラスの鈴木っ! 鈴木の迎えの車。カッコいいなー」
「ああ。アレは四輪駆動の軽自動車かなぁ?」
指さされた鈴木も真城たちに気付いて手を振っている。
真城が手を振り返す横で黒江はぷすっとしていた。
「おいっ、お前も手を振り返せよ。相変わらず愛想のねーやつだな」
「お前が愛嬌ありすぎんだよ」
ウンザリ顔の黒江の手を掴むと、真城は強引に手を振らせた。
鈴木は腹を抱えて笑いながらコチラを指さしていたが、じきに迎えの車の中へと消えていった。
真城の横から覗き込むようにして車を眺めていた黒江は不思議そうに呟く。
「ところでみんな、どこへ帰るんだろな?」
「家族のトコじゃないのか? なんでそんなこと聞くんだ?」
真城は首の向きを変えて隣に立っている黒江を見上げた。
黒江は窓にもたれ掛かって目玉をグルリと一周させてから口を開いた。
「だってさ。両親揃って海外赴任ってヤツが多いだろ?」
「あー、そうだな……。あいつは母方のじーちゃんトコで。B組のあいつは、父方のばーちゃん家に行くって言ってたよ?」
真城は校庭を指さしながら解説した。
黒江は首を傾げる。
「ん? だって家族って……」
「なに言ってんだよ、黒江。……じーちゃんやばーちゃんだって家族じゃん」
真城の言葉に、ハッとした表情を浮かべた黒江は固まった。
「あーもう。一緒に住んでないから家族じゃない、とか思ってたんだろ? 黒江ってそーゆートコあるよねぇ」
「え? だって……」
言い訳したい様子で口を開いた黒江だが、言葉が浮かばないようでアウアウと口をパカパカさせている。
「ぁあっ。そんなこといったらさぁ。オレたちだって親とは別に暮らしてんだからさぁ。親とすら家族じゃないってコトになっちまうぞ?」
「あっ……」
黒江は口を開けたまま固まった。
(綺麗な『あ』の形)
真城は右手を伸ばして黒江の左頬をツンツンと突いた。
黒江は舌を動かして右の頬をボコンと膨らめた。
真城が右の頬を突くと、今度は左頬を舌で膨らめる。
「ケケケ」
真城が笑いだすと黒江もつられて笑いだす。
何がツボにはまったのか忘れるくらいまで笑って、2人は視線を再び窓の外へと向けた。
「あ、あそこに寮母さんがいるっ」
「寮母さんって言っても男な上にマッチョだから目立つな?」
居残り組の教師や職員が生徒たちを見送っているのが見えた。
「まーな。でもさー男だらけの環境に女性を置いて問題が起きたら困るだろう?」
「あー、そうだなー。おばちゃんにセクハラで訴えられても腹立つだけだからな?」
「だなー」
真城が想像するおばちゃんは、三十代から四十代程度だ。
黒江の方はといえば、自分でおばちゃんといっておいて特にイメージはない。
高校生の彼らにとって、社会人は年齢関係なく、だいたいおばちゃんである。
「先生方や職員の皆さまは、おっちゃんだからな。セクハラはシャレになんねーな」
「あー、そっちの問題?」
黒江の言葉に、真城は両頬を押さえて驚きの表情を作ってみせた。
それを見た黒江はリスみたいで可愛いなぁ、と思ったが、真城は次の瞬間には窓の外を指さして別のことで騒いでいた。
「でもさー、あれ。八雲ティーチャー、寮母さんにハート飛ばしてない?」
「あー分かりやすい。あれはセクハラか、ギリセクハラにならないか、審議だな。つか八雲ティーチャーってなんだよ? 旭ヶ丘八雲先生だろ?」
「いいじゃん、ただのあだ名だよ。変なトコ堅いんだよなぁ~黒江は」
真城がケタケタ笑いだしたので、黒江もつられてケタケタ笑った。
だが全寮制の学校で四方を山に囲まれている陸の孤島学園から出るには、高校生1人の力では難しい。
よって脱出するには、学園が用意したバスに乗るか、家族による迎えが必要だ。
真城と黒江は、校舎二階の廊下にある窓へ絡みつくようにしながら、バスや自動車でごった返している校庭を眺めていた。
「おー、みんな帰っていくな?」
「そうだな」
校舎の二階といっても、山の上に建っている校舎は敷地内の少し高い場所にある。
木々に囲まれた学校の敷地のなかで一番広く切り開かれているのは校庭なので、窓の外を見下ろせば、大体のことはわかるのだ。
真城は黒江の横で、大きな荷物を抱えた生徒や車を指さしては、そいつの名前や夏休みの予定をギャーギャーと並べ立てていた。
黒江は呆れた表情を浮かべると、色素の薄い小柄な少年を見下ろして言う。
「お前……詳しいな? さては陽キャだな?」
「キャハハハッ。陽キャじゃなくても情報くらい手に入るさ。ココで暮らしてるの、用務員さんとか入れたって300人いないじゃん」
「そりゃそうだけど……」
黒江が複雑そうな表情を浮かべたのを真城は不思議そうに見上げた。
「なに気にしてんだよ」
「いや、ちょっとな……」
「ふーん」
言葉を濁す黒江から、真城の意識は簡単に逸れた。
窓の外に視線を移した真城は見知った顔を見つけて指さした。
「おっ。あいつ……同じクラスの鈴木っ! 鈴木の迎えの車。カッコいいなー」
「ああ。アレは四輪駆動の軽自動車かなぁ?」
指さされた鈴木も真城たちに気付いて手を振っている。
真城が手を振り返す横で黒江はぷすっとしていた。
「おいっ、お前も手を振り返せよ。相変わらず愛想のねーやつだな」
「お前が愛嬌ありすぎんだよ」
ウンザリ顔の黒江の手を掴むと、真城は強引に手を振らせた。
鈴木は腹を抱えて笑いながらコチラを指さしていたが、じきに迎えの車の中へと消えていった。
真城の横から覗き込むようにして車を眺めていた黒江は不思議そうに呟く。
「ところでみんな、どこへ帰るんだろな?」
「家族のトコじゃないのか? なんでそんなこと聞くんだ?」
真城は首の向きを変えて隣に立っている黒江を見上げた。
黒江は窓にもたれ掛かって目玉をグルリと一周させてから口を開いた。
「だってさ。両親揃って海外赴任ってヤツが多いだろ?」
「あー、そうだな……。あいつは母方のじーちゃんトコで。B組のあいつは、父方のばーちゃん家に行くって言ってたよ?」
真城は校庭を指さしながら解説した。
黒江は首を傾げる。
「ん? だって家族って……」
「なに言ってんだよ、黒江。……じーちゃんやばーちゃんだって家族じゃん」
真城の言葉に、ハッとした表情を浮かべた黒江は固まった。
「あーもう。一緒に住んでないから家族じゃない、とか思ってたんだろ? 黒江ってそーゆートコあるよねぇ」
「え? だって……」
言い訳したい様子で口を開いた黒江だが、言葉が浮かばないようでアウアウと口をパカパカさせている。
「ぁあっ。そんなこといったらさぁ。オレたちだって親とは別に暮らしてんだからさぁ。親とすら家族じゃないってコトになっちまうぞ?」
「あっ……」
黒江は口を開けたまま固まった。
(綺麗な『あ』の形)
真城は右手を伸ばして黒江の左頬をツンツンと突いた。
黒江は舌を動かして右の頬をボコンと膨らめた。
真城が右の頬を突くと、今度は左頬を舌で膨らめる。
「ケケケ」
真城が笑いだすと黒江もつられて笑いだす。
何がツボにはまったのか忘れるくらいまで笑って、2人は視線を再び窓の外へと向けた。
「あ、あそこに寮母さんがいるっ」
「寮母さんって言っても男な上にマッチョだから目立つな?」
居残り組の教師や職員が生徒たちを見送っているのが見えた。
「まーな。でもさー男だらけの環境に女性を置いて問題が起きたら困るだろう?」
「あー、そうだなー。おばちゃんにセクハラで訴えられても腹立つだけだからな?」
「だなー」
真城が想像するおばちゃんは、三十代から四十代程度だ。
黒江の方はといえば、自分でおばちゃんといっておいて特にイメージはない。
高校生の彼らにとって、社会人は年齢関係なく、だいたいおばちゃんである。
「先生方や職員の皆さまは、おっちゃんだからな。セクハラはシャレになんねーな」
「あー、そっちの問題?」
黒江の言葉に、真城は両頬を押さえて驚きの表情を作ってみせた。
それを見た黒江はリスみたいで可愛いなぁ、と思ったが、真城は次の瞬間には窓の外を指さして別のことで騒いでいた。
「でもさー、あれ。八雲ティーチャー、寮母さんにハート飛ばしてない?」
「あー分かりやすい。あれはセクハラか、ギリセクハラにならないか、審議だな。つか八雲ティーチャーってなんだよ? 旭ヶ丘八雲先生だろ?」
「いいじゃん、ただのあだ名だよ。変なトコ堅いんだよなぁ~黒江は」
真城がケタケタ笑いだしたので、黒江もつられてケタケタ笑った。
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